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対談!EC+【第15回】「ファンマーケティング×コマース」ってなに? ECに「人の温もり」を加えるコミュニティの力
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対談!EC+【第15回】「ファンマーケティング×コマース」ってなに? ECに「人の温もり」を加えるコミュニティの力

ファンコミュニティを通じ、企業とファンがつながる活動が広がっています。コミュニティを活用したファンマーケティングはECにどのような付加価値をもたらすのでしょうか。博報堂DYグループのECプロフェッショナル集団「HAKUHODO EC+」のメンバーが、外部のECの専門家の皆さんと語り合う連載「対談!EC+」第15回では、コミュニティプラットフォームを提供しているAsobicaの小父内信也さんとコミューンの杉山信弘さんをお招きし、「ファンマーケティング×コマース」の可能性について語り合いました。

小父内 信也氏
Asobica 取締役CCO

杉山 信弘氏
コミューン 執行役員CMO

奥山 貴弘
HAKUHODO EC+ リーダー
博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長代理
コマースDX推進グループマネージャー

島田 典明
HAKUHODO EC+ コンサルタント
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
コマースDX推進グループ マーケティングプラニングディレクター

ファンとは同じ方向に向いて進んでいく「仲間」のこと

奥山
ECは「便利に買い物ができるチャネル」から、「人と人がつながる場」「生活者とのインターフェース」に変わりつつあると私たちは考えています。今回は、コミュニティやファンマーケティングとの組み合わせによってECがどう変わっていくか、その可能性を探っていきたいと思います。まず、「ファン」の定義について、ご意見をお聞かせください。

小父内
非常に重要な問いだと思います。ファンとは商品を買ってくれる人のことでしょうか。しかし、例えば「安い」というのがその人が商品を買う理由であるとしたら、次は他社のもっと安い商品を選ぶかもしれません。そういった購買者をファンと呼ぶことはできないと思います。私は、ブランドに対する「愛」や「熱量」がある人のことをファンと定義したいと思っています。愛や熱量があるがゆえに、ときには厳しいことも言ってくれる。それがファンだと考えています。

杉山
私は、「商品購入以外の行動を能動的に行う人」と定義しています。商品を購入していることを前提として、その商品を友だちや家族に紹介してくれたり、SNSでリコメンドしてくれたりする人がファンだと考えています。よくあるのは、「商品をたくさん買っている人」「商品にたくさんお金払っている人」がファンであるという誤解です。例えば、転売目的で商品を大量に買っている人は、その商品のファンではありません。逆に、あるアーティストのことがとても好きだけれど、お金があまりないから、年に1度の年越しライブには必ず行く。それ以外はサブスクリプションでアーティストの音楽を楽しむ──。そういった人は、使う金額に関わらずファンと言えると思います。

奥山
「ファンマーケティング」の定義についても、ご意見をお聞かせください。
小父内
まず、ファンとの関係性が事業の存続や成長に結びついているという点が欠かせないと思います。また、ファンとのコミュニケーションによってプロダクトやサービスが改善されるという視点も大切です。ファンの意見を聞いて、商品がブラッシュアップされ、それによってファンの皆さんに喜んでもらい、事業も成長する──。そんなサイクルを成立させることが、ファンマーケティングの理想ではないでしょうか。
杉山
ファンマーケティングとは、「ファンを対象とするマーケティング」ではありません。すでにファンになってくれている皆さんの能動的な行動を促し、それを事業活動につなげていく取り組みがファンマーケティングであると私は考えています。
島田
「ファンを対象とする」のではなく「ファンと一緒に行う」活動がファンマーケティングであると言ってもいいかもしれませんね。
奥山
ファンに、いわば「ブランドの協力者」になってもらうということですね。
小父内
ファンを「仲間」と表現するとわかりやすいですよね。ブランドをともに育てていく仲間ということです。
杉山
同感です。同じ方向に向いて進んでいく仲間と捉えると、イメージがわきやすいと思います。

コミュニティから生まれる「温もり」

奥山
さまざまなマーケティング手法の中で、ファンマーケティングにはどのような特質があるのでしょうか。
島田
1つは「持続性」です。ファンマーケティングとは、ファンが新しいファンを連れてきてくれることで、ファンがファンを育ててくれるモデルでもあります。ファン同士の関係によって、ブランドとファンの関係も持続し、かつ広がっていく。そんな特性がファンマーケティングにはあると考えています。

