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生活者インターフェース市場を捉えて 企業と生活者の愛される成長をつくる
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生活者インターフェース市場を捉えて 企業と生活者の愛される成長をつくる

日経オンラインセミナー<デジタルで「つながる」時代の事業経営・マーケティング戦略 ~事業成長に必要な顧客目線のDX・CXとは?~>において、博報堂の茂呂譲治が登壇。イーデザイン損保の小野瀬学氏と、「生活者インターフェース市場」をどう捉え、企業やブランドの成長と愛をつくれるか、語り合いました。

登壇者:

小野瀬  学
イーデザイン損害保険
チーフ・クリエイティブ・オフィサー
東京海上ホールディングス デジタル戦略部 プリンシパル

茂呂  譲治
博報堂
生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 局長
HAKUHODO CX FORCE リーダー
エグゼクティブ・クリエイティブディレクター

(所属・肩書は取材当時のものです。)

イーデザイン損保の事例に見る
生活者インターフェース市場におけるビジネスのあり方

茂呂
本日のテーマである「生活者インターフェース市場」という言葉について、まずは私から説明します。生活者インターフェース市場とは、スマホを中心とするデバイスやデジタルテクノロジーなどの進化で、あらゆるものがつながり、生活者の新しい接点、インターフェースが生まれることを指します。いまは生活者がスマホを通じて家電や自動車、決済などが次々とつながっていくという状況です。こうした状況は企業にとってはどんな意味があるのでしょうか。テクノロジーを通じて生活者や企業と新しい接点をつくり、つながることは、そこに新しい市場やビジネスが生まれることを意味します。たとえば実際に、自家用車を持っているドライバーと移動手段を持たない方をつなげることで、新しいビジネスが生まれています。私たちは、こうした新たなつながりによって生活者の毎日が便利になるだけでなく、ちょっと豊かになったり、新しい価値、新しい生活文化が生まれていくことが大事だと思っています。

生活者インターフェースのビジネスをシンプルに構造化してみると、顧客体験CX、サービスが下支えをしながら、生活者や企業が生活者インターフェースによってぐるぐるとつながっていくという形になります。生活者にとってはどんな新しい生活文化や価値が生まれるか、また企業にとっては、どういう成長ができるかが非常に重要になります。

では小野瀬さん、生活者インターフェース市場ビジネスの実例として、イーデザイン損保の取り組みについてお話しいただけますか。

小野瀬
はい。ここから、当社イーデザイン損保の自動車保険「&e(アンディー)」の誕生の経緯と、どのように運営しているかについてお話します。

イーデザイン損保は、今年誕生から15年目になる東京海上グループのダイレクト型自動車保険で、グループのR&Dの役割を担っているという特徴があります。なぜ自動車保険業界にR&Dが必要なのかというと、自動車保険業界、損害保険業界が本当に大きな変化の時代に突入していると考えているからです。たとえば、自動車離れは若い方に限った話ではないし、IoTデバイスやアプリケーションと連携しながら保険を提供する流れが世界中で加速しています。大量のユーザーを持つプラットフォーマーのサービスのなかに保険を織り込むという手法も増加しており、東京海上グループでは専門会社も立ち上げています。こういった変化がこれから自動車保険業界でさらに加速していくと我々は考えています。

そんな中で、イーデザイン損保の社長が就任時に最初に行ったのが、「イーデザイン“ありたい姿”プロジェクト」です。全社、全部門の有志を集めてワークショップを行い、保険という枠組みや今までの常識をいったん全部横に置いて、私たちはどこに向かっているのか、お客さまに何を提供できているのか、そしてどこを目指したいかを全社員で考えたプロジェクトです。そこから出てきた考え方が、CXということになります。保険は難しい、わかりにくいという印象があると思いますが、これからの変化の時代においては、お客さまが本当に望んでいるもの、私たちが本当にお役に立てることも突き詰めていくべきだという答えに至りました。

5年程前に作った、お客さまとイーデザイン損保の関係を再設計した図があります。
事故が起きたとき以外にも、毎日の安全運転を支えるといった形でお客さまにお役に立てることがあるはずという考えに基づいたもので、「&e」のまさにブループリントになっています。次に、こうした“あるべき姿”を、コンセプトではなく明確なゴールにすべきと考え、3年半前に大刷新したのが、MVAV(ミッション、ビジョン、アクション、バリュー)です。事故時の安心というのは保険会社がお客さまに最大限提供する真価の部分で、今後も一切変わることはありません。でも、お客さまはそもそも事故のことなんて考えたくないし、事故にあいたくないというのが大前提のはずです。だとしたらそこに我々は保険会社として向き合う必要があると考えました。その結果、「事故時の安心だけでなく事故のない世界そのものをお客さまと共創する」というコンセプトが生まれたのです。

