おすすめ検索キーワード
「社会課題解決プロジェクト」が目指すもの【Vol.4】おたがいさま文化で広がる地域教育サービス「みんまなび」
PLANNING

「社会課題解決プロジェクト」が目指すもの【Vol.4】おたがいさま文化で広がる地域教育サービス「みんまなび」

博報堂の「生活者主導社会を導く社会課題解決プロジェクト」で取り組んでいる「デジタル田園都市国家構想」への参画。この挑戦の新たな展開に向け取り組んでいる地域教育サービス「みんまなび」をご紹介します。
今回は、富山県朝日町の役場職員やサービスに関わる企業社員・地域住民のみなさんと、みんまなびの取り組みと成果、将来像について語り合いました。
連載一覧はこちら

水島 圭亮氏
富山県朝日町 みんなで未来!課 みらい係 主事

加賀 悟氏
富山県朝日町 住民・子ども課 子ども係 主事

後藤 憲一郎氏
富山県朝日町 みんなで未来!課 みらい係 地域おこし協力隊(デジタルサポート分野)

多田 裕一
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター

河野 裕武
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター

二ノ倉 友実
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター

山田 悠貴
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー

少子高齢化が進む地方部の「こども」を取り巻く現状

河野
デジタル田園都市国家構想の教育分野として、2022年から富山県朝日町で行っている「みんまなび」の取組についてお話ししたいと思います。まずは、朝日町役場の皆さん、自己紹介をお願いします。
水島
朝日町役場みんなで未来!課の水島圭亮です。「みんなで未来!課」は、デジタル田園都市国家構想推進交付金の申請・採択と時を同じく、令和4年(2022年)度から新設された部署でして、私は2022年の8月から配属となり、以来、みんまなび(DX推進業務)が主担当業務となり、現在も携わっております。

後藤
同じく朝日町役場みんなで未来!課の後藤です。地域おこし協力隊として、今年の4月からデジタルサポート分野担当で活動しております。活動内容としましては、主にみんまなびの運営サポートやスマホ教室のサポートなどを行っております。
加賀
朝日町役場の住民・子ども課の加賀です。業務内容としては、児童手当など子ども関連の手続きや放課後児童クラブ、児童クラブ連合会の事務局などに関わっております。
河野
はじめに朝日町役場の皆さんとみんまなびの取り組みについて話していきます。

朝日町が博報堂と、子ども・教育分野に取り組む背景

加賀
まず、子どもを取り巻く朝日町の現状からご説明させていただきます。朝日町は富山県内でも少子高齢化がかなり進んでいる地域です。海と山に囲まれ、春には桜の名所「春の四重奏」など、豊かな自然に恵まれた場所ではありますが、今の小学生は、スクールバスで学校と自宅の往復をする生活を送っているように思います。なかなか町の中で子どもの声が聞こえてこないわけです。私の小さい頃などは、帰り道に友達と遊びながら田んぼの中を歩いて帰る、といったことをよくしていました。そういった点で、いま子どもが気軽に遊んだり集まったりする機会が少なくなっているのではないかなと感じます。
そんな中、コロナ禍もあったので、それぞれの地区の場所で行われてきた行事やお祭りも減り、世代間の交流が少なくなっている状況にあります。
河野
大きな世の中の動きとして少子高齢化や過疎化による地域コミュニティの衰退があり、さらにコロナの影響もあって、子どもの環境も大きく変化してきたのですね。スクールバスの話もありましたが、博報堂と朝日町は地域交通サービス「ノッカル」をきっかけに、子ども・教育分野での取り組みも進展してきました。
それと並行するように、国としても子どもを取り巻く環境への支援について検討が進んでおり、こども家庭庁の発足もその一環と言えると思います。
博報堂としても、子ども・教育分野の問題を解決することは日本の社会課題解決につながると思い、朝日町と一緒に今回のサービス開発に至りました。

