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AI時代のコマース支援に求められるものとは
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AI時代のコマース支援に求められるものとは

博報堂DYベンチャーズが、EC領域における「事業継承型M&A」を手掛けるforestに出資したのは2025年10月でした。博報堂DYグループとともにビジネスを成長させていくパートナーとなったforestの湯原伸悟氏、今年1月にforestグループにジョインしたRESORT(ECサイト構築・運用、物流連携、マーケティング支援をトータルで提供するプロフェッショナル集団)の石川森生氏、Tsuzucle(forestグループでマーケティング、EC構築、グロース支援の実務を手がける)の森 祐太氏、博報堂DYグループのECプロフェッショナル集団「HAKUHODO EC+」の桑嶋剛史が、ECをめぐる課題や、クライアント支援にかける思いについて語り合いました。

桑嶋 剛史
HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/地域DXソリューション リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局
イノベーションプラニングディレクター

湯原 伸悟氏
forest 代表取締役CEO

石川 森生氏
forest CMO/RESORT 代表取締役社長CEO

森 祐太氏
forest 執行役員/Tsuzucleカンパニー代表

猪倉 丈史
博報堂DYベンチャーズ

※ 役職肩書は収録当時となります

EC事業者に特化した「事業継承型」M&A

猪倉
はじめに、forestという会社についてご説明いただけますか。
湯原
2021年に創業し、これまで22件のM&Aを成功させてきました。「森」を意味するforestという社名には、種類や大きさの異なるさまざまな木が集まることで、多様でしなやかで強靭な森のような組織をつくっていきたいという思いが込められています。

同業種の企業に特化したM&Aのモデルをロールアップと言いますが、僕たちは比較的小規模なEC事業者をロールアップするM&Aを手掛けています。グループ全体のリソースをいかしながら、個々の事業者のビジネスを伸ばしていくスタイルです。

ECの領域には、個人事業主や小規模店舗が始めたコマースサイトが少なくありません。個人や店舗でも、数億円くらいまでであれば売上を自力で拡大していくことは可能です。しかしそれ以上の成長を目指すなら、ノウハウやネットワーク、人材力などが必要となります。それを提供するのが僕たちの役割です。大切なのは、それぞれの創業者がものづくりや物販に掛ける思いを尊重しながら、事業成長を支援することです。僕たちが自社の事業を「事業継承型」M&Aと呼んでいるのは、そういった理由からです。

ECの成長には、もちろんデジタルテクノロジーやさまざまなソリューションの活用、開発のスキルなどが欠かせません。その領域の専門家であるRESORTやTsuzucleがジョインすることによって、グループとしてできることの可能性が大きく広がったと考えています。

forest 代表取締役CEO 湯原 伸悟氏 

Tsuzucleは、デジタルマーケティング、伴走型コンサルティング、EC構築の主に3つの領域で活動してきたスタートアップです。この5年くらいの間にECを取り巻く環境が変化し、ECとリアル店舗との連動や、企業の基幹システムとECシステムの連携を支援する仕事が増えてきました。そのノウハウをforest内で提供できると僕たちは考えました。
石川
僕はRESORTの代表を務めながら、CMOという立場でforestに関わっています。これまで、事業会社の責任者と、クライアントの事業を支援する仕事。その両方の領域でキャリアを積んできました。その経験をforestのマーケティング領域でいかせると思っています。
猪倉
森さんはまだ20代だそうですね。若い人材がグループにジョインすることの意味をどのように捉えていらっしゃいますか。
湯原
やはり若い世代は、デジタルに対する感度が40代の僕たちとは圧倒的に違います。その感度が、クライアントに対するサービスのデリバリーの質を大きく向上させてくれると期待しています。
石川
僕はforestにジョインする前から、森くんのチームと仕事をさせてもらっていましたが、例えばインスタグラムの運用一つをとっても、僕たちの世代とはまったく違った感性を備えていると感じましたね。写真の選択、テキストの入れ方、タグの設定などを見ていて、「これは彼らに任せるべきだ」と思いました。戦略立案やアルゴリズム設計といった上流のプロセスは上の世代が担うとしても、ラストワンマイルの部分は若い人たちのほうがはるかに優秀だと思います。
僕が石川さんとお仕事したのはまだ大学生の頃でしたが、僕自身、現在の大学生には感覚の違いを感じます。やはり、絶えず新しい世代を取り込んでいくことが必要なのだと思います。

