AI×プロの技で“心を動かす”表現へ。課題設定から伴走する「ULTIMA」の一貫したアプローチ
AI技術を活用し、社内外の専門家をつなぐクリエイティブプラットフォームとして、新しい広告表現や体験コンテンツの開発・制作を手がけるAI特化型クリエイティブチーム「AI Experts ULTIMA(以下、ULTIMA)」。各領域のスペシャリストが集結し、マーケティングの『知』と、クラフトの『技』を融合させることで、感動や共感を生み出す取り組みを紹介する本連載。
第1回は、ULTIMAの設立背景や特長、世界的な賞も複数受賞している高品質なAIクリエイティブを制作していく際の具体的なプロセスについて話を聞きました。
大塚 夏海
Hakuhodo DY ONE クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局 ULTIMA部 部長
横山 真之介
Hakuhodo DY ONE クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局 ULTIMA部
AIフィルムディレクター
尹 雯正
Hakuhodo DY ONE クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局 ULTIMA部
クリエイティブプランナー

AIの『ポン出し』では平均点にとどまる。心を動かすクリエイティブの作り方
- 大塚
- ここ数年間、生成AIを活用したクリエイティブ制作に取り組む中で、表現の幅は大きく広がりました。ただ、取り組みの当初は「自分一人で編集まですべて担当する」体制が一般的だったので、クオリティの高いコマーシャルとして最後まで作りきる難しさは現場でも感じていました。
どれだけ綺麗な映像やビジュアルが生成AIで作れたとしても、そこにプロの演出が入ることで『伝えたいポイントの魅せ方』がより整理されていきます。一人で生成したAIクリエイティブよりも、プロの演出チームが関わることで、はるかに質の高いアウトプットを生み出せるのです。
こうした背景から、AIだけでなく様々な分野の専門知見を掛け合わせることが重要だと考え、2025年11月に「AI Experts ULTIMA」を立ち上げました。
- 横山
- 組織としては『ULTIMA部』という形態をとっていて、Hakuhodo DY ONEのクリエイター・プランナーに加え、複数のプロダクションの監督・演出家などが、同じチームのメンバーとして動いています。手がける領域も、映像制作から体験設計まで含めた幅広いアプローチで生成AIを活用しています。
そのうえで、案件ごとに社外のAIクリエイターとも柔軟に連携し、最適なプロジェクトチームを組成しています。
Hakuhodo DY ONEの社内リソースに閉じることなく、AIクリエイターやポストプロダクション機能を備える外部パートナーと柔軟に連携し、案件ごとに最適なプロジェクトチームを組成しています。
- 大塚
- ULTIMAでは「どのような課題を解決すべきか」という課題設定から伴走することを大切にしています。場合によっては「そもそも動画を作ることが解決策なのか?」という前提から問い直すこともあります。本質を見極められる人間がAIを駆使してクリエイティブまで形にする『企画力』と『実装力』の掛け合わせこそが、私たち独自の価値だと考えています。

- 大塚
- プランナーの立場から見ると、ULTIMAのプロセスにおける大きなメリットは、企画側とポストプロダクション側が早い段階から完成イメージを共有できる点です。クリエイティブは言葉だけでは伝えきれないニュアンスがあるため、AIを使って早期にイメージを可視化することで、企画の意図や方向性を解像度高く共有することが可能になります。結果として、双方が最初から同じイメージを持ったまま、『ワンチーム』として動き出せる。
そういう意味では、AIによって早い段階で完成イメージを擦り合わせ、後工程での手戻りや修正を減らし、制作全体を大幅に効率化できるのがULTIMAの特長と言えるでしょう。
ーーーー「生成AIを活用しているのに刺さる表現にならない」「AIっぽさの壁を越えられない」という課題もよく耳にしますが、その原因はどこにあると皆さんは考えていますか?
