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積水ハウス×博報堂 共同プロジェクトメンバーに聞く、 住まい手の行動データ解析による新サービス開発の狙い【後編】
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積水ハウス×博報堂 共同プロジェクトメンバーに聞く、 住まい手の行動データ解析による新サービス開発の狙い【後編】

2023年9月に記者発表された、積水ハウスと博報堂の新プロジェクト。住まい手の生活行動データのAI分析で潜在意識を可視化し、新たなサービスの共創を目指す共同プロジェクトについて、両社の担当者の皆さんのインタビューをお届けします。後編では、これまでの分析で見えてきた発見や今後の展望についてお話を伺いました。
―前編はこちら

(左から)
髙栁 太志
株式会社博報堂 DXソリューションデザイン局

原 起知 氏
積水ハウス株式会社 ITデザイン部
IT戦略室 DXイノベーショングループ

奥山 嘉昭 氏
積水ハウス株式会社 プラットフォームハウス推進部
サービス推進室 サービス企画チームリーダー

小川 正之 氏
積水ハウス株式会社 プラットフォームハウス推進部
サービス推進室 サービス企画チーム

小川 峻
株式会社博報堂 DXプロデュース局

分析の先の発見~30代男性会社員の新しい暮らし方

―「PLATFORM HOUSE touch」のビッグデータならではの特徴を教えていただけますか。

●奥山
家の中のデータを取っているので、そもそも1人のデータじゃないわけです。つまり、複数人の家族としての共同生活を見ていかないといけないので、そこが従来のビッグデータとの大きな違いであり、難しさですね。最初はまず、家族全体でどんなことをしているかというところから把握し、そこから個人がどういう行動をしているのかというところを分析していきたいと考えています。

●小川(峻)
難しさの一方で、個人ではなく家族の様子がわかるデータだからこそ貴重という面もあるんです。というのも、世の中のデータはスマートフォンで取ったりするので、ほとんどが個人に関するデータです。でも、車の購入や新聞の購読など、家族で意思決定している消費行動も結構あるので、家族という単位での何らかの動機や意識の発掘ができるといった意味で貴重ですし、そこが今回のビッグデータのユニークネスだと思います。だからこそ難しさと表裏一体なんですが。

―では、現時点までの分析で見えてきた住まい手の「行動の源泉」や今後のサービス開発につながる新たな発見について、いくつか紹介していただけますか?

●奥山
わかりやすいところでは、玄関の施錠や、ドアの開け閉め、窓の開け閉めの細かいデータから、その世帯の“安心できる暮らしがしたい”という欲求が読み取れたり、リビングの照明のオンオフのデータや他の部屋のデータから、家族が集まる時間の長さがわかり、それはすなわち、“家族の時間を大切にしたい”という気持ちの表れだと分析できたり、ということが見えています。

●小川(正)
自然を感じて暮らしたいという行動の源泉も、エアコンの使用状況や窓の開け閉めのデータからわかりますよね。また、エアコンを使わずに床暖房だけで冬を過ごすという家庭もあって、ある種の考え方や価値観が読み取れます。
●小川(峻)
実際のログデータを見ても、いろんな分析ができそうだし、仮説も生まれています。それと併せて今後は、実際に「プラットフォームハウス」に暮らす住まい手の皆さんに対してアンケート調査もしながら、AIの学習モデルを作っていきたいと考えています。

―見えてきたライフスタイルの中で印象的だったものはありますか?

●髙栁
コロナがある程度収束しても在宅ワークをしている方が結構いて、それが生活ログからも見えてきています。例えば、30代の男性会社員の方の生活ログを読み解くと、今までにない、ちょっとユニークな暮らし方をしているのがわかるんです。在宅ワークしていることは生活ログからすぐわかるんですが、細切れに仕事の時間と家事の時間を行ったり来たりしているというのが新しい発見でした。

もっと言うと、男性会社員のコロナ前の生活時間は、朝7時に家を出て、9時から夕方5時まで仕事をする仕事の時間と、帰宅後の家庭の時間がパキッと二つにわかれていました。それが在宅ワークが続くことで、午前中に仕事のミーティングをして、その後、自分で昼食を作って食べ、また仕事に戻り、夕方は子供を迎えに行き、戻ってきて仕事をするというような、仕事の時間と家庭の時間を行ったり来たりしていることが見えてきたんです。そして、そういう新しい暮らし方が見えてくると、じゃあ、そういう人に合ったサービスはなんだろうという、新たな問いが出てくると思います。

ライフスタイルの変化をキャッチする仮説力

―なるほど、それは確かに新しい発見ですね。分析が進めば進むほど、もっといろんな暮らし方が見えてくるのかもしれませんね。では、現在進めている分析やシステム運営に関して、何か課題はありますか?

