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Hakuhodo DY ONE 広告技術研究所レポート Vol.1 ステーブルコイン~金融と経済を変革する新しい通貨基盤~
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Hakuhodo DY ONE 広告技術研究所レポート Vol.1 ステーブルコイン~金融と経済を変革する新しい通貨基盤~

決済や流通の新しい基盤として注目度が増す「ステーブルコイン」。金融と経済に変革をもたらすとされる理由や、マーケティングにおける活用の可能性などについて、Hakuhodo DY ONEの永松範之と王凱に、博報堂 研究デザインセンターの島野真が聞いていきます。

■世界中で注目度が高まるステーブルコイン

島野
米国での法整備が進んだことや企業の参入などにより、昨年よりステーブルコインについてのニュースをよく見聞きするようになりました。また今年の夏には日本の金融庁に「暗号資産・ステーブルコイン課」が発足することも発表されており、注目度はさらに高まっています。このステーブルコインですが、金融の世界だけではなく、実はマーケティング領域においても革新的な技術といえるのですよね。
永松
ステーブルコインは、まさにいま世界中で存在感を増しつつある、ブロックチェーン上のデジタルアセットです。数年前は、新しいデジタル通貨としてビットコインが脚光を浴びていましたが、実際は価格変動が大きいことなどがネックとなり、投機目的では活用されてもなかなか通貨としては定着していないが現状です。
同じブロックチェーンの仕組みを活用しつつ、円やドルなどの法定通貨の価値に連動したものがステーブルコインです。文字通り“Stable(安定している)”が最大の特徴ですが、そのほか金融機関等の中央集権的な組織が介在しないオープンな仕組みであることや、いわゆるスマートコントラクト――条件を設定し、自動的に取引や決済を行う仕組み――の実装によって、AIエージェントの決済手段としても有効視されているといった特徴があります。

島野
銀行間決済では送金にも受け取りにも手数料がかかりますし、さらに海外送金は日数もかかり手続きも面倒といったデメリットがあります。一方、ステーブルコインであればそのコストも手間も抑えられるのは大きいですよね。
そうですね。日本は金融サービスが発達しているのでピンとこないかもしれませんが、グローバル全体では、新興国を中心にこの5年ほどでインフレが非常に激しくなり、自国通貨の価値が下がり続けているため、特にドルと連動するステーブルコインを使って資産価値を保とうとする動きが活発化しています。

ステーブルコインの発行額も毎年伸びていて、2025年には3000億ドル規模の発行額に達するとされています。アメリカのベッセント財務長官は、2030年までにその10倍、つまり3兆ドル規模のステーブルコインの流通を見込むといった趣旨の発言をしています。主流はドル建てで、世界シェアの9割以上をドル建てのUSDTとUSDCが占めると言われています。ただ外国為替取引市場の通貨別シェアを見ると、米ドルは44%で首位、円は8%で3位となっています。したがって、円建てステーブルコインも同程度の8%前後のシェアを獲得できれば、現在以上のチャンスが広がると考えられます。

島野
チャンスがある一方で、そこで存在感を示していかなければ、日本円の存在感が下がる可能性があるということですよね。
はい。インドやパキスタンなど、自国通貨の価値が下降傾向にある国でステーブルコインがよく使われています。たとえばインドのIT業界では、ソフトウェアなどを販売する際、インド通貨ではなくドルで決済したほうがメリットが大きい場合があります。その場合、グローバルでビジネスをするとなると、ドル建てのステーブルコインが非常に便利ということになります。韓国や日本など国際貿易が多い国は、海外との取引にステーブルコインを使うことで、為替変動のリスク低減や、ビジネス価値の維持につながる可能性があります。特にグローバル企業は、取引時の送金や社内資金移動が安く早くスムーズになり、その時の為替レートで迅速に決済されることで、為替変動の影響を受けにくくなるというメリットもあります。

