プラットフォームと共創する「生活者インサイト」の捉え方 vol.3~広告感を消し、リアリティで共感を生む。TikTokマーケティングの最前線
X、Instagram、TikToTok、YoYouTube、Spotify――いまやプラットフォームは単なるメディアを超え、生活者の感情や行動がリアルタイムに交錯する「生活インフラ」へと進化しました。
そこで求められるのは、クリエイティブにおける“二刀流”の視点です。ブランドの意志を届け、中長期的な資産を築く「ブランディング」。そして、緻密な設計によって、ダイレクトなビジネス成果を生み出す「ビジネスパフォーマンス」。
本連載では、プラットフォームの特性を知り尽くしたエキスパートと博報堂クリエイターの対談を通して、刻一刻と変化する生活者のインサイトをいかに捉え、社会の中に熱狂的な「うねり」を作り出していくのかを解き明かします。第3回は、TikTokに注目。今、TikTok上で企業がどのように生活者と関係を築いているのか、TikTok for Businessの担当者と博報堂のクリエイターが語り合いました。
杉山芽衣 博報堂 クリエイティブディレクター
古川映 博報堂 アクティベーションプラナー
吉村圭司氏 TikTok for Business Global Business Solution, Strategic Agency Agency Partnership Manager
本田ロニー氏 TikTok for Business Global Business Solution Creative Sales & Solutions Creative Consultant
MAU4,950万超。全世代が利用するTikTokの現在
――TikTokと言えば、以前は若年層向けのイメージが強かったですが、今はかなり幅広い年代へと広がっているそうですね。
- 吉村
- おっしゃる通り、TikTokはもはや若年層だけのプラットフォームではありません。昨年、博報堂に調査いただいたデータでは、ユーザーの平均年齢が39.2歳という結果が出ておりました。また、弊社の調べによるとMAU(月間アクティブユーザー)は2026年5月時点で4,950万以上となっており、幅広い年代の多くの方にご利用いただけるプラットフォームへと成長を遂げました。

現在、TikTok for Businessでは、「見つける。ハマる。欲しくなる。」というタグラインをグローバルで掲げています。昨年、日本で追加された「TikTok Shop」機能により、コンテンツとの出会いから好きになり、そのままアプリ内で購入へ至るという一気通貫した体験を提供できる点が、他のプラットフォームにはないTikTokのユニークなポジションです。

- 本田
- ユーザーの視聴習慣も進化しており、ユーザーは多種多様なコンテンツに触れ、極めて高いレベルで慣れ親しみつつあります。そんなユーザーに指を止めてもらうために、発信する側は、これまで以上に工夫を凝らす必要が出てきています。よりインタラクティブな動画や、これまでのユーザーの反応から逆算してコンテンツを作成する、などですね。
――TikTokにおける検索はどのように使われていますか?
- 本田
- 最近ではTikTokで検索するユーザーも増えています。何かを知りたい、買いたいと思ったとき、短い動画で簡潔に情報を得られる利便性が、今の生活者のニーズと非常に合致しているのだと思います。
常に新しい何かに出会える、トレンドの鮮度
――TikTokにおけるトレンドの生まれ方も、変化していますか?
- 吉村
- まず、他のプラットフォームに比べるとTikTokのトレンドのサイクルはもともと速かったですが、それがさらに加速しています。小さな界隈から生まれた熱量の高いトレンドが、一気に盛り上がって大きな波となり、それが落ち着く前にまた次のトレンドが生まれる。このダイナミックな循環が、アクセスするたびにフレッシュな状態を体験できて、ユーザーの楽しみにつながっていると思います。
また、コメント欄の使い方も変わりました。発信者とユーザーとの1対1の関係上で感想を書くだけでなく、同じ動画を観た者同士が感想を言い合って交流する、コミュニティとしての側面が強まっています。
- 杉山
- 実感として、情報の鮮度という点で、非常に優れていると感じています。例えば先日、韓国を旅行したのですが、現地のポップアップ情報や「今、何を押さえておくべきか」という情報はすべてTikTokで探しました。店舗名を検索すれば、最も視聴されている動画が上位にくる。その検索の鮮度とスピード、そして自分にマッチした情報に出会える精度は、今のユーザーのスピード感に完全に適合しています。
――「今月」のようなスパンではなく、もっと瞬間的な情報の鮮度、そしてマッチングの精度が高いのですね。
- 杉山
- はい。さらに、コメント欄が非常に平和で盛り上がりやすいのも、TikTokの特徴です。ユーザー名や、そのユーザーの過去の投稿を気にして議論するのではなく、「1秒単位の動画」や「TikTokクリエイター」という共通の対象に対して、立場を気にせずにユーザー同士が感情を共有できる。好きなものでつながって同じ空間を共有している、ある種のクラスメイトみたいな感覚です。これは、他のプラットフォームにはないユニークな点だと思います。
- 古川
- 仕事柄、いろいろなTikTokアカウントのコメント欄をウォッチしていますが、例えば旅行情報の発信などの実用的なアカウントだと、フォロワー同士が活発に情報交換している様子が日常的に見られます。個人的にも、ネット検索の代わりにTikTokを利用することが多いです。
フォロワー数よりも「瞬間のエンゲージメント」が重要
――では、企業やブランドが発信する場合や、TikTokクリエイターと組んでアプローチする場合についてうかがっていきます。やはり、「フォロワー数」は主要な要素になるのでしょうか?
- 杉山
- 意外に思われるかもしれませんが、私はクライアントワークにおいて、KPIとして「フォロワー数」を設定したことはほとんどありません。動画単位で見れば、フォロワー数に関係なく、その動画が有益か、おもしろいかだけで判断される世界だからです。実際、フォロワー0のアカウントでも、数万のいいねを獲得した例を見たことがあります。

