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今あらためて考える。UI/UXの本質とは何か?
BUSINESS UX

今あらためて考える。UI/UXの本質とは何か?

ウェブサイト設計やコンテンツ開発においてUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)がますます重視されるようになっています。「デザイン」や「設計手法」と同義のものとして語られるケースも多いUI/UXですが、その本質とはどのようなものなのでしょうか。博報堂DYメディアパートナーズのグループ企業であり、KDDIの「auスマートパス」を始めとするさまざまなメディアやコンテンツを手がけるmedibaのCXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)、岡昌樹さんに、UI/UXの考え方について語っていただきました。

 

 答えは「生活者の潜在的課題」の中にある

medibaは、2018年4月に会社のCREDO(志、信条)を刷新し、「ライフ・イノベーション・カンパニー」になることをビジョンに掲げました。生活者にイノベーション、つまり、これまでになかった価値や体験を提供する企業になるということです。これはまた、僕たちが考えるUI/UXの根幹にある思想でもあります。
どうすれば生活者が求める本質的な価値や体験を提供できるのか。その答えは「生活者の潜在的課題」の中にあると僕たちは考えています。
ビジネスを成功させる最もシンプルな方法は、「顕在的課題」をターゲットにすることです。課題が顕在化されているということは、そこに市場があるということです。市場がある以上、ロジカルに正しい道を進んでいけば、必ずそこにたどり着くことができます。
それに対し、「潜在的課題」はまだ誰も掘り出すことができていない課題です。そこからどのような市場が開けるかは誰にもわかりません。市場に至る道がどこにあるのかもわかりません。方法はただ一つ、生活者に直接会って話を聞き、課題を明らかにし、そこからソリューションを導き出していくことです。

medibaでは、ほぼ週に一回くらいの頻度で生活者のデプスインタビューを実施しています。一人の生活者に60分から90分ほどをかけて本音を聞き出し、そこから課題を発見していきます。
グループインタビューをやらないのは、その方法だと、参加者の皆さんがどうしても他人の目を気にしてしまったり、大きな声で発言する人の前で委縮してしまったりして、本質的な意見を引き出すことができないからです。
デプスインタビューには、数多くの声を集めることができないというデメリットがありますが、潜在的課題を発見するためには情報の「量」は必要ないというのが僕たちの考え方です。目的は、多くの人が抱えている課題を「収集」することではなく、生活者の奥底にある隠された課題を「発見」することだからです。その発見が、最終的に多くの人を便利にし、ハッピーにするサービスやコンテンツとして結実すればいい。そう僕たちは考えています。

チーム全員で生活者を「観察」する

課題が見つかったら、それを解決するためのソリューションを考え、プロトタイピングを行い、それを再度生活者に提示し、ブラッシュアップし、サービスやコンテンツとして展開していくというのがその後の流れです。
medibaでは、このサイクルを「PDCA」とは呼びません。僕たちがベースにしているのは、「See=観察」「Think=考察」「Do=行動」「Learn=学び」のサイクルです。このサイクルがPDCAサイクルと異なるのは、「観察」が最も重視される点です。生活者をとにかく観察し、「こんなところに課題があったんだ」「こんなところにビジネスの芽があるかも」といったことを発見することを僕たちは最も大切にしています。

その観察の主要な方法の一つがデプスインタビューです。
重要なのは、観察をチーム全員で行うことです。ウェブサイトやコンテンツは一人でつくるわけではありません。medibaでは、UXリサーチャー、デザイナー、エンジニアなどで構成される5人から6人くらいのチームが基本的な単位となっています。そのメンバー全員が、インタビューに立ち会い、同じ生活者を見て、生活者の像をいわばインストールする。それによって、サービスやコンテンツの立ち上げまで一緒に走っていくことができると考えています。

これはまた、「型」を壊すための作業でもあります。チームにいるメンバーは、それぞれが自分の領域のプロです。プロであるということは、一定の「型」をもっていることを意味します。「型」があるからこそプロは優れた仕事ができるのですが、生活者の課題に寄り添ったUXを考える場合は、その「型」を一度壊す必要があります。そうしないと、生活者の課題よりも、自分の「型」を優先してしまうことになるからです。

一つの「型」が常に有効であるわけではない

インターネットビジネスがスタートして20年以上が経ち、現在ではデジタルマーケティングやクリエイティブのさまざまな分野で「型」や「方法論」が確立しています。しかし、「確立しすぎている」というのが僕の実感です。確かに「型」や「方法論」は便利ですが、本当にそれが有効であるかどうかは、そのつど考えてみるべきです。
例えば、ウェブサイトを設計する際には「回遊性を高める」という「型」が重視されます。しかし、「ユーザーを回遊させた方がいい」というのは、果たして自明のことでしょうか。
薬局の店舗設計の際に、最も売れ筋の商品を店の一番奥に置いて、来店者の回遊性を高めるとするとします。これは、単に来店者の負担を増すだけなので、有効なやり方とは言えないでしょう。
ウェブサイトも同じです。「回遊性を高める」というのは、もともとユーザーとのウェブサイトのページビューを上げるための一つの手段に過ぎません。それがいつの間にか、目的となり「型」となってしまっているのです。手段である以上、それが適する場合と、そうではない場合があると考えるべきです。

