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企業×国内外のスタートアップ。エイジングの課題をテクノロジーで解決する「AgeTechX」始動|AgeTechX連載vol.01
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企業×国内外のスタートアップ。エイジングの課題をテクノロジーで解決する「AgeTechX」始動|AgeTechX連載vol.01

2023年11月、博報堂とスクラムスタジオによる「健康・長寿・人生100年時代」をテーマとした新たなグローバル事業共創プログラム「AgeTechX(エイジテックエックス)」がスタートしました。本プロジェクトが発足した背景にあるシニアビジネス市場の変化やオープンイノベーションにかける想い、エイジテックの可能性など、プロジェクトの中心メンバーが語ります。

桑原 智隆氏
SCRUM VENTURES(スクラムベンチャーズ)
Executive Vice President of Strategy 

梅村 太郎
博報堂シニアビジネスフォース 

安並 まりや
博報堂シニアビジネスフォース 新しい大人文化研究所所長 

コミュニケーションから事業開発へ。シニアビジネスの潮目が変わった
高齢化社会の課題解決こそ、オープンイノベーションでうねりを生み出す必然性がある

安並まりや(以下、安並)
今回モデレーターを務めます安並です。まずはみなさん、自己紹介も含めてこのプロジェクトとの関わりをお聞かせいただけますか?
桑原智隆さん(以下、桑原)
スクラムベンチャーズの桑原です。スクラムではスマートシティ、ウェルビーイング、脱炭素といったテーマごとに多様な企業の皆さんとグローバルスタートアップを連携させ、そこに専門家メンターや自治体などを巻き込んでサービスプロダクトとして社会に実装していく取り組みを行っています。今回、博報堂といっしょにエイジテックをテーマにした事業共創プログラムに取り組ませていただいています。
梅村太郎(以下、梅村)
博報堂シニアビジネスフォースの梅村です。クリエイティブディレクターとしてマーケティングからクリエイティブまで幅広く取り組みながら、もっと違う新しいビジネスを立ち上げる必要があるのではと考えて、シニアをテーマにした「博報堂シニアビジネスフォース」という組織を率いています。今回の「AgeTechX(エイジテックエックス)」は、メンバーである安並さんの熱い想いでスタートしたんですよね。
安並
そうですね。私はこのプロジェクトが始まるかなり前からエイジテックを追っていたんです。10年くらいシニアの仕事をしていて、当初はほぼコミュニケーションのご相談ばかりだったものが、この2年くらいで商品やサービスなど事業開発のご相談に変わってきました。日本でも高齢化が進み、世界での市場がふくらんでいるなか、コミュニケーションだけでなく根幹の事業開発に取り組まなくてはと潮目が変わってきたのを肌身で感じます。
高齢化社会の課題を解決することって、1社でやることじゃないと思うんですね。自治体や行政はもちろん、企業もさまざまな知見を持ち寄りながら新しいものをつくっていく、そういったうねりを生み出す必要があると感じています。だからこそ、このテーマでオープンイノベーションをつくっていく必然性があると思ったんです。
梅村
ほんとにそうだよね。1社だけで新しいことをやるというのは無理がある。大企業やスタートアップ、そこに自治体が入ってきたり、いろいろな組み合わせが渦のように関係し合うコミュニティが生まれたらすごくクリエイティブなものが生まれてくるんじゃないかという予感で始めています。AgeTechXは3年間のプロジェクトですが、3年後に社会を動かすようなことができているんじゃないかって、僕自身もすごく楽しみなんです。

