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マーケティング視点から見た価値創造~「マーケティングイノベーション」と「生活者インターフェース」~
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マーケティング視点から見た価値創造~「マーケティングイノベーション」と「生活者インターフェース」~

マーケティングが機能する領域が拡張し、生活や社会にまで影響を及ぼすようになっています。その背景にある構造的な変化を踏まえ、博報堂のマーケティング部門グループの責任者を務める岩﨑拓は「『意味』を『価値』に昇華すべき」と提言します。3月23日に開催された日経電子版ビジネスフォーラム「価値創造時代の新・経営戦略とは?」にて、「マーケティング視点から見た価値創造~『マーケティングイノベーション』と『生活者インターフェース』~」と題し、マーケティングが価値創造をリードするようになっている現状を解説しました。
(こちらのフォーラムはオンラインで実施されました。)

専門領域だったマーケティングが一般化し拡張している

博報堂の岩﨑です。博報堂でマーケティング専門部門グループの責任者を務めるほか、慶應義塾大学の講師や、中谷巌先生が主宰する経営者育成のための教育機関「不識塾」に携わらせていただくなど、対外的にもマーケティングにかかわる活動をお手伝いしています。本講演では、今マーケティングが「価値創造」をリードする存在になりつつある現状を解説し、これからのビジネスに必要な「マーケティングイノベーション」そして「生活者インターフェースの再設計」についてお話ししたいと思います。

まず、今マーケティングがどう変わっているのか、身近なところから読み解いてみます。かつて、マーケティングは社内でも一部の専門部署が担う業務でしたが、かなり多くの方が携わる業務として一般化してきています。また、マーケティングという市場自体に、デジタル化を起点として情報通信やITコンサル、メディア、小売などさまざまなプレイヤーが参加し、すそ野が広がっています。

一方、生活者側の変化から見ると、スマートフォンが浸透したことで、マーケティングも生活全般に密接になりました。元々マーケティングは、製品やサービスの購入という最終局面で機能していましたが、今や購入の局面だけでなく事前の情報収集から事後のカスタマイズされたサービスの享受まで、一連の生活者体験の向上に寄与するようになっているのです。

社会的な目線で考えてみると、新規事業開発や社会課題の解決のために、産官学の共同による実証実験が多く行われるようになりました。これは我々の感覚だと、ごく当たり前の手法であるテストマーケティングです。さらにイノベーションの最先端である中国では、スマートシティを開発し、人々の行動をデータ化して分析していると言われています。社会課題の解決や、街をつくるというところにまで、マーケティングが影響力を広げていることがわかります。

一方、プライバシー侵害の問題や“監視社会”といった言葉など、倫理の問題も昨今議論されるようになっています。これもまた、マーケティングの存在感が増している証左でしょう。マーケティング業務に直接かかわる人、そうでない人を含め、マーケティングが一般化そして拡張し、生活や社会にまで関与する時代になっているのが現在です。

主導権は生活者へ 市場、ターゲット、ポジショニングの構造的変化

では、マーケティングが生活や社会に関与するようになってきた現状を踏まえて、その中身を見ていきます。これまでのマーケティングは「プロダクト・プレイス・プライス・プロモーション」からなる4Pを最適化していくのが基本的な考えでした。それが最近、この枠組みに入らないマーケティングが増えている印象があります。

私自身は、海外の事例を鵜呑みにする方では全くないのですが、ここのところの米国を中心に起きている変化は本質的な動きとして参考にすべきものがあると感じています。例えば「D2C(Direct to Consumer)」モデルのブランドの興隆です。ブランドの世界観やストーリーを軸に、ミレニアル世代を取り込んで急成長しています。販売ノルマを持たない店員が、まるで顧客を仲間のように接遇する「体験型リテール」を実践する店舗も出てきています。

また、サービスとプロダクトを一体化させた「SaaS + A BOX」や生活者やAIがプライスを決める「Post Pricing / Dynamic Pricing」が登場し、「4P」という枠組みにはまらないマーケティングが出てきている状況があります。

こうした動きの背景には、マーケティングの定石の構造的に変化があると考えています。具体的には、STP―セグメンテーション、ターゲット、ポジショニングにおけるそれぞれの変化です。以前は、どのような市場で、誰を対象に、そして競合に対して何を優位性としていくのかという順番でマーケティングが展開されていました。それが今、STPのいずれもがおそらく変わってきているのでは、というのが私の見立てです。以下、順にご紹介します。

1.セグメンテーションの変化
各企業が属する産業を起点に市場が規定されていた状況から、逆に生活者の側から体験ベースで市場を規定するという、「体験価値起点」で市場が再構成される状況が生まれています。例えば音楽だと、以前はCDというプロダクトの購入が主な音楽の楽しみ方でしたが、今ではダウンロードやストリーミング、サブスクリプションなど複数の選択肢が登場し、生活者主導で選ばれることで産業を横断して市場が規定されています。

2.ターゲットの変化
顧客の体験から市場が規定されるようになると、ターゲットの捉え方も変わります。以前は「経済的存在」として顧客を捉え、代金と機能ベネフィットとの交換でビジネスが成り立ちましたが、体験を提供する上では制度やルール、価値観や文化まで含めた「社会的存在」として生活者を包括的に捉える必要が出てきます。その方法はまだ確立されていませんが、アートシンキングやセンスメイキングといった新しいアプローチが実践され、また企業の事例としてもファンとともに商品開発を推進したり、ユーザー同士をつなげて継続的に体験を向上させる取り組みが始まっています。対話を通して、ブランドのコミュニティを構築する動きが出てきていると言えるでしょう。

