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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.25】MAツール導入の「その先」── 成果を分ける
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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.25】MAツール導入の「その先」── 成果を分ける"運用設計"という死角

マーケティング活動において、データとテクノロジーが果たす役割は年々高まっています。データ基盤整備やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)活用、マーケティングオートメーション、AI活用といった言葉は、もはや特別なものではなくなりました。一方で、それらを「実際の事業成長」に結びつけられている企業は、想像以上に少ないのが実情です。本連載では、博報堂マーケティングシステムコンサルティング局(以下、マーシス局)のメンバーが、事業グロースに向けた「生活者発想×データ×テクノロジー」の挑戦について、日々現場で向き合っている知見や視点から発信していきます。

第25回のテーマは「MAツールの運用設計」です。MA(マーケティングオートメーション)ツールの導入・刷新を検討する企業が増えていますが、ツール選定やシステム構築に注力する一方で、「導入後に誰がどう使い、どう運用するか」の設計が後回しにされているケースが少なくありません。我々が現場で数多くのプロジェクトを支援する中で見えてきた、MAツールの成果を左右する"運用設計"の勘所についてお話しします。
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土屋 嘉晃
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部 ビジネスプラニングディレクター

1.なぜ「ツール導入後」に新たな課題が見えてくるのか

MAツールの導入・刷新に取り組む企業が増えています。既存の配信基盤が老朽化しマルチチャネルに対応しきれない、配信基盤が複数に分散し顧客体験の一貫性が保てない、効果測定が不十分でPDCAが回らない──こうした課題を背景に、新しいMAツールへのリプレイスを検討される企業は非常に多いです。しかし、我々がクライアント企業のご支援に携わる中で繰り返し目にするのが、ツールを導入した後に新たな課題を発見するケースです。

多くのプロジェクトでは「どのツールを入れるか」「どう構築するか」には十分な時間と予算が割かれる一方で、「導入後に誰がどう使うか」の設計にはなかなか時間を割けていません。ツール選定にはRFP(提案依頼書)作成やベンダー評価に数ヶ月、システム構築には要件定義から開発・テストまで半年以上をかける。ところが運用設計(配信フロー、承認プロセス、権限管理、効果測定の仕組み、障害時の対応手順)は「導入してから考えましょう」と後回しにされがちです。

結果、ツールは稼働したが配信オペレーションが属人化したり、配信ルールが統一されず、同一顧客にメッセージが重複送信されたり、KPIが定義されておらず「やりっぱなし」の施策が増えたり、担当者が異動するたびにナレッジが途絶え、ツールの利用率が低下していったりするといった事態が起きます。これらは、MAツールを導入して解決する問題ではなく、MAツールの運用設計の不在が原因となり起こるものです。

我々はこの現象を「ツール導入のラストワンマイル問題」と呼んでいます。構想・選定・構築までは順調に進むのに、最後の「現場で使いこなす」うえでの課題が出てくる。この"ラストワンマイル"こそが、ツール投資の対効果を左右する最大の要因なのです。

【図表①:MAツール導入プロジェクトの「投資配分」と「成果への影響度」のギャップ】 

2. 配信基盤の「分散」が引き起こす、見えにくいリスク

運用設計が不在のまま新ツールを導入すると、最も深刻な問題として「配信基盤の分散」が顕在化します。

多くの企業では、歴史的経緯から複数の配信基盤が併存しています。メールはA社、SMSはB社など、導入時期や担当部門が異なるため、顧客データの持ち方も配信ルールもバラバラです。新しいMAツールを導入しても、移行完了までは「新旧併存」の期間が生まれます。この分散状態が引き起こすリスクは3つあります。

リスク①:顧客体験の毀損
複数基盤から同一顧客にメッセージが重複送信される。片方のシステムでオプトアウトした顧客に別のシステムから配信が届く。生活者の立場で考えれば、「この企業は自分のことを把握していない」という不信感に直結します。

