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CES2021 ~メディア・コミュニケーション視点での注目トピック~【Media Innovation Labレポート.13】
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CES2021 ~メディア・コミュニケーション視点での注目トピック~【Media Innovation Labレポート.13】

2021年で54回目の開催となる、世界最大の「テクノロジーとイノベーションの祭典」CES。例年、大企業からスタートアップまで、自社の製品やサービスを通して未来の生活を提案し、自社のスタンスを表明する場となっています。オンライン開催となった今年のCESにおいてのメディア・コミュニケーション視点での注目のトピックについて、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の加藤薫とデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の永松範之がレポートします。

■XRで生まれる新エンタメジャンル

加藤
まずXRのカテゴリーで印象的だったのは、フランスのスタートアップによる「モデルヨットクラブ」。ホロレンズをかけると湖面にバーチャルのヨットが浮かんでいて、迫力あるヨットレースが複数人で楽しめるというもので、XR系eスポーツとして主にフランス国内で大会も開催されているそうです。空間コンピューティング、ARやXRにおける空間体験の共有については博報堂DYグループ内でもチャレンジが進んでいますが、これは面白い事例だと思いました。
永松
今年はこうした、具体的な活用シーンを明確にした事例が多々ありましたね。
加藤
そうですね。XRで現状使われているグラスは今後どんどん軽量化すると言われていますが、実際に今年はパナソニックが眼鏡型の小型軽量なVRグラスを発表していました。マイクロOLEDパネル(5K)搭載で、将来的に5Gスマホにも接続できるそうです。ハードウェアの着実な進化が感じられました。
永松
今回はオンライン開催ということもあり、バーチャル上での映像制作、撮影技術も目立ちました。ソニーの事例ではMadison Beerという、アーティストの動きをスタジオに設置した数十台のカメラでキャプチャー、3Dスキャンしてアバターを作成し、バーチャル空間と同期させてライブを行うというものがありました。こうしたリアルとバーチャルの連携事例がいくつかありました。
加藤
過去のMedia Innovation Labレポートでもエンタテインメントに活用されるゲームエンジンについて紹介しましたが、Unityが出しているMR開発ツールが、今回イノベーションアワードを獲って、踏み出している感じがしました。また、昨年キヤノンが川崎につくったスタジオでは、100台を超える4Kカメラと独自の画像処理技術で、撮影とほぼ同時に3DCGで再現、映像化できるようになっています。
永松
それから、バーチャルヒューマンテックというカテゴリーも印象的でした。バーチャル上に人を表現する技術を使い、接客などに活用するシーンがかなり訴求されていましたね。
昨年、CES2020で初出展したNEON社のブースの様子(加藤撮影)
加藤
そうでしたね。サムスンが提携しているNEONというスタートアップは、昨年初めてCESに登場し、「バーチャルヒューマンのコンセプトモデル」というさまざまな年齢や人種の「人工人間」をディスプレイ内に閉じ込めたようなデジタルサイネージを数十枚展示していて、すこし気味が悪いくらいの迫力を醸し出していました。現地のプレス関係者のあいだでは良くも悪くも話題になっていたプロダクトです。しかしこの1年の間で、例えばテレビ番組で、遠隔参加している出演者がスタジオ内のディスプレイに表示されるような形態が非常に増えたので、私たちはこういうシーンをかなり見慣れてきました。ですから昨年のすこし不気味な印象は消え去り、今年は「接客やコミュニケーションサービスとしてありかもしれない」という印象を受けたのは事実です。ディスプレイの中に何らかの役割を持ったバーチャルヒューマンがいて、モニターの前にいる人の動きや表情を見ながらフィードバックを行う、そのためのオーサリングツールも用意していますよというNEONの提案は、今となってはあまり違和感なく、実現の可能性を感じました。

いまバーチャルヒューマンというと、SNS上でコミュニケーションしてくれるアカウント運用とビジュアルが一体化したものや、いわゆるバーチャルアイドルのようなものが多いですが、この事例の場合は中にいるのは企業側の人格なんですね。デパートのインフォメーションや空港の案内、化粧品のアドバイス、子どもと遊ぶ、ヨガのレッスンをする…そういった役割を持たせたバーチャルヒューマンのありかたを提案していました。実際にプロモーションでも、自社がデザインしたバーチャルヒューマンを使って自社製品を紹介するなど、広告コミュニケーションと近接する領域になっていると思います。我々も得意先用にこういったバーチャルヒューマンを開発したり、美容部員のような専門性に特化したものを開発したり、あるいは生活者のエージェントとなるものを開発したり……さまざまな可能性があると思いました。