ECビジネスをめぐる現在のトレンド

猪倉
昨今のECをめぐるトレンドについてうかがっていきたいと思います。様々な得意先を支援するHAKUHODO EC+としては、近年のECビジネスの市況についてどう感じられていますか?
桑嶋
よく感じているのは「今の生活者の購買動向」をいかに捉えられるか?が改めてカギになっているということです。
2020年以降、新型コロナウイルスの流行による外出忌避の流れにより、日本のEC利用率は一時期飛躍的に伸長しました。しかし生活者が店頭に回帰し、店頭とECを横並びに見て、購買チャネルを主体的に選択する現在、企業にとってECは「出せば売れるチャネル」ではなく、「きちんと対策をしないと売れない」チャネルになっています。この設計の難しさに直面している企業が数多くいらっしゃるのが実情です。

HAKUHODO EC+/ 博報堂 コマースコンサルティング局 桑嶋 剛史 

猪倉
forestから見た課題もお聞かせください。
湯原
ビジネスモデルを変える難しさがあると思います。
物販を手掛ける地方企業は、卸を通じて全国の量販店などに商品を展開するのが一般的です。つまり、BtoBtoCのモデルです。しかしECならば、それよりも利益率の高いBtoC、つまり直販のモデルをつくることができます。しかし、ECで生活者に直接ものを売るのは簡単ではありません。広告展開や問い合わせ窓口の設置などが必須になるからです。そこで壁にぶつかる事業者が少なくありません。
石川
戦略面での課題もありますよね。これまで僕がご支援をしてきた中では、ECをトータルなビジネス戦略のどこに位置づけるかが曖昧なケースが多く見られました。ECサイトを立ち上げたり、モールに出店したりすること自体は以前よりもやりやすくなっています。では、その新しいチャネルで新規顧客をどう獲得し、どうCRMの仕組みをつくって、どのようにして利益を最大化していくか。そういった戦略を描かないままでECを始めて、途方に暮れてしまう事業者が多いように思います。
同感です。ECの戦略を明確にするためには、支援する側も、より上流からクライアントの事業に関わらせていただくことが必要だと思います。EC構築やマーケティングといった「出口」に近い領域だけではなく、石川さんが言うように、より大きなビジネス戦略の中にECを位置づけられるようなコンサルティングサービスが求められるようになっていると感じています。

事業責任をクライアントと分かち合う

猪倉
これまでそれぞれのお立場で、そういった課題に対応してこられたと思います。課題解決における最も重要な視点とはどのようなものですか。

博報堂DYベンチャーズ 猪倉 丈史 

桑嶋
私はクライアントに、「私たちが事業に対する責任を持たせていただくことで、取り組みをサステナブルにしていきたい」とよくお話ししています。事業設計だけを私たちが担当して、その後の実装や運用はすべてクライアントに委ねるやり方では、EC事業を成長させるのは難しいと考えるからです。構想だけではなく、実装、運用のフェーズにも伴走して、クライアントと一緒に事業の成長を目指していく。それが理想的な形だと思います。

具体的には、クライアント側のご担当者とワンチームでECプロジェクトを推進していくイメージです。もちろん、細かなプロセスのすべてを我々博報堂DYグループが担当する必要は必ずしもありません。例えば、システム運用の領域で信頼できるパートナーがいるなら、そことのお付き合いを続けていただくのがベストです。ただし、そのような領域を含めて全体を俯瞰できる立場に立たせていただきたいと思っています。そうやって、クライアントと支援する私たちとが同じ方向を向いて、一緒に事業成長を目指していくことが、ECビジネスを成功させる最善の道だと考えています。

外部の僕たちが、第三者的にプロジェクトマネジメントに関わることの意味は大きいと思います。どのような企業にも、組織のロジックや力学があって、それがECの成功を妨げる要因となることが多々あるからです。そのロジックや力学にとらわれずに、客観的な立場でプロジェクトを進めていくことができるのが、クライアントが外部のプロを起用する大きなメリットではないでしょうか。

forest 執行役員 / Tsuzucleカンパニー代表 森 祐太氏 

石川
僕は事業会社の責任者という立場で、外部のパートナーからいろいろなご提案をいただく機会がよくありました。しかし、本当の意味で事業者目線に立つことができていない提案は、なかなかこちらの心には刺さらないものです。逆に言えば、事業者目線にしっかり立った提案ができれば、受け入れてもらえるということです。支援者である僕たちが、いかに事業者目線に立てるか。それがとても重要なポイントだと思います。

人に頼むか、AIに頼むか

猪倉
博報堂DYグループは、「人間中心のAI」というビジョンを掲げて、全社的にAI活用を推進しています。ECとAIの関係についてご意見をお聞かせください。
湯原
ECにおけるAI活用はほぼ必須になっていると言っていいと思います。商品企画、デザイン、需要予測など、オペレーションのあらゆる領域でAIを活用することが可能です。forestグループでも、全社員がAIを使いこなせるようになるために、人事評価に「AI活用」という項目を入れました。

