Hakuhodo DY ONE 広告技術研究所レポート Vol.3 AIとライブ配信が変えた頭脳ゲームの世界。マインドスポーツが生むビジネスチャンス
いま、将棋や囲碁、麻雀などのおなじみのテーブルゲームが、配信プラットフォームの拡大やAIの活用進化も背景に「マインドスポーツ」として世界中で新たな潮流を生みつつあります。マインドスポーツ市場の概況から注目すべき動き、今後の可能性まで、Hakuhodo DY ONEの永松範之、藤丸紘馬に、博報堂 研究デザインセンターの島野真が聞いていきます。
■AIの隆盛を背景に広がるマインドスポーツ市場
- 島野
- ここ数年、愛好家や競技人口を増やしつつあるのが、将棋や麻雀、チェスなどのマインドスポーツです。かつては人間対AIの戦いがエンターテインメントとして注目されていた時期もありましたが、近年は人間同士の頭脳戦にもあらためて関心が高まっています。今日は、そのマインドスポーツについて詳しく教えてください。
- 永松
- そもそも「スポーツ」は、気晴らしや娯楽を意味する言葉として16世紀に生まれ、当時は身体の動きや頭脳を使う競技全般を指していました。しかし近代にかけて、フィジカルスポーツのルール整備や標準化が進みグローバル化した結果、「スポーツ=フィジカルスポーツ」という認識が定着していきました。1990年代には、マインドマップを考案したイギリスの著述家トニー・ブザン氏が、卓上ゲームやボードゲームもスポーツであると提唱したとされています。囲碁やチェス、ポーカーなどの頭脳を使う競技がマインドスポーツとして認識されるようになりました。
ご存じのように、現代はデジタル技術の進化を受けて、コンピューターゲームのスポーツ化が進み、反射神経などのフィジカルを競うeスポーツという領域が盛り上がってきました。それと同時に、麻雀、ポーカー、将棋、囲碁、チェスといったマインドゲームでも競技化が進み、楽しみ方や市場の広がりが見られます。
- 島野
- そうなのですね。では具体的に、どのような広がりを見せているのでしょうか。

- 永松
- 2023年に中国で開催されたアジア競技大会では、囲碁やチェスが公式競技として採用されました。国内でも麻雀やポーカー、将棋などにおいて、競技性にエンターテインメント性を加えた大会やオンライン配信などが増加しています。将棋における「観る将」のように、対局観戦を楽しむ専門の人を指す言葉が生まれるなど、マインドスポーツ全体への関心が高まっています。
また、2008年には、北京オリンピック終了直後の北京市内で、国際マインドスポーツ協会が 、IOCのジャック・ロゲ氏を名誉会長に据えた「ワールドマインドスポーツゲームズ」を開催しています。こうした動きを背景に、フィジカルスポーツとマインドスポーツ近接する競技文化として捉える見方も広がってきたように思います。
- 島野
- なるほど。市場はどのような状況なのでしょうか。
- 藤丸
- 地域ごとのプレイヤー人口を見てみると、グローバルではチェスやポーカーが多く、アジア圏では囲碁、日本は将棋の競技人口が多い傾向にあります。中国やベトナムを中心に競技人口が集中している象棋(シャンチー)、いわゆる中国将棋など、地域性の強い競技も存在します。競技別のプレイヤー人口を見てみると、将棋はプレイヤー、視聴者の双方で、国内での規模が大きい競技です。麻雀、特にリーチ麻雀も、競技人口・視聴者ともに一定の規模があります。ポーカー人口も増加傾向にあるとされており、今後の広がりに注目しています。
- 島野
- マインドスポーツのエコシステムについても教えてください。
- 藤丸
- 業界団体や企画運営会社が大会を開催し、その様子を主にオンラインメディアで配信する形式が一般的です。配信支援や選手活動をサポートするソリューションが存在する点は従来のスポーツと共通しています。
一方で、競技団体が認定するプロプレイヤーだけでなく、インフルエンサーやアマチュアプレイヤーが参加する大会が多く、門戸の広さはマインドスポーツの特徴の一つです。配信との親和性が高いのも特徴的で、自分のプレイを実況しながら配信し、インフルエンサーとして活動するプレイヤーも多くいます。こうした動きが、マインドスポーツの普及を後押ししています。もともとは個人で対局する競技でも、チーム戦を導入することでエンタメ性や興行性を高め、大会の盛り上がりにつなげている例も見られます。
- 永松
- チームとしてのカラーやイメージを打ち出し、地域性と結び付けることで、推し活を活発化させ、ファンとの継続的な関係づくりにつなげる動きも見られます。チーム戦ならではのルールを採用するなどのさまざまな工夫も盛り上がりを後押ししています。