大企業と質のよいスタートアップを掛け合わせる、one and onlyのプラットフォーム

安並
クライアントからの相談がコミュニケーションからサービスに移り変わっていたタイミングで、事業開発の手法を増やしたいよねという話をしていたんですよね。海外のスタートアップとの連携がとれるといいなと思っていた。そんなとき出会ったのがスクラムの皆さんです。桑原さんに私たちの考えをお話ししたら、超高齢社会である日本でやることに意義があると賛同いただいて、今回のプロジェクトがスタートしました。
桑原
日本ではあまりロンジェビティ・テックというものに馴染みがないですし、日本語にどう訳すかもむずかしいのですが、平たく言うと「あらゆる年代の人が健康で若々しく、よりよく生きるためのテクノロジー」。
シリコンバレーではOpenAIのサム・アルトマンがロンジェビティスタートアップに多額の投資をしたというのが大変大きな話題になりました。
2000年以降サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)の研究が進められ、老化は不可避であるという考えから、老化はケアできるdisease(病気)であるという考え方が生まれたんですよね。日本は超高齢社会のトップランナーであり、研究分野でも貢献している国。グローバルの視点から見ても、日本がリードすることに意味がある分野なんじゃないかと考えていたんです。
博報堂の皆さんの生活者発想やクリエイティビティで事業開発できれば、クライアントにとってもすごくハッピー。企業のニーズを事業に結びつけるのは博報堂が得意。僕らは世界のすごいスタートアップを連れてくるのが得意。このスキルセットがマッチングすれば、社会の新しい価値観をつくることができるのではないかと考えました。
安並
あまたあるオープンイノベーションのなかでも、高齢社会の課題を解決したい企業と質のよいスタートアップを掛け合わせることができるプラットフォームはここならではなんじゃないかと、私自身もすごくワクワクしています。
高齢者の方とお話をすると、皆さん口を揃えて「そんなに長く生きたくない」とおっしゃるんです。それってすごく悲しいことだし、年を重ねれば重ねるほど幸せが積み重なってほしい。豊かにワクワク暮らすためにはいろんな手助けが必要になるけれど、一方でリソースは足りなくなっていきます。唯一それをサポートできる希望がテクノロジーなんじゃないかと思っているんです。
梅村
僕は人権問題なんじゃないかって思い始めていて。老いって苦しいものとか悲しいものと捉えられがちだけど、人生100年時代と言っている以上、最後の瞬間までいかに尊厳を持って生きられるかに人類はチャレンジしなくちゃいけない。その人類の先頭に立っているのは日本人でありたい、という発想なんですよね。高齢でも死ぬ直前までトキメキがある社会にしたいという壮大な計画なんです(笑)。そのためにはテックがいる。
桑原
いま人権問題という話がありましたが、今年僕の両親からもらった年賀状に「光輝高齢者」って文字が書いてあったんですよ。「後期」じゃなくて「光輝」。歳はとったけど前向きに楽しみますという宣言ですよね。ある種「主観的な老化」って大事だなと思うんです。新しいことにチャレンジするとか、社会にお世話されるのではなく、自らオーナーシップを持った人生を生きるためにテクノロジーが活かせたらすばらしいですよね。
これまでの資本主義だけでは実現されない価値、たとえば環境問題や心の豊かさといった部分に目を向けた「新しい資本主義」が注目を集めています。経済成長だけでなく、ウェルビーイング、エイジテックに光を当てたサービスを生み出せれば、このスタジオらしいゴールになりますよね。