現在、ステーブルコインにはいくつかの種類があります。通貨と連動しているものは法定通貨担保型です。そのほかにも金や暗号資産を担保にするものや、アルゴリズムで価値を維持しようとするタイプなどがありますが、ボラティリティの面では法定通貨担保型が最も安定しているとして支持されています。
またステーブルコイン発行体は、発行したコインと1対1の価値に相当する資産を保有する必要があります。国によって多少異なりますが、主流なのは国債です。国はそのために国債を買ってもらえることで需要につながり、発行体はステーブルコインの安全性が担保されるという形で相互にメリットのある関係が成り立っています。

■マーケティング領域での活用で期待される効果

永松
デジタルアセットとして有名なのはNFTですが、そのほかにも会員権などの権利を保証するユーティリティトークンや、株券のように投資対象となるセキュリティトークンもあります。そういったデジタルアセット取引における決済基盤として、ステーブルコインは重要な役割を担っています。

マーケティングにおいては、たとえば限定コンテンツを提供するテクノロジーとしてNFTを活用し、エンゲージメントを高める手段として活用するケースが増えています。あるいはユーティリティトークンを使って、会員権や割引、先行アクセス権など特定の権利を与えるような活用機会もあるでしょう。そうした中で、生活者に対するインセンティブとしてステーブルコインを活用することで、生活者と企業のロイヤリティ向上やエンゲージメント向上に寄与することが期待できます。

島野
そういう意味ではステーブルコインは単なる金融手段ではなく、まさにマーケティングを革新する手段になり得ますよね。
企業が独自に行っているポイントプログラムも、実はそれなりに手間やコストがかかります。さらに、ポイントがその企業だけでしか利用できないとなると、生活者にとってのメリットが薄れてしまう可能性もあります。ポイントプログラムや投げ銭などの手段がステーブルコインによって一本化され、非常に簡単に、かつ手数料も安く実践できるようになれば、企業にとってはリスク低減になり、生活者にとってはより簡単で使いやすくなる。それこそが、ステーブルコインのマーケティング領域における期待できる価値ですよね。

永松
そうです。これまで可視化が難しかったエンゲージメントや生活者の関与度といった部分も可視化できるようになり、企業はよりうまく運営できるようになるのではないかなと思います。
島野
興味深かったのは、超低額の決済がとてもやりやすくなる点です。銀行取引で決済を行う場合、ある程度の金額でないと手数料負担が大きくなるため、少額の販売がしづらい面があったと思いますが、超低額決済でも手数料が安いとなればモノの売り方や買い方も変わっていくでしょう。
永松
確かに、デジタルコンテンツに対するマイクロペイメントや、インフルエンサーに対する投げ銭などの活用もしやすくなるでしょう。現状のスマホ決済では特定のプラットフォーマーの影響が指摘されることもありますが、そうした環境から解放された新しい経済圏が推進されていくことになる。それも大きなポイントです。
たとえばキャッシュバックキャンペーンをやるとして、これまでは100円を配るたびに150円のコストがかかっていたのが、ステーブルコインであれば手数料は1円程度で済む、というようなケースも考えられます。そうしたキャンペーンも活発化していくのではないでしょうか。
島野
まさに、マーケターとしてもさまざまな知恵の絞りどころがありそうですよね。
永松
さらに、ステーブルコインは、リアルタイムで決済が完了する点や、手数料が少ないなどのメリットにおいて、目的や購買条件の設定によってAIエージェントが人間の代わりに自動で買い物をしてくれる“エージェンティックコマース”との相性が非常に良いとされています。両者の組み合わせで、さらに便利で革新的なシステムが実現するかもしれません。

■自由度高く使い、受け取れるステーブルコインの魅力

ここで、ステーブルコインの利用の流れを簡単に説明します。
まずユーザーが取引所に1円を入金し、1円相当のステーブルコインを獲得します。取引所自体はステーブルコインを発行するのではなく、あくまでも仲介的に、ステーブルコインを獲得する場を提供します。ステーブルコイン発行企業は自社のステーブルコインを取引所に提供するほか、取引所とレベニューシェアを行っています。

ステーブルコインも暗号資産の一種ですから、基本的にはウォレットの中でやり取りが行われます。自分のウォレット、つまりデジタル上の財布から、同様のウォレットを持つ相手に直接ステーブルコインを送金するのが一つのユースケースです。また、店舗やECなどにおいても、現在電子マネーで行っているのと同様のことがステーブルコインでも可能です。越境の店舗決済もEC決済も、ステーブルコインを使うことで、決済手数料と為替手数料の両方を抑えられる可能性があります。

