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〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉の挑戦【連載第2回】──生成AIから確かな価値を生み出していくために
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〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉の挑戦【連載第2回】──生成AIから確かな価値を生み出していくために

マーケティングシステムのスペシャリスト500人が集結した横断型組織〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉。博報堂DYグループの6社によって発足したこの組織体の中で、生成AIの専門家チームが活動を本格化させています。プラットフォーマーと連携しながらクライアントの生成AI活用を支援することを目指すこのチームのメンバーたちに、生成AIの現状や、生成AIの領域におけるマーケティングシステム・イニシアティブのビジョンなどについて語ってもらいました。

白子 義隆
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局長代理兼
マーケティングプラットフォーム部長

土井 京佑
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
カスタマーサクセス部 ビジネスプラニングディレクター

鳥居 宏行
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
マーケティングプラットフォーム部 マーシス・エンタープライズアーキテクト

小林 昂平
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
カスタマーサクセス部 ビジネスプラナー

松井 豪司
アイレップ ソリューションUnit データコンサルティングDivision Divisionマネージャー

中原 柊
アイレップ  DXコンサルティングUnit シニアマネージャー

生成AIに特化したアセスメントサービス

──〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉(以下、MSI)が発足したのは、2023年9月でした。あらためて、この組織体の意義をお聞かせください。

白子
博報堂DYグループ内でマーケティングシステムに携わってきた会社、部門、人材が一枚岩になれたこと。それがMSIをつくった大きな意義であると考えています。クライアントの皆さんにも、「マーケティングシステムに関する案件をワンストップで任せられる」という安心感をもっていただけるようになったと思います。
土井
MSI発足以前にもグループ内連携はあったのですが、「構想」と「実装」のそれぞれを担当する会社や部門が分かれていたために、スピード感の点に課題がありました。現在は、現場が主体になって最適なフォーメーションを迅速につくれるようになっています。それによって、仕事のスピード感が格段に上がりました。
鳥居
技術検証も以前はそれぞれの会社で独自に進めていました。MSI発足後、グループ内で連携して検証する体制ができたことで、検証のクオリティやスピードが目に見えて向上しています。検証結果の情報共有もしやすくなりましたね。
松井
Google Cloud社をはじめとした各プラットフォーマーからの情報を、MSI全体で共有できるようになった点も大きな変化だと思います。最新の情報が集約されることによって、新しいサービスのアイデアが生まれたり、クライアントに提供できる価値が増えていったりする。そこにMSIの大きな可能性を感じています。

──今回集まってもらったのは、MSI内の生成AIに精通したメンバーです。MSIにおける生成AIの取り組みについてお聞かせください。

白子
MSIを構成する部門の1つである博報堂マーケティングシステムコンサルティング局は、数年前から〈HAKUHODO Marsys Assessment〉というサービスを提供してきました。これは、企業が活用しているマーケティングシステムの現状を把握し、それに対してあるべき姿を描いて、それを実行するご支援をするというものです。「as is」を捉え、「to be」を構想し、「can be」を実現する。僕たちはそんなふうに表現しています。

今後このサービスを、クライアントの生成AI活用のニーズに合わせた形でご提供していきたいと僕たちは考えています。それが〈HAKUHODO Marsys Assessment for Gen.AI〉です。生成AIを使いたいというご相談をいただいたときに、「生成AIを使う目的は何か」「その目的を叶えるためにどのような仕組みをつくればいいか」「その仕組みを動かすために必要な体制とはどのようなものか」といったことをクライアントの皆さんとともに考え、実行フェーズまでを支援していきます。

プラットフォーマーとクライアントを結びつけていく

──生成AIの現状をどのように見ていますか。また、そこにおけるMSIの役割についてどう考えていますか。

中原
2023年の前半くらいまで、多くの企業は生成AIに関する情報収集や調査に取り組む段階にありました。しかし23年の後半になって、POC(実証実験)や導入プロジェクトが一気に加速しました。今後この流れはさらに加速していくと考えられます。