 もちろん、世の中に「型」は必要です。例えば、青い印がある蛇口をひねると水が出て、赤い印がある蛇口をひねるとお湯が出る。この「型」を崩してしまえば、混乱を招くだけでしょう。しかし、崩すことができる「型」もたくさんあるはずです。
占いコンテンツの場合で考えてみましょう。占いを利用するのはどういう人でしょうか。一つ考えられるのは「自分で決めるのが苦手」な人です。自分で決められないから、後押ししてほしい。そんな人が占いユーザーには少なくないと思います。
そういうユーザーが利用するコンテンツに適したUI/UXとはどのようなものでしょうか。Eコマースなどのコンテンツをたくさん手掛けてきたUXデザイナーなら、おそらく「たくさんのコンテンツをカテゴライズしていき、ユーザーはそのカテゴリーからコンテンツを探すだろう」といったことを真っ先に考えるでしょう。それがウェブサイトや一般的な分類の「型」とされているからです。
しかし、「決めるのが苦手」な人たちに多くの選択肢を提示することは、果たして得策でしょうか。むしろ、メニューをはじめから絞り込んで、決める負担を減らしてあげるべきではないでしょうか。
ウェブサイトの基本的な「型」を完全に崩してしまったら単に使いにくくなるだけですが、「型」だけを守ろうとするとユーザーを無視することになってしまいます。大切なのは、ユーザーの課題と自分たちの「型」や経験を組み合わせて、ニーズにあったUXを提供することです。

新しいUI/UXを生み出すのは「人」

「See」「Think」「Do」「Learn」のサイクルの話に戻りましょう。
生活者を観察し、課題が発見できたとしても、そこからどういう考察を進め、どういうソリューションを生み出すかは、人やチームによって大きく異なります。それまで誰も知らなかった課題に対するソリューションですから、「答え」はありません。さまざまな方向性を検討して、プロトタイピングまでもっていくことが大事です。
よくあるのは、ソリューションの方向性が決まっても、「Do」の前で頓挫してしまうケースです。頓挫させるのは、多くの場合、上司です。「このサービスは成功するのか?」「この事業はスケールするのか」──。上司はそう言います。しかし、成功することがわかっていたら、もうほかの企業がやっているでしょう。成功するかどうかわからないからこそ「潜在的」なのです。

僕も上司の立場ですが、次に挙げる2つの条件が揃っていれば、ゴーサインを出すことにしています。
一つめは、そのチャレンジに当たって、いくらまでの損失が許容されて、いつまで時間をかけることが可能か、がはっきりしていることです。その損失と時間の範囲内に収まるなら、極論すれば何をやってもいいと思っています。
二つめは、チャレンジしようとしている社員がどんな「人」かということです。これは、ある意味で一つめの条件よりも重要と言えます。
新しいサービスやコンテンツや事業を生み出すには、苦難しかありません。途中でめげていたら、絶対に新しい何かを生み出すことはできません。新しいものを世に出した後は、さらにそれまで以上の苦難が待っています。必ず壁にぶち当たることになります。
その苦難を乗り越えて、生活者の課題を解決したい。新しい価値を生み出したい。新しい体験を提供したい──。そんな思いや信念がその人になければ、僕はゴーサインを出しません。もちろん、その思いや信念を共有できる仲間を募ってチームをつくれることも必須の条件です。新しいUI/UXを生み出すのは、スキルやテクニックではなく、その「人」自身である。それが、僕の考えです。
「Do」のあとにやるべきことは「Learn」ですが、これと「See」の境界は必ずしも明確ではありません。プロトタイプをつくり、それを再度生活者に提示して「学び」を得て、それによってプロトタイプをブラッシュアップさせていくという意味では、「Learn」と「See」はほぼ重なっているとも言えます。
それでもあえて「Learn」というプロセスを明示的に置いているのは、生活者から得たものをチーム内に閉じられた知見とするのではなく、会社全体で共有できる知にしていくことを目指しているからです。つまり、「Learn=集合知化」ということです。

 直感的で本質的な価値を生み出していく

最後にもう一度論点を整理しましょう。
優れたUI/UX、これまで誰も見たことがなかったUI/UXを生み出すために必要なのは、「型」やテクニックやスキルよりも、生活者の隠された課題を発見することです。そして、「See」「Think」「Do」「Learn」のサイクルを何度も根気強く回していくことです。そうしてプロトタイプに磨きをかけ、最終的なサービスやコンテンツにつなげていくのです。それをやり遂げるためには、課題を解決しようとする強い信念と、最後までやり切る意志が必要です。
デジタルマーケティングではコンバージョンを獲得することが重視されますが、その作業は、AIやマーケティングオートメーションにアウトソースされつつあります。効率化できる部分は、人間の手から離れつつあるということです。人間がやるべきことは、もっと直感的かつ本質的な価値を生み出すことです。
生活者を直視し、そこから生まれた考察を自分の実生活の中に置いてみて、「これでいいのか」と何度も何度も繰り返し考えること──。生活者を本当に安心させ、感動させ、わくわくさせるUI/UXは、その地道な作業からしか生まれないのです。

  • 株式会社 mediba
    執行役員 CXO(Chief Experience Officer)
    モバイルコンテンツプロバイダーのエンジニアとして数々のフィーチャーフォン向け公式サイトの立ち上げ後、2008年 Yahoo! JAPANに入社。Yahoo! JAPANトップページのアプリ責任者や全社のモバイル戦略などを担当。2016年にKDDI株式会社バリュー事業本部担当部長として入社。UX戦略を担当。