AI時代のブランディング ~ブランドは『印』から『命』へ。AIエージェントが変える生活者との新たな絆~【後編】
生成AIの発展により、マーケティングやクリエイティブのプロセスは劇的な変化を遂げています。しかし、効率化や最適化が進む一方で、AIが「AIエージェント」として自律的に動く時代には、企業と生活者の関係性そのものが大きく変わろうとしています。
本記事では、博報堂DYグループが主催する“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナー「AI時代のブランディング ~ブランドは「印」から「命」へ。AIエージェントが変える生活者との新たな絆~」の内容を前後編でお届けします。
レポート後編では、博報堂 CXクリエイティブ局の中島優人が開発に携わった「Branded AI Agent」についてご紹介します。
<登壇者>
中島 優人
博報堂 CXクリエイティブ局 エクスペリエンスディレクター
※肩書はセミナー開催当時のものです
AIによる「ブランドの同質化」への懸念
- 中島
- ここからは、前編で挙がった「共創エージェント」「友達になりたいと思えるブランドのAIエージェント」をどのように作っていくのか、まさに今私たちが進めている事例をご紹介いたします。

AI時代に、今の環境変化をあえてブランド側から見ていくと、「ブランドの同質化」といった課題が出てきています。AIを活用することで、意思決定やアウトプットが中央値に偏ってきて、結果、ブランドがAIを通して出したアウトプットが平均化していくので、ブランドの個性が残りづらくなってしまう。実は79%のブランドの方がAIを使うことによるブランドの没個性化に懸念を持っています。多くのブランドご担当者が、効率化と個性をどう共存させていくかというジレンマをお持ちなのではないでしょうか。
ブランドの個性の作り方は、時代に合わせて進化を続けてきたと思います。

例えば、産業革命で製品がたくさん生まれていた時は、いかに「記憶」に残すかということが重視され、VIやスローガンという概念が生まれました。マスメディアが生まれて「大衆」という概念ができた時は、「意味」を伝えることが大事になり、ソーシャルメディアが出てきた時は、生活者とのインタラクションが可能になったので、より「行動」でブランドを示していくことが必要になってきたことを覚えています。
時代に合わせて、いろいろなブランディング手法が出てきましたが、この「対話でつながるAI時代」においても、新しいブランディングの方法論が必要なのではないかと考えています。

そんな中で考えたのが、「Branded AI Agent」です。もしもあなたのブランドが生きていたら、どんな思いを持っているのか、どんなことに興味を持つのか、どのように生活者に話しかけて、どのように話を聞くのか――。ブランドを人格として定義し、AIエージェントに命を与える。いわば意思決定からアウトプットまでのあらゆる段階に「一般的な正解」ではなく「ブランドらしい異常値」を注入していく試みです。あらゆる接点にそのブランドらしいAIエージェントが入ることで、同じ言葉や振る舞いを届けることができるのではないかと考えています。AIエージェントがある今、あらためてブランドを人格として考えることが大事で、それをより具現化しやすくなっています。今までブランドの定義は、例えばブランドガイドラインを作るなど静的なやり方が多かったのですが、生活者との接点が広がり、常時接続しているという点からみても、ブランドの定義自体も動的でインタラクティブなものになっていくべきだと思い、AIエージェントでブランドを定義していけないかと考えています。

そうすると、生活者との接点が広がっている中、その真ん中に「Branded AI Agent」が入り、ブランドの思いや偏愛も宿して、生活者と対話をしていくことができるようになるのではないかと思っています。
また、先ほど(前編で)生活者の対話から思わぬインサイトに気づくという話がありましたが、対話をしていくことで、生活者は実はこういう話をしたら反応が良かったなとか、今世の中でこんなことが起きていて、これはブランドに関係があるかもしれないというような情報を収集していき、ブランド自体もデータを蓄積し、成長していって、ブランド価値の器としてAIエージェントを作り育てていくという考え方もできるのではないでしょうか。
賢さよりも「想いと偏愛」を持つAIエージェント「tsubuchigAI」
- 中島
- そんなAIエージェントを当社独自にプロトタイプしてみました。