奥山
では、ファンマーケティング、あるいはコミュニティとECの親和性についてはどう考えられますか。
小父内
ECはとても便利である反面、「温もり」を感じにくいという面があると思います。それに対して、コミュニティを活用したファンマーケティングには、仲間同士がつながる温もりがあります。その温もりを上手にECに結びつけていくことができれば、ECとファンマーケティングの大きなシナジーが期待できると思います。単に商品を買うだけでなく、ブランドの魅力について語り合ったり、商品の使用感について意見を交換し合ったりするコミュニティがあることによって、最初に奥山さんがおっしゃったように、ECはまさしく「人と人がつながる場」になりうるのではないでしょうか。
杉山
ECの顧客体験の質を向上させるいう点でも、コミュニティはとても有用です。ファンコミュニティを活用することによって、実店舗のようなホスピタリティをECで提供することが可能になると思います。
島田
ECでは商品を実際に手に取ったり、試してみたりすることが難しいです。そのため、ほかのユーザーの評価や口コミが非常に重要になります。コミュニティにおいて、自社の商品やサービスを日々利用してくれているファンの口コミは重要な役割を果たすと考えています。ある商品に関する口コミが増えれば増えるほど、その商品に関するイメージが明確になっていくため、購買者にとって大きなメリットになります。
奥山
ファンマーケティングは、新規顧客獲得と、CRMやLTV(生涯顧客価値)の向上、そのどちらにより効果的なのでしょうか。
杉山
結論から言うと、両方です。ファンが友だちや家族にブランドを紹介してくれることによって新規顧客が獲得できる場合もあるし、ファン同士のコミュニケーションの中で継続的な購買行動が促進され、結果的にそれぞれのファンのLTVが上がるケースもあります。
小父内
私もそう思います。ただし、順番が重要です。起点になるのは「現在のファンを大切にする」というスタンスです。そのアプローチを続けることによって、それぞれのファンの周辺にいる潜在購買層にコミュニティの力が波及していく。そんなイメージを持つべきだと思います。

コミュニティ運営が社員のモチベーションを向上させる

奥山
これまでのファンマーケティングの成功事例をお聞かせいただけますか。
小父内
大手ホームセンターの数十万人規模のファンコミュニティは、1つの成功事例と言えると思います。それぞれのDIY事例を投稿してもらい、それに使った道具や材料の購買行動を促進するというコンセプトのコミュニティです。面白いのは、別ショップのコミュニティとの情報交換が発生するケースもあることです。私はそれを「コミュニティクロス」と呼んでいます。異なるコミュニティ間でコミュニケーションが生まれることで、両方のコミュニティが活性化し、それぞれに購買が促進される。そんな流れが生まれています。

杉山
私が担当してきたコミュニティには、大きく2つのパターンがあります。「商品の購入者」という軸で成立している一般的なファンコミュニティと、「ペインや興味関心」を軸として、そこから商品へのつながりが生まれるコミュニティです。後者は例えば、「お子さんにアレルギーがある」といった課題をテーマとしたコミュニティです。コミュニティの中でお弁当のつくり方や、アレルギーへのケアがしっかりしている飲食店の情報などのやりとりがあって、そこからアレルギー対応の食品の購買につながるという構造になっています。コミュニティの参加者が一緒に旅行に行って、旅館のアレルギー対応の情報をシェアするといった動きも生まれています。
小父内
ファンコミュニティを運営していて面白いと思うのは、日々いろいろな気づきがあることです。「こんなファンがいたんだ」「こんなことを考えている人がいるんだ」「こんなコミュニティの使い方があるんだ」──。そんなインサイトが得られることが、コミュニティ運営の大きな醍醐味です。
杉山
企業の社員の皆さんも、そういった気づきがあるとモチベーションが上がりますよね。とくにECの場合は、実店舗と違って顧客との直接の対話がないので、コミュニティでやり取りされているリアルな声はとても貴重だと思います。
小父内
ファンコミュニティには、社員のエンゲージメントを上げるという効果もあるということですよね。
杉山
そうです。コミュニティの大切さが社内で認知されるようになって、マーケティング担当だけではなく、商品開発を担当している方々がコミュニティから商品のヒントを得るようになる。そんな動きをつくることができれば理想的です。

