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人とAIが並走する組織の最適解とは(後編)
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人とAIが並走する組織の最適解とは(後編)

博報堂DYホールディングス 執行役員/CAIO 兼 Human-Centered AI Institute代表の森正弥が、業界をリードするトップ人材と語り合うシリーズ対談「Human-Centered AI Insights」。

今回は、AI Work Transformation Companyを掲げるシンシアリー CEOの國本知里氏を迎え、博報堂でBPR(業務変革)に取り組む小林明子とともに、AIによる自動化・効率化の先にある、人間の能力拡張と組織の最適解について議論しました。後編では、都市部と地方の「AIデバイド(格差)」から次世代の育成や未来の働き方について議論を深めました。

>前編はこちら
 

地方の「フィジカルAI」成功モデルが逆輸入される可能性

ここから話題を変えて、都市部と地方の「AIデバイド(格差)」についてお聞きしたいのですが、國本さんのご意見をお聞かせください。
國本
あくまで個人的な見解ですが、現時点では都市部と地方でAI活用の差はかなり大きいと感じています。都市部ではAIエージェントの話が進んでいる一方で、地方へ行くと「生成AIを使い始めたばかり」という段階の企業も多い印象です。

しかし、ITやDXの基盤が十分でないまま無理に先端的な取り組みを進めると、失敗のリスクも高いですし、都市部で確立された成功事例やノウハウを横展開する方が効率的だと感じています。

WAIJでは、AIエージェントで業務変革を担える人材を地方で育成しています。こうした人材が、地域の企業課題を解決していく流れを作ることを目標に取り組んでいます。

地方は都市部以上に、人と人の関係性やフィジカルな側面が強い傾向があり、都市部のモデルをそのまま持ち込んでもうまくいかないケースが多いのではないでしょうか?だからこそ、地域ごとに適したAIの活用方法を一つひとつ見出していくことが重要であり、そうした取り組みが新たな示唆や気づきにつながる可能性もあるでしょう。

特に今後広がるフィジカルAIは、従来のデジタルAIとはまったく異なるアプローチが求められます。製造業の現場では、クラウドに接続されていない環境もまだ多く、「暗黙知」に依存する部分も大きいため、それをいかに「形式知化」してAIに組み込むかが鍵となります。こうした課題は、むしろ地方の製造業や一次産業にこそ顕在化しており、地域のノウハウや現場との親和性が極めて高い領域です。

國本
そういう意味では、地方で培われた「フィジカルAI」の成功モデルが、都市部に逆輸入される逆転現象も起こるかもしれませんね。
小林
組織規模が比較的コンパクトであることも、 AI活用が進む一つの成功要因であると思います。

博報堂のある組織では、「リソースが少ない中で、徹底的にAIで効率化する」というトップの強い意志があり、全社でも突出して活用が進んでいます。そして現場では、若手社員が自発的にAI活用の事例を共有する動きが、非常に活発に行われています。

「トップダウンの強い推進力」と「現場の自発的な取り組み」の両輪がうまく噛み合ったのだと感じています。

「AIを使わない場面」の選択

小林
日々BPR活動を進める中で、利活用推進の本質とは何だったのかと考えることがあります。各企業が成功と捉える基準や目的について、國本さんはどのようにお考えでしょうか。
國本
2年前は「使うこと」自体が目的でしたが、今では多くの企業が「AIを使ってはいるものの、何も変わっていない」という新たな課題に直面しています。

成果や効果をどう出すのか、そもそも目指すべき姿は何かなど、本質的な議論に移っているフェーズだと感じます。ただ、こうした課題は実際に使ったからこそ見えてきたものであり、最初からROIを求めすぎた企業は、逆に活用が進んでいないケースもあります。
また、全員がAIを使うようになると、その使い方やアウトプットの質にばらつきが生じるという課題も出てきます。そうなると、個人に任せるよりも、一定の品質を保てるAIエージェントを構築し、それを基準として運用した方が効率的ではないか、という議論にもつながっていきます。

