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ブランディングと販促の理想的な関係とは──売上や利益につながるブランドビルディング【アドテック東京2020レポート】
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ブランディングと販促の理想的な関係とは──売上や利益につながるブランドビルディング【アドテック東京2020レポート】

従来の企業活動において、ブランディングと販売・販促は別々の取り組みであると考えられがちでした。しかし近年、ブランディングへの投資を売上や利益に明確かつ直接的に結びつけていこうとする動きが出てきています。ブランディングと販売・販促の関係をどう捉えればいいのでしょうか。本稿では、10月29日、30日に開催されたアドテック東京2020で、博報堂DYメディアパートナーズの井上喬裕がモデレーターを務めたセッション「販売を強めるブランドビルディング」の模様をお届けします。

伊藤翔哉氏
株式会社I-ne
取締役 兼 販売本部 本部長代理

河野貴伸氏
株式会社フラクタ
代表取締役

兒嶋仁視氏
サンスター株式会社
ダイレクト営業部デジタルグループ長代行

〈モデレーター〉
井上喬裕
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
ディレクター

ブランディングと売上向上を同時に実現する

井上
ブランディングへの投資を明確に販売/ 売上に結びつけたい。販売や販促への投資によって同時にブランディング効果を高めたい。広告・販促予算の獲得や運用を最適化したい──。そんな課題を多くの企業が抱えています。ブランディングと販売・販促の関係をどう捉えるべきか、まずはそれぞれの取り組みについてうかがいながら考えていきたいと思います。
伊藤
ブランディングの定義は各社異なると思います。私たちの定義は「より長く、より深く、より多くの人に商品を認知してもらい、愛してもらうこと」です。以前、テレビ番組で「サロニア」という美容家電ブランドを取り上げてもらったことがあります。表現の方法として、くせ毛をストレートにできるという機能をお笑い芸人に試していただきました。その露出をめぐって「ブランディングとして適した方法だったか」という議論が社内で起きました。
コンセプトのBEAUTY is simpleやおしゃれ感を十分に訴求できなかったからです。しかし結論として、「より多くの人に商品を認知してもらった」という点であの露出は私たちが定義するブランディングの一環であり、かつ販促としても成功したという評価になりました。というのも、番組放送後、オンラインの売上は900%弱の増、オフラインでも200%くらいまで売上が伸びたからです。現在ではブランディングと販促の融合の一つの好事例と捉えられています。
兒嶋
私がご紹介するのはCRM施策が売上につながった事例です。ブランディングも意識しながら設計を行った事例となっています。「緑でサラナ」という特定保健用食品は、トライアルを入り口にしてCRMによって購入に結びつけていくいわゆるツーステップマーケティングによって売上を伸ばしてきました。発売からの12年間で販売方法がオフラインからオンラインに変わってきた中で、販売手法や表現を整理し直す必要があると考えていました。そこで、最初に手を加えたのが「配送段ボール」でした。段ボールはECにおける顧客との最初の物理的接点です。そのデザインをリニューアルし、さらに同梱物やUGCの印刷物への活用(ユーザーが発信するコンテンツ)などにも注力した結果、KPIであるF2転換率(初回購入客のうち2回目の購入に至った客の割合を示す指標)が大きく向上。ブランディングはすべての顧客接点でブランドの人格が統一されることが大事なので、そこを意識しています。
河野
D2Cのブランディングでは「配送箱が大事」とよく言われます。しかし、歴史が長い商品の場合、社内から「変える意味はあるの?」という声も出そうですよね。
兒嶋
そういう声は確かにありました。しかし、同時に段ボールの資材を変えてコストダウンも込みで提案をしたことで進行していくことができました。

