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「産休・育休ガイドブック」を通じて、企業の人的資本への共感を生みだす コネヒト × No Company
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「産休・育休ガイドブック」を通じて、企業の人的資本への共感を生みだす コネヒト × No Company

2023年3月期決算より、有価証券報告書で「人的資本」に関する情報開示が義務化され、必須項目の一つとなっているのが「男性の育児休業取得率」です。実際に取得する男性の割合は少しずつ増加しているものの、政府が2025年までに目指す50%にはまだ遠い状況です。そのようななか、今年7月にコネヒト株式会社と博報堂グループの No Company が業務提携し、「産休・育休ガイドブック」制作と採用ブランディングの支援サービスを開始しました。コネヒト 取締役の伊藤翔さんと No Company 代表取締役社長の秋山真に、サービス開発の背景や2社ならではの強み、今後目指すことなどについて聞きました。

伊藤 翔 氏
コネヒト株式会社 取締役 Captain

秋山 真
株式会社No Company 代表取締役社長

人的資本経営に足りていないのは「人的資本コミュニケーション」である

――伊藤さんは2017年にコネヒトへ参画後、2019年に技術まわりの責任者であるCTO、2021年にプロダクトまわりの責任者であるCPOに着任され、現在は取締役として企業運営全般をみていらっしゃるそうですね。まずは、コネヒトの事業について教えていただけますか。

伊藤(コネヒト)
コネヒトは「あなたの家族像が実現できる社会をつくる」をビジョンに掲げていて、家族が希望する出生数と実際の出生数の間にあるギャップを埋めていくことをKGIとして掲げています。主力事業は「ママリ」という、妊活、妊娠、出産、子育ての疑問や悩みを解決するコミュニティメディアの運営で、現在はお母さんの3人に1人が使うサービスに成長しています。もちろん家族の課題はお母さんだけのものではないので、家族の課題をフックに自治体や企業と手を組みながら、家族というテーマに取り組んでいます。

*「ママリ」で2021年内に出産予定と設定したユーザー数と、厚生労働省発表「人口動態統計」の出生数から算出

――今回、その「ママリ」を運営されているコネヒトと、企業の採用マーケティングを支援する No Company が業務提携を締結するにいたった背景を教えてください。

秋山(No Company)
No Company では、「スタイルマッチで組織と人を変えていく」というミッションを掲げ、働く人と企業の価値基準をマッチングし、働く人・企業双方を活性化させていくことを目指しており、「THINK for HR」という独自のSNSデータベースを活用して企業の採用マーケティング・ブランディングを支援しています。2023年3月期決算より有価証券報告書で人的資本の情報開示が義務化されたこともあり、企業は今、働き方に関する企業広報をさらに強化していますが、今年(2023年)1月にこの「THINK for HR」を活用した人的資本経営を促進する採用ブランディングの支援サービスをリリースした際、それを見たコネヒトのご担当の方からお問い合わせをいただいたのが出会いのきっかけでした。
伊藤
以前から、育休取得と仕事や家庭のあり方といったものは切っても切り離せないテーマだと考えていました。コネヒトでは、自治体様や企業様と一緒に男性育休に関する理解の醸成や育休取得支援の一環として、冊子の作成やワークショップの開催をしています。柔軟なコミュニケーションや情報発信は当社の得意とするところではあるのですが、こうした男性の育休取得に対する気運が高まりつつあるなか、育休を取得しやすい環境づくりに向けて、よりインパクトのあるお取り組みができないかと考えていました。そんなときに No Company の人的資本経営の促進にむけた取り組みを拝見し、一緒なら、僕たちが理想とするような取り組みができるのではないかと思ったんです。

秋山
企業の人的資本経営の強化については、一般の人にいかにわかりやすく、正しく伝えることができるかが重要だと考えていました。特に求職者である学生たちは、「人的資本経営って何?」「有価証券報告書って?」という状態だと思うんです。実際に企業側からも、「学生の求職者に対して、どうやったら人的資本経営についてわかりやすく伝えられるだろうか」というご相談をいただいていました。
そこで僕たちは、人的資本経営を開示・証明するだけでなく、求職者や従業員にわかりやすく伝え、企業の価値観やストーリーに共感してもらうこと、すなわち「人的資本コミュニケーション」が今後もっと重要になっていくだろうと確信しました。これを具体的なサービスとして開発できないかと考えていたタイミングで、産休・育休取得促進のための取り組みに知見のあるコネヒトさんとの出会いがあったんです。

今求められるのは、企業の「B面」を伝えること

――両社が手を取ることで大きな価値を提供できると確信を持たれたのですね。一方、企業側が抱えている課題にはどんなことがあるのでしょうか?