- 島野
- その柔軟性や、新しい取り組みに積極的な姿勢は、新しい競技文化として発展している領域ならではの特徴かもしれません。オンライン環境の整備がマインドスポーツの普及に大きく影響していることもよくわかります。

■グローバルで盛り上がりを見せるマインドスポーツ
- 島野
- グローバルで見ると、どのカテゴリーの大会規模がもっとも大きいのでしょうか。
- 藤丸
- ラスベガスで開催されるポーカーの世界大会は規模が大きく、2025年大会では24万人が参加し、賞金総額は4億ドルで、日本からも配信で観戦することができます。チェスの世界王者決定戦も広く知られています。各地域で勝ち抜いた上位選手による勝ち抜きトーナメント戦となっていて、2024年はシンガポールで開催されました。
- 永松
- 日本式リーチ麻雀の世界大会もあります。パリやウィーンなど、リーチ麻雀のさらなる普及が期待される地域で開催することで、認知向上を図っています。2025年の東京大会には37カ国256名が参加しました。囲碁に関しては、伝統的に中国、日本、韓国のプロプレイヤーを中心に大会が行われています。
国内ではポーカーの大会も人気を集めています。2026年には東京、大阪、札幌で計8回の大会が予定されており、延べ3万人以上の来場者数が見込まれています。麻雀、囲碁、将棋では伝統的なタイトル戦が行われ、プロ棋士やプロ雀士が対象となっています。一方、チェスはプロアマに明確な区分はなく、レーティング上位のプレイヤーが出場できる全国大会が開催されています。さらに国内では、麻雀のプロリーグとしてMリーグの人気も定着しつつあります。将棋のチーム戦である「 ABEMAトーナメント」や、囲碁のチーム対応リーグ戦である「Li LEAGUE」など、新興リーグやトーナメントも誕生している点が近年の動きです。
- 島野
- それほど多くの種類のマインドスポーツの大会が行われているとは驚きです。プレイヤーにはどのような特徴がありますか。
- 永松
- 将棋の藤井聡太氏や囲碁の一力遼氏に代表されるような、プロ選手が一定数存在します。そのほか、ポーカーや麻雀で顕著ですが、タレント活動やインフルエンサー活動と二足の草鞋で、プロとしての活動をする選手もいます。
- 藤丸
- チェスの場合は、たとえば長年にわたり世界ランク1位を保持する著名プレイヤーが、自分のチャンネルで普段のオンライン対局の様子をライブ配信しています。日本でも今後より若い世代のプレイヤーが増えていけば、そうした活動も広がっていくかもしれません。

- 島野
- 配信プラットフォームについては、どのような動向が見られますか。
- 藤丸
- 各種競技において、オンラインで対局できるさまざまなプラットフォームが存在します。グローバルに展開し、ユーザー規模が大きいものもあります。国内にもユーザー数が1000万規模にのぼるとされるプラットフォームがあります。また、Mリーグを配信するABEMAに代表されるように、大会の様子を配信するメディアも各種存在しています。
- 島野
- やはり、オンライン配信メディアの普及によって観戦する選択肢が増えたことと、マインドスポーツの隆盛は重なっていますね。テレビの放送だけではこれほど多くの対局を中継することは難しかったはずです。将棋もかつては一部の対局を週末にテレビで見るものでしたが、いまや様々な対局をリアルタイムでもアーカイブでも見られるようになりました。この変化は大きいですよね。
- 藤丸
- そうですね。
ポーカーでは、対局が楽しめるスマートフォンアプリに加え、リアルなポーカーハウスを展開するケースもあります。
- 永松
- そのうちの一つである「m HOLD’EM」に実際に訪れたところ、カフェのようなくつろげる空間で、初心者にも競技用のルールを丁寧に教えてくれました。
- 藤丸
- 実はスマートフォンアプリとリアルのポーカーハウスでは、ユーザー属性がかなり異なるという話も聞いたことがあります。両者のユーザー層をどうつなげていくかは今後の課題だと考えています。
■若い世代をとらえるマーケティングの場としてのマインドスポーツ
- 島野
- どのようなソリューションを活用しているのかも教えてください。
- 永松
- 将棋の形勢判断や分析にAIを活用するケースが増えています。麻雀でも、自分の対局したデータをAIが解析してくれるツールがあります。また、グローバルプラットフォーマー各社も、囲碁からチェス、麻雀まで、AIを活用したマインドスポーツのソリューション開発を進めています。実践的トレーニングができるAI搭載の家庭用対局ロボットも販売されています。
