対談!EC+【第22回】 「AIが変える買い物の意思決定」ってなに? 高関与領域における納得できる選択を支えるAIと人の役割
博報堂DYグループのECプロフェッショナル集団「HAKUHODO EC+」のメンバーが、さまざまな識者や専門家と語り合う長期連載「対談!EC+」。今回は、美容医療という高関与サービスを提供するMYCLIの理事長、本田マイケル武史さんをお招きし、AIが購買行動における意思決定をどう変えるかについて語り合いました。
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本田 マイケル 武史 氏
MYCLI 理事長
山﨑 恭嗣
HAKUHODO EC+
博報堂 コマースコンサルティング局 ECコンサルティング部 部長
吉田 陸人
HAKUHODO EC+
博報堂 コマースコンサルティング局 ECコンサルティング部 ビジネスプラナー
欧米を中心に注目されている、AIが介在した新しい購買スタイル
- 吉田
- 生成AIの普及が、生活者の買い物行動にも影響を与えるようになっています。今回の「対談!EC+」は、年間およそ650件の施術を手掛けている美容外科医院MYCLIの院長である本田マイケル武史さんと一緒に、主に高関与領域における購買行動にAIが与える影響について考えていきたいと思います。
はじめに、AIによって買い物行動がどう変わりつつあるのか。博報堂ECコンサルティング部の山﨑から説明してもらいます。
- 山﨑
- これまでの生活者の購買行動には、商品やサービスの認知・発見から始まり、比較検討を経て、購買の意思決定を行うというプロセスが見られました。しかしAIの普及によって、AIアシスタントとの対話を通じて一足飛びで購買に至る行動が欧米で広まりつつあります。そのような新しい購買のスタイルは「エージェンティックコマース」と呼ばれます。
エージェンティックコマースは現在のところ、消費財やコスメなどのカテゴリーで普及が進んでいますが、今後は車、住宅、医療サービスといった、商品特性上、顧客が時間をかけて比較検討する「高関与商材」にも広がってくると考えられています。その動きは、日本にも間違いなく波及するはずです。
- 吉田
- 本田先生が携わられている自由診療の美容医療も、高関与領域のサービスの1つです。患者がAIのアドバイスによって医院やサービスを選ぶケースは出てきていますか。
- 本田
- 当院にいらっしゃる患者さんには必ず認知経路を尋ねるようにしていますが、AIを用いて医院やサービスを比較したのちに当院を選んでくださった方が数%程度いらっしゃいます。これは、この1年くらいの間に見られるようになった現象です。

- 山﨑
- 生活者がAIのアドバイスを参照するようになると、商品やサービスを届ける側は、AIに「見つけてもらう」、あるいは「選んでもらう」ための仕掛けをする必要が出てきます。いわゆる「AIO(AI最適化)」と呼ばれる取り組みです。そのような取り組みはすでにされていますか。
- 本田
- 現在まさに取り組みを始めているところです。2年ほど前に生成AIを使い始めたとき、インターネットが登場したときと同じくらい、あるいはそれ以上に生活者の購買行動が変わるだろうという直感がありました。サービスを提供する側は、その変化に対応しなければならない。そう思ったことをよく覚えています。今後、AIOに本格的に注力していく必要があると考えています。
AIのリコメンドが選択の幅を広げる
- 吉田
- 美容医療を受けたいと考えている人の中に、AIのアドバイスを参照して医院やサービスを選ぶ人が出てきている。そのようなお話だったと思います。一方、自分の容姿や肌の悩みなどを抱えている生活者が、その悩みにどう対処すればいいかをまずAIに聞くケースも今後は出てくるかもしれません。1つ前の段階からAIを活用するケースです。

- 本田
- すでに、そのようなAI活用をしている感度が高い方々もいらっしゃると思います。例えば、自分の顔画像をAIに診断してもらって、悩みの解決法のサジェスチョンをもらうといった使い方です。
- 山﨑
- それによって、最適なコスメをリコメンドされるかもしれないし、その先の美容医療を勧められるかもしれない。生活者はそのリコメンドを参照しながら、意思決定をする──。そんな行動が今後は普通になっていくかもしれません。
- 本田
- リコメンドの内容も、よりパーソナライズされるようになるのではないでしょうか。対話などを通じて「この人は美容医療に関心がある」とAIが判断すれば、最適な医院やサービスをリコメンドするし、「この人はそこまでのチャレンジを望まない」と判断すれば、コスメのリコメンドでとどめておく。そういう仕組みができれば、生活者をミスリードすることもなくなるはずです。
- 山﨑
- パーソナライズの仕組みができることによって、生活者の選択肢が広がる可能性もありますよね。美容医療という選択をそれまで考えたこともなかった人が、AIのリコメンドによってそういう選択肢があることを知って、新しい体験にチャレンジできるようになるとすれば、素晴らしいことだと思います。
AIとの対話だけで購買行動は完結するか
- 吉田
- 一方で、リスクが生まれる可能性もあると思います。AIのリコメンドによって商品やサービスを購入したものの、それが期待どおりではなかった。そんなリスクです。
- 本田
- AIのアドバイスだけを参考にして購入する場合は、そういうリスクが生まれる可能性もあるかもしれません。しかし、その点はインターネットで情報収集するのと同じではないでしょうか。これまでも、ホームページや口コミサイト、SNSなど複数の情報チャネルを参照して、自分に合った商品やサービスを選ぶという行動が普通だったと思います。そこにAIという新しいチャネルが加わったということなのだと私は考えています。
- 山﨑
- 現状では、本田先生がおっしゃるとおりだと思います。しかし、今後そのリスクは低減していくことになるはずです。というのも、AIがインターネット上の口コミなどを網羅し、あらゆる情報を参照したうえでリコメンドするようになっていくと考えられるからです。

