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【第7回】小売アプリ広告活用に見る、“三方よし”のリテールメディアとは
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【第7回】小売アプリ広告活用に見る、“三方よし”のリテールメディアとは

ショッパーマーケティングを専門とする組織「ショッパーマーケティング事業局(SMK局)」に迫る本連載。第7回となる今回は、リテールメディアに特化したワンストップ統合窓口 「リテールメディアONE™」を擁するSMI(ショッパーマーケティング・イニシアティブ™ )のメンバーであるSMK局の小島と、自社アプリ広告事業に注力し、MAU増加も実現しているウエルシア薬局株式会社の清田氏、小売アプリへの横断的な広告配信を可能にする「ARUTANA」を展開する株式会社DearOneの塚田氏に、リテールメディアの課題に対する小売アプリを活用した解決策や事例について聞きました。
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(写真左から)
ウエルシア薬局株式会社
商品本部 販促企画部 部長
清田 明信氏

株式会社DearOne
プラットフォーム事業本部 ビジネス推進部 セールスユニット ユニットマネージャー
塚田 康太氏

博報堂 ショッパーマーケティング事業局
リテールDX推進グループ担当部長
小島 健嗣

小島
近年、様々な記事でも発信されているように、マーケティングにおける「リテールメディア」の注目度が急速に高まっています。実際に、小売やメーカー、広告会社、テック企業の方々と話をする中でも、その注目度や活用意向の高まりを実感しています。
ウエルシア薬局においてもリテールメディアの活用を推進されていると思いますが、推進されるにあたっての課題などについてお伺いできますでしょうか。
清田
弊社の抱えるリテールメディアも多岐にわたり、自社アプリや店頭のデジタルサイネージに加え、外部のデジタルメディアを活用する広告も存在します。外部メディアは規模が大きく効果は高いですが、そればかりに頼ってしまうとコストがかかるので利益があまり残らないという課題があります。そのため、自社アプリに注力して投資をしないと利益につながらないというのは、多くの小売にとって共通の課題だと思います。

小島
アプリなどのオウンドメディアを軸としながらも、外部メディアもバランスよく活用していくことが重要ということですね。戦略的には清田さんのいらっしゃる販促企画部が中心になってかじ取りをされていると思いますが、社内の他部署も巻き込んでいく必要があるはずです。部署間の温度差のようなものはあるのでしょうか。
清田
当初はやはり温度差はありました。3年前に自社IDであるウエルシアIDを作ったのですが、それまでは共通ポイントのIDを活用していました。しかし共通ポイントだけではデータ利活用の面で自由度が限られることもあり、自社IDの必要性を感じたわけです。
以降は共通ポイントとの共有も模索しながら、ウエルシアIDと結び付けて展開を図っているところです。現在は複数の共通ポイントとも連携して拡大していますが、当初こそ社内の温度感として「なぜウエルシアIDが必要なのか」という疑問の声もありました。しかし、最近では自社IDの必要性がかなり浸透し、リテールメディアや1to1マーケティングの重要性が経営層にも伝わっていますね。
小島
ほかにもリテールメディアの課題点として、出稿する広告主にも偏りがある、継続出稿に繋がりにくいといったお声も多く聞かれますが、ウエルシア薬局ではいかがでしょうか。
清田
その点は弊社も同じです。継続出稿に繋げていくための工夫は必要だと考えています。

細分化されたリテールメディアが生む「5つの分断」とは?

小島
リテールメディアの広告主であるメーカー宣伝部やマーケティング部にとっては、個社流通施策だと各営業への不平等感からハレーションが起きてしまったり、広告主の年間出稿計画においてなかなか個別の小売まで想起されなかったりする課題があると伺っています。また、統合的なメディアプランニングができていない、リテールメディアごとにレポート項目に特徴があり比較が難しいといった点も課題です。

また、現状のリテールメディアを取り巻く環境には “5つの分断”が生じていると我々は分析しています。日本では欧米ほど小売の寡占化が進んでいないため、①小売が分断され、②広告宣伝費の予算も分断される。また小売における③媒体の分断、④プランニングの分断、⑤評価指数の分断も生じている。このように、個々のリテールメディアとして細分化されていることがネックではないでしょうか。

