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プラットフォーマーID経済圏 VS ⾃社ID経済圏【アドテック東京2021レポート】
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プラットフォーマーID経済圏 VS ⾃社ID経済圏【アドテック東京2021レポート】

個人情報保護法の改定やクッキー利用の規制強化などによって、企業は顧客IDの収集や活用の方法を見直さなければならなくなっています。今後の顧客とのコミュニケーションの鍵は、自社が保有するIDとプラットフォーマーが保有するIDを上手に活用することであると考えられます。では、その活用の方法とはどのようなものなのでしょうか。大広グループの顧客時間の共同CEOであり、野菜のインターネット販売を手掛けるオイシックス・ラ・大地の専門役員でもある奥谷孝司が参加したセッションの模様をレポートします。

本稿では11月1日、2日に開催されたアドテック東京2021のセッション「プラットフォーマーID経済圏 VS ⾃社ID経済圏」の模様をお届けします。

モデレーター
加藤希尊
チーターデジタル株式会社
副社長 兼 CMO

小林浩輔
株式会社Tポイント・ジャパン
取締役

須藤 奨
LINE株式会社
ビジネスプラットフォーム企画センター AD企画室 室長

奥谷孝司
オイシックス・ラ・大地株式会社・株式会社顧客時間
専門役員 COCO / 共同CEO 取締役

「ゼロパーティデータ」をいかに収集するか

加藤
データの取り扱いに関する法規制が世界中で厳しくなり、「脱クッキー化」が進んでいます。それにともなって、多くのプラットフォーマーがサードパーディデータの使用を段階的に禁止する動きを見せています。一方、広告配信ベンダーは、代替技術の活用、広告に使用する識別子の開発、独自の広告メニュー開発の主に3つの方向で脱クッキー化に対処しようとしています。また、広告主はファーストパーティデータを独自に蓄積し、それをビジネスに生かしていく方向に舵を切っています。そのような現状に対するそれぞれの見方をお聞きしていきたいと思います。まずは、プラットフォーマーのお立場からお話しいただけますか。
小林
Tポイントはこれまでもクッキーには大きくに依存しないモデルだったので、脱クッキー化の影響はそれほど大きくはありません。しかし、DSPを活用した広告配信サービスも行っていたので、その点での見直しは必要ですね。
須藤
LINEは、アプリ自体はIDベースでのサービスなので、その点ではTポイント同様、脱クッキーの影響はそれほど大きくはありません。一方、売り上げの60%超を占める広告事業の観点から見ると、外部の情報との紐づけが難しくなっているので、ユーザー像を推定する精度は下がっていると言えます。
加藤
事業会社側の奥谷さんはいかがですか。
奥谷
私たちはインターネット直販モデルで商品を販売しているので、ファーストパーティデータを大量に蓄積しています。一方、新規顧客に関しては、これまではクッキーの仕組みを活用して獲得してきました。今後は、お客さまとのつながりのあり方を考え直さなければならないと思っています。豊富なファーストパーティデータを保有している強みを生かしながら、そのデータをどう活用すればお客さまに納得していただけるのか。それをしっかり検討しなければなりません。
加藤
顧客データはお客さまから預かっているものであり、そこから生まれる価値はお客さまに返していかなければならない。そんな本質的な視点だと思います。

あらためて整理すると、ファーストパーティデータは自社のデータ、セカンドパーティデータは他社のデータ、サードパーティデータはプラットフォーマーなどの第3者が保有しているデータです。それらに加えて、最近は「ゼロパーティデータ」が重要になっています。顧客に聞かなければ知ることができないライフスタイル、趣味嗜好、意識、価値観などの情報がゼロパーティデータです。

奥谷
今後、事業会社にとってゼロパーティデータは必須になると思います。これまで私たちは、お客さまにインタビューして定性的なデータを集めてきました。それをどう活用していくかがこれからの課題です。今後はインタビューだけではなく、例えば「買い物ラボ」のような仕組みを立ち上げて、学生さんたちとデータハッカソンをするといった取り組みを通じて、ゼロパーティデータの収集と活用の仕組みを新たにつくっていかなければならないと考えています。

データから新しい価値を生み出していく

加藤
企業がマーケティングに活用できるユーザーIDには、プラットフォーマーIDと自社発行IDの2つがあります。IDを活用したビジネスについて、それぞれのお立場からご説明ください。
小林
Tカードのユニークユーザー数は7000万人に上ります。そのIDにさまざまなデータを紐づけて販促やCRMに活用していただく取り組みをこれまでしてきました。最近ではさらに店舗づくり、商品開発、あるいは接客レベルの向上などにもTポイントの仕組みをご活用いただいています。集客や販促だけでなく、エンドユーザーに新しい価値を提供していくためにデータを活用していただくということです。
須藤
LINEは現在、国内では8900万以上(2021年9月時点)の方々にご利用いただいています。これは人口のほぼ70%にあたる規模です。私たちは「CLOSING THE DISTANCE」というミッションを掲げています。LINEのエコシステムを活用していただいて、企業とユーザーとの距離を縮めていただくことを目指すということです。

これまで、LINEのIDを活用したマーケティングソリューションをフルファネルでご提供してきましたが、ID活用をLINE内で完結させる必要はもちろんありません。それぞれの企業がもつIDの仕組みと上手に組み合わせて、データ活用の幅を広げていくことで、顧客のロイヤル化やLTV(生涯顧客価値)を向上させられると考えています。

奥谷
オイシックスのサービスは、約33万会員にご利用いただいています。これがすなわち私たちが保有するIDの数です。月間のユニークユーザー数はおよそ120万人、月間宅配数は50万件に上ります。お客さまのバスケットの中身は注文ごとに把握できるので、購買傾向に関するデータは大量に蓄積されています。また、先ほど触れたように、ゼロパーティデータによって具体的なお客さま像もある程度把握しています。では、これらのデータをどう活用していくか。

