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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.26】「クリックの背景・理由は?」 AIが顧客の
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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.26】「クリックの背景・理由は?」 AIが顧客の"行動の裏側"を読み解く、レコメンド設計の新しいかたち

マーケティング活動において、データとテクノロジーが果たす役割は年々高まっています。データ基盤整備やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)活用、マーケティングオートメーション、AI活用といった言葉は、もはや特別なものではなくなりました。一方で、それらを「実際の事業成長」に結びつけられている企業は、想像以上に少ないのが実情です。本連載では、博報堂マーケティングシステムコンサルティング局(以下、マーシス局)のメンバーが、事業グロースに向けた「生活者発想×データ×テクノロジー」の挑戦について、日々現場で向き合っている知見や視点から発信していきます。

第26回のテーマは「AIを活用したコンテンツレコメンドの再設計」です。動画やコラムを配信し、レコメンドエンジンで出し分ける。そこまでは多くの企業が実装しています。しかし、配信したコンテンツがその後の購入や契約、取引といった顧客行動にどうつながったのかを追跡し、次の配信に活かせている企業はどれだけあるでしょうか。本稿では、コンテンツ視聴と顧客行動のあいだにある「見えない因果」をAIで可視化し、配信設計をビジネス成果から逆算して組み立て直す取り組みについてご紹介します。
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奥山 貴文
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部 データストラテジスト

配信数は増えた。では、成果は?

オウンドメディアの記事、動画、メールマガジン、アプリのプッシュ通知。企業が顧客に届けるコンテンツの量は、この数年で飛躍的に増えました。レコメンドエンジンやMA(マーケティングオートメーション)ツールの導入も進み、「誰に、何を、いつ届けるか」に関しては自動化している企業も珍しくありません。

しかし、その配信が事業の成果にどれだけ貢献しているかを問われると、明快に答えるのはなかなか難しいと思います。たとえば、動画メディアを運営している企業であれば、「再生回数」や「視聴完了率」は日々追いかけているでしょう。しかし、ある顧客が動画を見た後に商品を購入したのか、契約を更新したのか、逆に何もしなかったのか——その「コンテンツの先」を個人単位で追跡し、因果関係を分析できている企業はなかなかありません。

というのも、コンテンツ視聴と顧客行動を結びつけるには、視聴ログ、購買データ、サイト行動ログ、顧客属性など複数のデータを横断的に突合する必要があるからです。データ基盤の構造上それが困難であったり、仮にデータがつながっていたりしても、数十万人・数百本のコンテンツの掛け合わせを人手で分析するのは事実上不可能です。

結果として、多くの現場では「視聴数の多い動画が良い動画だろう」「過去に見たジャンルと似たものを出しておけば間違いないだろう」という推測に基づいて運用が回っています。配信の効率は上がっていても、配信の「効果」は測れていない。この断絶こそが、コンテンツマーケティングの多くが「やっている」けれど「効いている実感がない」状態に留まる根本的な原因だと、我々は見ています。

AIで「コンテンツ閲覧」と「購買行動」をつなぐ

この断絶を埋めるために我々が取り組んでいるのが、AIを活用した「コンテンツ閲覧と購買行動の因果分析」です。この分析ではまず、顧客一人ひとりに対して、以下のデータを時系列で結合します。

①コンテンツ閲覧ログ:誰が(ユーザーID)、いつ、何を、どの順番で見たか
②取引・購買データ:誰が(ユーザーID)、いつ、何を、いくらで購入・契約したか
③サイト行動データ:誰が(ユーザーID)、いつ、ログイン頻度、ページ遷移パターン、滞在時間
④外部環境データ:いつ、他社動向、業界ニュース、SNSでのトレンド

これらを統合したうえで、大規模言語モデル(LLM)に連携します。そして購入起点から
「顧客があるコンテンツに接触した前後で、どのような行動変化が起きたか」をパターンごとに解釈させます。

