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マーケティング課題を俯瞰し、データドリブンなフルファネルモデルをつくる──「フルファネルマーケティングプラニングウェイ」が実現する新たな統合マーケティング
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マーケティング課題を俯瞰し、データドリブンなフルファネルモデルをつくる──「フルファネルマーケティングプラニングウェイ」が実現する新たな統合マーケティング

マーケティング活動を一気通貫の視点で捉える「フルファネル」という言葉をしばしば耳にします。しかし、企業の課題をフルファネルで把握し、その課題に対応するソリューションを見極めることは簡単ではありません。博報堂データドリブンプラニング局は、ダイレクトマーケティング支援の経験を活かした局内プロジェクトを立上げ、課題解決の道筋となる手引書「フルファネルマーケティングプラニングウェイ」を、およそ半年をかけて作成しました。その背景にあった問題意識と、その手引書がもたらす価値について、プロジェクトのメンバーに語ってもらいました。

大澤 裕
博報堂 データドリブンプラニング局 ダイレクトプラニング部部長
ビジネスプラニングディレクター

桝屋 圭祐
博報堂 データドリブンプラニング局 ダイレクトプラニング部
マーケティングプラニングディレクター

小田島 卓也
博報堂 データドリブンプラニング局 データサイエンス部
データサイエンティスト

マーケティング活動を「鳥の目」で見る

──データドリブンプラニング局のダイレクトプラニング部は「フルファネルマーケティングプラニングウェイ」の作成を2022年に本格的にスタートさせました。取り組みの概要をご説明ください。

大澤
企業のマーケティング活動は、高度化すればするほど個々のプロセスが専門化して分断してしまう傾向があります。そうなると、どうしても各プロセスのご担当者が「虫の目」でマーケティングを見るようになってしまい、全体最適視点でマーケティングに取り組むことが難しくなっていきます。その課題を解決するために、「鳥の目」で全体を俯瞰してクライアントを支援できる体制とソリューションをつくる必要があると僕たちは考えました。

桝屋
博報堂DYグループ内には、さまざまなソリューションやサービスがあります。それによってマーケティングに関連するほとんどの領域を網羅することが可能です。しかし、クライアントにどのソリューションを提供するのが最適かをわかりやすく示す「見取り図」はこれまでありませんでした。我々が目指したのは、そのような見取り図をつくることでした。
大澤
クライアントのマーケティング活動を俯瞰的な視点で支援していくためには、博報堂DYグループ全体のケイパビリティを俯瞰することが必要です。グループ内にはさまざまな専門部署があって、個別領域の専門家がいます。また、そこで使われている言葉も異なるケースもあります。そういった個々の活動を把握してつなげていくためには、ハブになる役割が求められます。その役割を僕たちが担うことによって、グループのケイパビリティを最大化し、クライアントにより大きな価値を提供していくこと。それが僕たちのミッションです。

──皆さんが所属しているのは、いわゆるダイレクト商材系のクライアントを担当するダイレクトプラニング部です。そのチームがフルファネルの体制づくりに取り組むことの意味合いをお聞かせください。

大澤
クライアントと顧客が直接的に契約を交わしたり、商品を直接的に売買したりするのがダイレクト商材です。通販、自動車保険などのほか、最近ではアプリを使ったサービスなどもここに含まれます。昔からあるビジネスモデルではありますが、D2Cブランドの流行や、DXの拡大などによってここ数年で志向する企業も非常に増えてきています。ダイレクトマーケティングの大きな特徴は、顧客データを直接獲得できるため、フルファネルモデルをつくりやすい点にあります。情報提供、資料請求、契約、契約後のCRMとLTV(生涯顧客価値)の最大化までを一気通貫のモデルにできるわけです。そのようなフルファネルモデルづくりの知見は、ダイレクト商材以外のカテゴリーにも適用することが可能です。近年では、あらゆる業種でフルファネルマーケティングが必要とされるようになっています。僕たちがダイレクト領域で得たフルファネルモデルづくりのノウハウをほかのカテゴリーのクライアントにも提供していきたいと僕たちは考えました。

