【第12回】生成AIを活用する「AIショッパー」の利用実態と買物パートナーとしての可能性
「売るを買うから考える。」という言葉をスローガンに2003年より活動している博報堂買物研究所(以下、買物研究所)の取り組みを紹介する本連載。第12回は、買物研究所が実施した「AIショッパー調査」をもとに、生成AIの利用実態と購買行動への影響や変化について話を聞きました。
連載一覧はこちら
(写真左から)
生島 岳
博報堂 買物研究所 マーケティングプラニングディレクター
原子 耕
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター
平林 孝仁
Hakuhodo DY ONE オウンドソリューション本部 本部長
飯島 拓海
博報堂 買物研究所 副所長
AIショッパー調査で見えてきた購買動向と検索行動の変化
- 飯島
- 買物研究所では全国20~69歳の男女20,000人を対象に、生成AIの利用実態と購買行動への影響に関する調査を実施し、その結果、買物で生成AIを利用する「AIショッパー」の購買行動の変化が見えてきました。これまでの調査では「買物にAIを活用している」と答えた人が全体の1割程度でしたが、2026年3月実施の調査では約25%に拡大しており、消費行動でAI活用が普及し始めていることがわかりました。

- 生島
- 生成AIを使って買物をする人ほど「買物満足度が高い」という傾向が見られました。AIと何度も対話を重ねながら商品を検討していく過程で、これまでの対話履歴や利用者の好み、志向性を踏まえた回答をAIがするようになります。結果、生活者にとって納得感のある選択肢を提示してくれ、満足度向上につながったと考えられます。
- 原子
- 個人的には「自分のことを分かってくれている」という感覚が大事だと思っています。自分の情報や好み、ニーズを伝えると、それを踏まえた提案をAIが返してくれる。たとえその提案が予定調和のものであっても、「このAIは自分のことを理解してくれている」と感じられることに、生活者にとっての価値や喜びがあるのだろうと思います。「自分を理解してくれる存在」としてAIへの信頼が醸成されていくのは、今後のAI普及において大事なポイントだと思います。
ただ、これを企業側から見ると課題も見えてきます。AIとの対話を重ね、生活者の好みや過去の選択に合わせて最適化が進むということは、言い方を変えれば、生活者がAIを使うほど選択肢が想定範囲内に収まっていくということでもあります。だからこそ、企業は消費者が具体的な商品を比較検討する段階よりもさらに前から接点を作る必要があります。ブランド想起の向上はもちろん、消費者が初期の段階でAIへ相談した際に「自社の商品やサービスが推奨される状態」をつくれるかが勝負どころになりそうです。
- 平林
- AIOの観点で言うと、企業にとって「自社のウェブサイトがAIにとって読み取りやすい状態に整備されているか」は非常に重要ですね。また、AI検索においては生活者の検索行動は商品名から目的・得たい体験に変わっているので、企業サイトに「商品がどんな目的を実現できるか」という情報がなければ、AIは商品と目的を結びつけられず、レコメンド候補から外れる可能性が高くなります。さらに、生成AIで商品スペックを確認して購入したものの、実際にはその機能が使えずクレームに発展した事例もあり、AIの誤情報がそのまま企業へのクレームや顧客体験の悪化につながりかねません。だからこそ企業は、AIが自社商品をどのように要約・説明しているかを把握して、その情報の正確性を担保することがより重要になっていると思います。

AI時代だからこそ、UGCや口コミなど、リアルな声の重要度は高まる
- 生島
- 調査では生成AIを利用する人の約52%が「AIの回答を信頼している」と回答しており、個人的には思った以上に高いと感じました。ECサイトやインフルエンサーよりもAIが信頼されている点は、特に興味深いです。情報過多な現代において、AIが瞬時に情報を整理してくれる利便性が、信頼につながっているのでしょう。
もう一つ興味深かったのが、「買うのか、買わないのか」という最終的な意思決定の部分です。6割程度の人がAIを信頼している一方で、4割程度の人は「最後は自分で決めたい」と答えています。これはAIに任せることで「自分らしさが失われる」と感じたり、あえて自己判断の余地を残しておきたいと考えたりする人もいるということです。ある意味で人間らしさの表れかもしれませんね。