地域に昔からある「おたがいさま」文化からデジタルサービスを作る。

水島
博報堂との取り組みのきっかけは地域交通サービス「ノッカル」でしたが、その開発の際によくおっしゃっていたのが、住民同士が助け合う「おたがいさま」や共助の文化についてでした。でもそれは、元々朝日町に住んでいる人間からすると、当たり前のことなので文化として捉えていませんでした。そういうところを汲み取っていただいて、ノッカルというサービスを実現できたので、この「おたがいさま」を教育や子どもたちの学びにも繋げられないか、と考えたわけです。令和4年度のデジタル田園都市国家構想推進交付金に採択され、教育とデジタルを結びつけていくことにチャレンジし、「みんまなび」というサービスが実現しました。
みんまなびについて、一言で言うと、地域の中で互いに教え合う「おたがいさま」の地域教育サービスです。地域住民や地域企業の方々が講師となって小学生にさまざまな学びの機会を提供する、コミュニティ起点での学びのプラットフォームです。保護者の方々に馴染みがあるLINEを用いて、簡単に告知や参加申し込みなどができる設計になっています。
昔は、地域の子供はみんなで育てる、ということが当たり前に行われていました。今では失われつつあるそうした地域の文化が、このサービスの中に込められています。
多田
サービス開発にあたっては、ちゃんと子どもが主役となっていること、子どもに楽しんでもらえるものをしっかり作ることを大切にしようと思いました。そこで、子ども達とその保護者の方々に時間をかけヒアリングしました。普段どんなふうに過ごしているか? 将来の夢や好きなことは?など、細かなことも含めて、さまざまなご家庭に話を伺いました。そうすると、学年や性別、親の趣味などによって、子どもの興味も全然違うことが見えてきました。男の子は工作・ゲーム、女の子は映像編集、茶道などに関心を持っている子が多く、また高学年になるとスポーツやファッションの話題も多くなるわけです。そうして小学生の興味の解像度が上がっていきました。
小学生の多くが興味を持ってくれそうな講座として、メタバースに詳しい方をお呼びして、デジタル空間で遊んでみるような内容から始めて、今では、工作のような体験型の講座や、街の歴史やお金の知識に関する座学講座、地元企業や消防署の方をお呼びしての簡単な職場体験のようなことまで、幅広く実施しています。

山田
スタートしてから実施回数も50回を越え、参加してくれた子どもも延べ500人に上ります。私にとって特に印象的だったのは、朝日町の歴史を教える回で講師から歴史の面白さを教わったことをきっかけに、今度はその楽しさを自分が伝えたい、という風に参加した子ども自身に心境の変化が生まれたことです。実際、その後のイベントでみんなの前で研究内容を発表する場を持つこともできました。そうしたことが起こるパワーがみんまなびの中にあるんだな、ということに大きな感動を覚えました。

また、実施に当たっては、サポーターである講師の方々のご協力無くしては実現できませんでした。サポーターの方々は、町の人材バンクや社会福祉協議会、ボランティアセンターなどからお声がけさせていただきました。
サポーターの方も、最初はこの講座をやって子どもが楽しんでくれるのか? そもそも子どもに集まってもらえるか?と心配されていた方もいらっしゃったのですが、「この町が好きだから」「町の子どものためなら」ということで、引き受けてくださいました。サポーターの方と接する中で、みなさんが町を大事にしてるのがとても伝わってきましたね。

教える-教わる関係だけでなく、さまざまな地域の繋がりが湧き起こる空間に

後藤
講座を受ける様子を目の当たりにしていると、子どもたちの関心も大きく育っていっている印象があります。最初は、親に勧められて来てみたけど、こんなに楽しかったんだと気づき、継続的に来てくれる子どもが増えています。

また、教える講師、教わる子どもという関係性が徐々に変わってきているのも面白いですね。山田さんがおっしゃった朝日町の歴史を教える側になった子どものこともそうですし、朝日町の伝統料理「みそかんぱ」を作る講座では、共同作業のように子どもと大人が一緒に助け合って作業をするようになりました。子ども達が、友達を連れてきてくれることも増え、そうすると子ども達同士で教えあうようなことも起こっています。最初の頃は小学校高学年の参加者が中心でしたが徐々に低学年も増えてきていて、そうやって幅広い年齢の子どもの居場所になりつつあるのかな、と思います。