3.ポジショニングの変化
市場の見立て、ターゲットの捉え方のいずれも顧客の側に主導権が移ると、これまでの“差を刷り込む”というマーケティングも変わってきます。デジタル化によって確かに利便性や効率性は高まりましたが、一方で複雑さや不安定さも生まれています。今、クライアント企業とともにプロジェクトを展開していていちばん議論になるのは、企業やブランドのパーパス、存在意義です。生活者にとっても、選択肢があふれる中、スペックではなく「意味」を問われるようになっています。

すると企業やブランドの役割のひとつは、生活者にとって新しい「意味」や、それを共創する場を提供することになります。米のD2Cブランドでは、購買に伴って寄付が発生するなど社会貢献につながったり、SNS投稿を促す仕組みを通してブランドのエバンジェリストになるといった「意味」を提供し、結果的にミレニアル世代の人気を集めています。また「SaaS + A BOX」で有名なフィットネスブランドは、カリスマ講師のオンラインレッスンやユーザー同士のコミュニティ参加を通して生活に深く入り込み、生活リズムをつくったり日々の「心身」の拠り所になったりと、単なるフィットネスマシーンとそれに付随するサービスを超えた存在になっています。

「意味」は「価値」に昇華して初めてビジネスになる

ここまで、マーケティングが影響を及ぼす範囲が広がっていること、その背景には構造的な変化があることを解説しました。体験価値、コミュニティ、意味の共創といったキーワードから、生活者全体の深い理解と洞察、そして企業やブランドとの関係性の見直しが急務だとお感じいただけると思います。

ただ、この変化はまだ、さらなる転換の入り口にすぎません。生活者のルールや文化までを理解し、ブランドと「意味」を共創するようになった段階に留まっては、継続的に利益を獲得するビジネスとして成立させるのは難しいと考えています。従来型の、代金と機能ベネフィットを交換して成り立っているビジネスと同等の事業成長を見込むには、共創した「意味」を「価値」に昇華させることが必要だと考えています。

ただ、これは簡単なことではありません。従来型のビジネスを展開してきた大手メーカーやリテール企業が、D2Cブランドを買収したり自社開発したりするケースが相次いでおり、各プレイヤーが大きな成果を出そうとかなりの努力を続けています。体験やコミュニティを通して生活者とつながり、それをビジネスにしていくことが、なぜ難しいのでしょうか? そこには、企業活動におけるプロセス、そして生活者との接点という2つの問題があると捉えています。

1.企業活動におけるプロセス
かつて、企業が製品やサービスを世に送り出すまでには、大きく研究開発と事業開発という川上の活動が市場の創造を担い、製品開発そして広告販促という川下の活動が顧客の創造を担っていました。技術起点でイノベーションを起こし、マーケティングで刷り込みをするという分業でした。一方、生活者と企業が同じコミュニティメンバーの一員となり、「意味」を紡ぎながら「価値」を育てていくには、まったく別のプロセスが必要になります。

おそらく、最初に生活者の視点で「意味」の問い直しがあるべきで、研究開発段階から生活者が関与することになるでしょう。ここではイノベーションとマーケティングが分業にならず、常に生活者とかかわりながら「意味」というビジネスの芽を「価値」に昇華させていく一連が「マーケティングイノベーション」になります。一例として金融業界で考えてみると、技術起点で金融サービスを企画して最終的に広告を通して売っていくのではなく、そもそも生活者にとって「お金」とは何なのか、金融サービスが果たすべき役割をともに考えるところから始まり、コミュニティでの議論を通して本当に求められるサービスの形を探っていくといったプロセスになると思います。

2.生活者との接点
もうひとつ、生活者との接点における問題を考えてみます。今、企業と生活者との接点は、製品・サービス、既存の広告チャネルだけでなく、駅や街、家にまで広がっています。ただしそれらが点在していると、仮に「意味」が生まれても分断してしまい、「価値」への昇華を促すのはかなり困難になります。ここで有効なのが、5GやIoTによって可能になるデータ統合とその活用です。企業やブランドと生活者とのあらゆる接点を包括し、データでつなげられれば、分断していた「意味」を「価値」に高める働きかけがずっとしやすくなります。

生活者を取り囲むあらゆる接点が統合され、そこで企業やブランドが生活者と価値創造に取り組めるようになると、また新たな市場や生活のありようが生まれます。これを博報堂では「生活者インターフェース市場」と名付け、企業やブランドと生活者との適切な関与を促し、「意味」を「価値」に昇華していく取り組みを支援しています。同時に顧客の体験を起点とする独自の製品開発にもトライしており、知見を蓄積しています。

本日のテーマである「マーケティング視点から見た価値創造」について、大きな構造変化と問題点、解決の方向性をお話しさせていただきました。もちろん、価値の創造はマーケティングだけで担えるものではありませんが、事業の継続において生活者の側に主導権が移っている状況下では、マーケティングこそが価値創造のリーダーシップを執るべきだと考えます。プロセスの革新とインターフェースの開発・実装を通して、より多くの企業が生活者と価値を共創し、新しい時代のマーケティングを実践していただけたらと思います。そして、博報堂としてそのご支援ができれば幸いです。

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  • 博報堂
    執行役員 マーケティングプラニングユニット長