永松
確かにバーチャルヒューマンというと、バーチャルアイドルのようなものを想像してしまいますが、アイドルのようなキャラクター性はなく、場面ごとに応じた役割を負わせた汎用人工人間という感じでしたね。
加藤
NEON社の担当によると、今年のCESの発表を機に問い合わせが殺到しているそうで、街中にどんどん出てくるのも遠い未来の話ではない印象です。韓国では2022年のローンチを計画中とのことです。
永松
ロボットも結構ありましたね。サムスンのBotHandyはアームが付いていてモノを掴むことができるので、食器を食洗器に入れるとか、衣類を洗濯機に入れるとか、自律的に動いてくれる。このように、ただ認識して提案するだけではなく、自律行動を伴うようなロボットの提案がいくつもありました。
加藤
まだプロトタイプではありますが、アナリストやメディアにも好意的に受け入れられていましたね。ほかにも、JetBotという自分で掃除エリアを判断するお掃除ロボットや、Bot Careという、プロジェクター自体が必要な情報を表示した状態で家中をぎゅんぎゅん動いて、例えば「永松さんからコールあります」などとお知らせしてくれるような、生活者とやり取りができるロボットも出てきました。

日本企業でいうと、NTTがスポットライトセッションで話した内容が印象的でした。NTTグループは現在、光電融合の半導体をベースにした光技術により、すべてのネットワークを光にして通信のエネルギー効率を向上させていく「IOWN」という構想を提唱しているそうです。これは、ネットワークおよびデバイスまで巻き込んだスケールの大きな構想です。身近なところでは、たとえばメジャーリーグの試合観戦などで、5G、6Gで遅延のないネットワーク状態がつくれれば、スタジアムではなく自宅やパブリックビューイングで観戦している人の歓声も、リアルタイムでスタジアムにフィードバックできるようになる。生活者としてもワクワクするような非常に素敵な構想だと思いました。ちなみにこれはCESとは関係ない話ですが、先日、中国のテンセントミュージックが行ったミュージックフェスティバルでも、100カ所くらいのパブリックビューイングの歓声を5Gで本会場に戻すという試みをすでに行っています。

出展社のなかには、非常に工夫を凝らしたランディングサイトが目立った企業もありました。P&Gのブースは、自分のアバターを設定するところまではかつてのセカンドライフ的なのですが、マイクをオンにして中に入るのがポイントです。ブースに入ると、P&G側のスタッフたちが「何が知りたい?」「環境の取り組みについて紹介しましょうか?」と次々と話しかけてきて面白かったですね。日系企業では、NTTがもともと持っている3D空間型の「DOOR」というオウンドメディア上にCES特設グローバルサイトをつくっていたのが、印象的でした。

■オンラインコンベンションの課題

加藤
今回のオールデジタルのCESに参加してみて、全体を通じて感じたのは、こうしたオンラインコンベンションはまだまだ改善できる余地が非常に大きいということ。例えば、プレスカンファレンスはテレビ番組のような形でつくりこんでいるものの、その後実際の関心層のリードにつながっているのか、バーチャル空間でより踏み込んだ製品やサービスの体験ができているのかといった点になると、手薄だったりする。バーチャル空間出展計画と獲得系マーケティングも同様で、すべてが高次元で統合できているプレーヤーはまだ少ないと感じました。この課題に対しては広告会社も工夫をこらして貢献すべき領域ではないかと思います。
永松
確かにそうかもしれません。番組化という意味では、各社の特徴が非常に出ていました。きっちりセットをつくって撮影したものを流していたり、CGを駆使してバーチャル空間に人とプロダクトを合成してうまく見せていたり、巨大なディスプレイ前でプレゼンしているのに建物の前にいるように見せていたり。各社、訴求内容を上手に番組化できていたブースは評価が高かったですね。また、こうしたバーチャル空間の制作に先ほども出ていたUnityなどのゲームエンジンを活用するケースも確実に増えていました。
加藤
オンラインでの開催は移動がなくてよいのですが、実機を触りたいという欲求はあるので、おそらく将来的にコロナが収束しても、オンラインとリアルな体験の場を併用するやり方が続くと思われます。例えば今年は、日本のスタートアップ企業支援の一環で、JAPAN TECHという枠組みで、オンラインでのCESと同時期に関連プロダクトを有楽町でリアル出展していました。オンラインで情報を見てもらいつつ、そうした場で実機に触れてもらうという試みですね。