図:フルファネルモデルのイメージ

データドリブンなフルファネルモデル

──小田島さんの職種はデータサイエンティストです。このチームにデータのプロがいることにはどのような意義があるのでしょうか。

小田島
クライアントの課題をデータの視点で読み解くことによって、どのような解決のアウトプットを出せるかが明らかになります。そのデータとアウトプットのセットを、僕たちは「モジュール」と呼んでいます。クライアントの課題をモジュール化することで、解決への道筋が描きやすくなります。

また、データを活用することで一気通貫のマーケティングモデルをつくることが可能になります。僕たちがよく活用するのが、マーケティングミックスモデリングと呼ばれる方法論です。マーケティングに関係するさまざまなデータをモデルに当てはめて、どのような施策がどのくらい効果があったかを可視化する方法論です。この方法論によって、データドリブンなフルファネルモデルをつくることができます。

──現在、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。プロジェクトの取り組みとDXの関係をご説明ください。

大澤
マーケティングのDXが進めば、収集できるデータが増え、課題把握の精度が上がります。それによってより確度の高い解決策を提案することが可能になります。逆に、こちらからソリューションを提案することでデータの必要性が明らかになり、DXが進んでいくという流れもあり得ます。
桝屋
DXは多くの場合、段階的に進んでいくものです。ある課題に対する解決策をこちらから提案して、その領域でデータ活用が進むと、別の領域でもデータが必須であることがわかったりします。それによって新しいシステムの導入が進んだり、データ活用の組織体制が整備されたりする。そんな流れがつくれればDXがより加速して、フルファネルのデータ活用につながっていくと思います。

大澤
重要なのは目的の設定です。例えば、広告効果を最大化したいという目的があって、それを実現するためにはデータが必要なので、データを活用する仕組みや体制を整備していく。それが正しい流れだと思います。目的が明確ではない中で、データだけを整備しようとしてもなかなか進みません。
桝屋
僕たちの役割は、目的設定の際に「マーケティングをフルファネルで見る」という視点を同時にご提供することです。個々のプロセスの課題をデータ活用によって解決していこうとすると、どこかで必ず俯瞰する視点が必要になります。個別最適の視点と全体最適の視点をうまくつなげていくお手伝いができればいいと思っています。

クライアントの課題と解決策を整理した見取り図

──皆さんが開発した「フルファネルマーケティングプラニングウェイ」についても解説していただけますか。

大澤
シンプルに言うと、クライアントの課題特定の方法と、それを解決する博報堂DYグループのケイパビリティをまとめた手引書のようなものです。企業が取り組んでいる事業には一定の成長プロセスがあり、局面ごとに発生する可能性が高い課題があり、想定される外部要因があります。それをファネルごとに整理して、その解決策をマッピングしています。

図:フルファネルマーケティングプラニングウェイ(マーケティング領域)のイメージ

桝屋
作成に当たっては、グループ内の各部署のヒアリングをして、あらゆるソリューションを網羅することを目指しました。完成まで半年近くかかっています。
大澤
クライアントの課題と博報堂DYグループのソリューションの対応関係をわかりやすく整理したものは、これがおそらく初めてだと思います。グループ内のプラナーが課題解決の道筋を描くガイドになるだけでなく、クライアントへの提案資料のベースにすることも想定しています。クライアント側で課題が特定できていない場合でも、この手引書を叩き台にして課題を抽出し、その解決の方法をともに探っていくことが可能です。