ブランディングの効果測定の仕組みをどうつくるか

井上
ブランディングと販売/ 販促の関係性を議論する中で避けられない非常に難しい問題ですが、まずはざっくりとブランディングの効果測定はどのように行えばよいとお考えですか。
兒嶋
ブランディングの効果を定量的な数字で把握するのは難しいのですが、施策を実行すれば必ず何かしらの動きは現れますよね。その動きの中で数値的に把握できるところをまずは徹底的に検証し、施策の何がどのように効いたかを判断することが一つの方法だと思います。
井上
自社ECをもっていない、直接的に顧客とつながることが難しいなど、とりわけデータの捕捉が難しい業種ではどのように検証をすべきでしょうか?
兒嶋
何らかしらの数値を見つけ出す工夫、努力が重要。例えばサーチエンジンでの検索量が増加していたり、レビューやUGCなどの傾向が変わったりといった変化が見つけ出せるはず。
伊藤
たとえ自社ECを保有せずとも、工夫次第ではデータを参照しながらCRMに近いことを実現することが可能なECモールは存在すると考えています。意外とこの点に気づいていないプレーヤーは多いと思います。
河野
私は、商品やサービスの「購入前」と「購入後」で測定の方法を変えることが重要であると考えています。購入前に重要なのは購入にいたるハードルを下げることです。そのための有効な方法が生活者の「共感」を醸成することです。まったく同じ機能を持った商品でも、共感できるかどうかによって購買意欲は変わってきます。したがって、「どれだけ共感してもらえているか」が購入前には重要な指標となります。一方、購入後には「買ってよかった、買い続けよう」「ほかの人に推薦しよう」と思ってもらうことが必要です。ブランディングにおいてより重要なのはこちらのほうです。これらのマインドの変化は定性データとして把握することになりますが、一方にそれにともなう数字、つまり売上や利益の動きがあります。その両方のデータを俯瞰して捉える仕組みをつくる必要があると思います。
兒嶋
大規模な企業では、セクションごとのKPIがあるので、各セクションの担当者がすべてを俯瞰するのはなかなか難しいですよね。
伊藤
私たちの場合、俯瞰で見るべき立場はブランドディレクターですが、一般的にブランドディレクターには数字で考えることが苦手な人が多いように思います。私が重視しているのは、ブランディング担当者にこちらからKPIを提案して、数字に責任をもってもらうことです。「素敵なことをやって、お客さんが喜んでくれた。以上」では、ビジネスにはなりません。ブランディングと売上や利益を数値的指標によって統合していくことが大事だと思います。
井上
数値的にクリアに可視化できる理想的な指標のようなものはあるのでしょうか。
河野
LTVが一つの指標になると思いますが、気をつけなければならないのは、計算式をすべての部署で統一することです。同じLTVでも部署ごとに計算式が異なっていて、別々の数字をもとに議論をしているケースが実は少なくありません。
もう一つ、私たちがよく企業にご提案しているのが、生活者の感情変化を記録していく「エモーションエンジン」という手法です。これは、カスタマージャーニーの中でどの段階で気持ちが高まり、どの部分でコンバージョンに至ったかをインタビューによって明らかにしていくというものです。時間と労力がかかるアナログな方法ですが、ブランディングの効果測定には数値での把握のみならず、このようなアナログなやり方も欠かせないと私は考えています。
井上
お話をきいていると、なんらかのデータをもとにKPI策定やモデリング、アナログなアプローチなどの様々な試行錯誤を通じてはじめてブランディングの効果を納得感ある形で体感できると感じました。理想的な指標のようなものは重要ですが、このプロセスの中でブランド独自のアプローチを生み出すことこそが本質的なことだと理解しました。

