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対談!EC+【第16回】キャッシュレス決済ってなに? 「非現金主義」が購買体験とマーケティングを進化させる
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対談!EC+【第16回】キャッシュレス決済ってなに? 「非現金主義」が購買体験とマーケティングを進化させる

博報堂DYグループのECプロフェッショナル集団「HAKUHODO EC+」のメンバーが、外部の専門家と語り合う連載「対談!EC+」。今回は、金融・決済分野のコンサルティングサービスを手がけるインフキュリオン コンサルティングの平松宏之さんをお招きし、キャッシュレス決済の現状と可能性について語り合いました。オンラインとオフラインがシームレスになりつつあるコマースにおいて、キャッシュレスが実現する生活者の新たな購買体験とは──。

(写真左から)
川口 渉
HAKUHODO EC+ コンサルタント
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
コマースDX推進グループ マーケティングプラニングディレクター

平松 宏之氏
インフキュリオン コンサルティング
取締役 マネージングディレクター

菅 真輝
HAKUHODO EC+
博報堂プロダクツ カスタマーリレーション事業本部 本部長

奥山 貴弘
HAKUHODO EC+ リーダー
博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長代理
コマースDX推進グループマネージャー

キャッシュレス決済の種類とそのメリット

奥山
買い物の利便性や省力性を追求してきたECは、今後、「新しい顧客体験を提供する場」、あるいは「企業と生活者が出会う場」になっていく──。HAKUHODO EC+はそのようなビジョンを掲げて、クライアントのEC事業やマーケティングDXを支援しています。そのHAKUHODO EC+のメンバーがさまざまな領域のプロフェッショナルの皆さんと対話する連載も、今回で16回目となります。今回は、金融・決済のプロである平松宏之さんと「キャッシュレス決済」というテーマでお話をしていきます。

ECではこれまでも、クレジットカードなどを使ったキャッシュレス決済が行われてきました。一方、リアル店舗での買い物では、現在も「現金主義」にこだわる生活者が少なくありません。生活者の購買スタイルが多様化し、ECとリアル店舗がシームレスになってきている中で、あらためてキャッシュレス決済について考察することには意義があると思います。はじめに、キャッシュレス決済の現状について平松さんに伺っていきます。まず、キャッシュレス決済にはどのような種類があるのか、解説していただけますでしょうか。

平松
クレジットカード、デビットカード、交通系カードなどの電子マネー、スマートフォンの決済アプリ。一般的には、この4つをキャッシュレス決済と呼んでいます。口座振替も、現金で支払っているわけではないと考えれば一種のキャッシュレスと捉えることができますが、経産省の公表計数ではキャッシュレス決済には含まれません。

奥山
キャッシュレス決済は、現金を使わずに支払いができること以外にどのようなメリットがあると考えられますか。
平松
多くの生活者が感じているメリットは、ポイントが蓄積することだと思います。日本でクレジットカード契約が伸びた大きな要因は、ポイントシステムでした。その「お得感」がカード利用のモチベーションになってきたわけです。もともと「おまけ」の扱いであったポイントは、ご存知のように、現在では多くの決済サービスにおいてデフォルトになっています。
川口
キャッシュレス決済は支払い履歴が記録されます。それによってお金の使い方を管理できるというのも、生活者にとっての大きなメリットだと思います。
奥山
そのようなメリットがあっても、現金主義を貫いている人もいます。その理由は何なのでしょうか。
川口
クレジットカードを持ちたくないという人の多くは、「カードがあることで買い物をし過ぎてしまう」という懸念があるようです。とくに日本には、諸外国と比べて「現金派」が多いように感じます。そのような方々にキャッシュレス決済のメリットをいかに伝えていくか。それが1つの課題と言えるかもしれません。

右肩上がりで伸びているキャッシュレス率

奥山
現在のキャッシュレス決済の市場規模はどのくらいですか。
平松
日本の現在の個人消費は、ざっくり言って300兆円くらいで、そのうちのキャッシュレス決済は110兆円強といったところです。内訳を見ると、およそ100兆円がクレジットカード・デビットカード、残りがスマホ決済・電子マネーといった感じですね。キャッシュレス率は、2022年時点で36%という数字が出ています。13年時点でのキャッシュレス率が約15%ですから、およそ10年で倍以上になっているということです。経産省は、将来的にこれを80%まで伸ばすという目標を掲げています。(※1)
(※1)経産省発表資料より
https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230406002/20230406002.html
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cashless_future/pdf/20230320_2.pdf 
奥山
キャッシュレス決済の最近のトレンドについて教えていただけますか。
平松
決済サービスは「インターフェース」と「支払手段」の組み合わせで成立しています。現在のインターフェースは主にカードとスマホで、最近ではクレジットカードでも端末にかざすだけの非接触型決済ができるようになってきています。今後はウェアラブルデバイスでの決済も普及していくでしょう。また、生体認証、つまり顔や静脈、光彩などで本人を認証して決済する仕組みも近い将来に実現すると私は考えています。