たとえばアメリカのIT企業でプログラム開発を行うインド人のフリーランスITエンジニアがいたとして、ステーブルコインとスマートコントラクト(条件に応じて処理を自動化する仕組み)を使うことで、タスク完了の時点で給与としてステーブルコインを受け取る仕組みも比較的簡単に作れます。

島野
使う側の自由度が増すだけでなく、給料など報酬の受け取り方の自由度も増すわけですね。
永松
特に新興国では、そもそも銀行口座を持たない人が少なくありません。誰でも作ることができて、さらに国籍や国境も関係なくウォレット同士で自由度高くやり取りができる点が、人気の背景にあります。また日本でも、たとえばインバウンド観光客が日本で銀行口座を開設するのは相当ハードルが高いですが、ステーブルコインであれば決済が手軽になる可能性があります。
国際貿易においては、1回の支払い額が数億円単位など非常に高額になりますよね。銀行などを経由すると、決済手数料や中継コスト等が積み上がり、相当の負担になる場合があります。その点、ステーブルコインではコスト削減が見込めるケースもあり、企業にとってはキャッシュフローを効率的に管理していけるというメリットもあります。

■着々と環境整備が進む日本のステーブルコイン

続いて、発行企業や具体事例を紹介します。
今、市場シェアが大きい発行体として、USDTのテザー社、 USDCのサークル社が挙げられます(発行残高は時点により変動します)。 サークル社については、法令・規制への適合を重視する姿勢を明確にしており、 そのため一般ユーザーだけでなく、金融企業や大手IT企業なども、サークル社のUSDCを自社ビジネスに活用しています。サークル社はステーブルコインの発行だけでなく、グローバルな決済ネットワークの構築も進めており、注目を集めています。
島野
円建てのステーブルコインもありますね。
はい。円建てステーブルコインの文脈では JPYC社があります。同社は2019年に創業し、法的な対応を進めながら提供形態を整え、2025年にサービスを開始しました。三菱UFJ信託銀行との提携もあり、既存の金融業界との関係性も重視しています。また、LINEヤフーグループの米国法人であるLINE NEXT社とも共同研究を進めており、将来的にはLINEアプリ上でステーブルコインのやり取りが可能になるかもしれません。

JPYCの利用シーンとしては、個人がJPYCを購入し、他の暗号資産に交換して分散型金融(DeFi)で運用するケースがあります。リアルのビジネスにおいても、カフェや美容院などの店舗などでJPYCを導入し、決済に活用しているケースもあります。既存のバーコード決済と同じように、JPYCのQRコードをスキャンするだけで決済できるのがポイントのようです。

永松
三菱 UFJ ・三井住友・みずほの3メガバンクが共同で、ステーブルコイン対応に向けた動きを始めており、現在PoCの段階です。大規模な金額の取引にも対応できるインフラとして、銀行も取り組みを進めています。
島野
日本においても、小規模なものから大規模なものまで、動きが始まってきていますね。
永松
各国の動向としては、中国はステーブルコインに厳格なスタンスを取る一方で、CBDC(デジタル人民元)の導入が予定されています。米国、EU、日本などは、国がルール整備を行い、民間企業等が推進を担っています。中でもEUは比較的早い段階から法整備を進めており、いわゆる法定通貨以外でもコモディティ担保型であったり、暗号資産担保型であったりと、多様なタイプのステーブルコインの発行を認めています。
島野
世界各国、主要な領域で、それぞれの国情に合わせた取り組みが進んでいるわけですね。
先に出てきたのがドル建てステーブルコインなので、他国が取り組まなければドルへの一極集中が進み、自国通貨が弱くなる懸念もあります。各国、これまでの通貨バランスを保つためにも、ステーブルコインへの取り組みを推進せざるを得ない、という見方もあります。

