10代のメディア活用のココがすごい! 好奇心とテクノロジーを武器に創造性を高める「イノベーターティーン」とは @メ環研プレミアムフォーラム2023冬
いつの時代も、10代は常に未来のメディア環境を先取りして、メディアの使い方にイノベーションを起す存在です。例えばメディア環境研究所は2009年に携帯電話をお風呂場に持ち込み映像を見る10代の姿を紹介し驚きをもって迎えられました。しかし、携帯電話はスマートフォンへと変化し、今やそれは当たり前の光景となりました。
そして2020年代のティーンは、SNSはもちろん生成AIなどのテクノロジーを相棒のように使いこなしながら、好きなことを見つけ、発信し、学校や地域を超えた仲間とつながり、自己実現をしているのです。
今回、メディア環境研究所プレミアムフォーラム2023冬「イノベーターティーンのメディア生活」では、10代のメディアとの付き合い方に着目し、彼らの意識や行動を通じて、未来に求められるメディア像を議論しました。プレゼンターはメディア環境研究所の山本泰士GMと野田絵美上席研究員です。
ティーンから見えてきたイノベーティブなメディア生活
コロナ禍がテクノロジーの利用を後押し
新しいテクノロジーを使いこなす若者というと、ほんの一部の天才を想像する方もいるかもしれません。しかし10代の最新テクノロジーへの接触の状況を調査したところ、イノベーターティーンは決して特別な存在ではないことが見えてきました。
- 山本
- 1年前から普及し始めたChatGPTの利用経験率は10代で42.8%。オンライン空間に集まって遊んだ経験がある10代は44.0%といずれも全年代で最も高い比率でした。最新テクノロジーを日常生活で活用することは彼らの生活の中ではすでに当たり前になりつつあります。
インタビューからも、彼らがテクノロジーをいかに身近に用いているかが見えています。
- 山本
- 中学3年生のRさんはプラモデルやカードゲームが好きな、一見すると年相応の普通の少年ですが……。
一見普通の中学生がなぜテクノロジーを活用して配信を始めたのでしょうか? その理由をRさんはこのように話しました。
同様の意見は、中1になって動画投稿をはじめ評判になったOさん(中学1年 / 東京都)からも出ています。
メディア環境研究所が行った調査でも、10代の44.6%が「コロナ禍によって写真や動画、ゲームなどを 自分で作りたい気持ちが高まった」と回答。多くの10代がコロナによってテクノロジーを使った創作、発信に関心を持ったという実態が見えてきました。
- 山本
- イノベーター理論では、2.5%の希少な人々がイノベーターだと定義されていますが、イノベーターティーンの場合は圧倒的少数ではないのです。大多数のティーンがコロナ禍を経て、テクノロジーを活用した新しいメディア行動へと動き始めています。
ティーンのメディア生活3つのポイント
イノベーターティーンへの理解を深めるために、メディア環境研究所では専門家を交えたチームによる10代へのインタビューとティーンのメディア利用に関する意識調査を行いました。
まず前提としてティーンがもっとも長く接触しているメディアはスマホで、特にSNSや配信プラットフォームのタイムラインを頻繁に利用しています。そのなかで情報を「知る」という行動だけでなく、自分のつながり作りや表現活動も行っています。
当然、タイムラインに流れてくる情報は玉石混合です。フェイクニュースや炎上だけでなく、気づかないうちに闇バイトに勧誘されていることも。しかし、ティーンはその状況をよく理解しており、意識してマイナス情報を回避し、自然とプラスの情報が入ってくるように積極的に環境を整える知恵を持っていたのです。
調査を進める中で彼らのイノベーティブなメディア生活には3つのポイントがあることが見えてきました。ここからは、野田絵美上席研究員が説明します。
1:アルゴリズムを使い、脱フィルターバブル
1つ目は「アルゴリズムを使い脱フィルターバブル」です。それでは具体例を見ていきましょう。
みなつさんは、アルゴリズムの特徴に気がついていました。10代でこのアルゴリズムをよく理解している人の割合は全世代の中でも突出し、過半数を超えています。
さらに10代の55.4%がアSNSやネットは自分の見たい情報ばかりが流れてきて情報が偏るリスクがあることも認識していました。10代のアルゴリズムへの理解度は他の世代より大変高いと言えます。では彼らは新しい情報を取りに行くために何か対策をしているのでしょうか。
- 野田
- 無意識に使っているとアルゴリズムによってフィルターバブルに陥り、情報が偏りがちです。そんなとき情報をスマホの外に取りに行くだけでなく、アルゴリズムを攻略してしまうのがティーンのすごいところ。アルゴリズムを理解した上でフィルターバブルを打破し、かつ未知とも出会っている姿が見てとれます。
2:量を使い、質を学ぶ
彼らは何か学びたいと思ったらまず無料動画で学んでいます。無料動画での学習自体は幅広い世代で行われ、10代では7割以上が無料動画を学びに利用しているそう。ティーンの特徴はインプットの量を質にまで変えている点にあります。
- 野田
- コンテンツを大量に視聴することで、知識だけでなく、長年の練習で得られるような感性的なアイデアにまで達しています。すごいなと思いましたね。
その一方で彼らはネットの情報は氷山の一角であり、深いところは人にアクセスしないとわからないことも理解しています。
では、深く知識を得たいときイノベーターティーンはどうするのでしょうか? 彼らはネット上の大量のつながりを使って、直に学び取りに行っているのです。
- 野田
- 大学教授に相談したければ、まず受験を経て教授がいる大学に入学し……と一昔前の世代なら発想するところかもしれませんが、10代は「メールアドレスがネットにあったので直接聞けばいい」という発想なんですね。実にフットワーク軽くし、ネットの中のつながりを駆使して、チャンスを獲得しているのです。
ティーンは、ネット上にある大量のコンテンツをうまく利用することで知識はもちろん、感性まで高速学習しています。そしてネットにない深い情報に関しては、SNSなどのつながりから学び取りに行くことも特別なことではないのです。
