ステーブルコインを活用したデジタル社債の発行で、金融の大きな転換点を作る Startale Japan×博報堂キースリー (連載:フィンテックが変える生活者体験 Vol.16)
2026年6月、SBIグループとStartale Groupが共同開発し、SBI新生信託銀行が発行する、国内初の信託型円建てステーブルコイン*「JPYSC」*の提供が始まりました。10月からは、博報堂キースリーによる企画・実装・プロジェクト進行などの支援のもと、JPYSCを利息・償還金の支払いに活用する個人向けデジタル社債「株式会社Startale Japan 第1回保証付デジタル社債(愛称:ステーブルコイン普及債)」の募集を開始しています。
1口10万円から参加可能なデジタル社債は、単なるデジタル化にとどまらず、資金調達を企業と投資家が継続的につながる「ファン投資」の体験へと進化させる試みです。本記事では、Startale Group CEOの渡辺創太、Startale Japan事業企画責任者の桐生慎也、博報堂キースリー取締役の佐野拓海が、その狙いと今後の可能性を語りました。
* ステーブルコイン=日本円や米ドルなどの法定通貨に価値が連動するよう設計されたデジタル資産の総称。JPYSCは資金決済法上の「電子決済手段」に該当し、暗号資産とは異なる規制区分で扱われる。
* JPYSC=SBIグループとStartale Groupが共同開発し、SBI新生信託銀行が発行、SBI VCトレードが流通を担う、国内初の信託型円建てステーブルコイン(各社調べ、2026年6月24日時点)。資金決済法上の「第三号電子決済手段」に該当し、第一号電子決済手段とは異なり、滞留・売買・出庫にかかる100万円の制限を受けない。なお、先行提供時点ではSBI VCトレード口座内での利用に限られ、外部ウォレットへの移転には対応していない。
世界をオンチェーン化し、次の文明の基盤を作りたい
――Startale Japanの事業内容を教えてください。
- 渡辺
- シンガポールを拠点とするStartale Groupの100%子会社として、ブロックチェーン技術の研究・開発と、日本市場における事業開発の両方を担っています。企業や金融機関との協業を通じて、技術を実際のビジネスや金融サービスに実装していくのが私たちの役割です。「世界をオンチェーン化(従来の企業同士の取引や金融取引などをブロックチェーン上に移行すること)し、次の文明の基盤を作る」というミッションを掲げています。オンチェーン化は、一言でいえば「バックエンド側のイノベーション」です。資産や権利がトークン(ブロックチェーン上で発行されるデジタルな資産や権利)として扱われ、取引プロセスがブロックチェーン上に移ることで、取引の仕組みやインフラを効率化し、大幅なコスト削減や利便性向上が可能になります。AIが、生活者が実際に操作したり目に触れたりする「フロントエンド」に大きな変革をもたらす技術だとすれば、ブロックチェーンはその裏側にある「バックエンド」を大きく変える技術だと捉えると、分かりやすいと思います。

Startale Group 渡辺創太 CEO
金融商品の取引のオンチェーン化をすれば、取引コストの削減はもちろん、24時間365日の取引も可能になります。ちょうど、インターネットを支える仕組みが目まぐるしく進化して利便性が高まっているのに、私たちが使うインターネットの構造やUI自体が大幅に変わっていないのと似ています。そして、トークン化された資産があれば、AIによる終日の自動取引も可能になるなど、AIとブロックチェーンなどの取引を通じて生活者の行動様式にも大きな影響が及びます。
ブロックチェーンとAIは、電気や鉄道、近年だとインターネットやモバイル、クラウドに並ぶ技術的な革命です。それらは人類の文明基盤自体をアップデートさせます。少なくとも今後10年は、ブロックチェーンとAIが最も重要なテクノロジーに位置付けられるだろうとみています。
――JPYSCはどのような場面で利用されるものなのでしょうか。
- 桐生
- JPYSCは、日本円に連動するデジタルな決済手段として、個人の日常利用から企業間決済、トークン化資産の決済まで幅広い可能性があります。第三号電子決済手段は、大口取引にも対応しやすい制度設計であり、特に法人間決済やトークン化資産の決済との相性がよいと考えています。一方、先行提供時点ではSBI VCトレードの口座内での利用に限られるため、まずは既存サービスと接続しながら、個人にも価値を実感いただけるユースケースを着実に作っていきたいです。