ファンコミュニティ運営の3つのハードル

島田
私は前職でまさに商品開発の仕事をしていたことがあります。その頃に、「お客さまが本当に求めているものは何か」とずいぶん悩みました。あのときファンコミュニティがあったら、気軽にお客さまとコミュニケーションを取ることができ、よりお客さま視点で商品開発ができたのではないかと思うことがあります。
奥山
VOC(顧客の声)を集めて商品開発や改善にいかしている企業は少なくありせんが、VOCは、要望やお叱りの声が多くなってしまいますよね。
島田
企業が集めるVOCは顧客から企業へという一方通行の情報伝達になるケースが多いです。ファンコミュニティであれば、顧客と企業が双方向にコミュニケーションを取る中で、ポジティブな意見もネガティブな意見もリアルにやり取りされる。そのため商品やサービスの改善の起点になるような顧客の声を得ることができると考えています。
杉山
VOCの観点から見ると、ファンコミュニティには2つのメリットがあると言えます。1つは企業からファンへの問いかけができること。もう1つは、ファンからの声に対してしっかりとした返答ができることです。例えば、誰かから質問があった場合、それに対して回答をし、そこからデプスインタビューにつなげるといったことも可能です。このようなやり取りによってファンとの絆が深まるし、商品やサービス、あるいはコミュニティそのものの改善のヒントを得ることもできます。
奥山
ファンコミュニティにはいろいろなメリットがあることがわかりましたが、一方でそれを開設して運営していくには、越えなければならないハードルもありそうです。
杉山
企業側から見た場合、コミュニティ運営には3つのハードルが考えられます。比較的多いのが「過去に一度チャレンジして失敗している」というケースです。つまり、負の経験がハードルになってしまっているわけです。このハードルを越えるには、過去の取り組みの問題点を洗い出して、別のやり方を探ることが必要です。

2つ目のハードルは、「コミュニティに参加してくれる人なんていないんじゃないか」「批判的な意見ばかりが集まるんじゃないか」という危惧です。これを乗り越えるために、私はよく「実際に会ってみましょう」というご提案をしています。メルマガのアンケートに答えてくれていたり、インスタグラムに「いいね」をしてくれていたりする人にダイレクトメールを送って、面談をさせていただくのです。その人が「最初のファン」になります。それを何度か繰り返して、コミュニティの「最初の10人」を集める。そんなところから始めてみることは、これまでの経験上かなり有効な方法です。

3つ目は、「日々の運用がたいへん」というハードルです。これについては、私たちコミューンやAsobicaの皆さんが提供するコミュニティプラットフォームをお使いいただくことで、かなりハードルを下げることができます。

島田
「組織の壁」というハードルを越えることも必要だと思います。マーケティング、販促、商品開発などの各セクションの担当者が部門横断的にコミュニティ運営に参加できる仕組みをつくらないと、成果はなかなか得られません。

もう1つは「時間」というハードルです。ECでは短期的な売上がKGIとして設定されることが多いです。しかし、コミュニティを育てていくには時間がかかります。この「時間感」のギャップをどう埋めていくか。おそらく、コミュニティの成果をECの売上に紐づけて定期的に確認できる指標や仕組みがあれば、ECとコミュニティの連動はより一層進むのではないでしょうか。

解像度の高い顧客理解が可能に

奥山
近年のマーケティングでは「顧客理解」がとても重要視されるようになっています。顧客を深く理解するためにファンコミュニティをどう活用すればいいか。ご意見をお聞かせください。
小父内
最近は多くの企業がファーストパーティーデータを保有していますが、そのデータから、誰がどのような思いをもって、どのような行動をして、どのようなきっかけで商品を買ってくれたかといったことを把握することはできません。しかしファンコミュニティがあれば、コミュニティの中でのやり取りを見ることで、購買行動の「文脈」を知ることができます。それがすなわち顧客理解ということなのだと思います。