そのような課題を解決するメディアとして、小売を横断したアプリ広告の利活用へのニーズが広告主側で高まってきています。実際、小売向けのアプリ開発や運用、広告媒体の開発を行っているDearOneでは、どのようにとらえているのでしょうか。

塚田
実際に出稿のニーズが高まっていますね。デジタル化が進み、いまや自社アプリを持たない小売は珍しくなりました。多くの生活者も小売のアプリを使うようになってきています。実際に小売アプリの広告主側の利点としては、買い物をしているお客様にリーチできるのはもちろん、30%程のユーザーがレジ待ち以外のタイミングで小売アプリを開いていることがわかっており、クーポンだけでなく認知や理解促進のツールとしても活用いただけるという点が挙げられます。そのようなところが、広告主からのニーズが高まっている要因と考えています。

小島
ウエルシア薬局のアプリもDearOneが支援されていますが、アプリを利用する生活者の評価や広告主の反応はいかがでしょうか。
清田
2023年4月のリニューアルで機能を改善したこともあり、リプレイス前と比較しMAU(月間利用者数)が142%まで伸びました。インプレッションもそれ以上の伸び率を示しています。またそれに伴い、広告出稿の案件も増加しています。

塚田
短期間でこれほどの伸び率になる事例は珍しいです。ユーザーの利便性向上に非常にこだわって、決済などを含め大きく機能拡張をされた結果だと思います。複数の共通ポイントを貯めることができ、それを1画面表示でできる点も画期的でした。広告媒体としての魅力も上がっており、出稿事例も増えてきています。

分断を解消するリテール横断アプリメディア「ARUTANA」の利点

小島
DearOneでは、ウエルシア薬局を含むリテール横断アプリメディア「ARUTANA」の提供もされています。どのようなソリューションなのでしょうか。
塚田
ARUTANAは、複数の小売の自社アプリを束ねて、横断的に広告配信できるようにADネットワーク化したプラットフォームです。PoCを経て、2023年11月に提供を開始し、2024年5月には2,700万MAUを達成する見込みです。ARUTANAを活用することで、先ほど話に上がった5つの分断も解消できますし、小売間の規模の不平等もクリアし広告としての媒体価値を創出することが可能です。

小売は広告収益を確保し、アプリ機能を拡張してMAUを伸ばすことができる。また自社アプリは購買に限りなく近いロイヤルユーザーが利用するので、メーカーは購買力のあるユーザーに便益のあるコミュニケーションをすることができます。まさに「三方よし」を実現するプラットフォームになっていると思います。

小島
実際に、どのような出稿事例があるのでしょうか。
塚田
大手日用品メーカーの事例では、認知拡大を目的としたキャンペーン訴求をウエルシア薬局含め複数のドラッグストアやホームセンターの自社アプリに配信したところ、一般的なデジタルマーケティングと比べて、CTRとCPCが改善しました。また、医薬品メーカーでは決済プラットフォーマー購買キャンペーンの広告を出稿し、ID-POSデータによる購買分析を行いました。キャンペーン応募したお客様の内訳として、過去3か月において該当商品を未購入だった新規の購入者が78.5%を占める結果となりました。売上・シェア率に関しても過去3か月平均と比較し伸長しており、メーカーはもちろん、小売にとっても広告配信が売上につながることの実証となったと思います。

小島
ウエルシア薬局でも多くの実施事例があると思いますが、広告主のブランド出稿に関する効果や手ごたえ、あるいは課題などはいかがでしょうか。
清田
手ごたえはありました。生活者にとって有益な広告配信は購買に寄与するという結果が出たので、ここは良かった点と考えています。一方で課題として残るのは、広告主のマーケティング部門と営業部門では考え方が異なるという点です。マーケティング部門としては特定の小売一社に注力することは難しいが、営業部門としては担当小売の売上を上げたい。その調整が非常に難しいのですが、ARUTANAでは小売横断で配信ができるので、その点が広告主に支持されているのではないでしょうか。
塚田
そうですね。広告主や広告会社からの声を踏まえると、小売横断で配信できることに価値があると思っていますので、より配信面を広げるために各小売との協業に向けて、鋭意話し合いをしています。広告主に向き合っている博報堂としては今後、どのような活用が拡大していくと思いますか。

