創造を「楽する」ための存在から、「楽しくする」ための存在へ。 AIラップバトルで探る、人間とAIの新たな関係
AI時代、人間に残された唯一の資本は創造性と捉え、創造性を研究・教育・社会実装するUNIVERSITY of CREATIVITYは、2020年「AIとラップで人間の創造性を拡張する」をテーマにAIラッパープロジェクトを始動。2026年、同プロジェクトがAIラッパーと人間がリアルタイムでラップバトルを行うことができる新システムを開発しました。
AIが人間の創造性をサポートする仕組みをつくりたかったという開発メンバーと、実際にラップバトルを体験したSAMさんの対談から、AIと人間の新たな関係性を探ります。
AIラッパープロジェクトとは?

ラップのできるAIの開発を通じて、人間の創造性やコミュニケーション、言葉の表現力のアップデートを試みるプロジェクト。ラップらしい抑揚をもった音声、韻を踏みながら文脈に沿った歌詞を生成できるシステムの開発を通じて、AIと人間の共創について探究しています。2025年には3つの質問に答えると自分のことがラップになるLINEミニアプリ「ジブン・ザ・ラッパー」をリリースし、一般公開された。
AIとの共創で、いったい誰がクリエイティブになったのか?

- 小山田
- はじめに、今回なぜラップバトルのシステムをつくったのか、というところから話していきたいと思います。そもそもAIで人間のクリエイティビティをアップデートさせようとスタートしたこのプロジェクト。2020年から取り組んでいますが、2022年の画像生成AI「MidJourney」のベータ版リリース、2023年の「ChatGPT GPT-4」の登場などを皮切りに、生成AI活用が日常化し作業を共にすることが当たり前に。また、AIと人間が共創する必要性を謳う企業やサービスも増えました。そんな中で違和感を覚えたのが「AIでいったい誰がクリエイティブになったんだろう?」ということ。何でも簡単に生成できるようになったからといって、身の回りに創作活動をする人が増えたという実感はないですよね?
- 横井
- そうですね。試しに画像や音声をつくってみた、という人に比べ、それを突き詰めてクリエイターとして活躍するような方はあまり増えていない印象です。
- 小山田
- そう思った時に、簡単にAIが人の代わりにラップを作ってくれるシステムでは、本プロジェクトが発足当初から掲げる「AIによる人の創造性アップデート」という目標には近づかないのではないかと思いました。逆に、本当にその目標と向き合うのであれば、代わりに作るAIではなく、人が人の力で作ることを支援・応援するようなAIが必要なのではないか。練習相手や良きライバルのようなAIラッパーは作れないのか。そんな考えのもと開発したのがAIラップバトルシステムです。

AIラップバトルシステムは、AIが人間を相手に即興でフリースタイルバトルを繰り広げるシステム。独自に開発した発話リズム制御・押韻ロジックなどを組み合わせたラップ生成は、一般的な音楽生成AIでは実現が難しい、リアルタイムなアンサーラップ応答を可能にしている。
また、人の代わりに作曲するのではなく、人とAIがお互いのラップをぶつけ合うという点が、既存の音楽生成AIサービスなどの思想とは異なる仕組みだ。
先日開催されたCreativity Future Forum'26で、そんなAIラップバトルシステムを実際に体験していただいたSAMさん、まずは率直な感想をきかせていただけますか?

- SAM
- 実際にやってみて最初の感覚は「怖いな」でした(笑)。多少のラグがあるのだと思っていたら、リアルタイムにアンサーラップが返ってきて、正直冷や汗が止まらなかったです。
- マチーデフ
- 相手が人間かAIかで、温度感や感触的な違いはありましたか?
- SAM
- 相手がAIだとわかっていても、ムッとくるポイントはあるし、負けたくないという気持ちは同じように生まれましたね。
相手がAIであることを忘れる没入感。正直危機感を覚えた(SAM)
- 小山田
- ここで少し、ラップバトルの振り返りをしてみましょう。