- 横山
- 生成AIを使えば『それらしいもの』は簡単に作れるので、いわゆる平均点には誰でも届きます。ただ、無難なアウトプットは人の心に刺さらない。ただ、「AIっぽさの壁」の正体は、技術の壁ではなく、人間の側にあると思っています。
具体的には、3つの“不在”です。ひとつ目は「問いの不在」。「いい感じの動画を作って」という指示からは、平均値の集積しか出てきません。 AIは問いに答える装置であって、問いを立てる装置ではないからです。誰に、何を、なぜ伝えるのか。その問いを人間が先に立てて、言葉にして渡す必要があります。 優れたプロンプトとは、要するに機械が読めるクリエイティブブリーフです。ふたつ目は「選別眼の不在」。AIの出力で本当に使えるのは、経験上ほんの数パーセントで、残りは正しく不要なものだと判断して捨てないといけない。 捨てるのは、破綻したものだけではありません。一見きれいに整っていても、企画の狙いに合わないもの、誰が作ってもこうなりそうなものは、迷わず捨てる。 みっつ目は「仕上げの不在」。AIが出せるのはせいぜい8割の完成度で、凡庸と傑作を分ける残りの2割は人間のクラフトなんです。
実際の撮影であれば、置く小物一つにしても、衣装や背景、照明まで事前に細かく設計し、美術スタッフが一つひとつ配置していきます。一方で、AIなら細かな指示を出さなくてもそれなりのものができてしまう。だからこそ、最終的にどこまでこだわれるかが、人間の心に「刺さる・刺さらない」の差になると感じています。
- 尹
- 企画とAIの間に生まれるズレも原因の一つです。以前、海外において生成AIを使ったCMが公開された際、家族の温かさを描いた素敵なストーリーにもかかわらず、視聴者からは「人間味を伝えるテーマなのにAIで作られている」という違和感の声が上がりました。これは、企画の価値と生成AIの表現手法がミスマッチを起こしてしまった例です。
やはり、人間は『人間の素晴らしさ』はもちろん、『泥臭さ』や『弱さ』に心を動かされる部分があると思います。そういったテーマは、生身の人間が表現するからこそ、見ていて胸が熱くなるじゃないですか。でも、 AIが生成した人物が演じると、どれだけ精巧でも、 どこか冷めてしまって心に刺さらない。つまり、AIで作ること自体が問題なのではなく、問われているのは「誰が演じているのか」なんです。
だからといってエモーショナルな企画とAIの相性が悪いわけではありません。演出次第でAIだからこそ描ける世界観も存在します。これからは「AIで何ができるか」ではなく「なぜこの企画にAIが必要なのか」という視点がより重要になってくるでしょう。
企画の初期段階から法務チームと連携。『リスク』を理解して伴走する制作体制
- 大塚
- ここで、ULTIMAで手がけたAIクリエイティブの事例をご紹介します。フリマアプリ「メルカリ」のWebCMです。本施策では、生成AIを活用した浮世絵風アニメーションを制作しました。当時ブランドが直面していたのは、ブランド認知率が80%を超える一方で、「サービス名称の認知はしているが、細かな新機能や便利な使い方の理解に至っていない」という成熟期ならではの課題でした。そこで立ち上がったのが、「もしも、江戸時代にメルカリがあったなら」という企画コンセプトです。
- 横山
- 江戸時代は壊れた傘を修理したり灰を肥料として再利用したりと、今でいうリユース文化が既に存在していました。その親和性から企画が生まれたのですが、単なる実写の時代劇ではスキップされてしまう。そこで、視聴者の目を止めるフックとして「浮世絵そのものを動かす」という表現に踏み込みました。
浮世絵のアニメーションから入って、最後に現代のリアルな生活に着地させる。このアプローチが、今回の制作における創意工夫のポイントです。
- 大塚
- 制作にあたって一番難しかったのが「誰も動いているところを見たことがない浮世絵をどう動かすか」という部分でした。その突破口となったのが、「AIにポン出しをそのまま使うのをやめたこと」です。 ULTIMAでは「どこまでをAIで生成し、どこからを演出・ポスプロで磨くか」を判断し、その方針をもとにチーム内でカットごとの動きや見せ方を詰めました。
制作過程では、「動きを滑らかにしすぎると浮世絵らしさが失われる」という懸念と、「質感を守りすぎると映像として迫力に欠ける」というジレンマに頭を悩ませました。この状況を打破してくれたのはプロの演出家です。浮世絵特有の質感を損なわないよう、カットごとに動きの強弱やテンポ、見せ方を細かく調整。AIで生成した素材を、演出とポストプロダクションで磨き込むことで、浮世絵らしさと広告映像としての迫力・完成度を両立させてくれたのです。