- 平林
- 一方で、生活者のなかにはAIの回答以上に「実際の店舗」や「公式サイト」といった、自分の目で確認できる一次情報を信頼している人もいるという結果も示されていました。自社の商品やサービスを上位にレコメンドさせるには、ウェブ上でどれだけ第三者から引用・言及されているかという「サイテーション」が鍵になります。さまざまなウェブサイト等で多く言及・拡散され、さらに好意的な内容であればあるほど、AIに、評価が高いものとして取り上げられる可能性が高くなります。そう考えると、UGCや口コミの価値は今後ますます高まっていくのではないでしょうか。
- 飯島
- AIが世の中にある情報をある程度要約してくれるおかげで、「情報の洪水に溺れずに済む」ようになったのは生活者にとって大きなメリットです。一方で、その情報の真贋を確かめる場として、店舗や公式サイトの存在感がより高まると思います。五感をフルに使ってブランドの世界観や商品の魅力を体感し、購買の意思決定をする場として、リアル店舗の価値はこれからも残り続けるはずです。
- 原子
- ストラテジックプラナーの視点からすると、AIを前提として既存のチャネルやカスタマージャーニー上の接点を捉え直すことが必要だと思っています。例えば、AIへの相談きっかけを見ると、SNSやインフルエンサーの投稿を見て気になった商品をAIに相談する経路が多いなど、生活者がAI相談に至るパスも見えてきています。また、AIによって比較検討がこれまで以上にスムーズに進むようになれば、ブランドの世界観に浸る体験価値や、実際にプロダクトに触れる体験の価値が高まっていく可能性があります。変わる消費者行動に合わせ、各接点の役割を再定義・再評価することが求められています。

商品カテゴリーごとにAIへの信頼度やAI活用方法が異なる
- 原子
- もう一つ、マーケティングの観点で考えているのが「カテゴリーへの関与度によって、AIに対する信頼度も変わる」ということです。例えば自動車のように、購入ハードルが高く、人によっては相当に強いこだわりを持って選ぶカテゴリーになると、AIの回答だけで意思決定するというよりも、雑誌や専門メディアといった情報源まで含めて比較する人も多くいます。このように、カテゴリーの関心や期待度によって、AIへの信頼性や、AIと既存メディアとの使い分け方も変わってくるのではないでしょうか。
- 飯島
- 実際の調査データによると「AIに買物を任せたいかどうか」は、カテゴリーによって結果に大きなばらつきが見られました。家電やスマートフォン、あるいはクレジットカードや銀行、保険といった金融カテゴリーでは比較的高かったのは想像どおりですが、自分の好みで選ぶ意識が強い食品カテゴリーも高い割合を示したのは意外でした。
- 原子
- 先に触れた自動車では、家族構成や走行距離、用途などをAIに入力して、自分に合った車種を提案してもらうような使い方も考えられます。一方で、最終的な購入決定となると、実際に現物を見たり、試乗したり、家族と相談したりしながら、「最後は自分で決めたい」という意識が強いのが現状です。こうした傾向は、調査にもよく表れています。
- 生島
- 何百万円もする高額商品を、AIの「これが最適です」という提案だけで購入を決定するのは、やはり抵抗がありますよね。アメリカでは購入後のキャンセルや交換への心理的抵抗が比較的少ないのに対し、日本では「合わなければ返品すればいい」という購買行動が定着しておらず、心理的なハードルが高い傾向があります。そのため、AIに候補を選んでもらう段階までは進んでも、最後の「購入する」という決断までAIに任せるかとなると、日本と海外で差が出るかもしれません。

- 飯島
- 商品カテゴリーによって購買時におけるAIの利用方法が多様なのも興味深いです。例えば食品や日用品などの領域では、自分の楽しみ方を広げるためにAIを使う生活者が多かったのですが、家電や不動産、自動車などの領域では、家族の希望や予算といった条件を整理しながら、自分に合った選択肢を絞り込むために使っていました。金融のように専門性が高い領域では、「専門用語を自分にも分かる言葉に噛み砕いて説明してもらう」ためにAIを使っていました。単純に「AIにおすすめを聞く」という一つの使い方ではなく、カテゴリーによってAIに求めている役割がかなり異なるんですよね。
- 原子
- 美容カテゴリーの場合、人には言いにくい悩みやコンプレックスも「AIになら打ち明けやすい」という利点があります。これまで美容部員にも言えなかったような本音をAIに相談し、自分に合った商品をレコメンドしてもらう。潜在的なニーズに対する解決策が提案されるのは、生活者からすると大きなメリットです。カテゴリーごとに、AIが最も効果を発揮する場面が、少しずつ見えてきたように感じます。
- 飯島
- カテゴリーという視点で言うと、最近は「カテゴリーエントリーポイント(CEP、生活者がブランドやカテゴリーに目を向けるきっかけ)」も話題ですよね。例えば「汗が一番乾きやすい服」といった文脈をAIに投げかけたときに、自社の商品やサービスが候補として登場するかどうかが重要になるわけですよね。
- 平林
- そこは非常に重要なポイントです。LLMが認識する仕組みとして、簡単にいうとブランド名の隣にどのような特徴が紐づいているかが大きく影響します。例えば「〇〇といえば△△」のように、特定の文脈やニーズとブランド名がどう紐づいているかが重要になります。そうした関連性が広く蓄積されることで、AIからも推薦されやすくなっていきます。そのため、これからのブランドづくりでは従来のブランディングに加えて、ウェブサイトの構造や情報設計、データベース整備といった技術的施策も不可欠になるでしょう。
生活者の「インテント」を把握することが大事になる
- 飯島
- 従来、検索窓に入力される言葉は単語ベース、あるいは2~3語程度のシンプルなものが中心でした。しかし、それが文章形式へと変化していくことで、ユーザーの「願望」や本音が、より明確に読み取れるようになってきていると感じています。そう考えると、今後は生活者がAIに対して投げかける「インテント(意図)」を的確に把握することが鍵になりそうです。
- 平林
- これからは、通常の検索自体も「プロンプト化」していく可能性が高くなるのではと考えています。検索窓に入れる言葉が単語や短いキーワードではなく、より文章に近い形になっていくので、自分は何をしたいのかというインテントが、より顕著に見えるようになるのではないでしょうか。メーカーやブランドは、単に商品スペックを発信するのではなく、「生活者にどんなインテントがあるのか」を把握し、その意図に応える文脈づくりをすることが必要になりそうです。