当然ながら事故は我々だけが頑張って減らせるものではありませんから、契約者含め、企業や行政、自治体の方々などと協力し、その世界をつくっていくということをゴールに掲げました。そのゴール、つまりパーパスを、掲げただけで終わらせないよう、実際にサービスの形にしたのが自動車保険「&e」です。

サービスについて少し具体的にご説明します。
まず、車内に設置した小型のセンサーが、急加速、急ハンドル、急ブレーキなどのデータを捕捉、それがクラウドに上がり、お客さまの運転の癖や傾向を診断し、場合によっては事故を防ぐためのアドバイスを提供するというものです。
実際の画面上には、急発進急加速急ブレーキなどのデータから測定した「安全運転スコア」が出てきて、安全運転できたお客さまにはハートマークと、「安全運手してくださってありがとうございます」というイーデザイン損保からの感謝の気持ちが示されます。これがポイントとなって、一定数が貯まるとコーヒーなどのプレゼントに交換できるという仕組みをつくりました。また、万が一事故が起きてしまった場合、どの場所でどのくらいのスピードでどの角度でどれくらいの衝撃でぶつかったかなどのデータをセンサーが捕捉。当社の事故対応サービス部門の社員がすぐに把握できることで、早期の事故解決につなげる試みも行っています。また、自分の家族や、離れたところに住む両親が運転で怖い目にあっていないかを確認できたり、自分の友達、知人と安全運転を競い合う、安全運転チャレンジ機能も体験いただけます。

いずれにしても、事故のない世界をつくるには弊社だけでなく多くの方の助けが必要なので、「データで安全はつくれるか」というスローガンと共に「SafeDriveWith」というプロジェクトをはじめました。これは、イーデザイン損保がセンサーを通じてお客さまからお預かりした運転データと、イーデザイン損保以外の企業や自治体、行政が持っているデータを突合することで、少しでも事故をなくしていこうという取り組みです。たとえばエーザイの脳の健康度を測定できるサービスを使って、その測定結果と、「&e」でお預かりしている特に高齢のドライバーの運転スコアを突合することによって、脳の健康から何かしらの運転リスクが見られるお客さまには、事故を防げるようなコンテンツをご提供しています。また「魔の7歳」と言われるように、小学校1年生になったばかりの年に交通事故が多発するというデータがあります。それを防ぐため、親御さんとお子さんが、自宅近くで実際に危ないと思うところにピンを付けていき、「ここは気をつけようね」という地点を指さし確認する「もしかもマップ」をつくっています。IoTが入ったお守りデバイスもあって、ピンを立てたところに実際に子供が近づくと、警戒アラートを出すといった実証実験も行っています。

事故に備える、事故が起きたときにお客さまをお守りするのがこれまでの自動車保険でしたが、事故のことなんてそもそも考えたくないし遭遇したくないという、お客さまが本当に望んでいることを実現するための具体的なサービスを考えた結果、安全運転サービスだったり、企業や親子と共創する「SafeDriveWith」のプロジェクトを実施するに至りました。まだまだサービスを改善していく途上にはありますが、いままでの自動車保険では出会えなかったようなパートナーに出会え、評価をいただいていることは嬉しく思います。いままでとは違う世界に踏み出したからこそ、この取り組みを応援したい、一緒に何かやりたいと言ってくださる企業さまと出会うことができたわけで、私たちとしても自信を少しいただけている次第です。

パーパスを掲げるだけではなく、サービスという実態に落とす

茂呂
共創が重要だということは認識していても、なかなか本当の意味でこれを実現させていくのは難しいとも思います。共創を実現させたり、うまく進めるために心掛けていることはありますか。
小野瀬
どこを目指すのかをしっかり議論することが大切なんじゃないかと思います。二つの異なる組織が何か新しいことに挑戦する場合、当然持っているサービス、持っていないサービスなどいろんな事情がありますが、そのうえで、社会やお客さまにどんな価値を提供し、どんな存在になりたいかを徹底的に議論していけば、既存の枠組みを乗り越えるような新しいアイデアや視点、施策が生まれ得るのだと思います。