*当日のバトルの様子はこちらからもご覧いただけます。
- マチーデフ
- 先行のAIラッパーが「所沢宇都宮飛ばすぜ」からはじめていますが、これは所沢生まれで宇都宮を拠点にしているというSAMさんの情報がWeb上に公開されており、それを参考に生成していたようです。
- SAM
- 俺の情報をすごい持っているなと思って身構えました(笑)。「韻の固さで勝てると思うな」とか「お前の韻は数字遊びだ」のあたりでムキになっちゃいましたよね。
- マチーデフ
- 本当ですか? 今のAIラッパーはベーシックなフロウでラップさせていて、人間らしい「揺らぎ」などの生々しさはなかったりします。それでも、ちゃんとSAMさんを熱くさせることができたならうれしいです。
- SAM
- 2ターン目の「ラップは正直嘘臭え」のところなんて、AIが温度を持っているように感じましたし、このあたりからもう、相手がAIであるという意識がなくなっていきました。すごく没入感が高かったです。
もし5ターンくらいまであったら、顔を真っ赤にして本当に怒っていたと思いますよ(笑)。バトルが長ければ長いほど人間が不利になる感じはありますね。人間にはない「ムラのない怖さ」がある。
- マチーデフ
- 人間同士のバトルであれば、体力的に声を張るのがキツくなったり、感情的になって自分のスタイルを崩すこともありますが、AIは基本的に崩れないですからね(笑)。そういう強さの反面、たとえばSAMさんの2ターン目の「精度 / 所詮 / アプリケーション / ベット / ヘッド / バリエーション」「アウトレットモール / バッドエンドロール」のように小節の中で入り組んだ韻の置き方をすることはまだ即興ではできません。連想ゲーム的に即興で複雑に韻を踏むというのはすごく人間らしい発想なんだと思います。
- SAM
- 語感で合わせるという韻の踏み方はまだAIにはできなそうだと思って、そこで攻めた部分はありますね。本当に負けたくなかったので、やれることは全部やろうと(笑)。

- マチーデフ
- 一方、SAMさんの「俺のバリエーションはアウトレットモール」に対して「アウトレットモール安売りかよ」というAIラッパーの返しはすごかったですよね。
- SAM
- びっくりしましたよ。リズムと韻だけだと思っていたら、こちらの言った「アウトレットモール」から意味をつなげて「安売りかよ」という揚げ足をとるようなアンサーを即興で返してきましたからね。正直危機感を覚えました(笑)。
- マチーデフ
- 危機感とは言いながら、このバトルで一番盛りあがったのは3ターン目、SAMさんの「めくじらを立ててるやつに塩対応」「弱い奴は吠える」という部分でしたよね。
「クジラ」「塩」という海にまつわるワードと、「吠える」と「Whale (くじら))がかかっていたり。こういうダブルミーニングはさすがだと思いましたし、AIラッパーに即興でここまでスキルフルなラップをさせるのはまだ難易度が高いのかなと改めて思いました。
「一人で失敗できるか」がスキルアップの鍵。正解よりも問いを生み出す存在に
- 小山田
- ここまでラップバトルを振り返ってきましたが、それを踏まえて、ここからはクリエイティブとAIの未来について考えていきたいと思います。みなさんは普段生成AIを使っていますか?
- SAM
- ラップに関係ないところでは使いますが、歌詞を書いたりはしないですね。言葉の温度が大事だと思っているので、ライブをするときに自分が書いていない歌詞では感情が乗らない気がして。パフォーマンスを考えると自分で書いたものの方がいいというのが自分の考えです。
- マチーデフ
- 僕の場合は単純に自分でつくるのが楽しいからAIに任せる気にならないという感じですね。逆にトラックは自分の専門領域ではないので、気軽にビートがほしいときには生成AIを使うこともあります。
- 横井
- 僕は「多くの人が考えそうなことを知る」ためにAIを使う、ということが多いかもしれません。AIでありきたりな答えが出てきたら、それに近づかないように意識して企画や映像表現などを練っていく。そのためのひとつの指標として使っています。
- 小山田
- 感情が乗らない、楽しみを譲りたくない、AIが導き出した中央値を選びたくないなどさまざまな思いがありますが、今回のラップバトルのように、人間の創作には一切手出しをしないAIなら使ってもいいと思いますか?
- SAM
- そうですね。フリースタイルの練習相手になってくれるという意味ではラップの技術が向上すると思いますし、自分の感情を伝えるためのサポートをしてくれる存在だなと思います。
- マチーデフ
- 人に見せる、見せないは別にして、ラップバトルというフォーマット自体はすごくいいものですよね。ラップの楽しみを身近に感じてもらえると思うので。普段は言えないような感情を吐露したり、気づかなかった自分の一面に気づいたりという体験はラップならではものですし、ラップバトルに出なくても擬似体験できるという意味ではすごくおもしろいシステムだと思います。