多田
あと、開催するコンテンツの幅を広げることも意識しています。子どもにとって興味がないことを無理やり提供しても、なかなか子どもの継続的な学びにはつながっていきません。子どもが主体的に関わっていけるように、みんまなびではいろんな選択肢を用意したいてと思っています。
保護者の方からも、みんまなびを通して「興味を持てる対象を広げてほしい」「本当に好きなことを見つけてほしい」といった声をいただいています。
水島
今後は、どうやってサポーターの輪を広げていくかが重要だと思っています。新しいサポーターの方は、まだまだ町の中にいっぱいいると思うのですが、自分から名乗りを上げてくれる方は、県民性なのか、なかなかいない。逆に、役場の職員としては、最初から遠慮して声をかけられていない側面もあると思います。本当は、子どものため、地域のためにやりたいと思ってくれている人もたくさんいるはずで、もっと積極的にサポーターの輪を広げていきたいと思っています。
河野
地域の中の人だからこそお声がけが進むところもあれば、逆に、外から来ている我々だからこそ、お力添えできるところもありそうですね。

意外と知らない子どものこと、地域のこと。
地域全体の魅力にみんまなびを通して気づいていく。

河野
実際に講師をご経験されたサポーターの方にも来て頂きましたので、講師視点でも話を聞ければと思います。みんまなびに参加してみて、いかがでしたか?
山本
みんまなびでお金に関する講座を実施させていただいた北陸銀行の山本と申します。
北陸銀行ではSDGs推進活動の一環として、若い世代の金融リテラシーの向上を目指しておりまして、「ほくぎん出前授業」という形で朝日町の全校を対象に実施しています。そうした中で、小学生を対象にした金融教育をやっていただけないかというお話を受けました。まさしく北陸銀行の取り組みの趣旨に一致していると感じ、引き受けさせていただきました。

当日は、一方的な講義だけをやっても小学生にはなかなか興味をもってもらえないだろうと思いましたので、ゲームの形式を取り入れました。お小遣いをどんな風に使うか?というお題で子どもたち自身に考えてもらうプログラムにしたことで、自分ごとのように活発に参加してくれたと感じています。

印象的だったのは、子どもと保護者の方のコミュニケーションの様子を見ることができたことです。普段の出前授業では、相手をするのは生徒だけで、保護者の方は来られないのですが、みんまなびでは参加してくださる保護者の方もいらっしゃいました。保護者と子どもが一緒になって盛り上がってくれたのが印象的でした。

河野
親にとっても、自分の子どもはどういう点に興味を示すんだろうか?とか、今どの程度金融リテラシーを持っているか、お金のことをわかっているだろうか?といったことを知る機会になったわけですね。普段家庭内だとあまり話さないようなことが、みんまなびを通して親子間のコミュニケーションの種にもなっていく、というのも重要な可能性だと感じます。
水野
私は長年、朝日町のボランティアガイドや地域医療の研究会活動をやってきたのですが、そうした昔からのつながりがある友人らで立ち上げたカワセミの会のメンバーで、みんまなびに講師として何度か参加をしてきました。メンバーはみな70歳以上のシニアの集まりですけれど、このみんまなびをきっかけに、「あなたこんなこともできるの?」とお互いの得意なことや上手なことを初めて知ることもできました。周りの人や地域の魅力に気づくきっかけになったと思います。
本当に、この町独自の魅力やできることがいっぱいあると思うんです。「春の四重奏」のような観光名所や、縄文遺跡のような歴史的史跡もありますし、そこで生きてきた人の思いや技術がたくさんあります。私たちはこうしたことを残していかないといけないと思っています。