- 吉村
- それはすごいですね。でも、たしかにコンテンツ次第で、フォロワー数に関係なく急激に伸びることはあると思います。
TikTokのレコメンドシステムは非常に優秀で、瞬間のエンゲージメントが高ければ、爆発的に拡散されます。フォロワー数というストック指標よりも、その動画がどれだけ多くのユーザーの指を止め、共感を呼んだかという「瞬間の熱量」をどう作るかが本質です。
- 杉山
- いわゆる“ミーム”が生まれやすいですよね。一方で、もちろんフォロワーが多ければ、それが強みにもなると思います。
- 本田
- そうですね。長期的にフォロワーが多いTikTokクリエイターには、「わかりやすさ」「テンポ感」「飽きさせない構成」という共通した強みがあります。これらの一貫性が、信頼となってコミュニティを大きくしていくことは間違いありません。
広告感の払拭と、タイムラインへの馴染ませ方
――では、企業やブランドのクリエイティブ制作において、杉山さんと古川さんが意識していることは何でしょうか?
- 古川
- 商材によりますが、ひとつは、徹底して「広告感を出さないこと」です。直近の例を挙げると、雑誌『ブレーン』(宣伝会議)のオンライン動画コンテスト「BOVA」にて、小学館の課題で縦型動画部門のゴールドを受賞しました。
広告対象は図鑑でしたが、あえて冒頭に、ゴキブリが登場するという“事件”を配置しました。ユーザーは「広告かどうか」を一瞬で判断するため、冒頭でスルーされないように、まずは「何事だ?」と興味を惹くことを考えたのです。その後も、カップルチャンネルの動画のような自然な文脈を作り、最後までコンテンツとして楽しんでもらって商品につなげました。

小学館『小学館の図鑑NEO』を思わず買いたくなる!動画
(https://www.youtube.com/shorts/1vi2Hk31Z3g)
- 杉山
- 最後まで見て、「あ、広告だったんだ」とオチがわかる構成になっているんですよね。そこまでのコンテンツとしての質が低いと、途中で離脱されてしまうのですが、最後まで見てしまうし「見て損した」と思われない質になっているから評価されたのではないかと思います。
- 古川
- そうだったらうれしいです。まずは見てもらえないと話にならないので、スルーされないことは最初に考えます。
- 杉山
- 3年ほど前は、「冒頭で商品ロゴを出す」のが王道でした。
でも、今はそうすると即座に拒絶されるかと。現代の人は、スワイプで飛ばす指の動きが非常に速くなっていますから。
私が意識しているのは、「タイムラインに馴染ませる」ことです。
例えば、高級なカメラでこだわって撮ったCMのような質感は、広告色が強く出て、警戒されてしまいます。なので、「郷に入っては郷に従う」のとおり、TikTokの人気クリエイターが作る動画の質感に寄せています。無理やり見させられる広告ではなく、余暇の時間に普通にTikTokを楽しむ感覚で接して、「おもしろいじゃん」と思わず前のめりになるような動画制作を意識しています。これが、今のTikTokにおける勝ち筋ではないかと思います。
- 吉村
- ブランドの世界観を維持しつつ、第三者視点のレビューのように馴染ませる手法は、我々も強く推奨しています。TikTokクリエイター自身の作風を活かした投稿と、ブランドの訴求ポイントをミックスさせる設計が、現在のTikTokでは最も効果的です。
――広告だとわかっても、見てしまうような例もありますか?
- 古川
- はい。例えばケンタッキーフライドチキンの公式アカウントの動画では、冒頭からロゴや商品を出していますが、食感やおいしさを存分に感じられる映像や音にこだわっています。最初から縦型のサイズを想定し、いちばんいい形でシズル感を演出することで、安定的に見てもらっています。


