おすすめ検索キーワード
「社会課題解決プロジェクト」が目指すもの【Vol.3】持続可能な地域づくりに向けたビジネスの在り方とは
PLANNING

「社会課題解決プロジェクト」が目指すもの【Vol.3】持続可能な地域づくりに向けたビジネスの在り方とは

博報堂の「社会課題解決プロジェクト」で取り組んでいる「デジタル田園都市国家構想」への参画。
地域の課題解決をビジネスにする新しいモデルをつくり、これによって持続可能な地域づくりに貢献する。そういった思いをもってこの挑戦の新たな展開に向け、従来の広告業界とは異なる「粒ちがい」のメンバーが、新たに博報堂に加わっています。
今回は新規メンバーの4人が自らの得意領域を博報堂でどう生かすか。インキュベーションファンドReGACY Innovation Group.社にて、同じくご自身のスキルを活かして新たに社会課題領域に取り組む桶谷氏と語り合いました。
連載一覧はこちら

桶谷 建央氏
ReGACY Innovation Group.社 エコシステム事業 執行役員
兼務  一般社団法人ローカルイノベーション協会 代表理事

太田 駿
博報堂 DXソリューション デザイン局 マーケティングプラニングディレクター
(前職:通信会社)

多田 裕一
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター
(前職:IT企業)

河野 裕武
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター
(前職:大手SIer)

山田 悠貴
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー
(前職:通信会社)

ローカルからイノベーションを生み出す仕組みづくりへ

太田
本日お話しさせていただく博報堂の「社会課題解決プロジェクト」のチームメンバーは、それぞれ社会課題に向き合いたいという気持ちを抱え、博報堂に転職しました。
私は前職が通信会社でしたが、高齢者向けのサービス開発に関わる機会があり、特に独居高齢者の問題を強く感じた経験があって、社会課題に向き合えるような仕事をライフワークにしたいという思いがありました。
そうした思いをそれぞれのメンバーが抱きながら、複数のテーマで社会課題に向き合っている状況です。
今回、イノベーションファームReGACY Innovation Group.社(以下、ReGACY社)において、社会課題解決の領域でご活躍される桶谷さんをお迎えして、社会課題解決に対する思いから、課題感やあるべき社会の未来について、お話を伺えればと思います。

桶谷
よろしくお願いいたします。私は前職、株式会社サムライインキュベートというベンチャーキャピタルにいた際、イノベーション創出のコンサルティングや、それに際するファイナンスを軸に社会課題の解決を推進できる場所がないかと感じ、創業メンバーとして現在の会社にジョインいたしました。
なぜ私たちが社会課題解決の領域でビジネスをやっているかというと、まず一つ目が、日本の中で本気でイノベーションを作っていくためには、ローカルをどういう風に活用していくのかというのが、そもそも欠かせないということです。

現在のイノベーションの潮流では、いわゆるディープテックと呼ばれる、先進的かつ新規性の高い技術ドリブンの会社に投資が集まってくる傾向があります。一方で、こうしたハードの開発や大規模な研究・実験が伴う技術開発を都心のオフィスでやることは非常に難しく、場所にゆとりがある地方が適していると言えます。なので、地方からイノベーションを生み出していく、そうしたシステムを日本全体で作っていくことがこれからの社会に必要だと考えています。

もう一つの理由は、我々ReGACY社がやらなければ、誰も成し得ないと思ったからです。例えば、私たちがご一緒している広島県竹原市は人口約2万人の市なのですが、大都市のように予算が十分に確保できるわけではなく、従来のビジネス手法では、ビジネスのスケールやマネタイズが難しいのが実情です。
この状況を打破できるのは、先に述べたような革新的な技術シーズや基幹技術とするスタートアップです。ローカル側の地方創生と、シーズ側の技術の応用化や社会実装という双方のニーズを仲介し、立脚させる立場として地域に入り込んでおります。

この二つが、イノベーションファームであるReGACY社が社会課題の解決を地方自治体と一緒に取り組んでいる背景になります。

人口数万人の町から作る日本の未来

河野
竹原市は人口2万人とのことですが、博報堂がご一緒している富山県朝日町も人口1万人なので、比較的近いなと思います。竹原市とご一緒することになったきっかけや理由を教えていただけますか?
桶谷
まずは、彼らのベンチャーマインドを確かめられた、というソフトの側面です。
はじまりは、広島県がオーナーであるイノベーション施策「ひろしまサンドボックス」のアクセレレーター事業の受託でした。プロジェクト運営に際し、多数の市町と会話した中でも、とりわけ、現状への危機感が高く、ベンチャーマインドを持たれていたのが竹原市の市長や原課の皆様でした。

加えて、ハードの側面、地政学的な側面もありまして、竹原市は、瀬戸内に面していて海があり、また山も近く、空港も比較的近い土地です。例えば、私たちが県のプロジェクトの中で、ともにPoCに取り組んだ小型の自立航行船用AIのスタートアップで、実際に船を浮かべて実験するフィールドを求めていたので、マッチングできました。そうした地理的な条件も含めて、DeepTechを基幹技術にもつ首都圏スタートアップの実証実験に適した地理的特性を持ち合わせていました。