Startale Japan 桐生慎也 事業企画責任者
- 渡辺
- まずはアセットマネジメント領域での利用が増えると思います。具体的には、2026年7月、利用者がJPYSCをSBI VCトレードに一定期間貸し出し、その対価として利用料を受け取る「JPYSCレンディング」を、SBI VCトレードが開始しました。初回募集は12週間満期・年率3%で、決済手段にとどまらない資産形成での活用可能性を示す取り組みです。なお、これは円預金ではなく、預金保険制度の対象でもありません。
また、オンチェーン資産をVisa加盟店での支払いに使えるセルフカストディ型の決済カード「Startale Card」も発表しました。保有するデジタル資産を日常の支払いにつなげることで、オンチェーン金融をより身近な体験にしたいと考えています。
1口10万円からの「ファン投資」。デジタル社債が企業との新しい接点をつくる
――そもそもデジタル社債とは何なのでしょうか。
- 佐野
- 従来の公募社債は平均発行額470億円(グローシップ・パートナーズ資料より)と大規模発行が中心で、証券会社を通じた販売コストなどの観点から、100億円を下回る発行は事業として成立させにくい面がありました。また、個人向け社債でも1口100万円など、参加のハードルが高い商品が少なくありません。
もっとも、企業側には数億円、数十億円規模でも社債で資金調達したいというニーズがあります。そこで今回採用したのが、発行体が自ら募集を行い、発行・管理プロセスをデジタル化する「自己募集型デジタル社債」です。本社債は1口10万円から購入できるため、これまで社債投資になじみのなかった個人にも参加いただきやすくなります。もちろん、社債には発行体の信用リスクがあり、元本が保証されるものではありません。

博報堂キースリー 佐野拓海 取締役
- 渡辺
- 「デジタル社債であれば小口で発行できる」という点は、先ほどお話ししたバックエンドの革命とつながっています。ブロックチェーンなどのデジタル技術を活用して発行・管理を効率化することで、小口の取引でも事業として成立させられる可能性が広がります。
――デジタル社債のメリットはどういうところにありますか。
- 佐野
- マーケティングの視点では、投資をきっかけに企業を継続的に応援する「ファン投資家」を増やしやすい点があります。デジタル社債は小口で参加でき、企業との新しい接点になり得ます。また、非上場企業でも、法令や発行条件などを満たせば発行を検討できます。例えば、地方の酒造メーカーには、規模は大きくなくても、全国に根強いファンを持つ企業が少なくありません。そうした会社がファン向けにデジタル社債を発行し、設備投資や販路拡大に必要な資金を調達する。投資を通じてファンが企業の次の挑戦を支える、という展開は十分考えられます。
- 桐生
- 企業の価値は、売上規模や従業員数だけで決まるものではありません。規模は大きくなくても、地域を越えて熱量の高いファンに支持されている企業はたくさんあります。デジタル社債は、そうしたファンの応援を投資という形で企業の成長資金につなげ、次の挑戦を後押しできる仕組みになれると思います。
――今回のデジタル社債(愛称:ステーブルコイン普及債)は、どのような商品なのでしょうか。
- 渡辺
- ステーブルコイン普及債は、年利率5.00%(税引前)を予定しています。利息と償還金をJPYSCで支払う設計とすることで、将来的には利払い・償還に関する事務や決済を効率化できる可能性があります。従来のデジタル社債では、金銭での利払いに加えてポイントなどの特典を組み合わせる例もありました。今回は、日本円に連動するJPYSCそのものを利息・償還金の支払いに活用する点が特徴です。
- 桐生
- 国債や社債の多くには満期があり、利払いも半年に1回など一定の頻度で行われます。将来的に社債の管理や決済までオンチェーン化されれば、技術的にはより高い頻度、極論ですが、毎日利息を計算・支払う設計も可能になります。