https://www.tiktok.com/@kfc_jp より
- 吉村
- 本能に訴えてくるような、見ていて気持ちがいい動画は好評ですね。
「TikTok Shop」では、リアリティが購入を後押ししている
――昨今注目されている「TikTok Shop」については、どのような成果が出ていますか?
- 吉村
- TikTok Shopは昨年6月に日本でローンチして、ちょうど1年が経過しました。当初は若者向けコスメなどの商材が中心でしたが、最近ではドライヤーや食品など、商材の幅が確実に広がっています。ナショナルクライアントも様子見から、本格的に乗り出す事例が増えてきています。
先ほど瞬間的なエンゲージメントという話が上がりましたが、購入のシーンとしても、「ほしい」と思ったタイミングで1クリックや2クリックで買える距離感は強みだと実感しています。
――それは、タイパを意識するユーザーに響いているのでしょうか?
- 杉山
- もちろん、購入意欲を持った瞬間にシームレスに買える利便性も重要だと思いますが、タイパの手前に、リアリティが効いているのではないでしょうか。TikTok Shopも、TikTok自体のタイムラインと同様に、リアリティが大事になっていると思います。
これまでの広告制作では「よく見せる」ことが正義でしたが、TikTokではそれが逆に障壁になります。TikTok Shopでも、これまで広告が描かなかった、例えば生活感にあふれた台所だったり、企業の担当者さんの率直なトークなどが、ユーザーを引き付けています。
――きれいで型通りだと、興味を惹かれないわけですね。
- 杉山
- はい、台本がないような雰囲気がリアリティにつながって、支持されていると思いますね。配信中に視聴者からの質問に正直に答えたり、実際に商品を使っている姿をリアルタイムで見せたりするライブ感は、他のプラットフォームにはない購買体験です。同時に、そうしたことを許容できる、気概のあるクライアントが勝っていくと思います。
――TikTok Shopに、特に向いている企業や商材などはありますか?
- 本田
- そうですね、相性はあると思います。すでに確立したブランドの世界観を感じてほしい、といった場合は難しいかもしれませんが、生活に密着した商材や、ユーザーにもっと関与してほしい意志があるブランドなら、新しい購買体験を我々やTikTokクリエイターさんと一緒に生み出せると考えています。

