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〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉の挑戦【連載第1回】──テクノロジー×生活者発想のマーケティングシステムが生活者と社会を動かす!
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〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉の挑戦【連載第1回】──テクノロジー×生活者発想のマーケティングシステムが生活者と社会を動かす!

2023年9月に博報堂DYグループの6社によって発足した〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉。マーケティングシステムに関する専門メンバー500人が集結したこの組織体が目指すものと、マーケティングシステムの可能性について、責任者の青木雅人、推進リーダーの横山陽史、推進副リーダーの齋藤充の3人が語りました。

(写真中央)
青木 雅人
博報堂 執行役員

(写真左)
横山 陽史
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 局長
博報堂マーケティングシステムズ 代表取締役

(写真右)
齋藤 充
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム 上席執行役員
ソリューションビジネス本部長

拡張するマーケティングシステムの領域

──〈マーケティングシステム・イニシアティブ(以下、MSI)〉とは、どのような組織体なのでしょうか。

横山
MSIは、博報堂DYグループの6社*1の連携によってつくられた横断型組織です。これまでは、マーケティングシステムに関するサービスやソリューションをそれぞれの会社が独自に提供してきました。それらを集約し、グループ全体のマーケティングシステムのケイパビリティを向上させていくことが、この連携の大きな目的です。MSIには、マーケティングシステムの各分野の専門家、500名が集結しています。

*1:博報堂、アイレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム、博報堂テクノロジーズ、博報堂マーケティングシステムズ、グロースデータ

博報堂DYグループ6社、「マーケティングシステム・イニシアティブ」を発足
https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/106083/

──このような横断型の組織体をつくることになった背景をお聞かせください。

青木
個人情報保護の観点から、サードパーティデータの活用が規制されるようになっているのはご存知のとおりです。それにともなって、各企業はファーストパーティデータ、つまり自社が保有するデータをこれまで以上に活用しなければならなくなっています。しかし、これは必ずしもネガティブなことではありません。ファーストパーティデータの活用環境を整備することによって、広告以外にも、営業活動、CRM、コンタクトセンター、商品開発など、広範な領域でデータドリブンな動きが加速すると考えられるからです。

そういったデータの多様な活用を下支えするのがマーケティングシステムです。マーケティングシステムの利用シーンが広がれば、その構築や運用を支援する側にもこれまで以上に高度なサービスレベルが求められるようになります。そのようなニーズに応えるために、新たな体制が必要になったこと。それが、私たちがMSIを立ち上げた理由の1つです。

もう1つ、生成AIの普及という背景もあります。現在、多くの企業やプラットフォーマーが、生成AIを活用することで新しいサービスや仕組みをつくろうとしています。それをシステムによって支援するのもMSIのミッションの1つです。

しかし、必要なのはシステムだけではありません。マーケティングとは、人を動かし、社会を動かすための取り組みです。システムやテクノロジーを上手に活用しながら、生活者や世の中にインパクトを与える取り組みを支援していくこと。それができるのが、博報堂DYグループの大きな強みであると考えています。

──「マーケティングシステムとは何か」という点についても、ご説明をお願いします。

齋藤
まず、データを集約し管理する基盤があります。ファーストパーティデータで言えば、顧客の属性や行動データを統合管理するCDP(カスタマーデータプラットフォーム)がそれに当たります。一方、そのデータを活用してマーケティング施策を実行支援するためのさまざまなアプリケーションがあります。CRMツールやCMS、マーケティングオートメーションツールなどです。我々は、それらのすべてを総称して「マーケティングシステム」と呼んでいます。
横山
データ基盤のレイヤーと、データを生活者接点で価値に変えていくアプリケーションレイヤー。マーケィングシステムとは、その2つの層によって構成されているということです。
青木
マーケティングシステムの領域は、年々拡張しています。以前は、基幹システム、業務システム、マーケティングシステムは、それぞれ独立した系統のシステムであると考えられてきました。しかし、テクノロジーやチャネルが進化し、企業と生活者が「常時接続」するようになっている現在、システム間の「際」は融解しつつあります。システムを連携させることでデータの一気通貫の活用が可能になり、それによって、企業と生活者、あるいは企業と企業の常時接続がさらに進んでいくことになるでしょう。そうなったときに、システムをトータルに構築し、運営していくノウハウが求められるようになります。私たちはそのノウハウを提供していきたいと考えています。
齋藤
別々のシステムで管理していた大量のデータが繋がることによって、これまでできなかったことができるようになる。実際にそんな可能性を感じているクライアントからのご相談も増えています。情報システム部門主導のDX文脈での変革に加え、マーケティング部門があらゆるデータを活用することによって、売り上げの向上を実現する施策の幅が広がり効果を高めることができる。そのような変革を支援する我々にも、従来のマーケティングシステムの枠にとらわれない発想やスキルが必要になっているのだと思います。