テクノロジーとしての生成AIの大きな特徴は、スピーディな開発が可能な点にあります。例えば、「ある業務に特化した生成AIツールがほしい」というクライアントからの要望があった場合、15分ほどでプロトタイプをつくって操作感を試していただくことも不可能ではありません。これは、生成AIの導入や活用を支援する僕たちにもスピード感が求められることを意味します。また、エンジニアリングやデータの整備だけではなく、生成AIをビジネスに活用して成果を出す道筋づくりのお手伝いも必要です。500人規模の専門家集団であるMSIは、そういった生成AIの幅広いニーズに対応することが可能です。

小林
生成AIは誰でも使える技術になってきています。その点で、差別化していくことの難しさを僕は感じています。クライアントがもっているデータと生成AIを活用して、どのように競争優位性のあるアウトプットを出していくか。そこで僕たちの力量が試されると思います。

松井
クライアントが保有しているデータ、システム環境、ビジネスのニーズなどによって、生成AIの活用法は変わってきます。しかし、その正解はまだ見えていないのが現状です。今の技術でできることを整理して、生成AI活用の「型」を見出していくことも僕たちの役割だと考えています。
鳥居
生成AIの導入や運用に関するクライアントのニーズに対して僕たちがやるべきことは、これまでのマーケティングシステムと大きく変わるわけではありません。しかし、生成AI活用にはスピード感やトータルな対応がこれまで以上に求められます。その点で、支援する僕たちの側のチームフォーメーションが非常に重要になると思います。
土井
生成AI導入にあたっては、コンサルテーションの役割も大切であると考えられます。
生成AIを使いたいというご相談は増えていますが、具体的にそれをどのように使うかという点については、クライアントも暗中模索をしているのが現状です。生成AIを使って何をしたいのか。そのためにどのような仕組みをつくればいいのか──。そういったことを、クライアント側の皆さんと一緒に考え、最適な生成AI活用のあり方を提示していくことが、今後ますます求められるようになりそうです。

中原
生成AIは、これまでのテクロノジー同様、あくまでも1つのツールです。そのツールを使う本質的な理由は何か。それを考えるお手伝いをすることが僕たちの1つの役割ということですよね。例えば、「企業と生活者の接点で対話型AIを活用する」というアイデアがあるとします。それを実現するのは技術的には難しくありません。しかし、まず必要なのは「生活者はAIと話したいか」、あるいは、「生活者が話したいと思えるインターフェースとはどのようなものか」といった問いです。その問いの設定や解決の仕方に、博報堂DYグループならではの課題発見力や生活者視点が活かされると思います。
白子
クライアントやテクノロジーベンダーだけでなく、プラットフォーマーも生成AI市場における有力なプレーヤーです。プラットフォーマーと協業しながら、新しいマーケティングサービスを開発したり、プラットフォーマーと広範なクライアントを結びつけていくこと。それもMSIの重要な機能であると考えています。

生成AI活用のあるべき姿を構想する

──〈HAKUHODO Marsys Assessment〉と生成AIの組み合わせによって、どのような価値が生まれるのか。それぞれの考えをお聞かせください。

中原
アセスメント、つまり生成AIを導入しようとしている環境を客観的に分析し、導入目的を整理することは、あらゆるケースで不可欠だと思います。AI活用の第一のベースになるのは、クライアントが保有しているデータです。そのデータに対するアセスメント抜きで生成AIを正しく導入することはできません。システムや社内体制などに対しても同様のことが言えます。クライアントの現状を把握して、生成AI活用のあるべき姿を構想できること。それが〈HAKUHODO Marsys Assessment〉の大きな価値だと思います。

鳥居
新しいテクノロジーを導入する際は、POCから始めるケースが少なくありません。〈HAKUHODO Marsys Assessment〉にご相談いただければ、生成AIのPOCに必要な要件を明らかにして、スピーディな検証を行うことができます。その点でも力を発揮するサービスと言えます。
小林
リスクをケアできるのもこのサービスの強みだと思います。新しいテクノロジーにはリスクがつきものです。生成AIの場合、著作権を侵害してしまうリスクや、逆に自社のデータが外部のAIに学習されてしまうリスクが指摘されています。そういったリスクを洗い出し、ルールやセキュリティの仕組みを整備できること。それも〈HAKUHODO Marsys Assessment〉の重要な役割です。
松井
〈HAKUHODO Marsys Assessment〉をきっかけに「使える生成AI」を実現するところまで伴走できるという点も、ぜひ強調しておきたいですね。

