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【第8回】メーカー視点でみる“成果創出に繋がる”リテールメディアの活用方法とは
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【第8回】メーカー視点でみる“成果創出に繋がる”リテールメディアの活用方法とは

ショッパーマーケティングを専門とする組織「ショッパーマーケティング事業局(SMK局)」に迫る本連載。第8回となる今回は、 同局で消費財業界のトレードマーケティング領域の支援を行うトレードマーケティング推進グループの井上、細矢、岡田の3名に、リテールメディアにおいてメーカーが直面している課題や博報堂と連動するメリットについて、自身の経験も踏まえながら話を聞きました。
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(写真左から)
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
トレードマーケティング推進グループ グループマネージャー
井上 元作

博報堂 ショッパーマーケティング事業局
トレードマーケティング推進グループ マーケティングプラニングディレクター
細矢 大帆

博報堂 ショッパーマーケティング事業局
トレードマーケティング推進グループ マーケティングプラナー
岡田 昂衛

――まずは自己紹介をお願いします。

井上
トレードマーケティング推進グループの井上です。2022年6月に博報堂に入社しました。もともとはコンサルティング会社から飲料メーカーに転職し10年ほど勤務しており、当時はチャネルマーケティングやブランドマネージャーを務めました。博報堂では、トレードマーケティング領域における戦略立案やコンサルティングなどの業務を行うチームのグループマネージャーをしております。
細矢
同じくトレードマーケティング推進グループの細矢です。2023年1月に博報堂に入社しました。前職は日用品メーカーに在籍し、大手ドラッグストアを中心にカテゴリーキャプテンとして、カテゴリー全体の売上を伸長させるための提案をしておりました。現在はその時の知見を活かしながら、リテールメディア等を含むトレードマーケティング領域の支援やIMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)戦略の策定などの業務を行っています。
岡田
同じ部署に所属する岡田です。2022年12月に博報堂に入社しました。前職は日用品メーカーで、当時は日々の商談に加えて販売計画の立案、販促の企画から実行に至るまでを営業として提案しておりました。博報堂においては、トレードマーケティング領域に関する提案のサポート、メーカーのリテールメディア活用のサポート等を担っております。

メーカー時代は少なかったリテールメディアの知見

――皆さんメーカーのご出身ということですが、当時はリテールメディアに関してどのような認識を持っていたのでしょうか。

岡田
メーカーの営業部側としては、小売の方からDSP広告、アプリ、サイネージといったリテールメディアの3つの手法についてご案内いただくことはあったので、存在自体は認識していました。ただ、メーカー営業の立場では、それを効果的に活用するにはどうすればいいのか等については、まだ理解しきれていませんでした。活用してはいましたが、まだまだ知見が少なかったと今では思います。

井上
事業部目線でも現在ほどリテールメディアという言葉自体にあまり馴染みがなかったし、注目度は高くなかったと思います。ただ、消費財メーカーにとって一気通貫でコミュニケーションできる点は魅力的だと認識していました。しかし、小売流通個社の販促施策に広告宣伝費を使うと、各小売流通営業担当に対して不平等感が出てしまうという難しい観点がありました。また、個社のアプリ等をはじめとするリテールメディアは、市場全体を見てメディアプランを検討する事業部側としては規模の観点から出稿することが難しいという実情もありました。当時は事例が少ないために「本当に効果があるのか?」という疑念も一部にあり、リテールメディアに対する価値は感じつつあったものの、そのような理由から躊躇する意見もあったかなと思います。

細矢
実際に営業部側としても事業部側としても、ブランドや売上の成長を考える際に、当時はまだまだリテールメディアが想起されるケースというのは少なかったと思います。事例も少なかったですし、どの程度効果を発揮するのかわからなかったのもあると思います。事業部のメディアプランにおいては、規模感という観点で影響の大きいマス広告やデジタル広告が優先されていて、営業部の販促プランにおいては、小売商品部との商談ではチラシやEDLPといったものが想起されるケースが多かったですね。