マーケティングシステムをめぐるいくつかの課題

──マーケティングシステムをめぐって、クライアントには現在どのような課題があるのでしょうか。

横山
大きな課題の1つは、顧客データの統合だと思います。社内の各部門、各システムで管理していた顧客データをどうつなげるかという課題です。それを解決するためには、システム連携だけではなく、顧客データをつなげるための具体的なマーケティングのアクションが必要になります。例えば、キャンペーンをきっかけにして顧客データをつないでいくといった施策が考えられます。そのようなアクションを構想できることが、マーケティング実務領域まで対応する私たちの強みの1つです。
齋藤
データ統合のプロセスには慎重さが求められます。個人情報保護という観点抜きにはマーケティングにおけるデータ活用はできないからです。実際にCDP構築と合わせて、プライバシーポリシーの整備やCMP(コンセントマネジメントプラットフォーム)導入コンサルティングを行うケースが非常に増えています。マーケティング領域におけるプライバシーセキュリティの知見をいかしながらデータ統合をご支援できること。それもMSIの強みと言えるでしょう。
青木
システムやデータが部門ごとにサイロ化しているというのが、多くの企業の現状だと思います。あるいは、システムはあるけれど、それを使いこなせる専門人材がいないという問題もあります。システムそのものとその周辺領域の両方に課題があるということです。その課題をトータルに解決するには、マーケティング、エンジニアリング、データサイエンスなどの多様なケイパビリティが求められます。また、PDCAサイクルを継続的に回していく体制やノウハウも必要です。MSIは、それらの多様な要件に対応することができます。

──企業を支援する博報堂DYグループ側の課題についてもお聞かせください。

齋藤
これまでは、グループ内の各社が個別にクライアントの課題に向き合ってきました。しかし、強みや専門性は個社ごとに異なるので、一社もしくは数社だけの取り組みでは課題解決ソリューションの幅や実行力が十分ではなかった。MSIが立ち上がったことで、6社それぞれの強みを掛け算したり、弱点を補い合ったりすることで課題解決の提供スピードが向上し、マーケティングシステムの領域で「できること」が圧倒的に増えました。
横山
先ほど、企業と生活者が「常時接続」するようになっているという話がありました。常時接続の状態にあるということは、企業は統一的なメッセージをスピーディに発信し続けていかなければならない、それができる仕組みを整備しなければならないということです。そのような動きを支援するには、私たちの側も統一的かつスピーディなアクションができる体制をつくらなければなりません。そこに課題がありました。

MSIが発足したことによって、その課題解決に近づけたと考えています。重要なのは、6社が協業することでスケールメリットが生まれ、スピーディな動きが可能になったということだけではありません。それぞれの専門性をいかした形での連携が実現していること、いわば各社がエッジを立てながらつながっていることにMSIの大きな特徴があります。

青木
MSI発足以前にも、博報堂DYグループ内にはマーケティングシステムに関する多様なケイパビリティがありました。しかし、それを世の中に上手にアピールすることがあまりできていなかったということも1つの課題でした。MSIが発足したことで、クライアントやプラットフォーマーの皆さんに、「マーケティングシステムの構築・運用をトータルに支援できる企業としての博報堂DYグループ」という打ち出し方ができるようになったと私たちは考えています。

500名の専門家集団がもつケイパビリティ

──MSIは、具体的にクライアントに向けてどのようにサービスを提供しているのですか。

横山
クライアントの課題に応じて、さまざまな専門家をMSI内から招集し、チームをつくって課題解決に当たる──。それが基本的なモデルです。広告会社は、いろんな職種の人たちを束ね、その集団を1つの方向に向けてドライブしていくプロデュース力に長けています。その力がMSIでも十分に発揮されています。MSIの6社500名の中には、さまざまなスキルと専門性をもったメンバーがいます。その総力をもってすれば、クライアントの多様な課題に対応することが可能です。

齋藤
クライアントの個別課題に対応する個別チームを最適化しながら、それぞれの取り組みの「型」を見極め、類型化していくことで再現性を高めていく。そんな取り組みも進んでいます。
青木
クライアントの課題を解決していくためには、テクノロジーやソリューションの力が求められます。テクノロジーは日進月歩の勢いで進化しているので、情報をキャッチアップするだけでなく、独自の研究開発やPoC(実証実験)にも取り組んでいかなければなりません。MSIでは、各社が先端技術に関する情報を共有し、共同でPoCを進め、ナレッジを蓄積していく活動を続けています。そうしてテクノロジー力やソリューション力を向上させることで、クライアントに提供できる価値を高めていくことができると私たちは考えています。