茂呂
ともすると短期的な視点に陥りがちだと思いますが、まずは中長期的に目指すところや、ビジョンや想いなどを共有しながら、成長に向けて何をやるかを考える。こういう順番で進めることが大切かもしれませんね。
小野瀬
あと、中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)で経営や組織デザインを研究されている露木恵美子教授が、イーデザイン損保を研究対象にしてくださっているのですが、その理由が「パーパスを概念ではなくサービスという実態におとしているから」とおっしゃっていました。「だから社員もお客さまも、いいことも悪いことも成功も苦労も含めてリアルな体験が生まれるし、企業の変革とはそこを乗り越えたところにあるんじゃないか」ということでした。まさに先生のおっしゃるとおりだなと感じました。
茂呂
今回は主にCXの側面で変革を語られていますが、EX、つまり従業員やインナーの体験、満足度をどう高めていくかも、非常に重要だと思っているところですがいかがですか。
小野瀬
変革、トランスフォーメーションにおいてはパーパスやCXが重要になりますが、私個人としては、さらに大切なのはEXだと思っています。どんなに素敵なパーパスも顧客体験も、結局それを運営し提供するのは社員です。ですから「こういう体験、こういうサービスをお客さまに提供する会社にしたい」と、社員自ら思えるような会社は強いと思います。実際にはきれいごとだけじゃないですし、いろんな障害もありますが、それらを乗り越えていき、それによってお客さまにお褒めの言葉をいただくといったことによって、変革は一歩ずつ進めていけるのではないかと思います。
茂呂
ありがとうございます。
小野瀬
ここで、冒頭で茂呂さんがおっしゃったフレームに合わせて、当社の取り組みを整理してみました。自動車保険のあるべき姿と、お客さまが本当に望むものの真ん中に「事故のない世界」というパーパスがある。そしてそのパーパスを、「&e」という生活者インターフェース、サービスに落としています。それによりパーパスを通じたお客さま体験が生まれ、それによりデータとお客さまの声が生まれ、それを我々は受け止めて、少しでも還元できるようにサービスの品質を高めようとしているわけです。重要なポイントだけを抽出すると、変革の道標であるパーパスをつくり、それをサービスデザインにする。そうすることでインターフェース上でお客さまや地域との対話がうまれ、イーデザイン損保がそこに常時接続できる。こうして一歩ずつパーパスを実現してくというのがこの試みになります。

茂呂
これはキーチャートですね。生活者インターフェースでつながると、生活者は当然便利にはなりますが、便利さをこえた喜びや価値、新しい文化も大事です。イーデザイン損保の取り組みの中で、便利さをこえた喜びとか、実感されることはありますか。

小野瀬
ご利用いただいたお客さまからの声やデータを、マーケティング以外にも、企業さまと一緒に事故のない町づくりに活かしたり、それをサービスとして提供することで事故のない運転を支えるといったことに活用しています。それによって、我々だけじゃなく社会やお客さまに少しでも還元できるように務めています。

成長の先にある生活者のわくわくや、新しい文化をつくっていく

茂呂
最後に、一問一答を互いにぶつけて、そこに自分たちの思いを載せる形で締めたいと思います。

生成AIは生活者インターフェースの領域にどういう影響を及ぼすとお考えですか。

小野瀬
生成AIはこれから、生活者インターフェースはもちろん、マーケティング、UX、UI、データに関わる人間に求められる当然のスキルセットになるだろうし、もっというとマーケッターが所属する組織も、そうしたすさまじい変化の波にこれから直面していくことになると思います。ただここで忘れてはならないのが、最後はCXと生活者発想ということ。生成AIによって物事がどんどん便利に、早くなると思いますが、お客さまがそこで心地いいと感じるか、その活動に参加したいと思うかが結局は最大の差別化になると思います。
茂呂
生成AIの活用が進めば進むほど、もしかしたら顧客体験やサービスはどこかで同質化してしまうのではないかとも思いますが、そうならないために意識していることはありますか。
小野瀬
生活者インターフェースとは、当社でいえばアプリとセンサーを通して保険を提供するといったように、事業会社、企業の製品やサービスがデジタルサービス化していくということです。そうなるとやはり、CXやサービスデザインの発想がとても大切になってきます。いままでのマーケティングはどう呼び込むかでしたが、これからはお客さまにとってどういう素敵な体験を提供できるか、どうしたら継続いただけるか、そのためにマーケティングコミュニケーションとして何を世の中に発信すべきか、といった発想がどんどん必要になってくると思います。
茂呂
ありがとうございます。
小野瀬
生活者インターフェース市場の拡大がこれからどんどん加速すると思いますが、博報堂がどんなところに強みがあるのか教えていただけますか。
茂呂
生活者がいて企業や自治体があり、インターフェースを通じてデータやテクノロジーでつながり続けるという仕組みそのものは、多くの方が作れるかと思います。
ですが私たちが一番大事にしたいのは、そのつながりによってビジネス的に成長するのはもちろんのこと、つながりの成長や便利さの先に、生活者にとってどんな新しいわくわく、どんな喜びが生まれるのかということ。もっというと、その生活が積み重なることでどんな新しい文化が社会に生まれるのか、といったことを目指したいと思っています。
まず生活者にとってどういう意味があるのか、そしてそれが、クライアント企業にとってどんなビジネスの成長を生むか。博報堂は常にこれを同時に議論し、パートナーと一緒に取り組んできました。そうしたカルチャーがあるからこそ新しい価値づくりができるし、これからもパートナー企業とつながりながら、愛される成長をつくっていけるのではないかなと思っています。

以上となります。ご清聴ありがとうございました!

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