 

――そのようなメーカー側の課題に対し、博報堂はどのように手助けしていくのでしょうか。

細矢
先ほどの話からも違いがあるように、メーカーがリテールメディアを有効活用しきれない理由の一つには、そもそも営業部と宣伝部・事業部は組織としてのミッションも違えば予算の出どころも異なるという背景がありました。そういう意味でリテールメディアに特化したワンストップ統合窓口 「リテールメディアONE™」を創設した当社が間に入っていくことで、リテールメディアも含む統合的なメディアプラニングを推進し、効果を発揮することができるのではないかと考えています。

井上
リテールメディアを“個社の流通施策”と捉えてしまうと、やはり広告宣伝費からの出稿が難しく営業部予算の範囲に留まってしまう現実はあると思います。そこで、私たちは広告会社という立場を活かし、サイネージやオウンドアプリなどの個別のリテールメディアを統合してメニュー化するといった試みも進めています。複数社の統合による「ボリューム感」を生み出すことで、メディアとしての価値を生み出せる。個社のメディアではなくなるので、メーカー側も営業部予算だけでなく、広告宣伝費を活用する選択肢も生まれます。これによりメーカー内での予算分断の課題解消にも繋がるはずです。もっと言えば、既存のマス広告やデジタル施策にリテールメディアを組み込むことで、結果的に「フルファネル統合」が実現しやすくなります。そういったブランドマーケティングにトレードマーケティングを掛け合わせたプラニングを推進することで、より高度な次元で私たちがサポートすべきと考えています。
岡田
リテールメディアのニーズは確実に増えていて、当社内でのメーカー宣伝部・マーケティング部向けの調査でも『今後利用したいメディア』において、今やリテールメディアはインターネット広告、テレビ広告に次いで3位にランクインしています(博報堂自主調査「リテールメディア BtoB調査」より)。ただ、メーカーにしても今後取り組むべきメディアと認識はしつつも、どう踏み込んでいけばいいのかわからないというケースは多いと思います。リテールメディアと一括りに言っても、DSP広告、アプリ、サイネージ等多岐にわたり、どのタイミングでどのような生活者に向けて出稿すると効果的なのかなど、特徴もそれぞれ大きく異なる。その点も理解した上で、メディア戦略と合わせて統合的なプラニングを行うことが重要です。そのためにも、ぜひ私たちにご相談いただきたいと考えています。

 

井上
リテールメディアは比較的新しいメディアなので、まだメーカー側にも知見が蓄積されていません。そこに知見を提供することも、私たち広告会社がやらなくてはいけないことですよね。
細矢
その点、特にトレードマーケティング推進グループはメーカー営業・マーケティング経験者が多い部門です。そんな私たちであれば、リテールメディア等を活用しながら、小売との関係強化や中長期的な取り組みに繋げる施策についてもアドバイスができると思います。生活者との接点を増強しながら小売との関係値も強化することで、ブランドの成長にむけた好循環を作ることが私たちの使命だと考えています。

リテールメディアを活用するメリットとは

――実際に博報堂がリテールメディアの活用を支援した事例について教えてください。

岡田
私が携わった日用品メーカーの事例では、競合ピッチの提案において、マス広告から店頭まで一気通貫した戦略としてリテールメディアの活用をしました。そのブランドは認知をより高めたい状況でしたので、マス広告やインターネット広告に合わせ、売場に近いところでの訴求としてリテールメディアを提案しました。具体的には、カテゴリーに複数のブランドが混在する中で「店頭でいかに想起してもらうか」という課題に対し、店頭サイネージを活用して来店客へのタッチポイントを増やすという提案です。棚の前で「これ、見たことあるな」と手に取ってもらいやすくするという、想起確率の向上もリテールメディアの効果の一つだと考えています。
細矢
私からは食品メーカーの事例についてご紹介します。そのブランドは特定エリアにおける販売力に課題があり、店頭での売上シェア向上を目指していました。しかし、ブランドに関する分析・調査をしていくと、そもそも特定エリアにおいては販売力のみならず、ブランドの認知自体が低いことが分かったのです。また営業部門の方に話を聞いたところ、課題エリアの中でも特に取り組みを強化し、売上を拡大すべき小売が明確に浮かび上がりました。そこで、ブランド認知を上げつつ、的となる小売との関係値を強化し、売上実績もつくるために活用したのがリテールメディアでした。