──MSIの強みはどのような点にあるのでしょうか。

青木
やはり「生活者発想」がある、という点に尽きると思います。マーケティングシステムはあくまでもツールです。先ほども触れたように、システムを活用することによって、生活者の心を動かし、世の中を動かしていくことがマーケティングの目的です。では、どうすれば生活者や世の中を動かすことができるのか。その設計図を描く際に求められるのが、「生活者発想」です。システムの構築・運用力はもちろん、「生活者発想」に基づいた構想力や企画力があること。それが私たちの一番の強みです。

──MSIが発足した2023年9月からこれまでの成果についてもお聞かせください。

齋藤
マーケティングシステムに関して、博報堂DYグループ内にどのようなケイパビリティがあるかがトータルに可視化されるようになった結果、クライアントへの提案力が高まったこと。それが1つ大きな成果として挙げられると思います。また、それぞれが高めるべき専門性にフォーカスすることで、さらに進化し続けることができています。
横山
MSI発⾜後、様々なプラットフォーマーやシステムベンダーとの取り組みを強化してきた結果、協業のお声がけを数多くいただき、MSI発足以前に⽐べて協業案件が数倍に増加しました。このことは着実な成果のあらわれだと思います。
青木
基幹システムを含めたシステム構築など、大型案件をご相談いただくケースが増えているのも成果の1つです。一方、「マーケティングによって生活者や世の中を広く動かしていく」という観点に立てば、中小規模のクライアントからのご相談も非常に重要であると考えています。今後は、大型案件から小規模案件までに対応できるさらに多様で柔軟なフォーメーションづくりに取り組んでいきたいと思っています。

「テクノロジー力×生活者発想」が生み出す価値

──今後のMSIの見通しについて、それぞれのビジョンを最後にお聞かせください。

横山
マーケティングシステムの分野だけで500名規模の専⾨メンバーを揃えている組織は、⽇本にはほとんどないと思います。この規模だけでも⼤きな⼒になると思いますが、HDYグループのポテンシャルを考えると、MSIのエコシステムを更に拡⼤していくことは可能だと思います。博報堂DYグループ内の様々なクリエイターやマーケター、そして外部のビジネスパートナーに、これまで以上にMSIに参加してもらい、この組織でできることの幅を広げ、クライアントに提供できる価値を⾼めていきたい。そんなふうに考えています。
齋藤
テクノロジーの観点では、アドテクを中心にシステム実装や大量のデジタルデータの活用に強みを持っていますが、今以上に人材力に磨きをかけていきたいですね。500名のメンバーが持っているスキルを可視化するだけでなく、リスキリングにも力を入れて、エンジニアリングのプロがクライアントの課題解決能力を高め、営業系のメンバーがテクノロジーの知識を深める。それによって、テクノロジーや顧客課題の変化にさらに柔軟かつスピーディに対応できる組織体になっていく。そんな見通しをもっています。MSIのメンバー全員がこの枠組みでできることの可能性を体感し、それぞれの力をより発揮することができる場としていきます。
青木
テクノロジー力と生活者発想。この2つがあることがMSIの強みであり、この2つを備えた組織は極めて珍しいと私たちは考えています。生活者が動き、社会が動くことによって、企業の事業は成長していくということ。そして、それをマーケティングシステムによって支援する力がMSIにはあるということ。そのことをクライアントやプラットフォーマーの皆さんに広くお伝えし、理解していただく取り組みを、これからも続けてきたいと思います。

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  • 博報堂 執行役員
    入社以来、マーケティング・ブランディング・買物行動研究・データ&デジタルマーケティング領域の研究開発業務に従事。博報堂「マーケティングセンターチームリーダー」「買物研究所所長」「研究開発局長」、博報堂DYホールディングス「マーケティング・テクノロジー・センター室長」を経て、2021年より現職。マーケティングDXとメディアDXを統合した価値創造型のDXを推進する戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」を担当。
  • 博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 局長
    博報堂マーケティングシステムズ 代表取締役
    外資系コンサルティングファームにて、ビジネス・プロセス、新規事業立ち上げ、基幹系システム導入等のコンサルティング業務を担当したのち、2001年博報堂入社。博報堂では、ストラテジックプラニング局に所属し、食品、飲料、通信、家電メーカー、インフラ企業等の広告戦略、マーケティング戦略、CRM戦略の立案を担当。その後、マーケティングシステムコンサルティング局の立ち上げメンバーとして、マーケティングDXに向けたマーケティング基盤の構築・運用の支援を行う。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム 上席執行役員
    ソリューションビジネス本部長
    外資系コンサルティングファームにて、CRM等の基幹系システム開発、業務プロセス変革/BPOコンサルティング業務、アカウント営業等に従事。2014年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに入社し、デジタル広告の業務管理プラットフォームの構築を担当したのち、CDPやMA等のマーケティングDX支援ソリューションの営業および開発を統括。自社プロダクト開発から各種プラットフォーマーのサービスを活用したソリューションビジネスを担当する。