小島
小売アプリはクーポン利用が主体と考えられがちですが、実は商品そのものの理解促進やキャンペーン認知促進にも効果的で、そのような活用も増えていくのではないかと考えています。店頭で実施されている様々なキャンペーン情報が整理されることで、認知や理解が深まるはずです。また、購買データを用いた検証ができるので、効果が把握できる点もメリットですね。一方で課題点としては、マス広告やデジタル広告と比較した場合、ユーザー数やインプレッション数がまだまだ少ない。やはり「面を増やす」必要はあると思います。

またデータ連携の問題もあると考えています。小売によって考え方やポリシーが異なる部分ではありますが、ID-POSデータと連携することによる効果を検証しフィードバックしていく必要がありますし、検証できる小売が増えるほど、より広告主の投資も集まると思います。さらに、プランニングの重要性もより高まっています。ブランドの課題や生活者のニーズは常に変わる中、このブランドであればキャンペーンなのかクーポンなのか、それとも認知促進施策なのか、そういったプランニングは極めて重要であり、広告媒体の売買だけでなく、このプランニングにこそ私たちが介在する理由があると感じています。

清田
ID-POS等のデータ連携については、お客様にとってもメリットがある形であれば、広告主側への開示も進めています。プランニングについては我々も重要だと考えています。アプリにせよ各種デジタル媒体にせよ、情報が洪水のように溢れてしまっている。今は、インセンティブをたくさんつけるだけのキャンペーンでは効果が出ないんです。やはり、お客様が必要な時に必要な情報を提供することが重要だと考えています。そこをID-POSデータでしっかり分析をして、効果的なキャンペーンやクーポンを1to1で提供する世界があれば、お客様もアプリや各媒体を習慣的に使ってくれると思います。この習慣化が最重要なポイントですね。
小島
小売・広告主・生活者と「三方よし」のメディア開発に向けて、当社もDearOneも一緒になって取り組みを進めていきます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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  • 清田 明信氏
    清田 明信氏
    ウエルシア薬局株式会社
    商品本部 販促企画部 部長
    大学病院薬剤師勤務を経て、2004年㈱グリーンクロス・コア(現ウエルシア薬局)入社。
    2011年までウエルシア薬局㈱商品部バイヤーとして各種カテゴリーを担当。
    2012年より中国国営企業との合弁会社「聯華毎日鈴有限公司」商品部長として上海・蘇州店舗立上げに従事。
    2015年より現職。アプリ・SNS・サイネージ等のデジタル媒体販促の運営を開始する。直近では自社IDの構築・運営を強化しており、ドラッグストアならではの1to1マーケティングを模索中。
  • 塚田 康太氏
    塚田 康太氏
    株式会社DearOne
    プラットフォーム事業本部 ビジネス推進部 セールスユニット ユニットマネージャー
    IT、医療に特化した人材ビジネスのセールスを経て、2018年にDearOneにジョイン。
    エンタープライズに特化したフィールドセールス、カスタマーサクセスに従事しリテール、鉄道、ホテル、商業施設、自治体、メーカー等のアプリの立ち上げやリプレイスの企画を実施。
    2023年からリテールメディア事業のセールス責任者も兼任し媒体拡大並びに広告運用、プロダクトイノベーションの推進にも携わる。
  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    リテールDX推進グループ担当部長
    医薬品メーカーにてドラッグストアをはじめSM/GMS、HC、CVS、バラエティストアなど各チャネルの本部営業を経験後、営業戦略、国際戦略などの事業に従事。
    その後、リテールの商品本部パーソナルケア部門の部門長としてメーカーJBP、カテゴリー・マネジメント、ショッパー・マーケティングなど商品戦略をリード。2022年10月博報堂に入社し、リテールDX、リテールメディア開発の支援に従事。