■大変革を前に、いままさにマーケターが着目すべき領域

島野
よりマーケティング領域に近いところでは、どのような活用が見られていますか。
永松
たとえばソニーは、ファンコミュニティ形成や、自社のコンテンツ経済圏にUSDCを導入しています。ファンコミュニティとのエコシステムの構築に向けて、独自コインの発行も検討しているようです。デジタルコンテンツの売買と決済においても、ステーブルコインは機動的で小回りが利くだけでなく、会員だけが買えるといった権限も付与しやすくなる。アーティストへの収益分配もしやすくなります。自分たちのコンテンツ資産をうまくステーブルコインと組み合わせ、独自のエコシステムを構築しようとしているのだと思います。
島野
マーケティングやブランディング、ロイヤリティビジネスなどにすでに活用が始まっているわけですね。

生活者へはどのようなインパクトが想定されるでしょうか。

永松
世界中との取引が簡便に、スムーズになり、個人でさまざまなものを買いやすくなったり、売りやすくなったりするでしょうね。また、日本では銀行口座を持つことが当たり前ですが、ウォレットの手軽さが広まっていけば、銀行口座の必要性も今後薄れていくかもしれませんね。
島野
なるほど。それは相当大きな変革になりますね。
ここでソリューションの全体像についてお話しすると、まずステーブルコインは必ずどこかの基盤ブロックチェーンで発行されます。また流通自体は、CoinbaseやSBI VCトレード
といった取引所でやりとりが行われます。
管理企業が存在せず、1つのアプリ/Webページ上でステーブルコインと他の通貨を自動的に交換できる分散型取引所もあります。ステーブルコインをNFTや他のデジタルアセットに変換する基盤や、自社のステーブルコインを発行するための開発基盤や発行基盤も、国内外で多数登場しています。ステーブルコイン決済を全般的にサポートする決済インフラ企業も続々と誕生しています。もともとウェブ決済を手がけていたり、暗号資産を扱っていたりする企業が、ステーブルコインでビジネス拡大を狙うケースも見られます。ウォレット周辺にもさまざまなプレイヤーが存在しますし、スマートコントラクト自体を監査するなど、セキュリティを担保するためのプレイヤーも続々と増えてきています。
島野
こういった企業がきちんと結びついて機能することで、信頼できる、安心できる場に育ちつつあるのですね。
永松
繰り返しになりますが、今後のマーケティングにおいても、ロイヤリティプログラムやポイントエコシステムなどに有効活用しながら、生活者との接点強化や、企業・ブランドの基盤としての有効性も増してくるでしょう。エンゲージメントや貢献度の向上などを、サイクルとして回していくことも活用しやすくなるのではないでしょうか。さらに、AIエージェントを通してステーブルコインで決済・流通する、あるいはAIエージェントがステーブルコインを稼ぐといった世界もそう遠くない未来にやってくるような気がします。
島野
ビットコインは新しい技術ですから、値動きが激しいなどの課題はあるものの、やがてそれがステーブルコインになり、法整備も進み、安心して活用できる便利なものになっていく。今まさにその過渡期にあるのですね。
マーケティングへの活用の可能性が非常に大きい技術だと思いますし、少し先の未来を見据えて、マーケターは注目しておくべき領域だと思います。
本日はありがとうございました。
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  • Hakuhodo DY ONE
    テクノロジーR&D本部 研究開発局長
    2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)、デジタルマーケティングのリサーチや効果指標開発、オーディエンスターゲティングやアフィリエイト、動画広告、ゲーム広告等の事業開発に従事。2019年より研究開発局長として、AIやIoT、XR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。
  • Hakuhodo DY ONE
    テクノロジーR&D本部 研究開発局
    2019年 株式会社デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)に入社。海外のビジネストレンドやスタートアップの動向調査を中心に、 社内の新規事業の立ち上げ支援にも従事。
  • 博報堂 研究デザインセンター 研究主幹
    博報堂に入社後マーケティング部門に在籍し、通信、自動車、ITサービス、流通、飲料など数々の得意先の統合コミュニケーション開発他に従事。2012年よりデータドリブンマーケティング領域の新設部門でマーケティングとメディアのデータを統合した戦略立案の高度化、ソリューション開発、DX推進等を担当。2020年よりメディア環境研究所所長 兼 ナレッジイノベーション局局長として、メディア環境の未来予測他の研究発表を行う。25年より現職。

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