- 藤丸
- ポーカーでも、膨大な手札の組み合わせを確率的・統計的に解析し、最適戦略を提示するサービスが知られています。
- 永松
- 大会の運営支援ソリューションとしては、対局の状況を撮影し、AIが自動的に記録するプロダクトが開発されています。タイトル戦など重要な対局に関しては、現在も人手による記録が行われていますが、一般的な大会などでは記録の自動化・効率化が進んでいます。
- 島野
- これまでは、若手棋士や奨励会員が記録係として対局に立ち会い、朝から晩まで手書きで棋譜を記録していましたが、カメラとAIを活用して自動記録されるようになってきたのは時代の変化を感じます。
- 藤丸
- ポーカーにおいては、カード配布時に自動読み取りを行い、ディーラーがプレイヤーのハンド情報を正確に把握できるツールがあります。リアルな場では把握が難しい情報の記録を、自動データ化によって支援しています。
- 永松
- こうした業界の盛り上がりを受けて、マーケティングの観点からもマインドスポーツへの注目は高まっています。
たとえば、大会やイベント、チーム、選手個人への協賛に加え、アンバサダー契約、広告活用、商品・コンテンツ制作、イベントでのコラボレーションなど、多様な取り組みが見られます。企業のブランド特性に合わせて協賛するケースが多い印象です。
- 島野
- 将棋や囲碁に代表されるマインドスポーツは、デジタル配信が中心ということもあって、愛好者の年齢層が若返っています。企業にとっても、幅広い世代、とりわけ若い世代との接点を生み出しやすく、配信を通してリーチを広げられることから、マーケティングの場として今後ますます存在感を増していくのではないでしょうか。
- 永松
- マインドスポーツは、プレイヤーにしろインフルエンサーにしろ視聴者にしろ、配信やSNSを通じてグローバル規模で拡大の一途をたどっています。その動きと連動してリアルの対局の価値もあらためて見直されており、リアルの場づくりも着実に進んでいます。
シニア層のウェルビーイングや認知機能の維持・向上、社会人向けの企業研修に活用されるケースもあります。マーケティング観点では、オンラインで継続的に視聴するファンは深い接点を築きやすいため、そうしたファン層に企業がどのようにアプローチするかという視点も重要です。
- 島野
- スポーツの概念は時代とともに変化してきました。それこそがスポーツの面白さでもあると思います。今日お話をうかがって、その最先端にあるのがこのマインドスポーツなのだと感じました。
マーケティングの場として注目すべき領域であり、大きな伸びしろがあることを知っておおく必要がありそうです。ありがとうございました。
※肩書は取材当時のものです
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Hakuhodo DY ONE
テクノロジーR&D本部 研究開発局長2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)、デジタルマーケティングのリサーチや効果指標開発、オーディエンスターゲティングやアフィリエイト、動画広告、ゲーム広告等の事業開発に従事。2019年より研究開発局長として、AIやIoT、XR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。
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Hakuhodo DY ONE
テクノロジーR&D本部 研究開発局2021年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)、生成AIをはじめとする先端テクノロジー領域を中心に、デジタルビジネスのリサーチ、研究開発に従事。
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博報堂 研究デザインセンター 研究主幹博報堂に入社後マーケティング部門に在籍し、通信、自動車、ITサービス、流通、飲料など数々の得意先の統合コミュニケーション開発他に従事。2012年よりデータドリブンマーケティング領域の新設部門でマーケティングとメディアのデータを統合した戦略立案の高度化、ソリューション開発、DX推進等を担当。2020年よりメディア環境研究所所長 兼 ナレッジイノベーション局局長として、メディア環境の未来予測他の研究発表を行う。25年より現職。