リスク②:効果測定の不在
配信基盤が分散していると、チャネル横断での効果測定が事実上不可能です。「この顧客にはどのチャネルが最も効果的だったか」という基本的な問いにすら答えられません。

リスク③:法的・ガバナンスリスク
オプトアウト管理が基盤ごとに分断されている場合、個人情報保護法や特定電子メール法への準拠が不完全になるリスクがあります。

これらは、ツールの機能不足ではなく配信基盤の統合と運用ルールの統一が設計されていないことに起因します。技術的な統合だけでは不十分であり、「どの順番でどう移行するか」「並行運用ルールをどう定めるか」といった運用面の設計がセットで行われなければ、"分散の弊害"はツールを入れ替えても解消されません。

3. 運用設計で押さえるべき「3つの階層」

では、運用設計には具体的に何が含まれるのか。我々が数多くのMAツール導入・刷新プロジェクトを通じて体系化してきたフレームワークをご紹介します。

運用設計のテーマは多岐にわたりますが、それらを「基本」「標準・統制」「横断」の3階層に構造化することで、優先順位と段階的なアプローチが明確になります。

第1階層:「基本」── 運用の骨格を固める

MAツールを稼働させるうえで最低限必要な設計です。具体的には、以下のテーマが含まれます。

- 役割分担の整理:本部・拠点・ベンダーそれぞれが「誰が・何を・どこまで」担うかを明確にします。特にマルチベンダー体制ではベンダー間の役割の隙間が"グレーゾーン"を生みやすく、RACIマトリクス(Responsibility Assignment Matrix:各業務における「実行責任者」「最終責任者」「相談先」「情報共有先」を整理する責任分担表)を用いて役割を可視化が有効です。
- 配信フローの設計:シナリオ作成から承認・配信・効果確認までの一連の業務フローを標準化します。
- 権限設計:誰がどの範囲のデータにアクセスでき、どの操作が可能かを定義します。ここが曖昧だと誤配信のリスクが高まります。
- KPIの定義:経営KPI(LTV・顧客維持率)、施策KPI(開封率・CVR)、チャネルKPI(到達率・不達率)の3層構造で定義することを推奨しています。

第2階層:「標準・統制」── 事故を防ぎ、現場が自走できる仕組みを作る

基本の骨格に加え、運用品質と安全性を担保するための設計です。

- 配信シナリオの統制設計:同一顧客への重複配信や深夜配信といった事故を防ぐ統制ルール(配信頻度の上限、配信禁止時間帯、オプトアウト管理)を設計します。
- 障害・インシデント対応設計:誤配信発生時の対応フロー(検知→初動→エスカレーション→復旧→再発防止)を事前に定めます。
- 部署ごとのオンボーディング設計:部署ごとに担当者がMAツールを使いこなすための研修計画、FAQ、サポート体制の設計です。「導入したが現場が使えない」は、この設計の不足に起因します。

第3階層:「横断」── 要件定義・構築フェーズへの橋渡し

運用設計の成果を、後続のシステム要件定義や構築フェーズにスムーズに接続するための設計です。既存システムへの影響調査、データ移行方針、セキュリティ・コンプライアンス要件の整理などが含まれます。

重要なのは、すべてを一度にやろうとしないことです。まず第1階層で運用の骨格を固め、次に第2階層で統制の仕組みを整え、必要に応じて第3階層に踏み込む。よくある失敗は、いきなり横断テーマから着手するケースです。「まずは全社的なデータ統合から」というのは確かに正論ですが、基本の運用骨格が定まっていない段階では議論が空転します。まず「誰が・何を・どう使うか」を具体化し、その上で統制や横断テーマに広げていく順番を守ることが、プロジェクトを着実に前進させるポイントです。