表現のクオリティを上げたいクリエイターと、権利やコンプライアンスを守る側とで、着地点を探り合う場面は毎回あります。ただ、私たちの役割は止めることではなく、「どこまでなら踏み込めるか」の線を先に引くことだと考えています。どこまで攻めていいかが明確だからこそ、安心して表現の際(きわ)を攻められる。ガイドラインはブレーキではなく、むしろアクセルだと思っています。
生成AIツールは種類ごとに利用規約が異なり、案件によっては使用範囲の制約も存在します。こうした環境では、制作の最終段階で法務チェックを行うのではなく、企画や制作方法を考える最初の段階から、クリエイティブ法務の知見を入れて進めることが極めて重要です。
ULTIMAでは、企画段階で「どのツールを使い、どのような生成方法や表現方針で進めるか」まで法務チームと共有し、リーガルリスクの有無を事前検証しています。もしそこで「この進め方は厳しい」となれば、リスクのないアプローチへ速やかに方向転換する体制を整えています。
「メルカリ」の浮世絵アニメーション制作時も、当時は前例がない中で法務チームと密に連携し、「権利上クリアできるラインでどこまで作れるか」を何度も検証しました。表現を諦めるのではなく、リスクを理解した上で伴走してくれる専門チームがいることは、ULTIMAのクリエイティブを支える確かな基盤となっています。
- 横山
- ULTIMAのメンバーは全員が高度な画像・動画生成スキルを備えており、守るべきラインや表現の限界を肌感覚で持っています。権利面で懸念が生じた際も、一方的に否定するのではなく、クリエイター目線で「なぜ難しいのか」を丁寧に伝え、「この条件なら表現できる」という代替案を提示することを意識しています。
私たち自身が技術の引き出しを持っているからこそ、AIクリエイターの想いに寄り添った提案ができます。企画から制作、ポストプロダクションまで一貫して対応できる体制は、業界内でも稀有な存在と言えるでしょう。この体制の価値は、工程がつながっていることではなく、往復が消えることです。 分業だと、生成と修正のたびに発注と確認会議を挟むので、AIの速度が組織の速度で相殺されてしまう。企画した人間がその場で生成し直し、仕上げまで見届けるから、伝言ゲームで意図が減衰しない。同時に、「企画は良かったが制作が」という言い訳も構造的に起きなくなります。
どこをAIで圧縮し、どこにリソースを集中させるか
- 尹
- AIによるクリエイティブでは、『企画を考えること』と『実際に作ってみること』の境界線がなくなってきています。企画を着想すると同時にプロトタイプを生成・検証でき、「これができるならこんな魅せ方もできるかも」と予期せぬアイデアが生まれるのです。
つまり、AIは決まった企画を納品するツールではなく、『作りながら企画そのものを面白く広げていくためのパートナー』なんです。そのため、ULTIMAのようなAIを扱えるクリエイターがプランニングまで担い、企画と制作を行き来しながら表現を探れる体制がとても重要になります。

- 尹
- AIを使えばロケハンや撮影準備が不要になり、制作期間もコストも圧縮できます。ただ、それ自体が目的ではありません。圧縮して浮いた時間と予算を、従来なら諦めていた表現の磨き込みに丸ごと注ぎ込める——そこが本当の価値だと思っています。
また、仕上げの段階でも「もう少しクオリティを上げたい」となった場合は、自分たちで生成して「こういう方向なら実現できそうです」と示すこともできるんです。
さらに、浮いた予算や時間をクリエイティブの磨き込みに注ぎ込めば、従来のやり方では諦めていたような「クオリティの高い表現にチャレンジできる可能性」も出てくるでしょう。
しかし、これらのメリットは単にAIを導入すれば得られるものではなく、「どこをAIで圧縮し、どこにリソースを集中させるか」という全体設計を一貫した体制で行って、初めて実現できると考えています。
- 私たちは多様な領域の外部クリエイターとパートナーシップを築くことも大切にしています。外部のクリエイターはそれぞれ得意とする表現や世界観があるため、案件ごとに最適な専門性を持つ方とチームを組み、早い段階からポストプロダクション側と協業しています。その際、案件を丸投げするのではなく、私たち自身もAIの最新技術や可能性をインプットしながら、企画に最適なクリエイターとタッグを組めるよう心がけています。
- 横山