- 本田
- そうなると、ホームページに正しい情報を記載したり、よい口コミを寄せてもらう努力をしたりすれば、AIがその情報を拾ってくれるようになりそうですね。その点では、これまでのSEO(検索エンジン最適化)とやるべきことは同じと考えたらよさそうですね。
- 山﨑
- 正しいことを正しくやれば、AIが正しく評価してくれる。結果、その評価に基づくリコメンドが生活者に届くので、リスクも減る。そう考えるのがよいと思います。
- 本田
- そこまでAIが進化すれば、生活者がいろいろな情報源を参照するプロセスがすべて省かれて、AIのリコメンドに集約されることになりそうですね。商品やサービスの購買前のAIカウンセリングも実現するかもしれません。
- 山﨑
- 美容医療の場合、患者対応はまさにカウンセリングから始まるわけですよね。そのプロセスがいらなくなって、いきなり施術からスタートする。そんな未来がありうるかどうかという話だと思います。
- 吉田
- 過去の契約データや施術データが膨大にあれば、AIで生成した「バーチャル本田先生」によるカウンセリングも実現しそうですよね。
- 山﨑
- 年間650件の案件があるとすると、10年で6500件のデータが蓄積することになります。対話から意思決定、施術、術後経過までのデータが6500サンプルあれば、「バーチャル本田先生」を生成すること自体は十分に可能だと思います。
では、その「バーチャル本田先生」との対話だけで購買の意思決定が成立するのか。ほかの高関与商品のケースで言えば、何を買うかがAIとの対話ですべて決まって、「あとは買うだけ」という状態で販売店に足を運ぶということが成立するのか──。
より重要になる「人対人」のコミュニケーション
- 吉田
- AIとの対話だけで、本当に納得できる判断ができるのかどうかという問題ですね。
- 山﨑
- そう。まさにそれが重要なポイントです。低価格の日用品であれば、バーチャルないわばAIコンシェルジュとの対話だけで購買に至る流れは成立すると思います。しかし、高関与商材、高リスク商材の場合は、最終的な意思決定は「人対人」の対話が絶対に必要になる。僕はそう思っています。どれだけAIが進化しても、信頼できる「人」と対話をしたうえで決めたいというニーズはなくならないと考えるからです。

- 吉田
- 生身の「人」とのコミュニケーションで納得感を得たい。その思いは必ず残ると僕も思います。AI時代の人の役割はそこにあるのではないでしょうか。
- 本田
- 「人対人」のコミュニケーションを通じて、「この人が勧めるものなら安心できる」「この人から買ったら後悔しない」と思えるから買う──。とりわけ高関与商材については、そんなプリミティブな行動はこれからもずっと変わらないという気が確かにします。
- 山﨑
- 「楽しさ」という要素も大切だと僕は思っています。買い物は本来楽しい行為ですが、AIとのやりとりだけで完結してしまう購買は、殺風景で味気ないものになってしまいます。そこに人が介在することで、いろいろな工夫を凝らしながら「楽しさ」という買い物の価値を提供できるはずです。買い物の楽しさを生活者にどのように届けていくか。そこがAI時代のコマースの大きな差別化のポイントになるかもしれません。
- 吉田
- 商品を買ったあとのケアなど、「購買後の体験デザイン」も重要ですよね。そこもまさに人が担うべき領域ではないでしょうか。
- 本田
- おっしゃるとおりですね。AIが進化する中で、商品やサービスを届ける側は何をすべきか。それがはっきり見えてきた気がします。今日はありがとうございました。
- 山﨑
- こちらこそ、ありがとうございました。高関与領域におけるAIと人との新しい関わり方の先進事例を、ぜひいっしょにつくっていきましょう。
※肩書は取材当時のものです
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本田 マイケル 武史MYCLI 理事長形成外科を基盤に、乳房再建、豊胸、脂肪吸引・脂肪注入などの美容外科手術を専門とする。がん研有明病院では乳房再建を中心に経験を積み、その後、聖路加国際病院、脂肪吸引・注入専門クリニックでの勤務を経てMYCLIを開院。
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HAKUHODO EC+
博報堂 コマースコンサルティング局 ECコンサルティング部 部長通信販売会社、通信会社を経て、博報堂に入社。通信販売会社では、MD・海外生産地開拓を行う。通信会社では、ECモール・ライブコマースのサービス立ち上げから事業戦略・実装までEC領域全般に携わる。博報堂では、『HAKUHODO EC+』に所属し、事業戦略から実装に至るまで推進。
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HAKUHODO EC+
博報堂 コマースコンサルティング局 ECコンサルティング部 ビジネスプラナー2022年博報堂入社。自動車メーカー等のプロデュース職を経て現職。EC事業の中長期戦略策定、D2Cブランドのコミュニケーション戦略立案などを担当。