小田島
僕はフルファネルマーケティングプラニングウェイの作成には直接関わっていないのですが、完成したものを見て「よくまとめられたな」と驚きました。以前は、課題解決のプラニングは経験に大きく左右される場合が多く、またプラナーの社内外の人脈によってクライアントに提案できるプランの質に差がありました。もちろん経験知や人脈はとても重要ですが、この手引書を使うことで属人的な要素が比較的少なくなり、誰でもある程度のレベルでプランニングができるようになると思います。
大澤
フルファネルマーケティングプラニングウェイは、プラナーがデータドリブンな動きをするためのガイドにもなると考えています。クライアントのマーケティング活動をフルファネルで見ながら、データを活用して課題を解決していく。そんなプラニングスキルのベースになることを目指しました。
桝屋
最近、クライアントの現場のご担当者から「CMO(マーケティング最高責任者)と対話ができるプラナーをアサインしてほしい」というご要望をいただくケースが増えています。フルファネルでマーケティング全体を把握できるプラナーということです。フルファネルマーケティングプラニングウェイは、そのようなプラナーを育成するための一種の教科書のような役割も果たせると思います。

「手引書」の作成過程で見えてきたこととは

──フルファネルマーケティングプラニングウェイの作成過程で見えてきたことがありましたらお聞かせください。

大澤
博報堂DYグループ内には本当に幅広いソリューションが揃っていることが確認できたと同時に、競争力に課題を感じたり課題解決のエアポケットになっているところがあることも見えました。今後、機能の重複などを整理しながら、一つ一つのソリューションのベースアップをしていくことや、足りないケイパビリティを埋めていくことを提案していきたいと思っています。

桝屋
先ほど大澤さんからあったように、広範なソリューションのそれぞれをつなげてまとめ上げていく機能が足りないということをあらためて感じましたね。その点でも、ハブになる役割はとても重要だと思いました。

──苦労してこの手引書をつくったことの一番の成果は何だと思いますか。

大澤
リリースしてから半年くらい経ちますが、グループ内のソリューション連携が確実に進んでいます。それから桝屋が話したように、CMOクラスの方々と対話ができるプラナーが増えてきています。また、フルファネルマーケティングプラニングウェイをベースにしたご提案によって、新しいクライアントとおつき合いが始まったケースもあります。これも大きな成果ですね。

──グループ社員からの反響はいかがですか。

桝屋
「こういうものがほしかった」という声をよく聞きます。できるだけ多くの皆さんに使ってもらって、意見を聞きながらブラッシュアップしていきたいと考えています。

ファネルの外への跳躍が必要なこともある

──今後の見通しをお聞かせください。

小田島
博報堂DYグループには「データサイエンスブティック」という組織があります。グループ内のデータの専門家の連携を進めることがこの組織の1つ狙いですが、

今後、フルファネルマーケティングプラニングウェイを活用することで、データサイエンスの取り組み自体をフルファネル化して、そこに新しいテクノロジーや方法論を取り込んでいきたいと考えています。また、その取り組みの成果をチームにフィードバックすることで、このチームのパフォーマンスを上げていくこともできると思います。

桝屋
フルファネルマーケティングプラニングウェイは、一種の事例集でもあります。今後、より強力な成功事例を盛り込んで、説得力を上げていきたいですね。また、ソリューションも日々進化しているので、それを反映してアップデートを続けていくことが必要だと思います。

大澤
2つあります。1つは、博報堂DYグループ全体のソリューション開発のビジョンをつくるためにフルファネルマーケティングプラニングウェイを使ってもらいたいということです。新しいソリューションを次々に生み出せるのは博報堂DYグループがもつ大きな強みですが、新規開発の際にグループ内にあるほかのソリューションやサービスに目配りをして、連携の可能性を模索したり、重複する機能を省いたりすることができれば、グループ全体のソリューション力は格段に高まると思います。

もう1つ、フルファネルという考え方に縛られすぎないことを常に意識しておきたいと考えています。フルファネルプラニングは、ファネルの各段階における課題を見つけ、データを使って可視化し、解決策を考えていく一連の取り組みが基本になります。しかし、新しいものを生み出すには、ファネルの枠を出て大きくジャンプすることが求められる場面もあるはずです。クリエイティブなアイデアづくり、パーパスの考案、生活者エクスペリエンスの開発──。そういった取り組みの多くは、ファネルの外に出なければ実現しないものです。フルファネルという考え方を大切にしながら、それが決して万能ではないという意識も保っておく。そんな心構えが必要であると思っています。

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