【第11回】先端生活者の調査で見えてきた「生成AI×買物」の利用動向
「売るを買うから考える。」という言葉をスローガンに2003年より活動している博報堂買物研究所(以下、買物研究所)の取り組みを紹介する本連載。第11回は、買物研究所が持つデータと、SEEDER社のトライブリサーチ(先端生活者調査)を掛け合わせたことで得られた新しい知見や気づきについて話を聞きました。
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(写真左から)
坂井 奈穂子氏
SEEDER株式会社
ストラテジック事業本部 ストラテジックプランナー
伊沢 勇作氏
SEEDER株式会社
AIインベーション事業本部 本部長
飯島 拓海
博報堂 買物研究所 副所長
生島 岳
博報堂 買物研究所 マーケティングプラニングディレクター
「生成AI×買物」がもたらす購買体験のパラダイムシフト
- 飯島
- 本日は「生成AI×買物」というテーマでお話しできればと思います。今、買物まわりでは「エージェンティック・コマース」という概念が注目されています。これまで人間が自ら行っていた商品の検索や比較、購入、アフターフォローといった一連のプロセスを、AIエージェントが代行するというものです。
ユーザーの要望に応じて、AIエージェントが自律的に検索から比較、決済、さらにはアフターフォローまで一貫してやってくれるようになります。こうした仕組みの登場は、購買体験そのものを大きく変える可能性があると考えていますが、この辺りの動向はどのように捉えていますか?
- 生島
- 直近のアメリカでは、ChatGPTの中での買物に関する質問が、ここ半年、夏ごろから急激に増えているという状況があります。その一方で日本国内を見てみると、2025年2月に買物研が行った調査では、日常生活の中で生成AIを利用している人は3割弱(26%)でしたが、そのうち買物に利用している人は8%に留まりました。つまり、国内ではまだまだ先端層と言える限られた生活者しか、買物での生成AI利用が進んでいないとも言えます。
- 飯島
- 世の中全体で見ると、「AIを使った買物」がどういうものか、まだ理解が追いついていない状況だと感じています。そんななか、買物研究所では、2025年1月ごろから、AI時代の新しい購買行動モデル「DREAM」を提唱してきました。
そこから約1年が経ち、当時は十分に検証できていなかった部分も含めて、今回は先進的な生活者のリサーチを行っているSEEDER社と協力し、国内におけるAI時代のリアルな購買行動を解き明かすことにしました。
今回の共同研究では、買物研究所がX上でのソーシャルリスニングを、SEEDER社がトライブリサーチを実施しました。

- 生島
- ソーシャルリスニングで、Xの投稿内容を1万件ほど分析したところ、いくつか特徴的な使い方が見えてきました。まず一つ目はよくあるパターンとして、例えばパソコンのディスプレイを探す際に、ユーザーが「予算は10万円くらいで」「画面サイズはこれくらい」といったように、ざっくりとした条件をAIに投げかけるケースです。するとAIが機能の整理やメリット・デメリットの比較、さらには提案までしてくれるという使い方が非常に多かったです。
もう一つ面白かったのは、「真贋鑑定」のような使い方です。キャラクターグッズやコレクターアイテムなど、偽物が出回りやすい商品の場合、AIに対話しながら「これは本物かどうか」を確認するのも、AIならではの新しい買物行動の一例として印象的でしたね。
- 飯島
- 今回、約1万件のSNS投稿データを実際に一つひとつ目で確認しながら分析しました。その結果、DREAMモデルの「D(対話)」に注目して見てみたところ、生成AIが買物において担っている役割は、実に「38」にも及ぶことがわかったそうですね。
- 生島
- そうなんです。この38の役割を整理していくと、「対話のキッカケは何なのか」と「AIを使うことで生活者にどんなメリットがあるのか」という2つの軸が見えてきました。これらを縦横の軸にまとめると、AI×買物の全体像を4象限で分類することができました。

「生活起点・商品起点」と「縮める・拡げる」の4象限
- 生島