具体的には購買データを基にターゲティングを行い、より確度の高い層にDSP広告やアプリを駆使して来店前に情報発信し、店頭では再想起の意味も込めてサイネージも放映しました。対象小売に寄り添った企画を組んだことで、クライアント営業の商談の武器の構築にも繋がり、最需要期のアウト展開の獲得に成功しました。また来店前の認知から購買までフルファネルで訴求する施策を組んだことで、売上拡大はもちろん、新規顧客を多く獲得できました。今回実績を残せたことは、その小売における売上拡大・関係値強化に加え、課題エリアにおける他小売への商談の際にも活用できる事例を生み出すことに繋がり、メーカーとして中長期的な拡大も見込める施策となりました。当施策を進める過程では、私たちの“メーカー営業目線”の意見が大きな安心材料になったのではないかと思います。

井上
メディアとしての効果もさることながら、一過性では終わらない、営業的な武器としてもリテールメディアが有効だということですね。私が直近感じる部分では、やはりメーカーから多く採用されているのは統合型のソリューションですね。複数の小売の自社アプリを束ねて、横断的に広告配信できるようにアドネットワーク化したプラットフォームなども非常に好評ですが、やはり営業予算だけでなく広告宣伝費なども活用しながら横断型で発信するケースが多いです。メーカー側の課題に即した統合型リテールメディアは、今後より活性化していくでしょう。1つ事例を挙げると、食品メーカーがクーポンをアプリ起動時に配信したケースで、販売数量の伸長のみならず新規顧客の獲得に繋がったことが大きかった。またキャンペーンの内容を小売の自社アプリに横断的に配信することにより、キャンペーン参加者を増やして売上成長に繋げたケースもあります。今回はアプリの話をしましたが、そのブランドの立ち位置や課題によって活用すべきリテールメディアも異なってくるので、その辺りの検討は私たちの得意領域です。
細矢
これらの事例でもそうですが、新規顧客の獲得に繋がっていることがリテールメディアの1つのメリットだと言えそうですね。やはり購買データをしっかり活用し、ターゲット層に対して効果的な広告配信ができているからこそ、新規顧客が獲得できるのだと思います。購買データを追って検証ができるので、このようなエビデンスも示すことができるのも魅力ですね。
岡田
小売サイドからも自社アプリ会員を増やしてもっと活用したいという声が挙がっています。新規獲得も見込めるということになると、小売とメーカーの関係構築には確かに繋がりますよね。
井上
集客アップ等小売側の課題にも一緒に取り組む図式になるところが、関係強化に繋がる。小売も競争が激化しているので、メーカーと一緒に取り組もうという中で、リテールメディアが意味を持ってきますね。