秋山
まず企業側には、「産休・育休に関する制度はあるものの、うまく社内に伝わっていない」という課題があります。職種や業種、さらに上司によっても産休・育休をどう取れるかが変わってくるという実態もある。ですから制度一覧を示して終わるのではなく、企業が具体的にどういうスタンスで産休・育休の取得を推進しているのか、過去に経験した人のインタビューなどを通してコミュニケーションすることで、まずは制度の浸透を図れるのではないかと考えています。

採用広報には、基本的な会社情報や待遇・制度などについて伝える「A面」と、企業のカルチャーや社員の価値観などを伝える「B面」という2つの側面があると考えていますが、特にZ世代の就活生は「B面」が伝わるような情報をより求めているということが、調査からもわかっています。そのため、社外に対しても会社としての姿勢やスタイルを伝え、差別化を図っていくことがより求められています。

伊藤
確かにそのとおりですね。かつては企業と従業員は、ある意味主従の関係にありましたが、情報技術の発達などで個人の発信力が上がっていくにつれて、よりフラットな関係になってきていると感じます。そのようなときに企業がすべきことは、もっと大きな社会テーマに向き合って問いを立て、仲間と手を組んで何かを実現していくということ。いかに従業員が成長できるか、そしてやりがいをもって働ける環境をつくれるかといった点が選ばれるポイントになっていくと思います。

実は僕自身も今年第一子が生まれて育休をとりましたが、コロナ禍によってリモートワークが増え、家庭と仕事の境界が曖昧になってきているため、個人の実感としても、単純に家庭のことは家庭だけで、仕事のことは仕事だけで解決することが難しくなってきているなと感じています。育休によってさまざまな経験を積むことができるし、そういう経験を経た多様な人が集まることで組織は強くなるので、企業にはそのための環境づくりが求められていくだろうと思います。

秋山
家庭と仕事の接点が増えた今、産休・育休を取得する社員に対して、企業はどういうスタンスでどんな支援をしていくのかさらに注目されているし、それがその企業の働きやすさにも直結していきます。人的資本経営という大きなトレンドと、働き方の変化という両方の側面から見ても、僕たちが今やろうとしていることには大きな意味があると思っています。

企業のリアルなストーリーがブランド力を高める

――そこで生まれたのが今回発表した「産休・育休ガイドブック」ですね。具体的なサービスの内容と、サービスにおける両社の強みを教えてください。

秋山
クライアント企業独自の「産休・育休ガイドブック」を制作し、社内外への浸透までサポートするというサービスで、各企業の制度や実情に合わせてコンテンツをカスタマイズできるのが最大のポイントです。No Company の「THINK for HR」を活用し、SNSなどで見られる世の中の反応や客観的な視点を盛り込みながら、社員のインタビュー記事など企業の「B面」を見せていくことで、より説得力のある内容にしていきます。「産休・育休ガイドブック」は既に一部の企業でも制作・公開している例もありますが、今回の2社の取り組みではその事例も参考にしつつ、コネヒトと No Company の独自データ・知見を活かしてより付加価値をつけて提供しています。さらに、それを No Company のソリューションと掛け合わせて、採用ブランディングに活用していけるのが大きな強みです。
伊藤
コネヒトではもともと夫婦をターゲットに、育休をとるにあたって話し合うべきテーマなどをわかりやすく紹介する「育休ガイドブック」を作っていました。そのなかで思ったのは、やはり当事者以外の人への周知や理解も不可欠だということ。そこで今回のガイドブックでは、当事者の周りの人に対して、産休・育休に興味をもってもらい、話をするきっかけづくりにしてもらえたらと考えています。コネヒトのアセットである、「ママリ」に集まる家族のリアルな声を反映したコンテンツや取得経験者やその上司へのインタビュー記事などを通じて、親近感を持って読んでもらえるような内容にしています。読んでもらうことで、働く人が家族に向き合う時間を増やしていき、さらに仕事の成果にもつながっていくといいなと思います。

――企業によって課題もカルチャーも異なると思うのですが、カスタマイズするうえでどのような工夫をされるのでしょうか。

伊藤
内容としてはある程度共通のフォーマットがありつつ、企業のフェーズや規模によって求められることは変わりますので、それに合わせた構成・内容を検討します。大企業なら、制度の浸透のためにもマネージャークラスの方の発信が重要になりますし、スタートアップの場合はもっと基本的な、産休・育休についての理解度を高めるようなコンテンツが必要になります。また、コンテンツの要となる座談会も、企業のカラーに合わせて、産休・育休から復職した女性とその上司や、あるいは男性同士にするなど、効果的な組み合わせを考えながら構成します。
秋山
社内で制度づくりにかかわっている人へのヒアリングなどを通じて、その企業のカルチャーをとらえたうえで、たとえば、「管理職に向けてはこういったコメントがこの程度入った方がより伝わりやすい」など、誰に向けたコミュニケーションなのかを考慮しながら細かい調整を行います。

――なるほど。対外的にはどのように活用できるのでしょうか?