- まず縦軸で見ると、「対話のきっかけ」は大きく2つに分けられます。上半分は生活者自身の悩みや本音、内面を整理するためにAIを活用する「生活起点」の領域で、下半分は商品そのものを出発点として、価格や機能などの外部情報を整理・比較するためにAIを使う「商品起点」の領域です。
一般的なイメージや購買行動モデルから研究を始めると、どうしても「商品の相談」から始まるのではないかと考えてしまいがちです。しかし、今回Xの投稿を大量に分析してみると、生活者は日常の悩みや課題を解決するために、まずはChatGPTやGeminiなどの生成AIに相談しているケースが多いことが判明しました。
- 飯島
- その相談の過程で、解決手段としてAIが商品を提案する流れが生まれています。つまり、従来は商品探しから始まっていた買物が、生活上の悩みから始まる「生活起点」のケースが増えており、買物の境界が以前よりも曖昧になってきていると言えます。では次に、横軸について坂井さんに解説をお願いしてもよいでしょうか。
- 坂井
- 横軸は「拡げる」と「縮める」という軸が出てきました。「縮める」は選択肢を絞り込む役割を担っていますが、「拡げる」はいわゆるセレンディピティ的な体験を生み出す役割です。例えば旅行で、普段は決まった系列のホテルしか選ばなかったのが、AIを通じて全く予想していなかったホテルと出会う。自分が今まで知らなかった選択肢や体験にアクセスできる点が、新しい価値や驚きにつながると感じます。
- 飯島
- 「縮める」側の声として非常に多かったのは、共働きの方々が日々の食事作りに追われ、レシピを考える時間すらない状況で、「AIに何を買うべきか」を聞いて、要点だけまとめてもらうニーズが非常に多く見られました。
これらを生活起点・商品起点という縦軸の話と、縮める・拡げるという横軸の4象限で整理すると、AI×買物の38の役割の全体像が非常にクリアに見えてくるのではないかと思います。

ただ、この4象限はあくまでX上に投稿された短文を分類した結果です。たくさんの声を拾える一方で、文字数制限や背景情報の不足により、見えにくい本音や潜在的な意図は十分に捉えられていない可能性があります。
そこで今回は、SEEDER社との共同研究の強みを活かし、さらにもう一歩踏み込んで、生活者の価値観や行動の背景まで深く掘り下げるトライブリサーチの分析手法を試みました。
- 伊沢
- 私たちが定義する「トライブ」とは、5年先の生活者に広がる価値観を先取りしている先進的な生活者です。彼らの価値観やニーズを理解したうえで、インタビューでの発言や行動から得られるインサイトを蓄積・分析し、5年後のマスマーケットの動向を先取りした商品開発やサービス設計に活かしています。
今回はその延長で、AIを使った買物や相談行動に注目し、博報堂の買物研究所とともに深掘り調査を実施しました。
「商品起点」で選択肢を拡げ、「能力拡張」で意思決定につなげるAIの活用
- 飯島
- 今回はAIを日常的に使って買物をしている5名の方にインタビューを実施しました。その中から特に象徴的なケースとして、海外在住の30代女性をピックアップし、この方がAIとどのように対話しながら買物を進め、最終的に購入に至ったのか、というプロセスを一緒にたどっていきたいと思います。
ではまず、坂井さんからこの女性がどんな方なのか簡単にご紹介いただけますか。
- 坂井
- 海外在住の30代女性である小梅さん(仮名)は、コンサルタントとして日本とベトナムを行き来する生活を送っており、インタビュー当時はホーチミンに滞在されており、ご主人とは別々に生活しているタイミングでした。
現地ではまだ友人関係が少ないなかで、友人から「バンドをやりたいけどベース担当がいない」と声をかけられ、上司からの勧めで急遽エレキベースを購入することになったそうです。もともと音楽の知識はあったものの、エレキベースについては詳しくなかったため、まずはChatGPTに相談しながらスペックの比較からスタートしました。
まさに「商品起点」で選択肢を拡げて理解を深め、自分に合うものを絞り込んでいったプロセスが非常に印象的でした。

- 飯島
- 小梅さんの場合、最初は「何から手をつけていいか分からない」という状態で、AIに相談したわけですが、そこから実際に購入に至るシーンでは、どんな風に使い方が変化していきましたか?
