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メディアビジネスのリアルと本音──日米中メディア・テクノロジー調査から見立てる「フリクションレスな未来」とは
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メディアビジネスのリアルと本音──日米中メディア・テクノロジー調査から見立てる「フリクションレスな未来」とは

テクノロジーの進化がもたらす「フリクションレス(摩擦のない)」な未来。日米中の生活者調査を基点に、メディアビジネスの現在地と未来像が語られました。本記事では、そのリアルと本音に迫ります。

<登壇者>
嶋田 三四郎
生活者インターフェースビジネス推進局 局長

大野 光貴
グループメディアビジネス推進局 メディアインテリジェンス部

新美 妙子
グループメディアビジネス推進局 メディアインテリジェンス部

テクノロジーがもたらす「5つのフリクションレス」

新美
今年3月に掲載した生活者データ・ドリブン・マーケティング通信「兆しから読み解くメディアビジネス2026」でご紹介した「兆し」を中心に、情報に関するメディア・テクノロジーの5つの兆しについて生活者の実態を明らかにするため、日米中の3か国で調査を実施しました。
15歳から39歳の男女、3か国合計820名を対象に、2024年2月末から3月頭に実施した調査結果を基点にこれからを見立てました。キーワードは、テクノロジーが実現する「5つのフリクションレス」です。

1つ目のフリクションレスはウェアラブルデバイスにおける「人とデバイスの距離がない」状態。
2つ目はSNSプラットフォームにおける「ネット間の移動がない」状態。
3つ目はコンテンツとコマースの融合における「熱量のロスがない」状態。
4つ目はAIエージェントにおける「決定と実行に介入がない」状態。そして最後が、情報の真偽における「絶対的な情報源がない」状態ととらえました。

今回はこの5つのフリクションレスを軸に、調査結果を解釈してこれからを見立てていきたいと思います。

「ウェアラブル元年」から10年。テクノロジーと生活者ニーズの交点を見つけて価値を

新美
1つ目のフリクションレスは「人とデバイスの距離がない」です。
2025年、世界のスマートグラス出荷台数は870万台(前年比322%)と本格的普及段階に入っていますが、今回の調査ではスマートグラスの所有率は日本で1.5%、アメリカと中国は1割台でした。ちなみにスマートウォッチの所有率は日本では15%、米中は4割です。

嶋田
「ウェアラブル元年」と言われてもうずいぶん経ちますよね。10年強で、この所有率に達しました。一方で、「AI元年」と言われてからのAIの普及スピードは非常に速かった。この違いは何かというと、生活者の視点に立ったときに「使えるか」「欲しいか」、つまり「都合がいいか」どうかだと思うんです。

新美
生活者発想で考える、ということですね。
嶋田
そうです。今後、スマートグラスは日本でどれくらい普及するのか。そもそも眼鏡をかける人の割合は?サングラスをかける文化は?といった生活者のインサイトから考える必要があります。例えば、「目の健康を守るため」という文脈でウェアラブルデバイスを提案すれば、価値の伝わり方が変わるかもしれない。テクノロジーの文法と生活者の文法の交点を見つけることが重要です。

SNSで完結する「移動のない」ネット体験

新美
2つ目のフリクションレスは、SNSプラットフォームにおける「ネット間の移動がない」です。SNSで普段何をしているかを聞いたところ、いずれの国でも、動画の視聴から友人との交流、情報検索まで、さまざまな活動がSNS内で行われていることがわかりました。

他のサイトに行かずにSNSの中で全てが完結する状況が生まれており、SNSがフリクションレスな生活インフラになりつつあると言えます。ちなみに、今回の調査ではYouTubeもSNSに含めていますが、20代に聞くと「YouTubeはSNSプラットフォーム」のようです。

大野
SNSから受け取る情報も機能もだいぶ変わってきたと感じます。昔は友人の投稿が中心でしたが、今は見知らぬ人の投稿やショート動画などがどんどん流れてくる。最近ではAIも組み込まれ、ショッピングもできる。何でもできる場になったことで、「ネット間の移動がない」という結果につながっているのでしょう。