販売側がブランド予算を調整する

井上
ブランディング/ 広告/ 販促予算獲得と運用のアプローチについてもお聞きしていきたいと思います。予算の決定と承認の具体的な方法、スピード感、ビジネス全体との整合性、テストマーケティング予算の確保の方法などについてお聞かせください。特に新しいアプローチをアジャイルかつスピーディーにテストしながら、その効果を可視化し、全体最適を目指すことが求められる時代においてこの予算管理は非常に重要なテーマだと考えています。
伊藤
当社では広告と販促の予算を管理しているのは販売部門内に属するブランドプロモーションを担当する部署です。広告・販促の施策に直結するのが販売だからです。ですから、各ブランドの予算調整も販売担当側が行うことになります。売上を見ながら、場合によって週単位で予算配分を変えていきます。ブランド担当者からはかなり嫌がられますが(笑)。
兒嶋
私たちは、既存顧客と新規顧客といったように、顧客ベースで予算運用を分けて考えています。予算配分の変更は月一度くらいのペースで実施していますね。
井上
全体の予算が決まっている中で、ブランド間の予算配分を最適化するのは簡単ではないですよね。とくにブランドが多い大企業ではブランド間での適切な予算配分は難しいと思います。
“グロース” が多くの場合至上命題になっており、より予算策定と事業の関係性が近いスタートアップではでどう予算策定をおこなっているのでしょうか。
河野
結局のところ、大企業と大きく違いがあるわけではないと思います。またこの問題に対して明確かつ定量的な答えをもっているスタートアップも限られているかと思います。具体的な施策を進める中で、社内のマーケティング担当者の知見や他社の事例を参照しながらナレッジをためていくケースが多いですね。
井上
テストマーケティングの予算についてはいかがでしょうか。新しいアプローチにはコンバージョンがつきやすいというトレンドは明確だと考えており、Speedyにテストを実施していくことは重要だと考えています。テストが失敗する可能性もある中で、予算を確保する工夫があればお聞かせください。
伊藤
私たちの場合、それぞれの部署がもっている予算のうちのどれだけをテストに充てるかは、基本的に販売部門のブランドプロモーションの担当者が決めています。私はそれを承認する立場ですが、重視しているのは、その担当者が明確なKPIを決めて数字にコミットしているかどうかです。それがないと、テストの成否が明確にならないからです。テストに限らず、すべての案件に関して「定量的な根拠を示してから定性的なアイデアを出す」ことを徹底しています。
井上
最後に、ブランディングと販促の関係についてあらためてご意見をお聞かせください。
兒嶋
ブランドがもつ「人格の一貫性」がぶれるとブランディングにはならないと考えています。その一貫性があれば、販促活動の中でブランディングはできるし、その逆も可能だと思います。
河野
ブランディングと販促はそもそも一体化されたものと捉えるべきだと思います。私は常々、ブランディングは「波」、販促は「粒」と言っています。波はいろいろなところにぶつかって跳ね返りながら複雑な動きをするので、それを数式で定量的に把握するのは簡単ではありません。一方、販促は一つ一つの粒を目標にぶつけていく取り組みなので、何がどのくらい当たったかを比較的容易に把握できます。ですから、ブランディング効果を数値的に把握するには販促と組み合わせることが必須である。そう私は考えています。
伊藤
重要なのは定義とKPIです。ブランディングと販促を紐づける定義があって、そこにKPIが具体的に設定されるなら、ブランディングと販促をあえて分ける必要はないのではないでしょうか。
井上
ブランディングと販売・販促に関わるたいへん具体的な視座を得ることができたと思います。皆さん、ありがとうございました。
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  • 伊藤 翔哉
    伊藤 翔哉
    株式会社I-ne
    取締役 兼 販売本部 本部長代理
    2011年:株式会社I-ne 入社
    2013年:EC事業部責任者に就任し、主にデジタル関連の広告、マーケティングを兼任。
    2017年:取締役 兼 販売本部 本部長代理に就任
  • 河野 貴伸
    河野 貴伸
    株式会社フラクタ
    代表取締役
    Shopify 日本公式エバンジェリスト
    株式会社Zokei 社外CTO
    ジャパンEコマースコンサルタント協会講師
    元 株式会社土屋鞄製造所 デジタル戦略担当取締役(~2020/3/31)
    1982年生まれ。東京の下町生まれ、下町育ち。
    2000年からフリーランスのCGデザイナー、作曲家、webデザイナーとして活動。
    「日本のブランド価値の総量を増やす」をミッションに、ブランドビジネス全体への支援活動及びコマース業界全体の発展とShopifyの普及をメインに全国でセミナー及び執筆活動中。
  • 兒嶋 仁視
    兒嶋 仁視
    サンスター株式会社
    ダイレクト営業部デジタルグループ長代行
    2013年新卒入社後一貫してダイレクトビジネスに従事。
    システム・物流担当を経て、2014年よりデジタル担当を兼務。
    2019年よりデジタルグループ長代行としてECに関わる領域を統括。
    現在は新規施策開発、デジタル広告、UI/UX改善やCRM施策、システム構築までデジタル関連施策全体を取りまとめている。
  • 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
    ディレクター
    プラットフォーム業務やプラットフォーマーとの協働が専門領域。近年はMediaやコマースに加え、ブロックチェーン/ FinTechなど様々なテクノロジーを活用してOMO時代の最適なUXの提供を目指している

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