今後は単に利用を広げるだけでなく、企業全体としてのAI活用レベルを底上げしていくことが重要になってくるでしょう。

小林
アウトプットの質でいうと、業務経験が浅い層がAIを使うと、“AIらしい”表現になってしまうこともあり、それがそのまま進んでしまうことに少し懸念を感じてしまいます。

そういう意味でも、豊富な経験と明確な判断軸を持っている層こそ、AIを使いこなせるのではないかと考えています。

國本
まさに、シニアの方がAIをうまく使えているのは、“判断軸”を持っているからなんですよね。業務経験が浅い層は、その判断軸がまだ形成されていないので、どうAIに指示していいか分からない。

なので、今取り組んでいるのは、そういった暗黙知や判断の基準を言語化してAIに蓄積していくことです。そうすると、AIに質問するだけで、その人の判断軸を学ぶことができ、現場での意思決定が早くなるだけでなく、若手の思考力も育っていくんです。

小林
そうなると、今後はAIの使い方だけでなく、教育や育成の設計が重要だと思いますが、それ以前に「人と人の関わり」で仕事の基礎力を身につけ、その上でAIを活用するという考えは時代遅れなのでしょうか。
國本
これからは、業務ごとに「AIを使うべき場面」と「使わない方がよい場面」を明確にし、適切に使い分ける指導が、これからの教育で重要になると思います。

特に業務経験を積まないうちにAIを使いこなせるようになった層は、AIでもっともらしいアウトプットがすぐに得られるため、「仕事をした感覚」になる時があると思います。メールを一通送るにしても、「受け手への配慮や気持ちを考える」という根本的な姿勢をどう教えるかが、今まさに求められていると言えるでしょう。

私の会社でも、ミスを犯した若手が始末書を書く際には、「これに関してはAIを使わずに書いてほしい」と伝えています。AIを使えば瞬時に、かつ綺麗な文章は書けます。しかし、なぜミスが起きたのか、どう再発を防ぐか、を考え抜くプロセスこそが本来重要なわけで、AIに任せきりで提出することは、何も学ばずに済ませたことと同義になってしまいます。

「AIに任せる領域」と「人間が決める領域」

クリエイティブディレクターである博報堂/SIXの藤平さんから仕事の進め方の話を伺ったとき印象的だったのが、仕事を「そもそも」「例えば」「つまり」の3つに分けるという考え方でした。

「そもそも」は前提や定義の確認、「例えば」は事例や選択肢の探索、「つまり」は結論や意思決定にあたります。考えてみると、このうち、「そもそも」と「例えば」はAIが得意とする領域であり、積極的に活用すべき領域です。一方で、「つまり」にあたる最終判断や方向性の決定までAIに委ねるのは適切ではありません。

AIで「そもそも」「例えば」を十分に回しながらも、「自分はどうしたいのか」という意思決定は人間が担う。この役割分担こそが、これからのAI活用の鍵だと考えています。

國本
AI活用に必要なスキルはいくつかポイントがあり、まずはAIが提示した情報や答えを疑う「クリティカルシンキング」が非常に重要です。これがないと、AIはただの情報共有ツールになってしまいます。

次に「具体と抽象のスキル」です。AIは「例えば」の部分で事例や選択肢を提示してくれますが、それを抽象的な概念と結びつけたり、逆に抽象から具体化して活かせるかが鍵になります。

さらにAIが提案した内容によって何が起こり、どのような効果が得られるのかというところまで掘り下げなければ意味がありません。AIを単なるツールとして使うのではなく、成果や目的に結びつける「アウトカム思考」も不可欠になります。

いろんなエグゼクティブの方と話しても、「これからの新人教育はどう考えるべきか?」という質問をいただくので、本当に業界共通の“悩み”として認識されていると感じますね。
國本
シンシアリーが採用したインターン生にも、思考力やクリティカルシンキングに優れ、かつ好奇心旺盛でAIを使いこなし、中途10年目並みの質の高いアウトプットを出す人材もいます。そのような人材は、新卒という枠にとどまらず、積極的に活躍できる場を用意しなければもったいないと強く感じています。

一方で、入社後に伸びるタイプもいるため、両者の二極化に対してどうギャップを埋め、最適なキャリアパスを提供できるかが、これからの新人教育における最大の課題だと捉えています。

