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積水ハウス×博報堂 共同プロジェクトメンバーに聞く、 住まい手の行動データ解析による新サービス開発の狙い【前編】
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積水ハウス×博報堂 共同プロジェクトメンバーに聞く、 住まい手の行動データ解析による新サービス開発の狙い【前編】

2023年9月に記者発表された、積水ハウスと博報堂の新プロジェクト。住まい手の生活行動データのAI分析で潜在意識を可視化し、新たなサービスの共創を目指す、このプロジェクトの狙いと今後の展望について、両社の担当者の皆さんにお話を伺いました。
―記者説明会の速報レポートはこちら

(左から)
髙栁 太志
株式会社博報堂 DXソリューションデザイン局

原 起知 氏
積水ハウス株式会社 ITデザイン部
IT戦略室 DXイノベーショングループ

奥山 嘉昭 氏
積水ハウス株式会社 プラットフォームハウス推進部
サービス推進室 サービス企画チームリーダー

小川 正之 氏
積水ハウス株式会社 プラットフォームハウス推進部
サービス推進室 サービス企画チーム

小川 峻
株式会社博報堂 DXプロデュース局

住まい手の日々の行動データを、新しいサービス開発に活用するための「プラットフォームハウス」構想

―まず、積水ハウスが目指している「プラットフォームハウス構想」について、お聞かせください。

●奥山
積水ハウスは1960年に創業し、当初の30年間は、耐震性や防火性などを重視した、安全・安心に暮らせる住まいの提供を目指し、実現してきました。
次の1990年からの30年間は、快適性の向上をテーマに、住まい手が安心して、より快適に暮らせる住まいづくりを目指してきました。

そして、2020年からの30年を考えた時、それまでの60年間に実現したことに加えて、住まい手の「幸せ」に軸足を置いて、もっと個人個人のニーズや意識をくみ取った住まいづくり、あるいは「健康」「つながり」「学び」といった無形資産を蓄積できるような住まいを住まい手の皆さんと一緒に、寄り添いながら提供していきたいと考えています。そこで出てきたのが、蓄積されたデータを活用して新しいサービスという形でお客様に価値をお返ししていこうという「プラットフォームハウス構想」なんです。

―そういった構想があって、データの基盤として「PLATFORM HOUSE touch」というサービスが2021年にリリースされたのですね。

●奥山
はい。「PLATFORM HOUSE touch」とは、住まい手がスマホ一つで、照明のオンオフ、エアコン設定、給湯、玄関の施錠、窓の開け閉めといった操作や、熱中症アラートなど住環境のモニタリングが可能になるサービスです。

1個1個のデバイスのみでは点としての情報ですが、間取りと連動して家全体でその人がどういう行動をしているかということをデータとして詳しく取ることができます。ここが「PLATFORM HOUSE touch」の大きな特徴で、住まい手の暮らし全体を、家の中の暮らしの様子としてセンシングできるんです。

●小川(正)
住まい手の皆さんにとっても、たとえば夏の暑い日に留守番をしている子供の部屋の温度をチェックできるとか、ペットを飼っている人なら冷房の温度を下げるとか、家の間取りと連動する形で把握・操作できるのは、「PLATFORM HOUSE touch」ならではの新しい機能、暮らし方だと思います。
●奥山
とはいえ、それだけでは一つ一つの行動や事象のトラッキングでしかなく、そこから読みとれることも限界があると感じていました。それらの行動データが、その人の属性や、住んでいる場所、家族構成といった、住まい手の情報と組み合わせることによって何かできないか、さらに言うと、それらのデータをAIで分析することによって、もっと深く詳しく理解できるのではないかと考えました。
●小川(正)
積水ハウスは“「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンを掲げているのですが、その幸せを因数分解すると、先ほど奥山が紹介した「健康」「つながり」「学び」になると考えています。その3つのテーマを「PLATFORM HOUSE touch」というデータ基盤を使って、他の企業と連携しながら考えていきたい。つまり、新しい幸せを追い求めていくことが今回のプロジェクトのミッションであり、楽しみでもあるんです。

無機質なビッグデータを生活者発想で読み解く

―素晴らしいですね。では今回、博報堂と組んで、共同プロジェクトをスタートさせようとなった経緯について教えていただけますか。

●奥山
先ほどもお話しましたが、元々、「PLATFORM HOUSE touch」で取得できるデータに付加価値を付けてお客様にお返しできないかということで、いろいろ分析していました。ただ、人の目で全部見て、分析する形にしてしまうと、プライバシーの問題もありますし、物理的にも限界があります。だから、もう少しシステマチックにできないかという課題がありました。私たちは住宅メーカーなので、住まい手の家の中の行動に関しては知見があるし、ノウハウも持っています。ただ一方で、その住まい手が家の外でどんな行動をしているのかという知見やAI分析についてはやや弱い面もありました。
そんな中でどこか一緒に組んでプロジェクトを進めるパートナーがいないかと探していたところ、広告会社だと思っていた博報堂が、生活者の定点観測をしていたり、AIやシステム開発に対してもいろいろ知見があるということがわかりまして。こういうプロジェクトを進めたいという相談をしたところ、非常に興味を持っていただくことができ、今日に至るという流れです。
●小川(峻)
私は今回のプロジェクトの中で全体のマネジメントを担当しているのですが、最初にこの話を伺った時に、住まい手一人一人の行動データが、家の間取りと連動する形で取得できる点に大きな可能性を感じました。半年ぐらいかけてじっくり話をさせていただいて、共同で進めていこうとなりました。博報堂にとっても今回のプロジェクトは非常に大きな機会をいただいたと思っています。