3:発信を使い、自己強化
ここでいう発信はよく言われる承認欲求を満たすためだけの発信ではありません。ティーンにとって発信とは「好きなことを社会に発信して、力試しする」という側面があるのです。
現在、大学2年生の宮﨑さんは中学生の頃からSNSを活用し自分の文才がどうやったら伸びるか力試しをしていました。
宮﨑さんは成績だけで満足せず、文才を社会の実践的な場で試し、ブラッシュアップすべき自分の強みを見つけています。しかし、発信には炎上リスクがつきもの。ティーンたちはそれも、迷惑系YouTuberの炎上などSNSの事例から学び取っています。
- 野田
- 大人は「10代がスマホで何をしているのか見えない」と言いますが、10代からは大人の様子がよく見えているんですね。それを反面教師にし、自身は社会に対して知性的に発信し、力試しをして成長しているのです。
オープンな場で力試しをした結果、自己強化にまでつながった例もあります。中学1年生の動画クリエイターであるOさんはYouTubeの利用規約が定める13歳になったタイミングで映像作品をアップし始めました。1
ボカロの曲の文字PVなのですが、公開後1カ月で5.8万回も再生され、たくさんの好意的なコメントが寄せられています。Oさんは、コメントはモチベーションにつながると話します。また発信したことで同好の仲間とも出会うことができました。
- 野田
- Oさんは発信したことで、気持ちにもスキルにも働きかけて自己強化をしてくれる仲間ができました。やりたいことや興味が同じ仲間とつながることは、自分にとってプラスな情報が集まりやすい。彼らは共感の仲間を作って自由に活動し、時に学び、励まし合って自分を強く育てているのです。
イノベーターティーンの好奇心と向き合う3つの道具
これら3つのポイントからイノベーターティーンとは「アルゴリズムを攻略し、膨大な情報とつながりから深く学び興味を発信することで、自分を強めるつながりを生み出す人々」と定義することができるでしょう。
好奇心を起点に、テクノロジーを味方につけ大きく成長していく。この動きは今後さらに加速すると考えられます。そんなイノベーターティーンに使ってもらえるメディアとはどんなものなのでしょうか。インタビューから彼らに提供すべき3つの道具が見えてきました。
道具1:好奇心をたきつける「視点」
アニメ好きのYさんの場合、当初はただ視聴していただけだったところ、友人から「実はこのキャラクターにはこんな生い立ちがあって……」といわゆる「布教」を受けました。詳しく教えられたことで「そんな見方があるんだ」「もっと知りたい」と思い、関連資料や制作者の声、ネットの考察を読み漁り、どんどんハマっていったそうです。
- 野田
- ここでのポイントは、好奇心をたきつけるとは、1つの絞られた結論ではなく、多様な視点や問いを提供することだと言えます。
道具2:好奇心をドライブする「材料・つながり」
シンセサイザーにハマり、プロのシンセサイザーのアーティストに指導を願い出た美羽さんは、アーティストを探すのに楽曲のスタッフリストを参考にしていました。
完成したコンテンツそのものだけではなく、完成までの背景や携わったプロの人材や知見を開示することでティーンの好奇心をさらにドライブできるのではないでしょうか。その材料やつながりはティーンにとってコンテンツ同様に宝物になるはずです。
道具3:好奇心を成長につなげる「場・機会」
ティーンの発信したい気持ちを成長につなげるには、場所や機会の提供が重要です。動画クリエイターのOさんの例であったように、10代ではLINEオープンチャットやDiscordのようなオープンなオンラインコミュニティの利用経験が非常に高くなっています。彼らにとって居心地のいいコミュニティとは、興味に応じて、好奇心のあるとき自由に出入りでき、本当に興味のある人だけが集まる場所です。
- 野田
- 本当に好奇心を持ったときに、年齢も関係なく素直に共感し合ったり刺激し合えたりする場所、決して無理強いされることなく、出入り自由な小さな仲間・場であるということがポイントです。
SNSや配信プラットフォームの普及、AIなどテクノロジーの進化により、情報へのアクセス、発信、創造のハードルが従来よりもグッと低下しました。「やってみたい」が叶いやすくなった、つまり好奇心があれば誰もがイノベーターになれる環境が整いつつあるということです。
そんな中で、ティーンがメディアに期待することとは情報を効率的に届ける存在であること以上に「好奇心の導き手」ということではないでしょうか。彼らに寄り添いながら、好奇心をたきつけ、ドライブさせ、そして成長にもつなげていく。メディアによる好奇心ナビゲートは5年10年先を築くティーンたちはもちろん、私たち大人世代に向けても今後とても重要な役割になると言えそうです。
(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)
※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。
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博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 グループマネージャー兼上席研究員2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとしてコミュニケーションプラニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?~情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等
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博報堂DYメディアパートナーズ
メディア環境研究所 上席研究員2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。