- 坂井
- ECでの購入も検討したものの、自分で選ぶのは難しさを感じ、最終的には実店舗へ予約を入れ、自分の希望するスペックや条件を伝えるところから準備を進めていました。
ただベトナム語が難しいため、英語でのやり取りを行い、その英訳をChatGPTにサポートしてもらったりと、AIを幅広く活用していたのが特徴的でした。
そして限られた時間の中で候補を絞り込み、「これにする」と意思決定するところに至ったんですね。
- 飯島
- 海外ではなかなか言葉が通じづらいからこそ、AIが「能力拡張」の役割も果たしていたのかもしれませんね。
AIを活用しながら、自分だけでは気づけない視点をもらいつつ、短時間で意思決定するための手段としてもAIを活用する。まさにハイブリッドな使い方をされている印象を受けました。
その後のインタビューでは、購入後にもAIとのやり取りが続いていたとのことで、その辺りも詳しく教えていただけますでしょうか。
- 坂井
- ChatGPTに指のケア方法や弦の押さえ方の工夫、練習法などを相談し、自分の演奏スキルの「拡張」を図っていました。また楽譜の入手やその読み解き方についてもAIにサポートを求めるなど、次第に「絞る」から「拡げる」へと変化していった点が印象深く感じました。
- 飯島
- AIとの対話が購買のきっかけや意思決定に留まらず、その後も継続していくという点は、DREAMの「マネジメント」のフェーズにも通じる、非常に示唆に富んだ事例だと言えるでしょう。
店舗で実物に触れず、AIの比較・評価だけで購入を決断した先進的な購買行動
- 飯島
- 続いて、東京在住の30代男性の事例についても見ていきましょう。
彼のAI活用は非常に戦略的だったと思います。特に2万円の枕を購入したエピソードはヒントが詰まっていそうなので、そのあたりを詳しくお聞かせください。
- 伊沢
- 東京在住のNさんは、もともと仕事でAIを活用しており、商品購入の際にもAIに相談されていました。腰痛や寝返りの悩みを健康状態として入力し、自ら候補を追加しながらAIにも提案を依頼していたほか、比較評価を表形式でまとめてもらうなど、ビジネスライクな使い方が特徴的でした。
また、各商品を10点満点でスコアリングし、自分に最適な商品を可視化したうえで、「あえて辛口で評価してほしい」とAIに指示していたのも印象に残りましたね。最終的には店舗にも行かず、実物にも触れずにAIの比較・評価だけで購入まで完結させていました。
枕は使用感が重要ですが、「まずは試してみればいい」という前提でAIのレコメンドを信じて購入されたのだと思いますが、こうした一連のプロセスは、AIを中心に意思決定を完結させる先進的な購買行動の一例と言えるでしょう。

- 飯島
- 腰痛の解決策として、マッサージやクリニックなどもあると思いますが、最終的に枕に落ち着くのは意外でしたね。そもそも課題がない人は、AIにあまり相談しないわけです。それがNさんのように、自分の生活の中に課題を感じている人は、こうした面白い買物体験になる可能性が高いのではと思いました。
- 伊沢
- 今回のケースを4象限で整理すると、Nさんは「生活起点」で課題を広げて枕に行き着き、「商品起点」で枕のスペックを比較しながら絞り込みを行い、最終的な購入検討に進んでいます。
面白いのは、NさんがAIに「それぞれの枕の営業担当者になって営業トークをしてほしい」と依頼した点です。スペックだけではなく、情緒的に心に響くポイントや「買いたい」という気持ちを後押しする要素をAIに引き出してもらい、それをもとに最終的に選んでいたのです。
このように、商品起点で比較・絞り込みをしつつ、同時に感情面までAIを活用して購入したいものを選ばれたのは、非常に先進的な使い方だと言えるでしょう。
- 飯島
- Nさんは「本当だったら枕を見に行きたかった」と仰っていました。仕事の関係で枕を見に行く時間がなく、さらには専門店で別々だからそれぞれ見て回るのは大変だと感じたそうです。枕ショッピングモールみたいなものがあるわけではないので、「AIに営業してもらう」という手段を選んだのは面白いと思いました。
枕のようになかなか自分で試せない商品だからこそ、購入の意思決定をAIに任せたのは興味深い事例でしたが、他にもAIと相性の良いカテゴリーは何かありますか?