ステーブルコイン普及債は日本円で購入いただき、利息と償還金をJPYSCでお支払いする設計です。
将来的に完全にオンチェーン化すれば、社債の購入自体もJPYSCでできるようになります。現時点ではオンチェーン化していない部分が残っているため、毎日利息を支払うサービスは提供していませんが、実現に向けて技術面・制度面の準備を進めています。
- 佐野
- 将来的に毎日利息が届くようになれば、マーケティング面でも非常に革新的です。たとえば誰かからプレゼントを受け取るときも、1回ドカンと渡されるより、小刻みに何度も渡されたほうが嬉しかったりしますよね(笑)。従来の社債では半年に1回だった企業からのお礼や利息が、毎日手元に届くようになるわけです。
マーケティングには、接触機会が増えるほど相手への親近感が高まりやすい「単純接触効果」という考え方があります。毎日利息が届き、その企業を思い浮かべる接点が生まれれば、生活者のマインドシェアを自然に獲得し、ロイヤルティやエンゲージメントを高められるのではないでしょうか。
地域企業と生活者をつなぐ、デジタル社債の可能性
――今後のデジタル社債の展開について、考えていることを教えてください。
- 佐野
- 地方銀行の方にデジタル社債のお話をすると、とても興味を持っていただけています。地銀では顧客企業の資金繰りを支援する一方、融資枠などの関係で追加融資が難しいケースもあるそうです。そうしたとき、デジタル社債は融資を補完する資金調達の選択肢になり得ます。地銀には企業のニーズを把握し、適切なライセンスを持つ事業者へつなぐ役割を担っていただけるのではないかと考えています。
- 桐生
- 地銀は、地域企業の事業や経営課題を深く理解し、長期的な関係を築いています。だからこそ、企業の資金調達ニーズと、その企業を応援したい地域内外の生活者やファンをつなぐハブになれると思います。地銀との連携が広がれば、デジタル社債が一部の先進企業だけのものではなく、地域企業にとって現実的な資金調達の選択肢として定着していくのではないでしょうか。
- 佐野
- 融資以外のビジネスを積極的に展開する地銀は多く、ITベンダーのDX商材を取り扱い、顧客企業のDXや経営を支援する例もあります。デジタル社債も同様に、地銀と適切なライセンスを持つ事業者が連携し、顧客企業へ新たな資金調達の選択肢として届けられると考えています。資金調達の選択肢を広げながら、ファンマーケティングにもつなげられることが、地域を盛り上げる力になると期待しています。
- 渡辺
- 全国のさまざまな事業者の方々へこの仕組みを広げていきたいですね。数年後、今回のステーブルコイン普及債の発行が、「金融の大きな転換点だった」と言われるようにしたいです。オンチェーン化は金融に関するあらゆる手数料が下がるきっかけになり得るので、これがスタンダードになるよう挑戦を続けていけたらと考えています。
「株式会社Startale Japan 第1回保証付デジタル社債(愛称:ステーブルコイン普及債)」のウェブサイトはこちら< https://startale.com/bond >

※肩書は取材当時のものです
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渡辺 創太Startale Group, CEO慶應義塾大学経済学部卒業後、2019年にStake Technologiesを創業。23年にStartaleを設立し、CEOに就任。ソニーグループとの合弁会社を通じた「Soneium」の共同開発、SBIグループとのトークン化資産基盤「Strium」の開発、信託型日本円ステーブルコイン「JPYSC」の技術開発などを推進している。現在は米ニューヨークを拠点に活動中。
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桐生 慎也Startale Japan, 事業企画責任者2025年にStartale Groupへ参画。現在はStartale Japanの事業企画責任者として、日本市場における事業企画・事業開発を担当。金融機関や事業会社との協業を通じ、ブロックチェーン技術のビジネス実装を推進している。これまで、Quantum Leapsにて出井伸之氏のもとでスタートアップ支援などに従事。AIスタートアップを経て、Digital Entertainment Assetの創業に参画。COOとして事業運営を担い、GameFiの黎明期から、プラットフォームの開発・運営、独自トークンの流通および国内上場などを主導した。東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。三重県出身。
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博報堂キースリー 取締役慶應義塾大学経済学部卒業後、博報堂の社内ベンチャーであるSEEDATAにプランナーとして参画。生活者リサーチ、新商品開発、新ブランド開発、新サービス開発、新規事業開発などの業務を経験。その後、博報堂ミライの事業室に移籍し、博報堂キースリーを2022年に創業。現在は博報堂キースリー取締役と博報堂DYホールディングス 産業創生戦略室 チーフプロデューサーを兼務。著書『DNVB生活者の義憤から生まれるブランド』。