国としては、ジェトロが日本のスタートアップ51社のオンライン出展を後押しし、商談やマッチングも積極的に行っていました。一方海外のスタートアップで見ると、突出していたのは韓国勢です。切り口違いで20くらいのまったく違うスタートアップのかたまりが出てきています。去年からは「スマートソウル」というくくりで、次世代エンタメ、スマートシティなどさまざまなカテゴリーで存在感を出しています。フレンチテックは、いままでは特にハードウェアにおいて注目を集めていましたが、今年はリアルに実機に触れることができないため、ソフトウェア系にシフトし、国として支援しています。

永松
そんななか、イノベーションアワードでゴールドを受賞したVanguard Industriesという 日本のスタートアップもありましたね。もともとドローンなどハードウェアデバイスの開発をしていたそうですが、今回「MOFLIN」というペット型ロボットを開発しました。動きや鳴き声がかわいらしくて、非常に受けていました。
加藤
私も発表をみて欲しいと思ったのですが、もう一旦注文を締め切っていました(笑)。問い合わせが殺到しているそうです。Vanguard Industriesは獲得系マーケティングとウェブPRに振り切っていて、今回の受賞を基点に非常に上手にプロモーションを進めていました。
永松
また、米国の別の企業では実用に特化したKodaというロボットドッグも出展されていました。実用に特化ということでかわいらしさはないのですが、将来的には盲導犬のような機能を持たせられるよう想定しているそうです。

■CES2021を通じて感じたこと

永松
まず大きく3つ、コロナ、DX、サステナビリティという課題があり、それに紐づく形でさまざまなプロダクトが出てきていました。クリーンテックで言うと、非接触のタッチレスUI、顔認証や音声やモーションで動作をコントロールする技術、UVCに関係する技術も多かったですね。ヘルスケアで見ると、取得しているデータが多種多様化しているのを背景に、たとえばにおいセンサーで健康を判断するTOTOのスマートトイレや、血管に光を当ててデータを採取する非侵襲計測器など、技術の高度化が進んでいました。ホーム系では、家事ロボットにもAIがどんどん導入され、判断能力の高度化が進んでいます。XR系では、単に生成するだけではなく、リアルタイムで音声表情行動を生成同期したり、ボリュメトリックという形で、現実空間をそのままバーチャル上に再現したりする技術のトレンドがありました。そしてモビリティにおいては、自動運転周りは、今回は一旦休みといった感じでしたが、ひとつひとつの部品の高性能化が目立ちました。LiDARという物体認識センサー技術や、EVの根幹となるような、コバルトフリーや太陽光を活用したソーラー電池などの活用例が出てきていました。要素技術の実現高性能化が進んでいた印象ですね。
「経済が厳しい状況であるほどイノベーションは加速する」(クリストファー・フリーマン)CES主催団体CTA発表資料より
加藤
そうですね、パンデミックのさなかであっても、各社が着実に実装に向けた次の一手を進めてきていましたね。今年、CESの主催者であるCTAの発表では、「経済が厳しい状況であるほどイノベーションは加速する」という英国の経済学者クリストファー・フリーマン氏の発言が引用されて話題になっていました。まだ予断を許さない状況が続くこの一年を通じて、まさにイノベーションは進んでいくのだと思います。その決意をさまざまなプレーヤーが、グローバルのステージで表明していたのがCES2021だったのではないでしょうか。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アドトランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

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  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 主席研究員
    1999年博報堂入社。菓子メーカー・ゲームメーカーの担当営業を経て、2008年より現職。生活者調査、テクノロジー系カンファレンス取材、メディアビジネスプレイヤーへのヒアリングなどの活動をベースに、これから先のメディア環境についての洞察と発信を行っている。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局長
    2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に『ネット広告ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。