一方の支払い手段には、あらかじめチャージしておく「前払い」、デビットカードによる「即時払い」、クレジットカードによる「後払い」の大きく3種類があるほか、後払いには「繰り越し払い」や「分割払い」といったオプションがあります。

インターフェースと支払い手段には多様な組み合わせがありますが、支払い手段自体は今後も大きくは変わらないと思われます。一方のインターフェースは、技術革新とともに進化を続けていくはずです。

川口
最近は、スマホで二次元バーコードをかざして入店し、決済も二次元バーコードでできる店舗が実現していますよね。これもインターフェースの進化と言えると思います。
いわゆる無人店舗ですね。無人レジもこの数年で急速に普及しました。かごの中の商品をセンサーが自動的に読み取って会計をしてくれる仕組みもあります。店舗側からすれば省人化が図れますし、生活者にはレジに並ぶ必要がないというメリットがあります。今後も無人化はどんどん進んでいきそうです。

決済と買い物の楽しさをどう結びつけていくか

奥山
キャッシュレス化によって買い物体験はどのように変わっていくのか、お考えをお聞かせください。
平松
決済には、リアル店舗などでの対面決済と、ECなどの非対面決済があります。対面の場では、キャッシュレス化が進むことで決済という行為がいろいろなプロセスの中に自然に組み込まれています。例えば、ファストフード店での決済は注文時であり、タクシー用の決済アプリでは乗車中に決済が行われます。つまり、「品物とお金を交換する」というかつての決済のスタイルが大きく変わっているということです。決済が「組み込み型」になることで、支払いの手間がかからなくなること。それが大きな変化であると考えられます。

一方、非対面決済はもともとキャッシュレスなので、これまでにない買い物体験を提供するには工夫が必要になると思います。キャッシュレスという仕組みの中で、どのように顧客体験を差別化していくか。それが今後問われることになりそうです。

決済とは、簡単に言えば「お金が移動すること」です。一方、買い物自体には、単なるお金の移動にとどまらない楽しさがあります。決済と買い物の楽しさをどのように結びつけていくか。あるいは、決済を通じて生活者とどのようなコミュニケーションをとっていくか──。そういったことを考えて、新しい購買体験をつくるお手伝いをするのが博報堂DYグループの役割だと思います。
川口
クレジットカードは、もともとリアル店舗で使うことを想定して生まれたものです。それがECで使われるようになったときに、番号が流出して悪用されるといったことが起きました。それを防いできたのが技術の力です。今後、技術が進化していくことで、非対面での決済にもこれまで僕たちが想像できなかったような新しい仕組みが生まれるかもしれないですよね。
奥山
キャッシュレス化を進めていくには、カード番号の悪用などの不正行為を防ぐ取り組みが引き続き必要になりそうですね。
平松
キャッシュレス決済の歴史は、不正行為との戦いです。先ほど、この10年ほどでキャッシュレス率が2倍以上になっているという話をしましたが、クレジットカードの不正被害額に焦点をあてると、およそ4倍になっています。その中でも、とくに番号盗用における被害額は6倍以上に増えています。(※2)一方、そういった不正に対抗する動きも進んでいます。例えば、カード会社は最近、番号を記載しないナンバーレスカードの発行を始めました。これによって、カードを紛失した際などの番号盗用を防ぐことができます。また、本人だけが知っている情報やワンタイムパスワード、生体情報などを用いて認証する「3Dセキュア」の仕組みも普及してきています。
(※2)日本クレジット協会発表資料より
https://www.j-credit.or.jp/information/statistics/download/toukei_03_g.pdf?a8=Vhfv-h6e1m0TdmZdQG0HmKZUHmoWuezvlG0TEHZaelCe1mfZIm7mPm0kIYcipi7u3lRdA2fz3hfvss00000020151001%3Fa8