私は、データ活用には「仮説思考」が非常に大事であると考えています。どのお客さまにどのような商品をリコメンドすればいいのか、退会の理由は何か、継続している理由は何か──。それらの問いに対する仮説をデータから導き出すということです。優れた仮説を立てるには、データの精度を上げていく必要があります。インタビューによってゼロパーティデータを集めてはいますが、お客さまから何を引き出すかという点に関しては、まだ担当者の経験と勘に依存している点が少なくありません。ゼロパーティデータの精度をこれからもっと上げていきたいですね。

「長持ちするID」がより重要になる

加藤
今後のチャレンジの方向性をお聞かせください。
小林
「ユニークデータを解決力に。」というキーメッセージを掲げて、BtoBビジネスへのチャレンジを始めています。私たちはほかにあまりない種類のデータ群を大量に保有しています。それを企業の課題の解決に役立てていただくということです。

もう一つ、「ポイントからデータへ」という目標も掲げています。T会員が安心してデータを預けていただける仕組みをつくり、それを例えば地域課題の解決やSDGsの取り組みなどにいかしていくことを私たちは目指しています。例えば、離島で獲れた未利用魚をうまく流通させるための仕組みをデータ活用によってつくることができれば、フードロスという問題を解決できます。

須藤
顧客とのコミュニケーションにプラットフォームを役立てていただくためには、先ほども申し上げたように、プラットフォーマー側のIDと企業側のIDを紐づけることが必要です。その方法の一つとして、最近は「LINEミニアプリ」と企業の自社アプリの連携に取り組んでいます。

LINEミニアプリは、LINEアプリから簡単にそれぞれの企業やブランドのウェブアプリケーションを起動できる機能です。ロイヤリティの高いユーザーには自社アプリをダウンロードしてもらい、一方のライトユーザーとはLINE上でコミュニケーションを行う。さらに、店舗のある企業であれば来店情報なども紐づけ、オンラインとオフラインの様々なデータを一つのIDで管理する──。そんな仕組みをつくることで、より精度の高いコミュニケーション実現に寄与することを目指しています。

加藤
最後に、マーケターの皆さまへの提言をいただけますでしょうか。
奥谷
今後、マーケティングには「デュラブルID」が非常に重要になると考えています。デュラブルとは、「長持ちする」といった意味です。長持ちするIDとは、「人ベースのID」です。従来のデバイスベースのIDから、ゼロパーティデータを含む人ベースのIDに移行し、そのデータを丁寧に取り扱って活用していくことが、これからのマーケティングには求められると考えています。
須藤
顧客のロイヤリティのレベルや行動様式によって、提供すべき顧客体験は変わってきます。どのような顧客体験を提供するかに応じて、プラットフォームを戦略的に使い分けて、マーケティングの成果を最大化していただきたいですね。
小林
IDの量を増やすためにプラットフォームを活用するという観点と、IDを連結してデータの幅を広げていくという観点。その両方があると思います。二つの観点で今後も企業の皆さんと連携しながら、いろいろな価値を生み出していきたいと思います。

加藤
顧客にどう価値を提供していくか──。それを実現するときに必要になるのが、「プラットフォームID with 自社ID」という考え方だと思います。

いかに顧客中心のフレームワークをつくっていくかが、これからのデータ活用の重要な視点になっていきそうです。今日はありがとうございました。

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  • 加藤 希尊
    加藤 希尊
    チーターデジタル株式会社
    副社長 兼 CMO
    WPPとSalesforceにて、B2BとB2C両方のマーケティングにおいて20年以上の経験を有するグローバル マーケター。前職のSalesforceでは、2012年に日本史上初のマーケティング オートメーション製品を市場へ投入し、400億円規模の市場形成に寄与する。2019年よりチーターデジタル社を経営し、新世代のマーケティングプラットフォームを市場展開する。B2Cブランド100社のCMOが参加するCMO XのFounder を務め、 著書にその成果をまとめた『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ (翔泳社) がある。
  • 小林 浩輔
    小林 浩輔
    株式会社Tポイント・ジャパン
    取締役
    総合人材サービス企業、ネットベンチャー企業を経て、2011年にCCCグループに参画。
    CCCマーケティンググループでは大手ナショナルメーカー向けのDBを活用したマーケティングサービス開発やTポイント提携流通企業へのコンサルティングの実行など、一貫してDBマーケティング事業に携わる。
  • 須藤 奨
    須藤 奨
    LINE株式会社
    ビジネスプラットフォーム企画センター AD企画室 室長
    2016年にLINEへ入社後、プロダクトマネージャーとしてLINE公式アカウントやLINE広告などの法人企業向け製品企画を担当。LINEの運用型広告プラットフォーム立ち上げを通じて、DSP/DMP/DPAなどのプロダクト責任者を務め、2020年よりLINE広告のプロダクト全体を統括する。
    現在はZホールディングスを横断した法人企業向けデータプラットフォームの戦略構築を推進。
  • オイシックス・ラ・大地株式会社・株式会社顧客時間
    専門役員 COCO / 共同CEO 取締役
    97年良品計画入社。店舗勤務や取引先商社への出向(ドイツ勤務)、World MUJI企画、企画デザイン室などを経て、05年衣料雑貨のカテゴリーマネージャーとして「足なり直角靴下」を開発して定番ヒット商品に育てる。10年WEB事業部長に就き、「MUJI passport」をプロデュース。15年10月現 オイシックス・ラ・大地に入社し、現職に。2021年3月一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程単位取得満期退学。
    2018年9月、株式会社顧客時間 共同CEO/取締役に就任。
    著書に『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(共著、日経BP社)がある。

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