- 吉村
- 面白いのは、配信中にも視聴ユーザーが商品を購入していく様子が可視化されることですね。
- 杉山
- あの様子を見ると、活気あふれる商店街で、店主とお客さんが威勢よくやり取りしているような感じがします(笑)。
「みんなが買っているなら安心だ」という心理が働き、ハードルが勝手に下がっていく。この「お祭り感」こそが、TikTok Shopの強みだと思います。
ただ、ユーザー側も本当に成熟しているので、企業側が「商品のラベルが曲がっている、直さなきゃ」と直したりすると、一気に興ざめされてしまうんです。良く見せたい、という気持ちを介在させないことが、成功の秘訣ではないかと私は感じています。
生活者の「AI生成物への印象」を見極める、クリエイターの役割
――昨今のAI活用のトレンドについては、どう感じていますか?
- 杉山
- 生活者がAIの生成物に慣れてきている今、クリエイターとしてAIを使うことへの抵抗感はありません。今後は「AIを使うこと」が目的ではなく、「課題解決のための手段」としてどう組み込むかが重要だと考えています。
例えば、撮影が極めて困難なシーンや、大量のバリエーションが必要な検証動画において、AIは非常に優秀なパートナーです。ただし、注意しなければならないのは、クリエイティブに対するリスペクトを欠いたAIの使い方です。何でもかんでもAIに作らせればいいという発想は、ユーザーの嫌悪感を招きます。
――嫌悪感、たしかに。今や、「これAIだな」と思うとその時点で離脱してしまったりしますね。
- 杉山
- そうなんです。私自身、ユーザーとして日々いろいろなメディアに触れて、違和感を抱いたり「イヤだな」と思った広告、炎上した広告などをストックしています。
そして、どうすればこうした事態を避けられるかを常に考えています。
AIで効率化すべき部分と、人が魂を込めてつくるべき領域を、クリエイター自身が見極めなければいけないと実感しています。
個人的な意見ですが、AIに任せるべきではない“神聖な領域”がやはり存在すると考えていますし、ユーザーもそれを感じるようになっているのではないでしょうか。
拡散だけを追って、倫理的に問題があると感じられるようなクリエイティブにはならないように、常に留意しています。
- 古川
- 同感です。AIの活用には、「心地よい生成物」と「嫌悪感を抱かせる生成物」の境界線があると思います。動物のAI動画などは微笑ましいですが、感動を誘う意図の広告で過度にAIを使うと、ユーザーは「私を感動させようとしている」と冷めてしまう。
動物の撮影は、実写だとものすごく大変ですが、実写でしか呼び起こされない感情もあるはずです。そのラインを考えながら、生身のクリエイターとAIとの新しいコラボレーションを模索するのが大事なのではないかと思っています。
- 本田
- 今のお話にはとても共感します。私も企業やブランドに並走する立場で、クライアント企業の方々とAI活用を探る機会などを設けていますが、現状、AIだけでゼロから優れた広告を作るのは難しいと思います。一方で、クリエイティブを量産して獲得効率を高める目的などには、AIの活用は非常に有効です。
いずれの場合でも、受け手は生活者なので、博報堂の生活者発想に基づいた制作のスタンスは、我々プラットフォーマーには強い味方だと感じています。ユーザーがどこまで許容できるかをキャッチする感覚があれば、用途に応じて、人の創造性とAIを適材適所で使い分けられるのではないかなと思います。それが、今後のスタンダードになっていくのかもしれません。
クライアント、TikTok、クリエイターの議論から新しい表現を
――AI活用の話は、まさに現在進行形で変化していると思うので、クライアント企業とプラットフォームとクリエイターの三者でよく議論して判断する必要がありますね。
- 杉山
- まさに、そうですね。AI活用が当たり前になったからこそ、どのような課題を解決したいのか、ユーザーにどう寄与したいのかをぶらさず、軸を持って制作に取り組みたいと思っています。
議論することで、新しいアイデアも生まれるのではないかと思います。
例えば今、AIを活用した「動画のABテスト」に取り組みたいと考えているんです。バナー広告だと1枚の画像でテストできますが、動画では声のニュアンスやカット割りを大量に生成する必要があります。クリエイティブと出稿のバランスを最適化し、TikTokという場に最も適した表現を探ってみたいです。
――最後に、TikTokのマーケティングの展望と、挑戦したいことをお聞かせください。
- 古川
- TikTokの縦型広告において「誰もが知る名作」を生み出したいですね。
誰もがうなるような名作の広告を、クリエイティブの力で打ち出したい。それが今の最大のモチベーションです。

- 本田
- ひとつは、TikTokでしかできないギミックをもっと追求したいですね。スマートフォンを振ると何かが起こるなど、TikTokならではの仕掛けを使った広告はたくさんあるので、そうした表現をクリエイターの皆さんと模索したいです。
また、ユーザー参加型のストーリーテリングにも大きな可能性があると考えています。例えば広告の続きをコメント欄でユーザーが提案し、それをAIを活用した技術を用いて物語を更新していく。そんな「ユーザーと一緒に広告を作る」体験は、ブランドへの愛着を大きく変えるはずです。
- 吉村
- 私としては、広告会社の皆さんとともに、TikTok Shopの活用を含めた新しいクリエイティブのあり方を模索し続けたいです。特に博報堂のような、生活者研究を重視し、真摯にリアリティに向き合う姿勢を持ったパートナーは心強い存在です。まだまだ、企業の方々に知っていただく余地があると思うので、いろいろなチャレンジを重ねていきたいです。
- 杉山
- クリエイターにとって最大の恐怖は「作ったものが見てもらえないこと」です。いいものを作れば、狙った層にちゃんと届く。その精度が最も高いのが今のTikTokだと思います。視聴者が広告を避けるのではなく、自ら探し、参加したくなる。「広告であることを忘れる広告」を極めていきたいです。

※肩書は取材当時のものです
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博報堂 クリエイティブディレクタークリエイターオブ・ザ・イヤー2025メダリスト
ACCブランデッド・コミュニケーション部門 ゴールド/ACCフィルム部門 グランプリなど受賞。
世の中をウォッチしながら”リアルさ”をつねに意識した広告づくりにこだわる。
TVCMからSNSの発信まで統合的かつ細部までこだわりつづけるプラニングがモットー。
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博報堂 アクティベーションプランナー1994年宮崎県生まれ。2020年博報堂入社。
プロダクトやインスタレーション制作の経験から、芯のあるコンセプトを、ひとざわりの良いアウトプットにすることを大切にしています。
主な受賞歴に、BOVAゴールド(縦型動画部門)/ヤングカンヌ国内予選ブロンズ(Film部門)/交通広告グランプリ優秀賞など
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吉村 圭司TikTok for Business Glabal Business Solution, Strategic Agency Agency Partnership Manager
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本田 ロニーTikTok for Business Global Business Solution Creative Sales & Solutions Creative Consultant


