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文系人材は、データ畑でどう生きるか。
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文系人材は、データ畑でどう生きるか。

初めまして、横井です。
入社以来6年間、データドリブンマーケティングに従事して、“データシェフ”を名乗っています。
この連載は、「新米~若手のデータマーケターが“ハマりがちな罠”と“転ばぬ先の杖”」をお裾分けしていくものです。

第一回は「文系人材は、データ畑でどう生きるか」について。

私はこの論点に悩んでいた一人。紆余曲折の末に「データシェフ」という答えを出しました。

順を追ってご説明します。

まず、データ畑では何を求められて、どのような人材がいるのか?

私が新卒で配属となったデータドリブンマーケティング部署のミッションは「データから価値を創出し、マーケティング成果へと導くこと」で、現場ではお得意先の顧客データ・売上データ・調査データ等を分析し、課題や施策効果を明らかにして、アクション提案へと繫げる日々を送ります。

そのため、新卒メンバーに求められることは大きく2つ。
【スキル】
・Excel・PowerPointの基本オフィススキル
・Rやpythonによる統計解析
・AccessやSQLによるデータハンドリング
・Tableau等によるデータビジュアライズ  等
【知識】
・統計学
・データマーケティング概論
・広告ビジネスの基礎

このようなスキル・知識への興味と大学時代での学習経験を買われてか、新卒メンバーは理系出身者(情報科学・物理・数学など)が目立ちます。(もちろん、文系出身者も少なくありません。)

このデータサイエンスの習得を求められる職場環境で、私のような「統計は偉大だと思うが、夢中にはなれない」タイプの文系人材は苦悩します。なぜなら、「仕事だから、身に着けなければならない」というMUST感でデータサイエンスと向き合うので、夢中になれるタイプに比べるとどうしても習得の質とスピードで敵わない。

事実、私は社会心理学を専攻し、コピーライター養成講座に通い、博報堂ケトルの嶋さん・木村さんのようなクリエイティブディレクターに憧れて広告業界の門を叩いた人間のため、統計検定2級の突破ですらヒーヒー言い、RやAccessなどは“業務上必要となった部分だけ” に取り組んでいました。結果、新卒4年目の時点で既に、新卒2年目の夢中タイプ人材に比べてデータサイエンススキルでは見劣りしていました。

すると、「この先、データ畑でどう生きていこう?」と悩みます。
その時、データ畑で大活躍中の3つ上の先輩に注目してみました。

自分と同じ文系出身で、興味はサイエンスよりマーケティングにあるにも関わらず、なぜ先輩はデータ畑で活躍できているのか?

一つの大きな違いは、新卒時での配属でした。先輩は営業部署、私はデータ部署。営業部署からデータ部署に移籍してきた先輩だからこそ、活躍できる理由があるのではないか。

聞いてみました。
先輩「営業では『お得意先に寄り添い、おもてなす精神』を特に鍛えられる。その上で自分は、次の3つが大事だと思って取り組んできた。一つ、マーケティング思考。二つ、プロジェクトマネージメント。三つ、会議を制すファシリテーション。」

「データ分析スキルはどうなのですか?」

先輩「分析スキルは勿論重要。しかし、あくまでも手段。手段の前に『目的とプロジェクト設計の合意を取る』ことが肝要。だから、この3スキル。」

感銘を受けた私は、この3スキルの研修を受けて、書籍を片っ端から読み、仕事においてもデータ分析パートだけでなく、プロジェクト設計・戦略立案・ワークショップ開催などを担当させてもらうことで、スキルを会得していきました。特に、この3スキルは私の興味と合致していたので、夢中で取り組めました。結果、「データサイエンスのスキルでは敵わないけれど、データドリブンマーケティングにおける『目的とプロジェクト設計の合意作り』の部分では負けないぞ」と歩むべき道がハッキリし、悩める日々を抜け出しました。

そこで、ふと、一つの疑問が湧きました。
データサイエンティストは、次の3つの力を求められるが、
1, データサイエンス力 (統計学や情報科学に関するスキル)
2, データエンジニアリング力(プログラミングやアルゴリズムに関するスキル)
3, ビジネス力(ビジネス課題を整理し、解決する力)
なぜ、自分のように、若手はビジネス力以外の2つに傾倒しがちなのか?