しかし、オペレーションにおけるAI活用はすぐに普通のこととなって、そこで差別化することは難しくなると思います。では、ビジネスの新しい価値を生み出すためにAIをどう使っていくか──。それが僕たちの現在の課題です。

桑嶋
業務にAIを活用するのは当たり前になっていますが、AIが出した「回答」は業務上の「答え」ではないと思っています。AIは「答え」を出すためのサポートツールであり、最後の「答え」は自分でつくらなければならない。私はそう思っています。クリエイティブな価値をクライアントに提供するのが私たちのミッションであり、そのような価値は最終的には人間がつくり出すものだからです。AIによる効率化で生まれた時間を、考える時間、クリエイティビティを創出する時間に充てよう。私はメンバーにいつもそう伝えています。
支援会社がみなAIを活用することによって、クライアントへの提案が均質化してしまっているということもよく聞きます。AI活用は必須ですが、桑嶋さんがおっしゃるように、差別化できる価値を生み出していくことがこれからの課題になりそうです。
石川
僕はデザインや開発などに関するスキルがないので、そのスキルを持った人たちに依頼する必要があります。AIが普及したことで、「人に頼むか、AIに頼むか」の選択ができるようになりました。

例えば、部下に仕事を頼んで、AIとまったく同じアウトプットが出てきたら、はじめからAIを使えばいいということになります。そのことは、部下にもはっきり伝えています。優れたプロンプトが書けたり、AIのアウトプットを自分の力でさらにブラッシュアップできたりする人がいるなら、その人に仕事をお願いする意味がある。そう僕は考えています。速さや安さが価値になる領域であればAIをどんどん使っていけばいいと思いますが、価値創出が必要な領域では、人とAIの共同作業はこれからも必要だと思います。

求められるコミュニケーション力とブランド力

猪倉
これからの時代において、コマース支援、コマースコンサルティングに求められるものは何か。それぞれのお考えをお聞かせください。
桑嶋
ひと言で言えば、コミュニケーションだと思います。クライアントとの緊密なコミュニケーションが必要なのは昔からのことですが、とりわけコマース支援は、クライアントサイドのさまざまな部署に関連するので、コミュニケーションはいっそう重要になります。

商品開発、マーケティング、営業、販売、システム──。そういった広範な部門の皆さんとの深いコミュニケーションを実現するためには、私たちのチーム内にそれぞれの領域に精通したメンバーがいて、かつそのメンバー間にも緊密なコミュニケーションがなければなりません。そういった内外のトータルなコミュニケーションを通じて、クライアントともに最適な解を見出していくことが必要だと思います。

石川
僕は、支援する側の「ブランド化」が求められていると感じています。
コンサルティングのようなサービスは、まったく同じ提案内容でも、誰が提案するかによって採用されるかどうかが決まるケースが少なくありません。多くの場合、採用されるのは、これまでの実績があり、コミュニケーションのレベルが高く、信頼されている人の提案です。そういった人には、強力なブランド力があると言えます。そのブランド力を、個人においても会社においても高めていく必要があります。それぞれの個人が人間力を磨いて、ブランドを高め、その総和が会社のブランドになる。そんな流れがつくれれば理想だと思います。

forest CMO / RESORT代表取締役社長CEO 石川 森生氏 

湯原
AI時代だからこそ、信頼に基づくブランドが大切になるということですよね。
僕は、変化への対応力が求められていると感じます。ECに求められる要件は常に変わっていて、オペレーションやデータセキュリティのレベルもどんどん上がっています。クライアントがそのレベルに追従していくには、支援者である僕たちがサービスレベルを絶えずアップデートしていく必要があります。その取り組みをこれからも続けていきたいですね。
猪倉
forestとHAKUHODO EC+は、これからパートナーとして何を目指していくのか。最後にその見通しをお聞かせいただけますか。
湯原
forestグループ内のEC事業者の規模はまだ小さく、最大でも売上15億円くらいの規模です。HAKUHODO EC+をはじめとする博報堂DYグループの皆さんのマーケティング力やコンサルティング力をお借りすることで、それぞれの事業を拡大し、グループ全体の成長を目指していきたい。そうして、投資していただいたご期待に応えたい。そう考えています。
桑嶋
forestの事業拡大のために僕たちが知見やリソースをご提供するだけでなく、僕たちのコマース支援の取り組みにもぜひforestの皆さんのスキルや経験を使わせていただきたいと思っています。互いに力を合わせて、日本のECシーンを盛り上げていきましょう。

※ 本対談の撮影は、UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)のMandara(マンダラ)スペースで実施 

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