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【第11回】売上貢献を可視化するサイネージの戦略的活用とは?カバヤ食品の取り組みからリテールメディアの新たな勝ち筋を探る
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【第11回】売上貢献を可視化するサイネージの戦略的活用とは?カバヤ食品の取り組みからリテールメディアの新たな勝ち筋を探る

ショッパーマーケティング・コマース領域を専門とする組織「コマースコンサルティング局(CC局)」に迫る本連載。
第11回は、コマースコンサルティング局の中村、瀨田に加えて、カバヤ食品 トレードマーケティング本部 リテールメディア部 部長の竹見 憲一氏、株式会社MADS 広告事業部 部長の工藤 裕貴氏を交え、リテールメディアにおけるサイネージの
戦略的活用について語り合いました。
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(写真左から)
株式会社博報堂
コマースコンサルティング局 リテールマーケティング部
マーケティングプラニングディレクター
瀨田 亮

カバヤ食品株式会社 
トレードマーケティング本部 リテールメディア部 部長
竹見 憲一氏

株式会社MADS 
執行役員 広告事業本部本部長
工藤 裕貴氏

株式会社博報堂
コマースコンサルティング局 リテールマーケティング部
ブランドコンサルタント
中村 颯汰

「ブランドの成長」には流通との協業は避けて通れない

中村
まずは、お二人の自己紹介と現在の業務内容を教えてください。
竹見
私が所属するリテールメディア部では、小売(リテール)を起点に収益を生み出すことを活動の柱としています。これまでは全社的なマーケティング戦略を策定し、それを店舗での施策に落とし込むというアプローチを取っていましたが、現在はリテールの特性をより具体的に活用し、実際に数字につながる施策を検証しながら進めているところです。
工藤
当社はタクシーや美容室、ドラッグストア、スーパーなどのリテール店舗にデジタルサイネージを設置し、サイネージアドネットワークのプラットフォームを構築しています。私が統括する広告事業本部は、このネットワークの広告販売とコンテンツ制作、配信先ロケーションの開拓を一手に手がけ、効果的な広告体験を提供しています。
瀨田
今回、カバヤ食品との取り組みを紹介する前段として、直近のリテールメディアにおける動向や実態について共有できればと思います。まず、この数年で各社が取り組み始めたリテールメディアも一巡したなか、「ブランドの成長」という観点で見ると、やはり流通との協業は避けて通れないテーマになっています。
一方で、最近はリテールメディアとは何かを学び直したい、勉強会を開催してほしいといった相談が増えてきている印象があります。特に、出稿の仕方や効果的なメニューについての問い合わせが増えるなど、この領域に対する関心や注目度があらためて高まってきています。
中村
リテールメディアには、デジタルサイネージを使うものもあれば、アプリやデジタル広告のような出面でID情報に紐づいた精緻なターゲティング配信ができるメニューもあります。さらに、配信の結果を実際の売上数量の変化と紐づけて可視化できる点も大きな特徴です。
従来の広告は意識指標や運用指標などを中心に評価されることが多かったのに比べ、リテールメディアの場合は「実際に売上にどれだけ貢献したのか」を可視化できる点が強みだと言えます。特に、POSデータを活用して効果検証ができるため、施策が本当に事業成果につながったのかを確認する手段としても機能するからこそ、リテールメディアへの関心が高まっているのではないかと考えています。
竹見
我々メーカーサイドも、これまでOOHを中心にマーケティングをやっていたときは、その施策が実際に売上にどれだけ寄与したのかを明確に示しづらいという課題が常にありました。その点、リテールメディアを活用すればマーケティング効果を可視化できるため、成果が出ている施策は継続し、効果が薄いものは改善するというサイクルが回しやすいのも大きな特徴だと思います。
また、リテールメディアは「リテールの売上を伸ばす」という目的もありますが、通常のデジタル広告のような価値として評価できる部分もあります。例えばOOHとしてのサイネージと、リテールの店頭で使うサイネージを「デジタル指標の観点で評価する」という見方もできるわけです。

工藤
従来は、テレビCMの素材をそのままリテールメディアに流用するケースが一般的でした。しかしここ数年で、クリエイティブに対する工夫の仕方が大きく変わってきていると感じます。それこそ以前は「素材の優先順位が低い」という前提があったのですが、最近はPDCAを回しながら、「どの表現やクリエイティブが売上に最も貢献するか」を検証したうえで施策を試すケースが増えています。