杉山
顧客を理解するということは、「ストーリー」を理解することだと私は考えています。購買行動自体は一瞬です。しかし、初回の購買にはそこに至るストーリーがあり、さらに2回目、3回目の購買につながるストーリーがあります。小父内さんがおっしゃる「文脈」に近い考え方ですね。コミュニティ内でのやり取りとECのデータを組み合わせることでストーリーを描き、そこからモデルをつくって販促マーケティングに活用していくことができれば、ファンコミュニティを活用した顧客理解を売り上げに結びつけることが可能になると思います。
島田
LTVが高いのは誰か。その人は男性か女性か。その人の年齢層はどのくらいか──。そこまではECのデータから読み取ることが可能です。しかし、「なぜ、その人はLTVが高いのか」をECのデータから読み解くことは難しいです。そこに課題があると私は以前から感じていました。お二人の話をうかがって、まさにファンコミュニティの定性データとECのデータをつなげることで、これまでは難しかった解像度の高い顧客理解が可能になることがわかりました。

コミュニティとECをシームレスに行き来できる仕組みを

奥山
最後に「ファンマーケティング×EC」にどのような未来があるか、それぞれのお考えをお聞かせください。
小父内
まず、ファンコミュニティ活用が当たり前である世界をつくっていきたいと考えています。そのためには、私たちのようなコミュニティの運用ノウハウとプラットフォームをもっているプレーヤーが果たすべき役割はとても大きいと思います。

そのうえで、ファンコミュニティとECを結びつけることによって「現代版の八百屋」をつくるのが私のビジョンです。「今日の晩御飯は何?」「すきやき。息子が試験で100点とったから」「じゃあ、この白菜もっていきなよ」──。昔の商店街ではどこでも、八百屋さんと生活者のそんな会話がありました。ECでそういう温もりあるコミュニケーションを実現したいですね。利便性に温もりが加わることによって、ECの価値はいっそう高まる。そう考えています。

杉山
大切にしたいのは「共創」という考え方です。共通の課題や共通の嗜好性をもった人たちがコミュニティに集まってきて、その人たちの意見を聞きながら商品やサービスをどんどんつくっていけたらいいと思います。ファンの声を聞いて開発する商品なので、必ずそれを支持してくれる人はいます。コミュニティが新しいプロダクトやサービスを生み出す場になり、それがECで多くの人に届けられる。そんなモデルをぜひつくりたいですね。
島田
現状では、コミュニティサイトとECサイトが別々に運用されているケースも多いと思います。コミュニティとECをシームレスに行き来できる仕組みがあれば、生活者はコミュニティに寄せられた口コミやUGCを商品購入の参考にすることができますし、企業はコミュニティがどのくらい売上に貢献しているかを数値的に把握することができます。コミュニティとECの距離を近づけることに引き続きチャレンジしてきたいと思います。
奥山
今日のお話を聞いて、ファンマーケティングとECには親和性があることがよくわかりました。コミュニティから温もりが生まれ、商品開発のきっかけが生まれ、ECの価値を上げていく。そんな流れをぜひ一緒につくっていきましょう。
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  • 小父内 信也氏
    小父内 信也氏
    Asobica 取締役CCO
    2005年、大手電子機器メーカーへ入社。その後、中小企業診断士を取得。2010年、創業初期の名刺管理システムを提供するSansan株式会社に入社。全社MVPの受賞、最年少での幹部への昇格を経験。 約7年のデータ化部門責任者を経て、名刺アプリ Eightのコミュニティマネージャーへ。2019年に株式会社Asobicaに取締役CCOとして参画。これまで約200社のファンコミュニティの立ち上げ、および支援に携わる。
  • 杉山 信弘氏
    杉山 信弘氏
    コミューン 執行役員CMO
    2013年株式会社博報堂入社。大手製薬会社、アパレルメーカー、大手ファッション通販運営企業、ゲームメーカーのマーケティングを担当。 2017年8月フラー株式会社のチーフマーケティングオフィサーに就任。コーポレート、サービス双方のマーケティングの統括を行なう。
    2021年3月コミューン株式会社入社。2022年、執行役員CMOに就任。
  • HAKUHODO EC+ リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長代理
    コマースDX推進グループマネージャー
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。
  • HAKUHODO EC+ コンサルタント
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    コマースDX推進グループ マーケティングプラニングディレクター
    新卒で食品メーカーに入社し、D2Cビジネスの立ち上げを経験。その後、外資系食品メーカーにて、自社ECのマーケターとしてブランド横断のCRMに従事。2022年に博報堂入社。これまでの事業会社でのECビジネス経験を元に、D2Cビジネスの立ち上げ支援や自社ECのコンサルティング業務を担当。