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ヒット習慣予報 vol.311『不摂生ウェルビーイング』
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ヒット習慣予報 vol.311『不摂生ウェルビーイング』

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの上利です。

さて、新年度が始まり2週目ですね。年度末に繁忙と送別会などが続き暴飲暴食しつつもジムにも行けず睡眠時間もバラバラな一か月を過ごしてしまった私は、4月に入り健康的な生活を取り戻しつつあります。しかし、SNSを開けばジャンクフードのモッパン動画が自然と流れ込み、新たな流行スイーツは次々に登場。この世界はなんて誘惑が多いのでしょうか。

罪悪感とともにカロリーを味わう「ギルティフード」への注目は世界中で長い間上昇の一途をたどっており、その様子は検索量の推移にも現れています。

▼「guilty food」検索量推移(2007年以降・すべての国)

出典:Googleトレンド

というわけで、生活者の健康意識も高まる中ギルティフード勢力も留まることを知らないこの矛盾した時代に、こうした一見不健康なものや不摂生な生活をもウェルビーイングへの道の一つとして認め、応援してくれるモノが現れてきているように思います。
今回は、そうしたモノたちをヒントに、「不摂生ウェルビーイング」をテーマに取り上げます。

1つ目にご紹介するのは、「夜遊び専用スキンケア」です。
ナイトライフを楽しむ若者をターゲットに、明け方に帰宅してから使うことを想定し、少ない工程で効果の高いスキンケア商品を提案するブランドが近年海外で注目を集めています。美容のために食べたいものや夜遊びを我慢する必要はないというメッセージを打ち出して共感を集め、SNSでは露出の多い服装や度数の高いお酒を肯定し、退廃的な世界観を構築している様子も見受けられます。夜遊びをせずお酒も飲み過ぎず日付が変わる前に就寝することがウェルビーイングであるとこれまでは唱えられてきたように思いますが、パーティーとマティーニが叶えてくれるウェルビーイングだってあるはずだ、という「不摂生ウェルビーイング」の新たな風を感じる事例でした。

2つ目は、「ジャンクなヘルシーフード」です。
全てプラントベースフードでありながら、ラインナップはハンバーガーやナゲット、カレー、ドーナツなどジャンクな欲求も満たしてくれるものばかりという「ジャンクなヘルシーフード」のお店が人気を集めているようです。身体にも環境にも良いプラントベースフードのブランドはこれまでにもありましたが、味気ない・満足感に欠けるイメージがどうしても付きまとい、ジャンクなものを求める気持ちには反する「理性で選択する」存在でした。そんな中登場したこのようなジャンクなヘルシーフードは、ジャンクなものを食べたいという本能的な欲求も肯定してくれる、新たな選択肢になりそうです。

最後に、「ベッドロッティング」をご紹介します。
Bed Rotting=「ベッドで腐る」という意味で、一日中ベッドで毛布にくるまりながら、映画を見たり、好きな食べ物(特にスナック菓子)を食べたり、身体を動かさずにダラダラと過ごすことを指します。生産的であることを放棄し、敢えてこのような怠け者の一日を過ごすことがセルフケアになるという考え方で、SNSでは #bedrottingというハッシュタグと共に、ベッドロッティングをしている様子が投稿されています。また、ヘルシーにベッドロッティングをするためのコツとして、寝ているときのパジャマとは違う部屋着に着替えること、ハッピーエンディングで終わる映画を見ること、ベッドから立ち上がるたびに毎回ベッドの上のお皿やコップを片付けベッドを整えること、などのコツを伝授する投稿も見られました。過度なベッドロッティングは睡眠の質低下やメンタルダウンに繋がるという専門家の指摘や、疾患により一日中ベッドで過ごさなければならない人もいる中でベッドロッティングをレジャー的に提唱することは軽率だという議論もあるようですが、「怠けること」がセルフケアとして注目されたこと自体が興味深い現象に感じます。

では、なぜこうした「不摂生ウェルビーイング」が広まりつつあるのでしょうか?
理由は大きく2つあると考えられます。
1つ目は、理想主義的とも取れる過度なヘルシー志向への反発です。糖質制限に脂質制限、筋トレをすべきだ、姿勢を直すべきだ、これを食べろ、あれを食べるな、と次から次へと生まれるルールだらけの自制的なヘルシートレンドは人々を疲れさせ、完璧主義にとらわれないことも一種のウェルビーイングであるという考えが広まったように感じます。

2つ目は、コロナ禍を経て生まれた刹那主義です。パンデミックによってあれほどに日常や娯楽が制限されてしまうことを知った生活者、とくに若者の中には、またいつ生活が制限されるとも分からないし将来がより良くなる保証もないのだから、楽しめるときに楽しまなくてはならないという刹那主義的な志向性が生まれているように思います。こうした刹那主義が、後先考えずに今の欲求に素直に生きる「不摂生ウェルビーイング」につながっているのではないでしょうか。

最後に、「不摂生ウェルビーイング」のビジネスチャンスとして、下記のようなことを考えてみました。

「不摂生ウェルビーイング」のビジネスチャンスの例
■テーマパークの深夜営業プラン
■夜遊びした翌日用の回復食ミールキット
■深夜に食べても身体への負担が少ない材料を使用した夜パフェ専門店

普段は自分に厳しく摂生している方も、たまには肩の力を抜いてお酒を片手に夜更かし、と不摂生ウェルビーイングを楽しんでみるのはどうでしょうか。
ただし何事もやりすぎは毒ですから、不摂生はあくまで「敢えて」取り入れること、摂生と不摂生のバランスを自分でコントロールできるようにしておくことが大切なのかもしれないですね。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

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  • ストラテジックプラニング局
    ヒット習慣メーカーズ メンバー
    2022年 博報堂に入社。
    狭く深くハマるのが得意なオタク体質で、KPOPとミュージカルをディープに愛する。