【図表②:運用設計の3階層フレームワーク──「基本」「標準・統制」「横断」】 

4. 「現場が使える設計」は、現場の声からしか生まれない

運用設計において、我々が最も重視しているプロセスがあります。それは現場ヒアリングです。

全国に拠点を持つ企業がMAツールを導入する場合、ツールを実際に操作するのは本部のマーケティング担当者だけではありません。各拠点の担当者が配信対象の確認やコンテンツの差し替えを行うケースは非常に多いです。ところが、運用設計が本部だけの目線で作られてしまうと、現場では「操作が複雑で使いこなせない」「自分たちの業務フローに合っていない」「結局表計算ソフトに戻ってしまう」という事態が発生します。

こうした問題を防ぐために、我々は運用設計の過程で必ず拠点ヒアリングを実施します。規模別に代表的な拠点を選定し、現行の運用実態、課題感、新ツールへの期待と懸念を丁寧に聞き取ります。ヒアリングは1回では終わりません。初回で実態を把握し、それを反映した設計案を作成した上で2回目のヒアリングを行い、フィードバックを得る。このループを回すことで、「本部が作った机上の設計」ではなく「現場が実際に使える設計」に仕上げていきます。

ある支援プロジェクトでは、本部側が「シンプルで統一的なワークフロー」を理想としていた一方で、拠点側は「地域ごとの商慣習に応じた柔軟性」を求めていました。最終的に「標準フローは統一しつつ、コンテンツのカスタマイズ範囲は拠点に委ねる」というバランスに落ち着きましたが、こうした着地点はヒアリングなしには見つかりません。

現場ヒアリングは運用設計の精度を上げるだけでなく、合意形成というもう一つの重要な役割を果たします。設計プロセスに現場を巻き込むことで、導入後の「聞いていない」「現場の実態を分かっていない」という反発を未然に防ぐことができます。運用設計の品質は、現場との対話の量に比例するというのが我々の実感です。

5. 「構想で終わらせない」ために

最後に、MAツールの導入・刷新を検討されている方へ、3つのメッセージをお伝えします。

第一に、運用設計をツール選定・構築と同列に位置づけてください。運用設計は「ツールが入ってから考える」ものではなく、並行して、あるいは先行して取り組むべきテーマです。予算・スケジュール策定の段階で、運用設計の工数と期間を確保することが出発点です。

第二に、「誰がどう使うか」を明文化してください。機能要件は丁寧に定義するのに、運用の要件(役割分担、配信フロー、権限設計、KPI定義)は暗黙のまま進めてしまうケースが実に多い。これらを文書化し関係者の共通認識にすることが、属人化を防ぐ最も確実な方法です。

第三に、「構想で終わらせない」体制を構築してください。戦略立案は得意だが実装は外部に丸投げというパターンでは構想と現場の間に断絶が生まれます。戦略から実装・運用までを一気通貫で推進できる体制こそが、成果を最大化する鍵です。

【図表③:「ツール導入プロジェクト」と「運用設計を組み込んだプロジェクト」の成果比較】

MAツールは、正しく運用されれば顧客体験を飛躍的に向上させ、事業成長の強力なエンジンになります。しかし「入れること」と「使いこなすこと」の間には、想像以上に深い溝があります。ツールの導入を「ゴール」にするのではなく、導入後の運用を「スタートライン」として設計する。この発想の転換ができるかどうかが、投資を事業成果に変えられるかどうかの分水嶺になると我々は考えています。

※肩書は取材当時のものです 

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  • 株式会社博報堂
    マーケティングシステムコンサルティング局
    データプラットフォーム推進部 ビジネスプラニングディレクター
    インターネットサービス・EC事業会社、総合系コンサルティング会社、2020年に博報堂入社。これまでに顧客接点・フロントオフィス領域(Sales/Marketing)における業務~システム導入コンサルティングPJにて顧客支援に従事。直近では主にCRM~データ活用基盤領域における顧客のマーケ業務高度化やAI活用に向けたガバナンス策定支援等に携わる。

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