ヒット習慣予報 vol.418『五感で追憶』

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの仙田です。
最近まで、涼やかな初夏を感じられていたと思ったら、例年通りのド暑い夏が出現し始めてきましたね。皆さま、夏バテにはどうかお気をつけください。
夏といえば、旅行!ドライブ!フェス!など、思い出を刻むのにぴったりな時期かと思います。その思い出の刻み方もどんどんと進化しているようです。
スマホ・SNSが幅広い年代に浸透している昨今、普段の記録の残し方といえば、スマホでカメラを取り出し、シーンを切り取り、それをSNSに投稿、が基本の流れとなっている世の中ですよね。しかし、近年は自らの身体へと立ち帰り、触覚・聴覚・嗅覚といったリアルな五感を通じて、過去の思い出を追憶する方法が生み出されています。
今回はそんな新たな記憶の引き出しとなる『五感で追憶』をご紹介いたします。
1つ目の事例は、【セルフサントラlog】です。
皆さんが普段聴く音楽は、プレイリストからですか?近年プレイリストの作り方も進化しており、音楽アプリからオリジナルで作成してもらえるおすすめプレイリストや、気分や感情ごとのプレイリストなど多岐にわたっています。
そんな中、セルフサントラlogとは「その季節・年代・ときどきによってプレイリストを作成すること」を指します。
例えば、私のプレイリストには「2025 夏」「ドライブ 2026」「九州旅行」など、ざっくりとした年ごとのものもあれば、季節やタイミングごと、特定の旅行期間中なんていうものも存在しています。
その期間でポイポイと追加していた楽曲たちを後から聞き返してみると、聴覚を経由して当時の帰宅途中の景色や、抱えていた心境などが一気に呼び起こされ、一瞬にしてタイムスリップしたような感覚を味わうことができます。友人たちの間でも、定期的に過去のプレイリストを見せ合い「この時期めっちゃ傷心モードじゃん!」などと思い出話に移行することも多々あります。
感情とリンクする音楽を経由することで、忘れていた景色もふと思い出すきっかけが生まれます。そしてその曲たちが、まさに自分の人生のサウンドトラックとなるのです。

聴覚に続き、2つ目の事例は、【お持ち帰りトリップ】です。
こちらは、「あえて集めた紙くずを通じて旅行の思い出を記録すること」を指します。
普段ならゴミにしてしまうような、旅先でふらっと立ち寄ったコンビニのレシートや、レストランの箸入れ・コースターなどでさえ、実は大事な思い出の引き出しになるのです。
実際にこの行為は海外を中心に流行しており、Junk Journaling/ジャンクジャーナルとして日本にも届き始めています。
▼「Junk Journaling」検索量推移(2018年以降・世界)
実際に私も、今年に入ってからスタートし、北海道旅行での滞在先のホテルのネームカードやリフト券に至るまで、あらゆる物を持ち帰りペタペタとノートに貼り付けています。

このノートを開き「本物」の思い出と触れ合う中で、旅行中のコンビニでの些細な友人との会話や、スノボで体感したパウダースノーの柔らかさ、一口目に食べたジンギスカンの美味しさまで思い出されるのが不思議なものです。
さてこれまで、聴覚・触覚と続いて参りました。
最後の3つ目の事例となるのは【ワンタイムパフューム】です。
実は、「プルースト効果」という言葉が存在するように、匂いと記憶には科学的に立証された深い関係があることをご存知でしょうか。(※)これは記憶や感情を司る脳の器官「海馬」「扁桃体」と「嗅覚野」が近いことによるものです。この脳の仕組みを逆手に取ったのがこのワンタイムパフュームという習慣です。
近年、旅行先での香水作りが人気体験の一つなっているように、思い出として香りを持ち帰る体験のことを指します。自分で作った香水だけでなく、その土地で購入した石鹸やアロマキャンドルなども、後から利用することで当時の記憶を追いかけることに繋がります。
私も友人も、旅行先では香り付きのものを購入することが定番になっており、時々互いの家で久しぶりの香りを楽しむこともあります。
※プルースト効果 (Proust phenomenon or Proustian hypothesis) 坂井信之 著 · 2025
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/72/12/72_NSKKK-D-24-00053/_pdf/-char/en

以上、いくつかの事例を紹介してきましたが、なぜ昨今このような「五感で追憶」が習慣として広まっているのでしょうか。
まず、「デジタル疲れ」によるリアルへの回帰が挙げられます。 近年、あえてスマホをホテルや店内のロッカーに預けてアクティビティをする「オフ活」がブームになっています。私たちは日々、画面を通じて膨大な情報を浴び続けており、脳も心も少しお疲れ気味。だからこそ、他人の目を意識したSNSのタイムラインから一度離れ、音楽(聴覚)や紙の手触り(触覚)、香り(嗅覚)といった、画面からは得られない「リアルな五感からの追憶」に、心地よさや癒しを見出しているのではないでしょうか。
そして、今やスマホのカメラは超高画質になり、誰でも手軽に美しく思い出をまとめられる時代です。しかし、あまりにも綺麗すぎる記録には、私たちが愛おしいと感じる余白がありません。あえて「音楽だけ」「旅先のレシートだけ」「香りだけ」という“不完全な断片”として残すことで、未来の自分が脳内でその隙間を、記憶で補完する。そのプロセスそのものが、このAI時代に極めて人間らしい感情を突き動かすフックになっていると考えられます。
最後に、『五感で追憶』のビジネスチャンスとして、下記のようなことを考えてみました。
『五感で追憶』をめぐるビジネスチャンスの例
■ 過去に作ったプレイリストをあえてカセットにダビングしてくれるアナログ化サービス
■ ポケット付きやノリ付きのページで簡単に見返したくなるデザインができる初心者用トリップノート
■ 旅先の場所そのものの香りを持ち帰ることのできるパフュームボトルの開発
完璧に記録しようと気負わずに、小さな感覚のパーツを日々にちりばめておくだけで、未来の毎日にちょっとした楽しみをプレゼントできそうですよね。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂プロダクツ デジタルプロモーション事業本部 アクティベーションプランニング部
ヒット習慣メーカーズ メンバー2025年に博報堂プロダクツへ入社。一人前のプランナーを目指し、とにかく頭を捻り続ける毎日。一人暮らしを初めて4年目に突入しましたが、自分の手料理がどれも同じ味に思えてきて、自分の「料理の腕」と「味覚」どちらの問題なのか分からなくなっています。