ーエイジテック事例を4コママンガにして紹介する連載を開始ー

多世代交流もエイジテックの範疇。「生きる気持ちを引き出すこと」をサポートしたい

安並
AgeTechXではエイジテックを「生きる気持ちを引き出すテクノロジー」と定義しました。これについて桑原さんから解説いただけますか?
桑原
はい。我々はAgeTechXが取り組むテーマを「健康的なエイジング、健康寿命」と「充実したシニアライフ」の2つに設定しました。
エイジテックといってすぐ思いつくのは、見守りサービスや嚥下食など、シニアの介護をサポートするようなものだと思いますが、我々のテーマは主観も含めた健康寿命を伸ばすこと。再生医療や加齢の可視化、アンチエイジングケアなど、本質的な課題をテクノロジーで解決することを目指しています。
これがひとつめの「健康的なエイジング、健康寿命」。
ふたつめの「充実したシニアライフ」では、自立や認知、健康マネジメントなどと並んで「つながりのウェルビーイング」という視点を大切にしています。生涯学習や、コミュニティのなかで仲間がいること、経済的な自立も含んでいます。
一般的にイメージするセンサーでの見守りや転倒防止といったテクノロジーだけでなく、幅広い分野にチャレンジしていきたいというのが我々の想いです。
梅村
先日「もしテックの力で180歳まで生きられたら」というトークセッションをしたんです。そしたらみんなそんな歳まで生きたくないって(笑)。
生きられたとしても一人ぼっちじゃ無理だと言うんですね。だからコネクテッド(つながり)というのはすごく大事。
桑原さんから紹介していただいたスタートアップ企業が、多世代交流のマッチングアプリを提供していて、そこでは80歳のおばあさんと10歳の少女がマッチングしたりするんです。おばあさんが少女に人生相談すると、まったく新しい発見があるわけですよね。それが実際アメリカで広がっているというのにびっくり。多世代が交わるとか、生きる気持ちを引き出すとか、そういうこともエイジテックの範疇なんですよね。
安並
逆もあって、おじいさんが子どもに数学教えるとか。そういうギブ&テイクの関係性が多世代でできるって、すごくすてきなプラットフォームですよね。
つながりという話に絡めますと、今回AgeTechXには、パートナー企業として楽天インシュアランスとロート製薬をお迎えすることができました。比較的若いメンバーも多いのですが、パートナーミーティングも非常に盛りあがって、すごくいいコミュニティができていると感じています。

幅広い業種にチャンスがあるエイジテック。コミュニティを広げることで活動を進化させる

桑原
会社から仕事を与えられるのではなく、自分クレジットの仕事をしようという方が多いですよね。自分という生活者発想で新規事業をつくろうという意欲にあふれていて、非常にプロアクティブな発想が生まれていると感じます。みんなでわいわい、クラスメイトみたいな雰囲気ですよね。そういうコミットと熱量があるプログラムって、僕の経験上いい成果が生まれるんですよ。
梅村
メンバーの皆さんの瞳を見ると、星がキラキラって5つくらい輝いてるんですよね(笑)。それは起業家さんの瞳と同じ。みなさん起業家マインドを持っているんだと感じます。そういう人たちの掛け算ができるコミュニティは、きっとすごい力になる。
安並
いまはスタートアップの募集中(取材は1月下旬)。2024年の3月までに選考が終了してそこから事業共創がスタートします。アメリカだけでなく、エイジテック領域ではイスラエルの会社や、ウェルビーイングではマレーシアなどアジアの会社もすばらしいテクノロジーを持っているので、そういった世界中のスタートアップに集まっていただけるとうれしいですね。
桑原
3年間のプログラムなので、1年目はいいコミュニティをつくり、エイジテックのテーマを探索する。2年目は仮説をブラッシュアップして、3年目は実際に事業化していく。そうやって毎年熱量が高まっていくようなスタジオになればいいなと思っています。これは決して閉じたコミュニティではなく、この先どんどん仲間を広げて皆さんと活動していくのが目的。多くの企業や団体、専門家の皆さんなど、この取り組みをサポートしていただける仲間を広げていきたいです。

梅村
いつでも転入生大募集ですよね!
桑原
いまは保険の楽天インシュアランス、ヘルスケアのロート製薬に参加いただいていますが、ビジネスとしても幅広い業種にチャンスがあるのがエイジテック。食品、住宅、電気などさまざまなパートナー企業にご参加いただくことで、健康寿命を切り口にしたサービスプロダクトが生活者の発想で広がっていくと思います。スタートアップに関してもさまざまな業種があったほうが広がりが生まれる。とにかくいま、すばらしい仲間が集まっているので、さらにコミュニティを広げることでこの活動を進化させていきたいです。
安並
いまどの企業も高齢化社会の課題から逃れることができませんもんね。この課題を解決するだけでなく、一緒に明るい豊かな未来をつくっていくコミュニティになっていけたらいい。わたしも長くプラナーとしてアイデアを出してきましたが、このスタジオでいろいろな方の意見やアイデアをうかがうと、たくさん発見があるんです。もうワクワクが止まらない。このまま3年間走り続けていきたいなと思いますので、ぜひご興味ある方はお問い合わせいただければと思います。当サイトでも定期的に情報発信をしていきますので、どうぞご期待ください。

AgeTechXへのご質問・お問い合わせはこちら

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