「いっしょに話そう。tsubuchigAI」というもので、博報堂には「粒ぞろいより粒ちがい」という人材に対する考え方があるのですが、そのカルチャーを体現したAIエージェントを作りました。
合計12体の、個性豊かで偏りのあるAIを作りました。多様なブランドや業界も想定し、友達になりたくなるAIや、ちょっと雑談したくなるAIってどういうAIだろうということを議論しながら作っていきました。お酒の話しかしないAIがいたり、運動の話しかしないAIがいたり……いろいろなAIがいます。
例えば、「週末何しよう」と打つと、旅行好きのAIは旅行を勧めてくるし、食べることが好きなAIはご飯の話しかしない、といった感じで、各AIとの対話を通じて思わぬ気づきや願望などを引き出していくことを狙っています。
一緒に話したい、友達になりたいと思えるAIをどうやって作ってくのか考えた時に、賢いだけではなく、「想い」があることが大事なのではないかとなり、このような偏愛を持つ12体のAIが生まれました。
「ブランドらしいAI」を実装するための6つのTIPS
- 中島
- ここからは、実際に作ってみて得られた気づきをお話しします。
「ブランドらしいAI」のクリエイティブは2層に分けられると考えています。
1つ目は「AI Engineering」。AI自体の設計です。
そして2つ目は、「AI Experience」。AI体験の設定です。

例えば、現在よく使われるAIも、返答があるまでに丸ポチが出て考えているような演出がありますが、それもAI体験だなと思うんです。「今考えてくれているぞ」と思える体験を作っているということだと思い、このようなAIと生活者が接触する部分の体験を考えるとき、各企業の広告コミュニケーションや体験の知見をAIの設計や体験の設定でフル活用できる余地があるんじゃないかなと思っています。
次に、「AI Engineering」と「AI Experience」の2つを考えていくにあたって重視すべき6つのTIPSをお伝えします。意識して作っていくと、ブランドらしい対話したくなるAIが作れるのではないかと思うのでご活用ください。
1.ブランドの定義
企業は「地球を守りたい」といった社会に向けたパーパスを掲げがちですが、AIにあなたはこういうブランドですと教え込む上で、「生活者1人に日頃の生活でどんな体験をして欲しいか」と変換することが重要です。例えば「日々の暮らしで自然を楽しんで欲しい」と言い換えるだけで、対話がよりパーソナルで豊かなものになります。
2.性格
これまでブランドの性格は、「誠実な」「アクティブな」といった形容詞で規定されるのが一般的でした。しかし、ブランドが自ら生活者と対話する時代においては、「何に喜ぶか」「何に怒るか」「どんな口調で話すか」といった『動詞』で規定することが重要です。振る舞いを動詞で具体的に定義することで、AIエージェントの対話に一貫した人格が生まれます。
3.知識
一般的なAIは知識に偏りがあると問題になりますが、ブランドのAIはむしろ「偏愛」や「主観的な知識」を学習させることで、対話したくなる魅力的な存在になります。例えば、我々の「tsubuchigAI」の旅行好きAIには、客観的事実だけでなく、「このAIならどう感じるか」という主観的な感想をセットで学習させました。結果として、知識が引用された際に生活者の想いをより深く引き出す対話が生まれました。AIに読み込ませる知識として、企業の社史や経営者の言葉も、重要な記憶・ナレッジとして再活用できます。
4.対話
AIエージェントの対話の流れは、CMをつくるように設計することができます。例えば「tsubuchigAI」では、AI同士のブレストをコンセプトにしました。誰かが関係のない話を始め、みんなで面白がり、最後は一般化して仕事のアイデアに落とし込むという「気持ちいいブレストの流れ」をモデル化し、プロンプトに組み込んでいます。このような「理想の対話の流れ」を設計してAIに実行させることが、ブランドらしい体験の質を上げる上で非常に重要です。
5.UXUI
AIとの対話のインターフェースは、一般的なチャット形式にこだわる必要はありません。例えば「tsubuchigAI」では、会話が上から下に流れるのではなく、前の吹き出しに次々と上書きされていく「漫才的なUI」を採用し、対話が膨らんでいく楽しさを表現しました。他にも、対談風、リレーコラム、バーチャルオフィス、SNS、ニュース番組など、ブランド体験に合わせた多様なUX/UIの可能性があります。
6.キャラクター
これまでのブランドキャラクターは「いかにブランドの思いを語るか」を基準に作られていましたが、これからは先ほど(前編)のDuolingoの例のように、「いかに話したくなるキャラクターか」を作ることが重要になります。「tsubuchigAI」では、AIの「目の動き」にこだわりました。話している他のAIの方向を向いたり、ユーザーを見つめたりする動きを取り入れることで、自然と愛着を持ってもらえるように設計しています。

「ブランドの定義」「性格」「知識」「対話」「UXUI」「キャラクター」と、色々なところに広告クリエイティブの知見を注入していくとブランドらしいAIを作れることをご紹介しました。
AIエージェント作りにおいては、ブランドを「人格」として深く捉えていくということと、広告クリエイティブの知見をAI制作、AI体験に転用していくこと。この2つが大事だと思っています。