「とりあえず使ってみる」から「成果を出せる」メディアへ

――リテールメディアの活用について、今後の展望をお聞かせください。

細矢
リテールメディアは店頭・購買に近いメディアということもあって、購買の最後のひと押しに繋がると考える方も多いかと思います。しかし、一概にそうとは言い切れない点もある。確かに他のメディアと比べるとその要素は強いですが、忘れてはいけないのは、ブランドが置かれている状況や商材の特徴に合わせて、DSP広告・アプリ・サイネージといった3つの手法を使い分けることが非常に重要だということです。
井上
例えば生活必需品である飲料や食品等の場合は、既に認知が取れており、購買頻度の高いカテゴリーです。そうなると、来店前にはある程度購入することを決めていることが多い。来店時のブランド選択の際にアプリやサイネージ等で訴求し、リマインドしてもらうことで比較検討・購買ファネルに効きやすい商品だと言えます。一方で、認知の低いブランドや嗜好品は、いきなり購買に繋がるクーポンなどを配信しても効果が薄い。そこで、リテールメディアならではの購買データに基づいた趣味嗜好に合わせた配信を行い、興味関心を喚起することが有効になります。この場合は、主に来店前からアプローチできるDSPやアプリが効果的でしょう。このようにブランドの立ち位置や商材特性によって、どのリテールメディアを組み込むべきかを検討することが非常に重要であり、その組立てを含めて、私たちが連動させてもらう意味があると考えています。

 

岡田
関心が高まっているとはいえ、まだまだ日本においてリテールメディアは発展途上だと思っています。これからリテールメディアを発展させていくためには、小売だけ、メーカーだけでも、あるいは広告会社だけでも成り立たない。ブランドのコンディションに合わせて課題解決し、どう生活者に伝えていくかというプラニングを協働で行うことが必要です。そのための最適なリテールメディアの選択が可能になれば、メディアとしておのずと発展していくと思います。その部分の橋渡しを私たちが行っていくことで、今後はよりリテールメディアが日本国内において活用され、その可能性が高まっていくのではないでしょうか。
細矢
リテールメディアに関心はありつつも、どのように活用していけばいいかわからないというメーカーは少なくないはず。導入に際して、「まずは1回使ってみて」と考える方もいると思うのですが、それだけではやはり結果を残すのは難しいでしょう。「とりあえず使ってみる」というフェーズから「成果を出すためにリテールメディアを活用する」というところへ、一つ視座を上げて活用する手段を提供することが私たちのミッションだと思います。そのための取り組みを私たちとしても推進していきたいです。
井上
購買データや小売のデータを活用できることが一つのメリットだと思うのですが、結果を検証して新たな課題が見つかれば、それに合わせたプラニングをする、というPDCAを回すことができる。それもリテールメディアの特性なので、各消費財メーカーも取り組んでいくことになると思います。「実施したけど結果が出なかったからやめよう」ではなく、検証して改善点を見出すことが重要。その部分は、私たちもお手伝いができると思います。
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  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    トレードマーケティング推進グループ グループマネージャー
    2000年に新卒で国内大手コンサルティング会社に入社以降、金融・消費財・アパレル・小売業界に対するITシステムの開発・導入、BPR、店舗再生、プライシング戦略等多岐にわたるプロジェクトに従事。その後、外資系事業会社において、ブランドマネージャーとしてブランド戦略立案から実践までの実務を経験。2022年6月博報堂入社。現在は、消費財業界におけるコンサルティング業務及び新規ソリューションの開発を担当。
  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    トレードマーケティング推進グループ マーケティングプラニングディレクター
    2016年に新卒で大手日系日用品メーカーに入社後、ドラッグストア、ホームセンター、スーパー等多様な業態の企業を担当し、棚割戦略構築支援、ロイヤルカスタマー育成支援、販促プラン改善等幅広くトレードマーケティング領域の取組を実施。その後、広域ドラッグストアチェーン本部担当としてカテゴリーキャプテン業務に従事し、棚割分析手法の開発/PoC実施/横展開まで一気通貫の取組を遂行。2023年1月博報堂入社。消費財クライアントへのトレードマーケティング領域の戦略策定及び支援を実施。
  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    トレードマーケティング推進グループ マーケティングプラナー
    2017年に新卒で大手外資系日用品メーカーに入社後、広域ドラッグストアの本部担当を中心に販売戦略の策定、新規販促企画、協働戦略の合意による取り組み強化等を担当。その他スーパー、ホームセンター、卸店担当など多岐にわたる業務を経験。2022年12月に博報堂入社。消費財業界におけるトレードマーケティング領域の戦略策定及びコンサルティング業務を担当。