SNSが中心の時代になったこともあり、単純にテレビでの思い出し効果を狙うだけではなく、SNSでバズっている動画をそのまま縦型動画で店舗サイネージに流用し、「話題性を演出する」といった活用事例も出てきています。このような使い方は、リテールメディアの初期にはほとんど見られなかったものです。
このようにメディアベンダーとしても、メーカーと協力しながら、リテールメディアの有効活用の可能性を模索しているような状況です。

瀨田
リテールメディアは購買に近いローワーファネルに位置付けられる印象が強いものの、実際には媒体や使い方、目的によって「どのファネルにアプローチするか」が変わってくるんですね。この辺りの認識は、広告主や広告会社も含めて変わってきていると思います。
とはいえ、媒体ごとの効果測定スパンや発現期間にバラつきがあり、特にサイネージでは「どういうスパンや期間で効果を見ればいいのか」が不明確でした。もちろん商材やカテゴリーにも寄ると思いますが、売上への貢献に懐疑的な意見も多く、結果の見えづらさが課題となっていました。そのため単発の施策に留まることも多く、結果の検証まで視野が広がらなかったり、あるいは検証できても次の成果に結びつかない、という悩みもよく聞きます。

店頭サイネージの長期出稿で売上135%増。リテールメディアの新たな勝ち筋とは

中村
リテールメディアは、統合コミュニケーションのフルファネル化においても重要な役割を担っており、購買意欲が高いと考えられるターゲットに狙い撃ちでアプローチできるのが強みです。しかし、実際の売上への貢献が実感しにくいという課題が常につきまとっていて、特にサイネージについては、「本当に売上につながっているのか」という疑問を抱くクライアントも少なくないのが現状です。
瀨田
こうした課題を解消するため取り組んだ今回の施策では、「店頭サイネージは認知効果を生む」という仮説を立てていました。ただ、その効果が発現するまでには一定の刷り込み期間が必要であり、さらには効果が出るタイミングも特徴があるのではと、竹見さんとも議論を交わしました。
カバヤ食品の塩分チャージブランドは季節性の強い商材であり、購買のピークが明確な商材です。そのため、プレシーズンからいかに消費者の意識に刷り込み、需要が最盛期となる夏場で売上を最大化するために、長期出稿に取り組むことを提案しました。

竹見
テレビCMを長期出稿することによる刷り込みはよくある話かなと思うんですけど、それをSNSやOOH、リテールメディアに落としたプランはあまりなく、博報堂さんからの提案は新しいと感じましたね。
SNSでは画像摩耗が課題となるなか、店頭サイネージという購買に近いところで刷り込む施策というのは今までなかったと思います。
出稿期間は4月から8月までの4ヶ月間で、特に需要がピークを迎える6月~7月に合わせて売上を最大化させることはもちろん、その手前の4月~5月のタイミングでも購買意欲のある層に訴求できるのは画期的でした。「事前に需要を掘り起こす」という観点からも、早い段階からのサイネージ活用は十分な意味があったと考えています。
工藤
配信設計については、「最盛期にどれだけ売上を最大化できるか」を検証したかったので、「長期で配信する店舗グループ」と「ピークの7月に1ヶ月間だけ配信する店舗グループ」、「何も配信しない店舗グループ」といったように、広告の出稿の仕方を3パターンに分け、売上差異を測定しました。
またサイネージ広告は基本的に終日配信していましたが、客足の多い時間帯に接触機会を最大化するため、夕方以降の配信頻度を意図的に増やしていましたね。
瀨田
今回の取り組みの最大のポイントは、売上のピークを迎える夏に向けて、事前に十分なフリークエンシーを積み上げられる配信設計をサイネージ単体で実現できた点です。従来は複数の媒体を組み合わせて行うことが一般的でしたが、サイネージだけでこの設計を可能にした事例は珍しく、ここが効果構造の肝だと思っています。
最終的には、長期出稿グループと短期出稿グループを比較して、TTLで長期出稿グループの売上が135%増加しました。さらに売上の総量においても、短期出稿グループより長期出稿グループが上回る結果となったのです。
中村
売上に繋がったところでいくと、ピーク前にフリークエンシーを稼げたこと以上に、生活者の習慣の中にうまく溶け込ませられたことが大きいと思います。
テレビでの接触も日常の一部ではありますが、購買意欲の高いタイミングで、無意識のうちに情報を受け取り、「店頭で再認識されることで購入につながった」というのは、サイネージならではの効果でした。
さらに、これを短期間で行うのではなく、日常生活のサイクルの中で刷り込まれて、棚前でタイムリーに再想起させられたことが、購買に結びついた大きな要因と言えるでしょう。
竹見
ドラッグストアなどに設置されているサイネージは、買い物をしている人がじっくり見るものではないため、「本当に広告効果があるのか」という疑問は長年の課題でした。また、実際に売上が伸びたとしても、SNSやテレビCMなど他の広告施策との相乗効果であることが多く、サイネージ単体の貢献だと言い切るのは難しかったんです。
それが今回の長期配信によって、サイネージの価値を明確化できたのは大きな収穫でした。期間をかけた取り組みだったからこそ、「他の要因ではなくサイネージの効果」と言いやすくなった点も非常に大きかった。
この結果から、他の季節商品においても、同様の刷り込み効果が期待できる可能性が見えてきたように感じています。