- 小山田
- そうですよね。トラックが流れ続け、自分のターンはどんどん過ぎ、AIはラップを投げかけてくるという非日常な体験には、「何か言葉を返さなきゃ」という強制発想法的な要素もある。自分はこんなことを考えていたんだ、と思考が整理される感覚もあると思いますし、人がクリエイティブにならざるを得ない体験と言えるかもしれません。
- 横井
- このシステムを使ってラップができる人が増えたらおもしろいですね。やっぱり、スポーツでも何でも「一人で失敗できるかどうか」で広がり方が変わると思うんです。一人でスパーリングして、その成果を持って相手と戦うということができたら、人間のスキルアップの支援になりそうですよね。

- 小山田
- Education(教育)とEntertainment(娯楽)を掛け合わせた造語で「Edutainment/エデュテイメント」という言葉がありますが、そういった文脈でもAIラップバトルのようなシステムが活用できるかもしれません。ラップに限らず、楽しみながら自分の手を動かして試行錯誤することが成長への近道ですし、その練習相手となったり、モチベーションを高めたりするためにAIを活用する。そんなAIと人間の関係性も良さそうですよね。
- 横井
- そうですね。いまAIは正解(の候補)を出すためのものだと考えられていますが、それよりも「問い」を生み出してくれるものになってくれたらもっと広がりが生まれるし、人間の創造力が活性化されるんじゃないかと思います。
- 小山田
- 昨今さまざまな文脈でAIと人間の共創が語られてきましたが、これまで人間が担ってきた作業や人間のスキルをいかに肩代わりさせるかという方法論を模索しているようにも思えるんです。「AI with Human」と言いながら、AIばかりにスポットライトが当たっている状態にもみえる。
しかし僕らとしてはちゃんと人間に焦点を当てたいし、AIが人間の成長を助けるという関係性が築けるのではないかと考えて今回のラップバトルシステムをつくりました。今後はより多くの人にこのシステムを体験していただける手法も考えていきたいと思っていますし、引き続き、人間のクリエイティビティとそれを助けるAIとの関係性について探求していきたいと思います。
今日はありがとうございました!

※肩書は取材当時のものです
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舟平/SAMラッパー
アーティスト戦極MCBATTLE 第19、20、25、29、30、31、40章王者。 MCBATTLEで培った表現力を軸に、楽曲においても、リアルな心情や葛藤、覚悟を言葉に落とし込んでいる。 メッセージ性と聴きやすさを両立したスタイルが特徴で、HIPHOPシーンを超えて幅広いリスナーから支持を集めている。
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マチーデフラッパー
ラップクリエイター渋谷区生まれ幡ヶ谷育ち、メガネのやつは大体友達。1997年にラップを始め、5人組ヒップホップグループ「オトノ葉Entertainment」のラッパーとして数多くの作品をリリース。2014年にソロとなりアルバム「メガネデビュー。」を発表。自主制作ながらiTunesヒップホップアルバムチャートで1位を獲得した。また「ヒプノシスマイク」や、ドラマ「リーガルビート」、「PS4 LINEUP Music Video」(ACCゴールド受賞)など様々なラップ企画において作詞や監修を務め“ラップクリエイター“としても活躍。その実績は累計100件を超える。さらに毎週複数の専門学校で授業を行う“ラップ講師“でもある。
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博報堂テクノロジーズ
データサイエンティスト
AIエンジニア筑波大学/大学院 社会工学専攻卒。AI技術(機械学習や数理最適化など)のビジネス / クリエイティブ領域応用に従事。コーディングのお供にヒップホップは欠かせない。
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博報堂クリエイティブ・ヴォックス
CMプラナー
ディレクター
映像作家熊本県出身。東京藝術大学映像研究科卒。 広告で空間の質を上げるため、映像やインスタレーションのディレクション、デザインを行う。 nobodyknows+を知って以来、何かとラップに縁があります。