●髙栁
博報堂はそもそも、生活者のあらゆる接点がインターネットでつながることで生まれる広がりを 「生活者インターフェース市場」と名付けています。それはかみ砕いて言うと、スマホやPCに限らず、それこそ今回のような住宅や、他にも自動車やウェアラブルデバイスなど、生活者と企業のあらゆる接点がデジタル化して、そこに新しいビッグデータが生成され、それらを分析し活性化することで新しいサービスが生まれ、生活者の暮らしをより豊かにしていくチャンスがいろいろ広がっていくという考え方なんです。

まさに今回の積水ハウスとのプロジェクトも、住まい手の皆さんに幸せを届けたい、そのために豊かな生活、快適な生活を届けていきたいということだと思うんですが、「生活者インターフェース市場」を標榜する博報堂としても、住宅というのはぜひ挑戦したい領域ですし、弊社の考え方に非常にマッチする話だと思って取り組んでいるんです。住宅のデータは何時何分に電気を点けたとか、窓の開け閉めをしたとか、本当に分刻みの詳細なデータが膨大に、かつ結構な期間で溜まっているんですが、ただそれだけだと非常に無機質でログが記録されているだけという状態でもあるんです。今回の共同プロジェクトはそこから、生活者の暮らしぶりや生活習慣や「生活モーメント」、あるいはもっと言うと、その人の前提となる価値観や「行動の源泉」を抽出し、新しいことが見出せないかという取り組みであると同時に、挑戦だと思っています。

―「生活モーメント」や「行動の源泉」というキーワードが出てきましたが、それを可視化することでどんなチャンスがあるのかということも含めて、もう少し詳しく教えていただけますか?

●奥山
個々のログデータは、割と細かいデータでそこだけ見ても内容がわからない。だから、それらと住まいの情報を組み合わせることによって、住まい手の特徴的な生活意識が現れる瞬間をいろいろ分析できるんじゃないかと思っているんです。それを我々は「生活モーメント」と呼んでいるのですが、まずは一瞬一瞬でその人がどういうことをやろうとしたのかを確認できる状態を作りたいと考えています。
そこを積み重ねることによって、その人自身が生活のどういうところを重視しているのか、あるいは習慣であったり、その行動を起こすためにどういう意図でやったのかという「行動の源泉」がある程度見えてくるのではないかと思っています。さらにそこから、その住まい手のパーソナリティが理解できると考えています。
そして、そこで見えてきたパーソナリティを読み取って、その人に合ったサービスや、新しい機能を開発し、住まい手にとっての本当に快適な暮らし、幸せを追求できるといいなと期待しています。

セキュアなデータ管理で、新たなサービスを創造

―新しい暮らし方につながるユニークな取り組みだと思う一方で、生活が丸見えになってしまうのではないかという住まい手の懸念もあるかと思います。その点ではどのように安全性を確保しているのでしょうか?

●奥山
元々「PLATFORM HOUSE touch」を立ち上げた当初から、セキュリティに対してはかなり意識しています。つねにデータをガードしながら、住まい手のデータが外から読み取られないようなシステムを開発しています。
今後の取り組みで重要だと思っているのが、ちゃんとお客様の同意が得られたデータのみを提供するようにシステム構築していくことです。現状のシステムは積水ハウスと博報堂の2社でデータを解析するという形になっています。今後、第三者のサービス事業者が出てきたときには、そのサービス事業者にデータを提供するかについて、お客様に許可をいただいた上で利活用していきたいと考えています。
●小川(正)
中には、「PLATFORM HOUSE touch」そのものが、日々の生活を監視しているみたいだと思われる方もいらっしゃるかと思うんですが、我々としては、もう少し詳しくあなたの暮らし方を教えていただければ、それよりもっといい価値を、あなたにとって有益なサービスという形でお返しします、というイメージを持っています。

●奥山
元々、データを取得して解析するときに、分析して欲しくないというお客様もいると思うんです。そういうお客様に対しては基本的に分析はしないという同意を取った上で、分析の対象から除外する機能も将来的には実現するつもりです。

―ありがとうございます。後編ではいよいよ、分析から見えてきた新しい暮らしや今後の展望について掘り下げていきたいと思います。

後編はこちら

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