太田
そうすると、企業誘致やフィールド連携が竹原市とのイノベーション創出の取り組みの中心でしょうか?
桶谷
軸となっているのは産業振興を目的とした事業です。具体的には、スタートアップの誘致や、PoCの伴走支援を通じたイノベーションの創出に取り組んでいて、これがたけはらDXというアクセラレータープログラムです。そこに対して、ReGACY社と、私が代表理事を務めているグループファームである一般財団法人ローカルイノベーション協会の2社でサポートしております。

令和5年度はスタートアップを6社採択しており、先ほど申し上げたような様々な実証実験の中で、竹原市内の事業者や行政とタッグを組んでいて、各々が実証実験を進めている、ということが全体像となります。

太田
私たちが関わっている朝日町でも、地元事業者と一緒になって取り組む点は意識しているところでして、共通する所ですね。
山田
竹原という場所に、魅力を感じて集まった会社が6社もいる、というのはすごいですね。各社が入ってくる魅力に「自分たちがやりたい事業の実証実験が、ここだったらできそうだ」ということを期待するハード・ソフト両面の魅力があると。
竹原と同じ人口規模の自治体で、同じような課題を抱えている自治体は、日本にたくさんあると思うのですが、ReGACY社と同じように取り組めばどのような自治体でも企業が集まってくると思いますか?

桶谷
基本的にはそう思います。ただし、発展していく順番はあると感じております。竹原市は、広島空港の近くに位置し、東京からのアクセスが優れています。つまり、立地の観点では、東京近郊のスタートアップやステークホルダーがPoCにチャレンジする上でハードルが低かった。一方、都内から交通の便が整っていないエリアでは、首都圏スタートアップは訪れにくいのは事実です。それでも、その土地ならではのポテンシャルを持っていることは間違いないため、手法さえ違えど、同じようにイノベーションの素養は必ずあると考えています。

「あった方が絶対いいけど、なくてもいい」の壁をどう打破する?

太田
実証実験の先で、導入したサービスをどうビジネスとして継続的・持続的に成立させていけるか?も重要な論点だと思います。
自治体での持続性を維持するためには、自分たちだけでは立ち行かない部分も多く、地域のアセットを活用し、地域の事業者と連携していくことが重要だと考えています。そのうえで、私たち博報堂のフィロソフィーでもある生活者発想の視点を反映させて実現していきたい、という思いで取り組んでいます。
多田
少し我々の取り組みをご紹介させていただきますと、「デジタル田園都市国家構想」の中で、交通、教育、エネルギー、福祉など、地域が抱える社会課題のあらゆるテーマでDXやサービスに取り組んでいます。

今、私がやっているのは、教育分野で子どもたちの居場所を作る「みんまなび」というサービスです。既存の取組ではカバーしきれなかったり、年々子ども同士の交流や世代間の交流が減少しているという課題がありました。
そこで、地域の商店や高齢者の方など、いろいろな方に子どもの前で何かお話をしてもらうことをきっかけに、子どもの居場所づくりができないか、と考えました。例えば、竹とんぼやバルーンアートなどを子供たちに教えてもらう講座のようなことをやって、そこで小学生たちが世代を越えて交流したり、興味を広げたりできることを目指して、子どもたちの居場所を作っています。

昔はこうした地域の人と子どもたちの交流がいろいろとあり、今度は自分たちが子どもたちに教えてあげよう、と言って、地域の人も自然と参加してくれることが多くて、前向きに取り組んでいただいています。

一方で、継続性という点では、予約管理などのシステム費・運用費などランニング費用をどうするか、は難しい問題だなと思っています。

桶谷
教育や福祉分野のサービスは、無料ならばあった方が絶対良いものの、お金を支払ってまでは継続できない、というキャズムの突破が非常に難しい。私の考え方としては、予算をつけやすい方向へサービスを広げるよう意識しています。具体的に言うと、竹原市のイノベーション施策も、元々は、産業振興という少し抽象的なテーマでしたが、その中でも企業誘致という項目を期待アウトプットに設定し、正確な効果測定とまとまった予算の獲得する作戦を取りました。例えば、過疎エリアにおける教育分野の予算は、往々にして予算が限られているのが構造的な課題です。大切なのですが、そもそも構造的にそんなに予算を積み上げられない。そのことを踏まえた時に、まずは「みんまなび」というサービスのアウトカムの可能性を複数提示すること。そのうえで、執行部との方針が合致し、予算を立てやすい方向性へ事業をどのようにストレッチさせるかを考える視点が重要だと思います。
多田
そうですね。やっぱり企業誘致など予算と紐付けるのが1番わかりやすいとは思います。少し見通しを変えて、何かとセットで組み合わせてやっていくと、いい形が実装できると思っています。