●髙栁
やはりビッグデータを取り扱うので、その取り回しの部分で多少苦労しているところはありますね。データを受領して分析できる状態にする、その準備を一回一回やっているのですが、手数も相当かかるので、なるべく効率化できないかと考えています。無機質なデータを分析しながら、いかに新しい仮説を導き出せるか、日々、奮闘していると同時に、とてもやりがいがあるプロジェクトです。

●原
我々の分析やAIモデルが、お客様のライフスタイルの変化に追いついていけるかということも、一方で新しい課題だと思います。実は私自身、AIエンジニアとしてChatGPTの研究にも携わっているのですが、ChatGPTって2022年までのデータしか学習していないんです。
多分この先、我々のプロジェクトにも同じことが起きると思っていて、時代の流れがすごく速い中で、お客様のライフスタイルがどんどん進んでいるのに、我々が作ったAIモデルが追いついていないという状況が生まれるかもしれません。つまり、AIモデルが成熟する頃には、すでにお客様のライフスタイルが進んでしまっている可能性があるんです。だからこそ、我々は、お客様からいただいているデータから今のライフスタイルを掴みつつも、将来のお客様のライフスタイルを予測できるような分析やAIモデルを考えないと、本当に価値あるサービスが提供できないかもしれません。

データサイエンスにとって大事なのは、仮説力と検証力、それに実装力なんですが、プロジェクトが進めば進むほど、新しい事例に追い付く難しさと、それを予測する難しさが出てくるので、今回、博報堂というパートナーはすごく頼りになると思っています。とくに今までご一緒させていただいて、あらためて、博報堂の仮説力は優れているなと感じています。今回の取り組みでは、仮説力がないと、先々のライフスタイルを予見できないので。

●髙栁
ありがとうございます。おっしゃるとおり、博報堂は生活者発想をフィロソフィーとしていて、人々のライフスタイルや価値観を読み解くことがコアコンピタンスなんです。今回の分析では、さらにその長所を発揮していきたいと思います。

新たな価値創造に必要な、多種多様なパートナー

―今後は、データ分析から生まれた共創プラットフォームを、新たなビジネス開発につなげるためのパートナー募集というフェーズに入っていくわけですが、最後に、どんな領域のパートナーと組んでいきたいかということも含めて、プロジェクトの展望をお聞かせください。

●奥山
積水ハウスは、家の中のことに関してはある程度、知見が揃っているのですが、今後のパートナーに期待したいのは、「家の外」の生活者の行動に関する知見や情報だと思います。住まい手を理解するためには、「家の中の行動」に関するデータと「家の外の行動」に関するデータを組み合わせることがどうしても必要になってくるので、そこを一緒にやっていけるパートナーと組んでみたいです。具体的な事業者を想定しているわけではありませんが、例えば外出の時にはクルマに乗ったり、電車に乗って買い物に行ったり、そういう、「家」の外のサービス事業を担っている企業と組めたらいいなと思っています。
システム面では、現在のビッグデータをただ溜め続けていくと破綻するので、そこを分析できるために必要なものとして洗練させていきたいと考えています。もう一つは、セキュアな形でお客様のデータを預かり、しっかりお返しできるようなシステムを作っていかないといけないと思っています。
●小川(峻)
まずは、実際のデータを使ってサービスを開始していくことを想定して、すでに何社かと話は進めていますが、まだ明確なパートナーが決まっているわけではないので、ぜひこの機会に、今回のプロジェクトに関心をもっていただき、多くの企業と新しいサービス開発を一緒に進めていけたらと思います。早速、来年にはその足がかりとなるPoC(概念実証)などを作って、実際にデータを使ったサービス開発に取り組みたいと思っているのですが、数年先という中長期のタームではなく、なるべく短期的に取り組んで、いろいろトライしながら成果を上げていきたいですね。

●髙栁
先ほどから話に出ている「行動の源泉」や「生活モーメント」ということをいかに高い解像度で抽出できるかということが目下の目標ではあるのですが、やはり、その先にあるサービス開発が最終的なゴールだと思っています。つまり、住まい手の皆さんに、“こんなサービスが欲しかったんですよ”と言っていただける、真に住まい手の新しい幸せにつながるような分析を目指していきたいと思っています。
●小川(正)
この先30年の幸せを提供するという大きな目標があるので、積水ハウスの社内でも、もっと多くの人に声をかけると同時に、いろんな企業を巻き込んで、このプロジェクトで生まれる輪をどんどん大きくしていきたいですね。

●原
データに限らず、やはりお客様とのコミュニケーションをおろそかにしないことが重要ですよね。一方通行でデータをもらっていながら、まだお返ししきれていない部分はあるので、自分たちの分析が、お客様にとって本当に価値のあることだったのかを定期的にフィードバックしながら進めていきたいと考えています。

―なるほど。プロジェクトはスタートしたばかりですが、いろんな可能性に満ちていて、期待が高まってきました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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