白子
〈HAKUHODO Marsys Assessment〉には、システムやテクノロジーを有効活用するためのロードマップを策定する役割もあります。例えば、施策案にはいくつかのパターンがありえますが、人の力で考案できる施策案の数には限界があります。そこに生成AIを使うことによって作業を効率化できれば、クライアントのROI(投資対効果)の向上に寄与できることになります。

「生成AIのスペシャリスト」というポジションを目指して

──「MSI×生成AI」の解を最大化するためにどのようなことに取り組んでいきたいか。今後に向けた見通しをお聞かせください。

土井
当面、生成AI活用に期待される一番の成果は業務効率化ですが、そのあとに目指すべきは、ビジネス成長への寄与であると考えています。生成AIを活用したコスト削減から、価値の創出へ──。その流れをつくっていきたいですね。

生成AIによって生まれる具体的な価値の1つがクリエイティブです。
これまでは、人が手間暇をかけたものこそが人を感動させられると考えられてきました。では、生成AIが10秒でつくったクリエイティブに人は感動しないのか。そんなことはないと私は思います。もちろん、人が時間や情熱を傾けてものをつくるという行為は今後も重んじられるべきです。さらにそこに生成AIの機能を上手に融合させて、より高度なクリエイティビティを実現していく。そんなチャレンジをMSIのメンバーと一緒にしていきたいと考えています。

松井
生成AIの活用シーンが広がることで、「データの民主化」がいっそう進んでいくことになると思います。これまでは、データを分析して活用するには専門的なスキルが必要でした。しかし生成AIを使えば、マーケティング部門の皆さんが自らデータを分析したり、自分の仮説を検証したりすることが可能です。そのような取り組みをぜひ支援していきたいと思っています。

もう1つ、生成AI活用の成功事例をつくっていきたいですね。MSIには500人のメンバーがいます。そのメンバーたちがクライアントの生成AI活用を積極的に支援していくことによって、早い段階で成功事例を生み出せると僕は考えています。そのような事例がいくつかあれば、生成AIの活用が一気に広がり、僕たちMSIも「生成AIのスペシャリスト」というポジションを獲得できる。そんなふうに考えています。

小林
生成AIは、実用化が進んでいる一方で、「未来の技術」でもあります。テキストや画像の生成はできるようになっていますが、動画や3Dモデル生成の多くの部分はまだ研究段階にあります。逆に言えば、生成AIでできることは今後どんどん増えていくということです。その動きにキャッチアップして、スピーディに実用のフェーズに移していける体制をつくっていくことがこれからの目標の1つです。
鳥居
これまで僕たちが支援してきたのは、主にクライアントのマーケティング部門でした。生成AIのポテンシャルを考えれば、支援できる領域は今後大きく拡大していくと思います。例えば、事業部門やIT部門などの生成AI活用をサポートすることで、これまで以上にクライアントの成長に寄与することができるはずです。それを実現するためには、MSIのメンバー一人ひとりが現業の中で自ら生成AIを使いこなして、経験値を高めていく必要があります。みんなが生成AIのエキスパートになって、クライアントへの提案力やサポート力を強化していければいいと思っています。

中原
生成AIから具体的なビジネスインパクトを生み出すのは、長期的な取り組みになると考えられます。たんに生成AIというテクノロジーを導入するだけでなく、そのパフォーマンスを最大化させるためのシステム、業務プロセス、社内ルールなどを整備していくことが必要になるからです。その長期的な取り組みに寄り添って、生成AIから確かな価値を生み出すための貢献をしていきたいと考えています。

生成系AIの活用に関しては、多くの企業が手探りの状態にあるのが現状です。そこから一歩抜け出して、先進的な事例をどれだけ早くつくっていけるか。それが僕たちのこれからの勝負になりそうです。

白子
クライアント、プラットフォーマー、そしてその活動を支援するMSI──。この三者が生成AIを軸に連携していく形をつくっていきたいと思っています。情報共有や協業による技術検証プロジェクトなどに取り組むことで、生成AI活用の可能性を広げ、生活者や社会をよりよい方向に動かしていく。そんな活動にぜひ取り組んでいきたいですね。

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