成功要因は「タイミング」と「発信者」による“良質な認知”の形成

瀨田
今回は季節商材である塩分チャージを対象に実施しましたが、年間を通して山がある商品であれば同じフレームで応用可能です。つまり、刷り込みという観点では再現性が高く、他のブランドやカテゴリーに合わせて横展開できる取り組みだと考えています。
中村
季節商材に限らず、「この商品の山を作りたい」という目標から逆算して設計することも可能だと思います。例えばキャンペーンの最盛期に合わせて各種プロモーションを展開する場合、サイネージは少し早めに出稿し、最盛期に合わせて十分なフリークエンシーが確保できるようなメディアプランのご提案も、十分に検討の余地があると考えています。
竹見
MMM(マーケティングミックスモデリング)の分析でも非常に良い成果が出ていて、IMCの全体設計の中でもリテールメディアが高い効果を発揮したのには驚きました。
その結果を踏まえて、今年も同様の施策を行う方向で検討しています。サイネージの活用には社内からの期待も高まっているので、より成果を伸ばすために何ができるかを考えていきたいですね。
中村
IMC施策を横断した相対的な施策効果を可視化するために行ったMMMでは、竹見さんもおっしゃっていた通り想定を上回る良い成果が得られました。今回の分析で特に驚いたのは、これまで効果が限定的とされていたサイネージが、LINEやX、YouTubeといった主要媒体に次ぐ高い売上貢献効率となっていた点です。
このことから、中長期でしっかり出稿し、購買の山を作る形で刷り込みを行う戦略が、短期的な効果狙いよりも確実に成果につながることが数字で裏付けられました。

今回の結果が得られた背景には、「タイミング」と「発信者」という2つの要因があったのではないかと考えています。購買モーメントを捉えた、店頭で配信ができたこと、そして生活者の暮らしを支え、身近で信頼される「リテール」が発信した情報で会った、ということが成果に寄与したのではないでしょうか。

瀨田
ポジティブな結果を達成できたのは、リテールメディアの強みである「購買につながりやすい良質な認知」を獲得できたからだと考察しています。

一般的にデジタル広告やアプリ広告では、デモグラフィック情報や購買履歴に基づいてターゲティングを行い配信します。デジタル広告の中にもリテールIDを活用した配信はありますが、生活者にとっては通常のデジタル広告と区別がつきにくく、接点として認識されにくい側面があります。一方で、サイネージは店舗に設置されているため、「リテールが発信している媒体」として生活者に認識されやすいという特徴があります。
今回の結果から見えてきたのは、購買意欲の高まるタイミングで広告が届くことが「良質な認知」を生み、その信頼感や親近感が購買行動につながる効果を高めた可能性があるということです。

工藤
サイネージは店舗や時間帯ごとに表示内容を切り替えられるのがメリットです。その一方で、来店する客層や時間帯の違いに対応できず、どうしても画一的な訴求にとどまっているケースが多く見られました。
今後さらに成果を高めていくには、昼間は「昼の客層向け」、夜は「夜の客層向け」といった形でクリエイティブを最適化することが重要です。
また期間ごとの出し分けも大事で、今回のような長期配信であれば、購買のピークに向けて段階的に意識を高めていくクリエイティブ設計や、刷り込み効果を意識した訴求を行うことで、さらなる効果の最大化が期待できると思います。