これからは、Conversion(コンバージョン)の時代からConversation(会話・対話)の時代になると思います。一度アクションしてくれたら終わりではなく、ずっと対話し続けたくなるブランドをどう作っていくのか。AI時代のブランディング、ブランド体験を一緒に開拓していかれたら嬉しいです。
Q&Aセッション
――本日の話でBtoCビジネスにおけるAIエージェントの有用性はイメージできましたが、生活者と直接繋がりのないBtoBビジネスではAIエージェントは活用できるのでしょうか?
- 森
- BtoBビジネスにおいてもAIエージェントは非常に有用と言えるでしょう。取引先との業務プロセスを自動化・効率化するというのはもちろんですが、それだけではありません。例えば部品調達の際、価格や機能の比較だけでなく、自社のサステナビリティへの姿勢やパーパスといった「ブランドの価値観」を、AIエージェントを介して相手企業に伝えることができます。単なる自動化にとどまらず、BtoBにおいてもブランドの価値観を共有するインターフェースとしてAIエージェントは大きな意味を持ちます。
――『tsubuchigAI』はどのような生活者接点で活用できるのでしょうか?
- 中島
- 対話なのでSNSが親和性が高いかなと思っています。例えば「Branded AI Agent」の入った企業のSNSアカウントができたとして、もしかしたらそのAIエージェントが「こんな面白いトピック見つけました」と思わぬ情報を持ってくるかもしれないですし、生活者のリアクションに対して気づいたことを返すといった対話ができるようになるかもしれないと構想しています。
- 嶋
- タイムラインが、生活者にとってAIエージェントに出会いやすい場所になるかもしれませんね。
――AIエージェントを制作するにはデータが必要かと思いますが、学習させるデータの形式は決まりがありますか? どんな形式のものでも良いのでしょうか?
- 森
- もちろんJSONやマークアップ形式の方が処理しやすいのは事実ですが、今の推論AIは進化しており、PDF形式のFAQなどでもしっかり文脈を汲み取って読み込んでくれます。すでに存在しているAIに渡して活用するデータであれば、さまざまな形式で対応可能です。まずは「人間にとっても業務がしやすい、わかりやすいデータ」を整備しておくことが、結果的にAI活用においても非常に役に立つと思います。
- 嶋
- ありがとうございました。
これからはAIエージェントが自然言語での会話を通じて、生活者とブランドの架け橋になっていきます。目的のない雑談だからこそ生活者のインサイトが引き出され、推論AIによってそれが言語化されていきます。そこで重要になるのが、会話が弾み、対話相手として「選ばれる」ためのキャラクター作りです。ブランドが静的なパーパスから、キャラ立ちした「人格」へと進化していく。それがAIエージェント時代のブランディングの大きなテーマになるのではないでしょうか。本日はありがとうございました。
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株式会社博報堂 執行役員/株式会社博報堂ケトル ファウンダー1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02年から04年に博報堂刊『広告』編集長を務める。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。現在NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。カルチャー誌『ケトル』の編集長、エリアニュースサイト「赤坂経済新聞」編集長などメディアコンテンツ制作にも積極的に関わる。2012年東京下北沢に内沼晋太郎との共同事業として本屋B&Bを開業。編著書に『CHILDLENS』(リトルモア)、『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(ディスカヴァー21)、『企画力』(翔泳社)、『このツイートは覚えておかなくちゃ。』(講談社)、『人が動く ものが売れる編集術 ブランド「メディア」のつくり方』(誠文堂新光社)、『あたりまえのつくり方 ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書』(NewsPicksパブリッシング)がある。
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株式会社博報堂DYホールディングス
執行役員 Chief AI Officer / Human-Centered AI Institute 代表
株式会社 博報堂テクノロジーズ 取締役外資系コンサルティング会社、インターネット企業を経て、グローバルプロフェッショナルファームにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。
内閣府AI戦略専門調査会委員、慶應義塾大学 xDignity センター アドバイザリーボードメンバー、日本ディープラーニング協会 顧問。
著訳書に、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『グローバルAI活用企業動向調査 第5版』(共訳、デロイト トーマツ社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。
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株式会社博報堂 CXクリエイティブ局 エクスペリエンスディレクター体験を軸にしたブランディングで生活者、社会、企業の関係変革を目指す。CXクリエイティブ局及び官民共創クリエイティブスタジオ「PROJECT_Vega」に所属。テクノロジーを起点とした新体験開発や社会課題に向き合う企画にも取り組む。