地域全体、社会全体をつなぐプランニングの力

河野
私は、環境エネルギーの領域を担当しています。
大きなテーマとしては地球規模の課題である気候変動問題の解決があります。国と地方の動向を少し補足すると、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。これを達成するためには国と地方の協働・共創が不可欠です。地方自治体による、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みを「地域脱炭素」といいます。

そんな「地域脱炭素」に向けた、博報堂のデジタル田園都市国家構想での取り組み事例としては、太陽光・風力発発電等による、再生可能エネルギー100%でのEV充電サービスの実装を進めています。
地域脱炭素の実現に向けては、地域交通をはじめとする交通の脱炭素、つまりEVの普及、さらにはEVステーションの整備が欠かせません。しかし、EVの充電に従来の火力由来等の電気を使ってしまうと、それって果たして脱炭素なのかという問題があるので、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーで充電する必要があるだろうという見立てを持っています。
そこで、地域の内部で太陽光や風力によって電気を作り、EVの充電ができるようなハードウェアの仕組みを作る。合わせて、町民の方がスマホからそのEVの充電スポットを予約して、いつでも使えるようにする、といったことを進めています。

桶谷
そうですね、再エネルギーというテーマの難所は、一つの地域の中だけでは、地域特性の面からサステナブルが成立しにくい構造だと考えております。例えば、東北など北部では、日照時間が比較的短いため、一年を通した安定的な太陽エネルギーの供給が困難です。こうした地域特性にあわせて、それぞれの得手不得手を適切に組み合わせた地域の連携と仕組みの構築が重要になります。
その先に、日本全体の中でどのようにつなげていけるか、他地域へ展開できるかを見極める必要があります。

博報堂ならではの魅力は、こうした一地域に閉じない標準化や座組みの設計、あるいは、共助をキーにした市民参加の仕組みづくりにあると思います。第三者的な視点としては、今後の御社独自の価値創出がとても楽しみです。

河野
ありがとうございます。 確かにそうですね。地域脱炭素は、地域に入り込んでその地域特性に応じた設計をする必要があると思っています。環境省も、「脱炭素先行地域」という、文字通り地域脱炭素を先行して進めるモデル自治体の選定を行っていますが、そのモデル性の見極めが重要です。各地域の特性を踏まえつつ、かつ他の地域への展開性求められます。
朝日町は、実は背後に北アルプスがあって、かつ日本海もある。つまり、水の資源があって、小水力発電に適した立地かもしれません。また、日本海に面しているので、風力発電の可能性もある。そうした地域特性、さらには、地域のコミュニティや町民性といった話も含めて、戦略を書いて実行していく必要あるなと思います。
太田
社会課題に向き合うにあたり、地域事業者とともに推進することや、地域の特性をとらえて、課題解決に閉じずに戦略を描くこと。いずれも重要なポイントであると、ご示唆頂きました。
今後もReGACY社とは、社会課題に取り組む仲間として、良い形での連携ができればと思います。本日はどうもありがとうございました。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 桶谷 建央氏
    桶谷 建央氏
    ReGACY Innovation Group.株式会社 エコシステム事業 執行役員
    兼務  一般社団法人ローカルイノベーション協会 代表理事
    財閥系鉄鋼商社へ入社後、コンサルティングファームに転職。新規事業の組織戦略設計、取締役会の設計・強化に取り組む。その後、現職の前身である独立系VCのサムライインキュベートへ入社。非営利セクターのプロジェクトを中心に担い、イノベーションエコシステムの形成・強化を牽引する。2022年に創業メンバーの一人としてReGACY Innovation Groupへ参画。執行役員として、ローカルイノベーションの創出を率いる。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター
    通信会社にて社内システム開発、コンシューマー向け新規事業/商品企画開発、グループ会社DX推進、システム戦略策定を経て、2023年博報堂入社。社会課題領域での新たなビジネスの確立に向け、自治体向けソリューション開発、ビジネスモデル構築を推進。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター
    2010年IT企業に入社。ビッグデータ解析を用いてEC戦略立案、会員育成などデジタルマーケティングを中心に従事。2019年に博報堂へ入社。前職のデータドリブンの経験を活かし、マーケティングの戦略立案・コンサルティングを行う。また、メディアと連携したソリューション開発、社会課題領域では戦略立案から実装にまで携わる。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラニングディレクター
    大手SIerにて経済産業省が掲げるスマートコミュニティの社会実装、自治体向けシステムの企画・開発など社会基盤分野に10年間従事。事業会社での戦略立案・事業開発を経て2022年に博報堂へ入社。公共・デジタル領域の強みを生かして新規業務開拓に臨む。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー
    2018年通信会社に入社。自治体への営業や地域活性化に繋がる商品開発に従事。生活者発想を起点とするマーケットイン型の商品開発に関心を持ち、2023年に博報堂へ入社。社会課題領域におけるデジタルデバイドの解消に関する戦略立案から実装に携わる。