秋山
このコンテンツをつくった背景や過程のストーリーを記事や動画にして対外的に発信することで、その企業の考え方や意思決定の基準がわかり、人的資本コミュニケーションにつながっていきます。それをそのまま採用コンテンツに活用し、採用ブランディングへとつなげていくことも可能です。今は世の中が、企業のよりリアルな人的資本に関する情報を求めていますから、対内的・対外的な情報に差を持たせないことも大きなポイントになっています。
伊藤
そうですね。今の若い世代は情報リテラシーも高いので、取り繕ったことを発信してもすぐに気づかれてしまいます。課題も含めてリアルな情報を提供した方が企業の真摯な姿勢が伝わり、企業のプレゼンスやエンゲージメントは高まっていくでしょうね。労働人口が減るなか、企業同士でパイの取り合いをするのではなく、どんどん情報発信をして業界全体のレベルを上げていくことが重要だと思います。

「産休・育休ガイドブック」を新しい“当たり前”に

――「産休・育休ガイドブック」を、社内だけでなく企業の対外コミュニケーションにも活かせるというのはとても興味深いです。さまざまなゴールが描けそうなサービスですが、最も目指すべき点はどこになりますか。

秋山
まずは「産休・育休ガイドブック」をつくって活用する企業を増やし、そこから企業ブランディングや採用マーケティングにつなげ、生活者と企業のスタイルマッチを促進したいと考えています。商品やサービスのブランディングだけではなく、組織風土や働く環境づくりも含めた企業のブランディングまで一貫して行えるのは博報堂グループの大きな強みでもありますから、この「産休・育休ガイドブック」をフックとして、企業のブランド力向上に寄与していきたいですね。
伊藤
産休・育休に限らず、こうした企業のカルチャーや社員のよりリアルな価値観がわかるコンテンツが当たり前に企業に求められるようになると、働く環境もさらに良くなるような気がします。当社が運営する「ママリ」には家族のリアルな声が集まっているので、その声を活かしたサービスを通じてさまざまな企業と取り組んでいくなかで、家族についてもっと自由に話せるような職場環境を増やしていきたいと思っています。
秋山
確かにそうですね。このガイドブックをきっかけに、男女問わず、職場でももっと気軽に産休・育休や家族について話ができるようになるといいですね。
伊藤
同じ悩みを抱える人同士、社内で話ができて関係性が深まっていけば、きっと仕事もやりやすくなり、生産性も上がるはずです。なかには育休中にメンタルに問題を抱えてしまう方もいると聞きますが、男性の育休取得が促進されれば、そうした問題にも男女一緒に向き合えるようになるのではないでしょうか。

――産休・育休の取りやすさも含め、職場環境も以前と比べれば随分変わってきていると思いますが、男女交えてさまざまな課題をより気軽に話せるような環境になっていったら、より素晴らしいですね!
最後に、お二人の今後の展望について教えてください。

伊藤
産休・育休は、長いキャリアのなかで起こるさまざまなライフイベントのほんの入り口です。家庭と仕事の境目があいまいになるなか、当社と No Company が持つデータと知見を掛け合わせ、仕事を持つ全ての人がより働きやすくなるようなソリューションをつくっていけたらと思います。
そしてもう一つ、夫婦が希望する出生数と実際の出生数のギャップには、経済的な課題が占めるウェイトが非常に大きい。それを埋めるためには、自分が働いている企業や業界、ひいては日本全体が経済的に豊かになっていくことが欠かせません。産休・育休の取得促進やそれにむけた企業の環境づくりを支援していくことは、家族の理想の姿をつくっていくうえでも非常に重要ですし、日本全体の成長にもつながっていくと思います。その実現までやっていけたら何よりですね。
秋山
「産休・育休ガイドブック」を、企業が現在出している統合報告書やサステナブルレポートなどと同様に、人事施策に力を入れている企業はどこでもやっているよね、という新しい“当たり前”にしていくことが一つのゴール。さらに、伊藤さんがおっしゃったように、コネヒトが持つリアルな家族の声・データや社内浸透の知見と、僕たち No Company が持つ生活者データや、採用ブランディングの知見を掛け合わせ、企業と人のスタイルマッチが促進されれば、人材不足の解決にもつながる。これをきっかけに、よりポジティブな未来につなげていきたいと考えています。

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  • 伊藤 翔 氏
    伊藤 翔 氏
    コネヒト株式会社 取締役 Captain
    慶應義塾大学卒業。金融系のSIer、Web系の受託開発会社を経て、SuperShip株式会社に入社し、コミュニティサービスの開発に従事。2017年にグループ会社であるコネヒトに出向し、「ママリプレミアム」の立ち上げなど、バックエンドエンジニアとしてママリの開発に携わる。プレイングマネージャーやリードエンジニアを歴任し、2019年にCTOに就任。その後3年間CTOとして歩み、2022年4月からCPOとしてプロダクト開発に従事。
  • 株式会社No Company 代表取締役社長
    2016年に、No Companyの親会社であるスパイスボックスに新卒入社。2年間のデジタルマーケティングプロデューサーの経験を経て、2018年に採用コミュニケーション事業を立ち上げ。2021年10月にNo Companyを設立し、代表取締役社長に就任。SNS起点の採用ソリューションを開発し、企業のオンライン採用やDXを支援。働き方や価値観の多様化に合わせて、企業の採用活動が進化できるよう独自のソーシャルデータベースである『THINK for HR』を活用して、Z世代やSNS世代に刺さる採用コミュニケーションの立案や実行などのサポートを行う。