新美
サービスをカテゴリー分けすること自体が無意味になっているのかもしれませんね。プラットフォーム間の競争という点では、生成AIの登場も大きな変化をもたらしたのではないでしょうか?
大野
そうですね。友人とのクローズドなコミュニケーションの場だったSNSに、AIとコミュニケーションするという新しい使い方が加わりました。SNSのあり方は、生成AIの登場でさらに変わっていくと思います。検索も、検索結果画面でAIとの対話が始まるなど、大きく変化していますよね。

「欲しい」熱量と「買う」の最短距離を“生活全体”で設計する

新美
3つ目は、コンテンツとコマースの融合による「熱量のロスがない」です。コンテンツを楽しんでいるときに欲しい商品に出会い、気持ちが盛り上がったまま購入する。まるでウィンドウショッピングのような購買行動です。

調査で「番組や動画の視聴中に出てきた商品を衝動買いすることがあるか」と聞いたところ、アメリカが約3割と突出して高い結果になりました。

大野
アメリカでこの数字が高い背景には、テレビ視聴の半分以上がCTV(コネクテッドTV)になっていることや、小売りのデータと生活者データを活用し、関心度の高い層に広告を配信して購買までつなげる仕組みが整っていることが考えられます。

また、以前アメリカ在住の日本人にインタビューしたとき、購買時だけでなく返品時のフリクションレスも重要だと話していました。オンラインで購入した商品を近所の小売店で簡単に返品することができるといった仕組みが、「まず買ってみて、違ったら返せばいい」と返品に対する心理的なハードルをさげている一因になっているのではないでしょうか。
「欲しいと思ったらすぐ買える」というマインドが、この数字に表れているのかもしれません。

嶋田
「熱量をキープしたまま購買につなげる」というのは、ビジネスの現場でも大きなテーマです。ドラマを見ながら登場人物の服が買える、といったショッパブルな企画に何度も挑戦してきましたが、なかなかうまくいかない。なぜなら、ドラマに集中しているモードのときに、人は「欲しい」というモードになっていないからです。
またデジタルであればフリクションレスかというとそうではなく、フリクションレスを妨げているデジタルもあります。例えば、喉がカラカラの状態で居酒屋に入って「とりあえず生!」と言っても、「ご注文はQRコードからお願いします」というお店が増えた。急にそこでスピードが落ちて、スマホで操作しているうちに、うっかり飲んだお水で喉の渇きが潤ってしまって、飲みたい衝動が遮断されてしまったりする(笑)。

オンライン上のフリクションレスだけでなく、生活行動全体の中でのフリクションレスを考える必要があります。「欲しい」という気持ちと「買う」の最短距離をどう設計するか。例えば、あるセルフ式飲食店では最初に食券を買うのではなく会計は最後に配置して、利用者は列に並びながら自分の目の前にある食べたいものを直感的にトレーにとっていくスタイルになっている。「その場の衝動」と「選ぶ」という一番シンプルなフリクションレスがそこにはある。すごい発明だったと思います。

新美
商品レコメンドについて、「インフルエンサー」と「AI」のどちらに魅力を感じるか聞いたところ、中国では過半数がAIのおすすめを支持しました。

大野
中国ではインフルエンサーマーケティングが盛んですが、一方でECサイトには膨大な数の商品があふれ、レビューの信憑性も定かではないこともあるようです。その中で、人力で良い商品を見極めるのには限界があります。AIは膨大な選択肢の中から最適な商品を提案してくれる。生活者は自己防衛のためにもAIを活用して良い商品を選んでいる、という側面があるのではないでしょうか。

AIエージェントに任せて自分にしかできない時間をつくる未来

新美
4つ目は、AIエージェントがもたらす「決定と実行に介入がない」です。
調査では、「自分の承諾なしにAIが商品を購入し、決済してもいいか」と聞きましたが、日本で「はい」と答えたのはわずか2.8%。アメリカ、中国も1割前後で、まだ抵抗感が強いことがうかがえます。

大野
AIエージェントという仕組みがまだ生活に浸透していない現状では、この数字は仕方ないかもしれません。ただ、日常的に購入するものや、低価格なものであれば、任せたいというニーズは高まっていくと思います。自分の時間を効率的に使いたいという意識によって、任せられるところはエージェントに任せるという考え方が浸透していくのではないでしょうか。
新美
「自分でできることは自分でやる」か、「自分でできることでもAIに任せる」かを聞いたところ、日本とアメリカは「自分でやる」が約6割だったのに対し、中国では「AIに任せる」が半数近くと高い結果でした。