外部データと連動させ、最適なクリエイティブを配信する「運用型サイネージ広告」の可能性

中村
塩分チャージタブレットは夏を最盛期としながらも、年間を通じて効果を発揮するポテンシャルのある商品です。このような年間を通じて効果を発揮する商品の場合、クリエイティブやメッセージも時期ごとに最適化することが有効です。最盛期の夏場では「体調管理や塩分補給」といった直接的なメッセージを打ち出し、少し前の段階では「夏に向けての注意喚起」などの訴求を行う。
こうすることで、塩分チャージというブランドの浸透から最盛期の購入喚起まで、トータルで効果的なコミュニケーションが可能になります。
瀨田
今回、中期で出稿を行ったからこそしっかり複数回の広告接触と、それによる「刷り込み」ができた半面、結果を踏まえると、デジタルでも問題となる「クリエイティブの摩耗」も起きていたのではないかと思います。そうした面でも、露出量と期間にあわせた、クリエイティブの設計が重要になってくると考えています。
竹見
季節商材では、地域ごとに気温差が大きいため同じクリエイティブをそのまま使うのが最適かどうかは判断しにくい状況でした。それでも今回のように網羅的に配信してデータを取ることで、将来的には気温や地域特性などに合わせてフェーズごとにクリエイティブを変えるなど、色々なブラッシュアップの仕方はあるなと思っていますね。
工藤
当社のデジタルサイネージネットワークは、生活導線上のタッチポイントを活用した非常に細かなセグメント配信が最大の特徴です。例えば、先ほど触れた時間帯ごとに配信頻度を調整し、「この時間帯以降は重点的に放映する」といったコントロールが容易に可能です。

一般的なサイネージでは、仮に1000店舗ある場合、店舗ごとに手作業でクリエイティブを設定する必要があるので非常に大変なのですが、当社では画面上で一括設定・管理できる仕様にしています。店舗単位での細かい調整も容易で、特定の時間帯に来店する顧客向けに「最適なクリエイティブを、適切な頻度で」配信することもできるんですね。

その代表的な例が「天気連動」の配信です。九州が20度を超えていて、関東が15度以下の場合、20度以上のエリアだけ自動的に広告クリエイティブが切り替わる仕組みを構築し、すべて自動で運用しています。
そのほか、熱中症指数やスギ花粉飛散量等の連動も可能で、市区町村単位で連動したクリエイティブを出し分け、状況に応じた最適な配信をリアルタイムに行えます。こうした最適化によって、「運用型サイネージ広告」の可能性がさらに広がると考えています。

竹見
サイネージをOOHと同じようなものだと捉えているマーケターは意外と多いかもしれませんね。ただ実際には、サイネージも時間帯やエリア、状況に応じてかなり細かく配信内容をコントロールすることも可能ですし、運用の幅は広いんですよ。
マーケティング施策としてやるかどうかは別として、柔軟な使い方ができること自体、まだ十分に認知されていない部分もあるのではないでしょうか。
瀨田
リテールメディアの戦略的な活用の道筋が見えてきたなか、より効果を高めていくためにも、今後は出稿期間に応じたクリエイティブの最適化にも挑戦していきたいと考えています。
例えばアーリーシーズン(2ヶ月前)、プレシーズン(1ヶ月前)、シーズンイン(当月)と、フェーズごとに伝えるメッセージを変えていくことで最盛期以外のタイミングでも購買意欲を喚起し、結果として年間を通じた売上向上につなげられるのではないかと期待しています。

※肩書は取材当時のものです

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  • 竹見 憲一氏
    竹見 憲一氏
    カバヤ食品株式会社
    トレードマーケティング本部 リテールメディア部 部長
    クスリのアオキでSV・化粧品バイヤーとして売場運営とMDを経験後、ウエルシア薬局では生鮮・化粧品バイヤー、販促企画部にてリテールメディア開発を担当。
    メーカー・代理店と連携し、SNS施策と店頭を連動させた販促企画を推進。現在はカバヤ食品でブランドのIMC設計とリテールメディア販促として、現在に至る。
  • 工藤 裕貴氏
    工藤 裕貴氏
    株式会社MADS
    広告事業部 部長
    DSP/SSPを扱うインターネット広告会社にて最大販路のセールス責任者として従事。
    その後2013年に株式会社MADSの立ち上げに参画。
    リテールサイネージメディア事業を立ち上げ、大手ドラッグストアを中心に小売チェーンをネットワーク化。
    広告収益部門の全体統括として、現在に至る。
  • 株式会社博報堂
    コマースコンサルティング局 リテールマーケティング部
    ブランドコンサルタント
    マーケティングリサーチ会社、食品・耐久財メーカーのマーケティング部門を経て、2021年博報堂に入社。
    定量・定性調査を通じた消費者インサイトの可視化・マーケティング戦略立案やブランド/商品開発のプロジェクトをリード。
    2025年よりリテールマーケティング部に参画し、ブランド×リテールマーケティングを推進。現在に至る。
  • 株式会社博報堂
    コマースコンサルティング局 リテールマーケティング部
    マーケティングプラニングディレクター
    前職では総合印刷会社にて、流通小売や耐久消費財を中心とした、店頭VMDのアートディレクションを担当。
    2023年4月 博報堂入社し、リテールメディアを中心とした施策のコミュニケーション設計に従事。現在に至る。