ボランティアガイドの経験から言っても、子どもが興味を持てるような工夫をすれば、小学生でも高校生でもちゃんと真面目に聞いてくれるんです。先ほど話されていたような、朝日町の歴史を教えたいと言ってくれた子どももいます。そして、子どもにそうしたことを伝えたい大人やシニア達もいっぱいいるんだなと改めて感じています。みんまなびを通して、地域全体が明るくなる、元気になる、そんな可能性をいつも感じています。

持続可能な運営の仕組みや、子どもの放課後の交通問題に挑戦しながら、
新しい「こどもの居場所」を創っていく。

二ノ倉
最後に、みんまなびの今後について。これからに向けて重要だと思っていることが2つあります。
まずは、どのように運営を継続していくか?ということです。講師の募集から会場の手配、当日の運営まで、役場と博報堂が協力して行っていますが、今後どのように地域の方を巻き込んで定着できるか、が重要だと思います。例えば、児童館や公民館のように地域にある「こどもの居場所」と連携しながら、みんまなびの持続的な運営の在り方についても考えていきたいと思います。
2つ目は、移動手段です。例えば児童館や公民館など会場を複数に広げていくことができても、物理的な距離があるので、子ども達が自分の足では通えず、行きたくても行けない子がでてきてしまいます。「こどもの居場所」と交通をセットで考え、「共助」をキーワードにどれだけやっていけるか?が重要だと思っています。
みんまなびの新たな取り組みとしては、こども家庭庁の「NPO等と連携したこどもの居場所づくり支援モデル事業」に採択され、国とも連携しながら取り組みを強化しています。
地域でこどもを育てる場の創出やこどもの居場所づくりというのは全国的な課題ですので、朝日町で全国のモデルとなるような取り組みをこれからも進めていきたいです。また、教育・子育ては多くの課題があり、デジタル行財政改革会議でも教育・子育てはテーマにあがっているので、今回の取組を介して少しでも社会に還元出来ればと思います。

河野
みんまなびはこれからの地域や日本全体の教育を変えていく、そのきっかけになるような取り組みにしていきたいと思いますので、この場に集まっていただいたみなさん、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 水島 圭亮
    水島 圭亮
    富山県朝日町 みんなで未来!課 みらい係 主事
    DX推進業務全般(デジタル田園都市国家構想交付金担当)等

  • 加賀 悟
    加賀 悟
    富山県朝日町 住民・子ども課 子ども係 主事
    児童手当、放課後児童クラブ等

  • 後藤 憲一郎
    後藤 憲一郎
    富山県朝日町 みんなで未来!課 未来係 地域おこし協力隊(デジタルサポート分野)
    DX推進業務(デジタルデバイド対策、みんまなび)、情報発信等

  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター
    2010年IT企業に入社。ビッグデータ解析を用いてEC戦略立案、会員育成などデジタルマーケティングを中心に従事。2019年に博報堂へ入社。前職のデータドリブンの経験を活かし、マーケティングの戦略立案・コンサルティングを行う。また、メディアと連携したソリューション開発、社会課題領域では戦略立案から実装にまで携わる。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター
    大手SIerにて経済産業省が掲げるスマートコミュニティの社会実装、自治体向けシステムの企画・開発など社会基盤分野に10年間従事。事業会社での戦略立案・事業開発を経て2022年に博報堂へ入社。公共・デジタル領域の強みを生かして新規業務開拓に臨む。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター
    2016年に大手印刷会社に入社。商品販促に関する企画営業を経て事業開発領域に転向。
    デジタル田園都市国家構想採択自治体において教育領域のサービス開発に従事。
    2023年博報堂へ入社。地域に入り込み生活者の視点で社会課題を捉えてきた経験を活かして、朝日町のプロジェクトに取り組む。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー
    2018年通信会社に入社。自治体への営業や地域活性化に繋がる商品開発に従事。生活者発想を起点とするマーケットイン型の商品開発に関心を持ち、2023年に博報堂へ入社。教育・福祉領域に関する社会課題解決のための戦略立案から実装に携わる。