ここで強調したいのは、従来のアトリビューション分析との違いです。従来のアトリビューションは「タッチポイントAに接触した人のうちX%がコンバージョンした」という統計的な相関を見るものです。それに対してAI行動解釈は、「この顧客群は、ニーズが急変した(急増した)タイミングで速報系コンテンツに接触し、その3日後に集中的にサービスを利用している。平時に解説コンテンツを視聴しており、それが購入時の即断を支える土台になっている」といった、行動の時間的な連鎖と文脈を読み解きます。

相関ではなく文脈。集計ではなく物語。コンテンツが顧客の意思決定プロセスの中でどんな役割を果たしているのかを、AIが言語化してくれるのです。

【図表①:従来のアトリビューション分析とAI行動解釈の違い】 

「いつ届けるか」は「いつ効くか」から逆算する

AI行動解釈で特に大きなインパクトがあったのが、配信タイミングの再設計です。

あるプロジェクトで、数十万人規模の顧客に対してこの分析を実施したところ、コンテンツが行動に結びつくタイミングには明確なパターンがあることが判明しました。しかも、そのパターンは顧客群によって大きく異なっていました。

具体的には、外部環境が大きく変動した局面(たとえば社会状況の変化や他社製品の販売など)では、特定の顧客群のコンテンツ接触率と行動率が同時に跳ね上がります。一方、環境が安定している時期には、コンテンツ接触は増えるものの、すぐ行動にはつながらない。ただし、この「安定期の視聴」が無意味かといえばそうではなく、AIの解釈によれば、安定期に蓄積された知識が、変動期の迅速な意思決定を下支えしているという構造が見えてきました。

これは、コンテンツ配信の設計思想を根本から変える発見です。従来の配信設計は、「このコンテンツを見せれば行動してくれるはず」というプッシュ型の発想に立っていました。しかし実態は、コンテンツには「すぐ効くもの」と「後から効くもの」の2種類があります。安定期に配信する解説コンテンツは、配信直後のクリック率で評価すれば「効果なし」に見えますが、変動期の行動を加速させる「助走路」として機能している可能性がある。このことが、データに基づいて初めて確認できたわけです。

さらに、行動が活発化するタイミングにも、顧客群ごとの傾向が見えてきました。ある群は平日夜の18時台にコンテンツに接触し、同日22時台に外部環境の最新情報を確認して翌朝行動する。別の群は週末にまとめて複数のコンテンツを視聴し、翌週半ばに行動を起こす。また別の群は、特定の季節イベントの数週間前から計画的に情報収集を始め、イベント直前に集中的にサービスを利用する。

こうした「行動に至るまでのリズム」が顧客群ごとに異なるとわかれば、配信のタイミングもそのリズムに合わせて設計できます。全員に同じ曜日・同じ時間帯で配信するのではなく、「この群には木曜の夜に速報系を」「この群には週末に体系的な解説を」「この群にはイベント3週間前から段階的に」と、顧客のリズムに寄り添った配信カレンダーを組むことが可能になります。

【図表②:顧客群ごとの「視聴→行動」リズムと配信タイミング設計】 

AIの解釈は「もう一人のAI」が検証する

ここまでの話を聞いて、「AIの解釈を鵜呑みにして大丈夫なのか」という疑問を持たれた方も多いのではないかと思います。もっともな懸念です。

LLMはもっともらしい文章を生成する能力に長けていますが、その裏を返せば、データの裏付けが弱い解釈でもそれらしく語ってしまうリスクがあります。顧客の行動解釈に基づいて配信設計を変えるとなれば、その解釈の正しさが施策の成否を左右します。「AIがそう言ったから」では済まされません。

このリスクに対して、我々は「分析AI」と「検証AI」を意図的に分離する設計を採っています。まず、分析AIが複数のデータソースを読み込み、顧客群ごとの行動パターンと、コンテンツとの関係性を解釈します。次にこの解釈結果を、分析とは別のAIモデルに渡し、元データと突き合わせて妥当性を検証させます。