そうした流れを踏まえると、新卒を一括で採用し、自社に合わせていく育成モデルは、転換点を迎えるのかもしれません。企業も変わっていることをしっかりと示すことで、主体的にAIを活用できる“覚醒する人材”を増やせるのではないでしょうか。
小林
AIによって全てが淘汰される、や、人間を減らそうという発想ではなく、さらに私たちのクリエイティビティを高めるにはどうすればいいかを追求したいですよね。

“人間らしさ”を無視しない形で、AIと共存し、人間の創造性をさらに解放する。そんな働き方を目指していきたいなと。

博報堂には「粒ぞろいより、粒ちがい」というカルチャーや、「正解より別解」という言葉があります。AIが普及する時代においては、こうした価値観こそが、“人間らしさ”を求める起点となり、クリエイティビティの源泉になっていくのではないでしょうか。
國本
働き方の観点で言うと、将来的には「週5日・8時間」という枠組み自体が不要になる時代が来るのではないかと考えています。しかし現実には、介護や育児などさまざまな事情で「週5の正社員は難しい」という優秀な人材が数多く存在し、その能力が活かされずにいる。これは極めてもったいないことですよね。

週2日や週3日、あるいは1日数時間といった柔軟な働き方でも、成果で評価される仕組みに変わっていけば、社会全体は大きく変わるはずです。その実現に向けては、企業の仕組みや制度自体を再設計することが不可欠だと考えています。

お二人が大切にされている「人間らしさ」や、日々のクリエイティビティを支えるエネルギーの源についても伺いたいです。最後になりますが、プライベートでの趣味について教えてください。
國本
私は年間30公演以上も回るほど、ライブが好きなのですが、AIによってあらゆることが自動化され、余暇の時間も増えたとしても、「推し」を追う体験はロジカルに説明できない魅力があります。

推し活が心を動かし、感動を与え、幸福感を生むというのは、AIにはまだ作れないものです。まさに、人間らしい感動体験にこそ価値があり、AIはそれをさらに高める方向で活かせるのではないでしょうか。

小林
國本さんと同じく、アーティストの「推し活」が生きがいです。ライブで魅せてくれる"音源よりも素晴らしい歌声"や"実際に動いている姿"は、AIがどんなに発展しても取って代わる事はない"人間の魅力"だと思っていて、これからも応援し続けたいです。

※肩書は取材当時のものです 

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  • 國本 知里氏
    國本 知里氏
    シンシアリー株式会社 代表取締役CEO
    早稲⽥⼤学⼤学院卒業後、SAP・AI スタートアップにてSaaS・AI領域の大手向けコンサルティング営業・事業開発に従事。その後、1 社創業し AI 領域の事業開発支援・DX特化ハイクラスエージェントを⽴ち上げ。2022 年に シンシアリーを創業し、企業向け生成AI人材育成・AI定着化コンサルティング・開発事業等、AI Work Transformationを推進。女性のAIリスキリングに取り組む、一般社団法人Women AI Initiative Japan 代表理事。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。一般社団法人 生成AI活用普及協会 常任協議員。「ビジネスパーソンのためのChatGPT活用大全」「クリエイターのためのChatGPT活用大全」監修・Amazonベストセラー1位。
  • 株式会社博報堂DYホールディングス執行役員Chief AI Officer/
    Human-Centered AI Institute代表 
    1998年、慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社、インターネット企業を経て、グローバルプロフェッショナルファームにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。  

    内閣府AI戦略専門調査会委員、日本ディープラーニング協会顧問、慶應義塾大学 xDignity (クロスディグニティ)センター アドバイザリーボードメンバー。   

    著訳書に『ウェブ大変化パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『グローバルAI活用企業動向調査 第5版』(共訳、デロイトトーマツ社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。
  • 株式会社博報堂
    経営デザインセンター経営企画室 経営企画室業務DX推進部 部長
    2005年博報堂入社。営業職として、多様な領域を経験後、2024年より経営企画室にて、全社へのAI導入を担当。2026年より現職にて、博報堂でのDX推進を担当する。

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