- 飯島
- 最後に今後の展望についてお話ができればと思います。
今回の調査は主にアンケートの結果から、生活者のAI利用実態の一側面を探っていきましたが、まだまだAIは買物への活用が普及し始めた段階で、今後、その活用方法も目まぐるしく変わっていくはずです。買物研究所としては、引き続き動向を追いかけ、企業の皆様にとって有益な情報の発信をし続けたいと思っています。
- 生島
- ここまで、年代や性別によるAIの利用傾向の違いにはあまり触れていませんでしたが、実は調査で、家電やスマートフォンのカテゴリーで、50代女性の利用率が特に高い結果が出ています。これは「若い人ほど新しいテクノロジーを使う」という従来のパターンとは異なり、日常生活での困りごとや相談ニーズが多い層ほどAIを活用している、という解釈もできます。こうした年代による違いや、どのような層の人が、何をきっかけにAIを使い始めるのか、という視点も今後は重要になってくると思います。
- 原子
- そうですね。いまは「AIによって生活者の行動がどう変わるのか」といった全体像を把握することに関心が集まっており、年代別の傾向まで踏み込んで分析しているケースは、まだそれほど多くないように感じます。今後はより具体的に「どんな生活課題を持つ人が、何をきっかけにAIを使い始め、最終的にどう購買に繋がるのか」というプロセス全体を捉えることが重要だと考えています。今回の調査で全体像がつかめたからこそ、次のステップとして年代別やカテゴリー別の違いをもっと掘り下げることが、生活者インサイトのより深い理解にも寄与するのではないでしょうか。
- 平林
- 今後はAIを基盤としたサービスやプラットフォームの普及によって、買物におけるAI活用はさらに加速するでしょう。生活者の買物体験そのものの変化を継続的に捉えながら、新しいニーズに応えられるようなサービスを提供していきたいと考えています。
※肩書は取材当時のものです
この記事はいかがでしたか?
-
博報堂 買物研究所 マーケティングプラニングディレクター2023年に博報堂中途入社。前職における食品や飲料のリテール営業、ブランドのマーケティングの実務経験など多岐にわたる経験を活かしながら、現職ではショッパーインサイト研究とトレードマーケティング領域のソリューション開発に従事。
-
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター博報堂に入社後、ストラテジー職としてクライアント企業の事業戦略・ブランド戦略・コミュニケーション戦略の構築を支援。
-
Hakuhodo DY ONE オウンドソリューション本部 本部長SEM、SNS等の広告を中心とした営業、博報堂との連携チームの担当、各種案件プロジェクトのマネジメントを経て、現在はクライアント企業のオウンドメディアを中心とした支援を行う本部を担当。旧アイレップのインバウンドマーケティング立ち上げをおこなった経験を活かした、BtoBマーケティング支援の豊富な実績を持つ。「デジタルマーケターズサミット 2023 Winter」への登壇実績もあり。
-
博報堂 買物研究所 副所長2022年博報堂入社。「令和の買物欲」「AIエージェントと暮らす時代の新購買行動モデルDREAM」「物価高騰と節約意識」など幅広いテーマの研究結果を発信中。著書に「売れている会社に共通するこれ買いたい! をつくる20の技術」。