- 伊沢
- 枕のように「効果実感」が遅いカテゴリーは、ファッションのように「似合う、似合わない」といった形で一瞬で判断できるものとは違うため、それであればAIと相談して選択肢を絞り込み、意思決定してしまうのは効率的ですよね。同じようにサプリメントや基礎化粧品なども、最終的には実際に試してみないと効果が分からないため、自分のニーズや体調に合わせてAIとすり合わせを行い、早めに購入する行動につながりやすいのではないでしょうか。
- 生島
- 初手としてAIとのやり取りで購入まで進めつつ、後から実際に体験して確かめることで、体験価値や満足度を補完できると言えます。
今後の買物スタイルへの変化としては、時間がない場合はAIで効率化できますが、お花のように店舗スタッフの知見や直接的な相談が価値に紐付く場合もあり、リアル体験の必要性も状況によって残っていくのではと思います。

AIとの対話の裏側にある生活者の“解像度”を読み解く重要性
- 飯島
- 今回のソーシャルリスニングやデプスインタビューを通じて、生活者の一人ひとりに焦点を当てることで、非常に人間らしいAIの使い方や、多様な関わり方が見えてきました。
こうした調査結果を踏まえたときに、企業としては「AI×買物」という文脈において、今後どのような対応や戦略が求められると思いますか。
- 生島
- 今回、SEEDER社との共同調査を通じて強く感じたのは、あらためて「生活者をどれだけ深く理解できるか」ということでした。AIと生活者の間でどのような対話が行われているのか、生活者がAIにどのような役割を求めているのかなど、多面的かつ丁寧に観察・分析していく必要があると考えています。
つまり、生活者の価値観やライフスタイル、意思決定の背景までを高い解像度で読み解くことが、企業にとって有効な施策を見出すために大事なポイントになるのではないでしょうか。
- 伊沢
- AIを活用した買物は今後増えていくでしょう。しかし、たとえばノンアルコール市場が拡大しても「お酒を飲む楽しさ」自体はなくならないのと同様に、店舗で買物をする体験の価値や魅力も引き続き存在し続けるはずです。だからこそ、企業にはAIを使う購買行動の理解を深めたうえで、店舗ならではの価値をどう設計するかが重要になります。
また、AIで事前に調べてから店舗で購入するなど、オンラインとオフラインを行き来する購買行動も増えてくるでしょう。そう考えると、顧客体験はチャネルを分けて考えるのではなく、横断的に設計していく必要があります。
- 坂井
- 私が感じたのは、生活者が「脱アルゴリズム」を求めているのではということでした。口コミやランキングは、結局のところ効率化の中での「絞り込み」であり、いわば「ランキングの選び直し」を繰り返しているように思えます。そうではなく、本当に自分の物語に沿った選択をしたいのではないでしょうか。
アルゴリズムに踊らされて買うのではなく、自分にふさわしいものを選びとる意味では、「自分の状況に合わせて選びたい」という意識があるように感じました。
- 飯島
- 今後は自分専用の「パーソナルAI」が情報を取捨選択し、自分にとって本当に必要な情報だけを届けてくれる世界が広がっていくでしょう。一方で、企業にもブランドの個性や人格をまとったAIを構築し、製品の細かな仕様まで理解したうえで適切に案内できる体制が求められるようになると考えられます。
- 生島
- 家電や冷蔵庫に特化したライフスタイルの専門家として、コンシェルジュ的なAIが登場するかもしれませんね。買物研究所としても、パーソナルAIとブランドAIが相互に作用し合いながら、買物体験がさらに進化していく過程を、引き続き追っていきたいと思います。
博報堂買物研究所 買物フォーキャスト2026:買物でAIに求める「38の役割」
https://www.hakuhodo.co.jp/kaimonoken/assets/pdf/ai-shopping-38-roles.pdf
※肩書は取材当時のものです
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伊沢 勇作 氏SEEDER株式会社
AIインベーション事業本部 本部長大手総合印刷会社に新卒入社後、SEEDER株式会社にてJVによる新規事業立ち上げ支援におけるM&A仲介、PMI計画策定、市場調査、生活者インタビュー、新規事業の企画立案、実証実験プロジェクトの推進など、新規事業開発に関わる幅広い業務に従事。
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坂井 奈穂子 氏SEEDER株式会社
ストラテジック事業本部 ストラテジックプランナー大手調査会社にて、定性調査・定量調査の実務を経験。その後、ホテルチェーン、ショッピングモール、化粧品会社、スタートアップ支援など、異なる4つの領域で、0→1および1→100の事業フェーズに携わる。現在はSEEDERにて、商品開発に関するコンサルティング業務に従事。
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博報堂 買物研究所 副所長2022年博報堂入社。「令和の買物欲」「AIエージェントと暮らす時代の新購買行動モデルDREAM」「物価高騰と節約意識」など幅広いテーマの研究結果を発信中。著書に「売れている会社に共通するこれ買いたい! をつくる20の技術」。
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博報堂 買物研究所 マーケティングプラニングディレクター2023年に博報堂中途入社。前職における食品や飲料のリテール営業、ブランドのマーケティングの実務経験など多岐にわたる経験を活かしながら、現職ではショッパーインサイト研究とトレードマーケティング領域のソリューション開発に従事。