大野
「自分でできることは自分でやる」というのは美徳と言えますが、見方を変えることもできます。例えば、不動産売買などの契約書を読むのは時間がかかりますが、AIに任せれば数分で内容を要約し、注意点まで指摘してくれます。AIに任せられる作業は任せ、そこで生まれた時間を「自分にしかできないこと」に使う。そうした時間の使い方が、特に若い世代で始まっていくのではないでしょうか。

「絶対的な情報源がない」時代の情報信頼性

新美
5つ目は、情報の真偽と信頼における「絶対的な情報源がない」です。信頼できる情報を得るために必要なメディアを聞いたところ、国によって結果が分かれたものの、突出してスコアが高いメディアがあるわけではなく、この状況を「絶対的な情報源」がないと解釈しました。
大野
アメリカでSNSが高いのは、ローカルなコミュニティ情報を得るために不可欠なツールになっているからでしょう。また、日本よりAIのスコアが高いのは、AIを使って複数の情報を比較検討し、情報の確からしさを判断するという使い方がされているからだと考えられます。多くの情報を横並びで比較するのは大変ですが、AIなら簡単です。

新美
「情報の真偽を自分で時間をかけて確かめる」か、「真偽よりも結論の速さを重視する」かという質問では、中国で「速さ重視」が圧倒的に高くなりました。
大野
これは中国の友人の言葉ですが、「もし今日やらないことがあれば、それは明日誰かがやる」と。AIが提示する情報が100%正確でなくても、大体合っていればまず行動を起こし、アジャイルに修正していく。そのスピード感が、ビジネスの競争力の源泉になっているのかもしれません。

AI時代、マスメディアはセレンディピティ装置になるか?

新美
AIが個人の好みを把握し尽くした世界で、偶然の出会いである「セレンディピティ」をどう作っていくのかも課題ですね。
嶋田
コンテンツが爆発的に増えている今、セレンディピティの創出はエンターテインメント業界の重要な課題です。AIのレコメンドは、やはり自分のコマンド(命令)から始まっているので、知らないものとの本当の出会いにはなりにくい。

ここで原点に立ち返ると、実はマスメディアは非常に優れたセレンディピティ装置であると言えるのではないでしょうか。ラジオを聴いていて偶然出会った曲、テレビを見ていて偶然知ったニュース。そうしたある意味受動的な情報との接触が、セレンディピティのきっかけになる。マスメディアの価値を再評価できる可能性があると思っています。

裏側まで知る生活者とどう向き合うか

新美
ここまでを振り返って、一言お願いします。
大野
ポストスマートフォンは何か、という議論が長年されてきていますが、10年後、いまを振り返ったときに、次のデバイスが登場するのではなく、「AI」そのものがポストスマホだったねとなるかもしれないですね。
AIはスマートフォンよりも人に近い存在として、人の気持ちを理解してくれる可能性を秘めています。スマートグラスやリングは、そのAIを具現化する形の一つ、という見方もできるかもしれません。
嶋田
インフルエンサーが「これは案件です」と公言するようになり、生活者はSNSなどを通じてメディアの裏側の事情まで知るようになりました。作り手側は、視聴者が「知らないだろう」という前提ではなく、「分かっているよね」という前提でコンテンツを作っていく必要があると思います。

最近、娘の高校がテレビ番組のロケ地になったのですが、彼女たちは撮影の裏側をすべて見た上で番組を楽しんでいました。テレビに出るという非日常体験は、家族をテレビの前に集める力がある。個人でAIと向き合う時代だからこそ、かつての「お茶の間」のような集まる場の価値が、形を変えて戻ってくるのかもしれません。今回の調査データからは、最新トレンドと、人間の原点にある普遍的なものの両方を感じました。

新美
日米中メディア・テクノロジー調査を解釈して、これからを見立ててきました。
今日はありがとうございました。

【日米中 メディア・テクノロジー調査】
調査エリア:日本(全国) 米国(東海岸、西海岸) 中国(北京、上海、広州、深圳)
調査対象 :15~39歳の男女(米国:16~39歳)
サンプル数:820s(日本:327s 米国:236s 中国:257s)
調査手法 :Web調査
実査期間 :2026年2月26日~3月4日

※肩書は取材当時のものです

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