生活者の新しい購買体験を実現するためのキャッシュレス

奥山
マーケティングの視点から見た場合、キャッシュレスにはどのような可能性があると考えられますか。
川口
マーケティングを行う立場から見たキャッシュレス決済の大きなメリットは、ユーザー情報を把握できることです。どのような属性の人が、何を買っているか、どのくらいお金を使っているか。キャッシュレス決済では、それらがすべてデータ化されます。もちろん、個人情報の取り扱いには細心の注意を払わなければなりませんが、そういったデータは極めて貴重なマーケティング資産になります。
奥山
そのようなデータは、マーケティングファネルのどの部分でとくに活用できそうですか。
アクイジション(新規顧客獲得)とCRM。主にはその2つだと思います。データからペルソナを設定して、見込み顧客に最適なアプローチをしていくのがアクイジションにおけるデータの活用法です。一方、すでに顧客となっている生活者に情報を発信したり、継続購買を促したりするのがCRM領域でのデータの使い方です。
奥山
キャッシュレス決済とそれに関連するマーケティングは、今後どのように進化していくと考えられるでしょうか。

平松
生活者の立場から見て望ましいのは、どのような場所でも好きな決済方法が使える環境が整備されることだと思います。現在でも、現金しか使えない店舗や、特定の決済方法にしか対応していない店舗が少なくありません。キャッシュレス決済をシームレスに使える仕組みが社会インフラになれば、経産省が掲げるキャッシュレス化80%という目標の達成も不可能ではないと思います。
川口
課題は、そのようなシームレスな決済の仕組みをつくるコストを現状では事業者が負担しなければならないということですよね。できるだけコストのかからない方法でインフラが統一化され、そのインフラの上で決済サービス会社や事業会社が競い合うことになれば、生活者の利便性や買い物体験はさらに向上しそうです。
僕は「ボーダレスショッピング」が今後のキーワードになっていくと考えています。商品の使い勝手や肌触りなどをリアル店舗で確認して、ネットから購買する。あるいはアバターを使ってネット空間で服を試着して、そのまま購買できる──。そんなボーダーレスな仕組みにおいて、キャッシュレス化は必須です。「生活者の新しい購買体験を実現するためのキャッシュレス」という視点を大切にしながら、これからのコマースマーケティングのあり方を考えていきたいですね。
平松
キャッシュレスの次のトピックは、おそらくCBDC(中央銀行デジタル通貨:Central Bank Digital Currency)、つまり中央銀行がオフィシャルに発行するデジタル通貨になると思います。東南アジアなどでは、すでにCBDCが広く使われるようになりつつあります。ここまで皆さんとお話ししてきたことにCBDCの視点を加えると、可能性はどう広がっていくのか。そんなことも、ぜひ考えていきたいと思います。
奥山
ECとリアル店舗がどんどんシームレスになっている中で、生活者視点においても、マーケティングの観点においても、キャッシュレス決済には大きなポテンシャルがあることがよくわかりました。私たちHAKUHODO EC+も、キャッシュレスを軸としたマーケティングの進化というテーマに今後取り組んでいきたいと思います。今日はありがとうございました。
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  • HAKUHODO EC+ コンサルタント
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    コマースDX推進グループ マーケティングプラニングディレクター
    クレジットカード会社にて、パートナーシップマーケティングやブランドマーケティングなどの業務に従事。その後、外資系ECモール会社のブランドコンサルタント、ビジネスディベロップメントを経験後、2022年博報堂入社。決済とECの知見を活かしたEC事業コンサルティング業務に従事。
  • 平松 宏之氏
    平松 宏之氏
    インフキュリオン コンサルティング
    取締役 マネージングディレクター
    1994年ジェーシービー入社、イシュイング事業部門にて、マーケティング・フランチャイジー領域などを担当。2016年アクセンチュア入社、大手金融機関・ペイメント会社を中心にBPRや新規事業立上支援などプロジェクト責任者を歴任。2020年インフキュリオン入社、同年7月インフキュリオン コンサルティング代表取締役就任、大手企業のネオバンク事業参入検討、大手リテーラーの金融事業立上、など責任者として従事、2022年2月インフキュリオンCSOを経て、現在に至る。
  • HAKUHODO EC+
    博報堂プロダクツ カスタマーリレーション事業本部 本部長
    2005年に博報堂プロダクツへ中途入社以降、長年制作営業に従事。飲料食品メーカー等を担当後、その後ダイレクトマーケティングを担う現事業本部へ遷る。EC事業対応をはじめコマースビジネスの推進を行う。2023年より現職。
  • HAKUHODO EC+リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長代理
    コマースDX推進グループマネージャー
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。