検証AIの役割は、いわば「反論者」です。分析AIが「この群は安定期にじっくり情報収集し、変動期に一気に行動する戦略家タイプだ」と解釈したとします。検証AIは元データを参照し、「安定期のコンテンツ接触頻度は本当に有意に高いか」「変動期の行動増加は、この群に固有の傾向か、それとも全体的な傾向に過ぎないのか」「もっと単純な説明——たとえば単に曜日や時間帯のバイアス——で同じパターンが説明できないか」を突きつけます。

この仕組みは、分析AIと検証AIに異なるモデルを使うことで機能します。同じモデルに「自分の解釈を検証して」と頼んでも、自分の出力を肯定するバイアスが働きやすい。別のモデルが、異なるアーキテクチャと異なる学習データに基づいて独立に判定するからこそ、チェック機能が実質的に作動するのです。

あるプロジェクトでは、分析AIが「この顧客群はリスク回避志向が強い」と解釈したのに対し、検証AIが取引データを照合した結果、「実際には高リスク商品の購入率が高く、リスク回避志向が強いとは言えない。むしろ安定志向と積極志向を状況に応じて使い分ける二面性がある」と修正を加えたケースがありました。この修正がなければ、配信するコンテンツの方向性を誤っていた可能性があります。

【図表③:分析AI+検証AIの二重チェックプロセス】 

コンテンツを「配信するもの」から「設計するもの」へ

最後に、この取り組みを通じて我々が見えてきた、コンテンツマーケティングの「次の姿」についてお伝えしたいと思います。

多くの企業において、コンテンツは「作ったものを届ける」という一方通行のプロセスで運用されています。企画→制作→配信→効果測定、というフローの中で、効果測定は「再生回数」「CTR」「CVR」といったコンテンツ単体の指標に留まりがちです。

しかし、AIによる因果分析を組み込むと、コンテンツの評価軸そのものが変わります。たとえば、「この解説コンテンツは再生回数こそ少ないが、視聴した顧客の翌月の取引額が平均20%増加している」「この速報コンテンツは単体のCVRは低いが、事前に解説コンテンツを視聴済みの顧客に限定すると行動転換率が3倍になる」といった、コンテンツ間の「組み合わせ効果」や「時間差効果」が見えるようになります。

この視点を持つと、コンテンツの企画・制作の方針も変わってきます。「バズる動画を作ろう」ではなく、「この顧客群の意思決定プロセスのこのフェーズに、どんな情報が不足しているか」から逆算して企画を立てる。既存コンテンツを再評価し、「再生数は低いが行動喚起力が高い隠れた良作」を発掘して配信強化する。コンテンツ制作が「量の勝負」から「設計の勝負」に変わっていくわけです。

【図表④:コンテンツ運用のパラダイムシフト】

加えて、この分析は一度きりのものではありません。外部環境は変化し続けますし、顧客の行動パターンも時とともに移り変わります。分析基盤をデータパイプラインに組み込み、定期的にAI解釈を更新し続ける仕組みを構築することで、配信設計を常に最新の顧客行動に追従させることができます。生成AIに都度質問するような使い方ではなく、構造化されたデータ基盤の上でAI分析を自動的に回し続けるという「仕組み化」が、コンテンツ配信の成果を持続的に伸ばし続ける鍵になると考えています。

自社のコンテンツが顧客の行動にどうつながっているか。「届けたかどうか」ではなく「届けた結果、何が起きたか」を起点にコンテンツ戦略を組み立て直す。その取り組みに関心をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひお声がけいただければ幸いです。

※肩書は取材当時のものです

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  • 株式会社博報堂
    マーケティングシステムコンサルティング局
    データプラットフォーム推進部 データストラテジスト
    データサイエンスとマーケティング戦略の両面からクライアント企業のDXを推進。AI・クラウド基盤を活用した顧客行動分析とコンテンツ配信最適化のプロジェクトを多数リードし、分析から施策実装までを一貫して支援している。「分析は施策に変換されてはじめて価値を持つ」を信条に、成果に直結するデータ活用の設計にこだわっている。

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