私の仮説は、ビジネス力に比べて『上達が目に見えて分かる』から。たとえば、昨日まで使えなかったエクセル関数を覚えたら、1時間かかっていた作業が5分で済んだ。統計解析ツールRで新しい関数による統計解析ができるようになり、上司に褒められた。このような体験を初期に積むと、ビジネス力の重要性がピンとこず、データサイエンスとエンジニアリングに傾倒していくのではないか。事実、私はそうでした。

そして、行き着く先は「データ分析の目的化」の罠です。
データ分析から価値が生まれるのは、「分析結果によってビジネスの打ち手に良い変化を生めた時。(&実際にアクセス数アップなどの目的を果たせた時)」であるにも関わらず、「データ分析には、それだけで価値がある」と誤認している状況です。

では、「データ分析の目的化の罠」をどう回避するか?

私は、とあるマンスリーレビューの席でお得意先に叱られたことで目が覚めました。

私は「テレビCMのCPR(効率)は、気温との相関が特に強いです。」と、統計解析ツールRのpairs.panels関数を使った相関分析の結果をご報告。(内心、良い分析したぞ!と自信満々。)

お得意先「うーん。分析結果は分かったけど、気温はコントロールできないから、施策に繋がらない。博報堂さん、分析のための分析になっていませんか?」というフィードバックを受けて、ハッとしました。

その帰り道、社内の営業部長から「今後は、“施策のための分析”を意識しよう。『面白い分析か?』ではなく『打ち手が変わる分析結果か?』が君の新しい判断基準だ。」とアドバイスを頂けたことで、私は「データ分析の目的化の罠」を自覚し、対策を練れるようになりました。

しかし、「打ち手が変わる分析結果か?」でチェックをするようにしても、「打ち手が変わる分析結果」を出せるようになる訳ではありません。その方法が分からないと、結局手元にあるデータから無理やり打ち手の提案に繫げてしまい、チームから論理の飛躍を指摘される始末。

そこでカギとなるのが、先ほどの3スキル「マーケティング思考・プロジェクトマネージメント・ファシリテーション」だと思っています。分析マンにこの3スキルが備わっていると、「マーケティングの現状と課題をデータからあぶり出し、必要となる打ち手を明らかにし、周りを巻き込んで解決していく。」ことが可能になるから。

つまり、「ビジネス力に特化したデータサイエンティスト」という存在が、統計解析に秀でたデータアナリストと同様に、データドリブンマーケティングプロジェクトの成功には欠かせない、と思っております。
さらに、この「ビジネス力に特化したポジション」は、私のような人文科学に興味のある文系人材が、データ畑で生きる道の一つと言えます。

この時、「ビジネス力に特化したデータサイエンティスト」は長くて言いづらいため、
「まるで料理をするように、データをさばき、戦略をこしらえ、顧客を喜ばせる」という覚悟を込めて

『データシェフ』

と名乗ることにした次第です。

次回からも、このような形で、データドリブンマーケターがハマりがちな罠と、転ばぬ先の杖の一つを、お裾分けしていこうと思います。
お読みいただきありがとうございました。

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  • 博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部 データマーケティング二部
    「まるで料理をするように、データをさばき、戦略をこしらえ、顧客を喜ばせる」という想いから、データシェフを名乗って活動中。
    慶應義塾大学卒業後、6年間一貫してデータドリブンマーケティングに従事。
    (筆者肖像制作: 榎本デッサン堂)

    参考:データビジネスデザイン事業本部の紹介・採用サイト