- 浮世絵アニメーションの事例でいうと、私たち自身もプロンプトを入力すれば『それらしい画』は出せますが、それでは平均点にとどまってしまう。そこで、浮世絵表現をすごく追求されているAIクリエイターに依頼する形で進めました。結果として、圧倒的なクオリティと独自性を持つ表現へと昇華することができたのです。
AIは文脈まで汲み取れないからこそ『人間の意志』がクオリティを左右する

- 横山
- 「メルカリ」の浮世絵風アニメーション広告は『YouTube Works Awards Japan 2026』の Best Use of Google AI 部門でSilverを受賞し、さらにULTIMAのブランドムービー『ULTIMA BRAND MOVIE』も『CICLOPE Asia Pacific 2026』のAI PRODUCTION部門にて Winner(最高賞) をいただくことができました。これらの広告賞で評価されたポイントは、技術の目新しさではなく「AIを使って何を生み出し、何を表現したのか」という視点だったと思っています。
私たちのブランドムービーでも、「創造は問いから生まれる」というコンセプトを、単に綺麗で整った映像として見せるのではなく、企画や演出にも徹底的にこだわりました。その結果、クリエイティブとしての完成度やストーリー性を見出せたことが、高い評価に繋がったのだと感じています。
- 『CICLOPE Asia Pacific 2026』で賞をいただけたのは、『ストーリー』と『映像表現』がきちんと噛み合っていたからだと思っています。実写で1カット撮影した素材をAIで変換するなど、その時点で可能な表現を突き詰めました。
ちなみに、ブランドムービーの制作には、全部で3カ月くらいかかっています。そのうち最初の1カ月半くらいは、ほとんどストーリーやコンセプトを考える時間に充てました。AIを活用して制作の手間や時間を短縮できたぶん、「ULTIMAとは何なのか」という企画やストーリーを徹底的に考えられたのが、受賞に繋がったと考えています。
- 大塚
- 受賞を機に、クライアント企業からのご相談も「AIで安く作れるか」から「諦めていた表現をAIで実現できないか」へと変わってきた手応えがあります。AIを単なる効率化ではなく、不可能を可能にする手段として捉えてもらえるようになったのは大きな転機です。
一方で、人間の表情や肌の質感、身体の動きなどは『ポン出し』では不十分で、プロの目による調整が必要です。また、AIツールの進化が速いからこそ、ノウハウの属人化を防ぎ、チームとして学び続け安定したクオリティを出す仕組みづくりに向き合っていくことが重要になるでしょう。
- 横山
- CMプランナーを長年やっていると、予算や期間から実現可能性を考え、面白いアイデアでもボツにすることが増えていました。ところがAIの登場で、以前は諦めていたアイデアも、まずは形にしてみることができるようになった。
いわば「無限の制作費を渡された」ような感覚があります。ブレーキを外し、自由に企画を考えられるようになったことが本当に面白いですね。
- 大塚
- ULTIMAというチームが発足し、デザイナーの視点や演出家の構成力、ポストプロダクションの専門技術が加わったことで、一人で作っていた時には見えていなかった可能性が一気に広がりました。プロフェッショナルと組むことで生まれる『化学反応』が本当に面白く、新しい表現へ挑戦できることがULTIMAの魅力だと感じています。
AIは短時間で多様な表現を生み出せますが、文脈までは汲み取れません。だからこそ、人間が本質的な課題を捉えて企画を考え、先進技術を活用して最適な表現へ仕上げていくことを大切にしています。「AIを使って何ができるか迷っている」という初期フェーズから、ぜひ気兼ねなくご相談いただきたいですね。
※肩書は取材当時のものです
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Hakuhodo DY ONE クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局
ULTIMA部 部長2017年、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(現 Hakuhodo DY ONE)に入社。AIフィルムディレクターとして、映像表現にAIを活用したクリエイティブ企画・演出・制作(生成)を数多く手がける。2017年の入社以来、映像表現とテクノロジーを横断しながら、AIによる映像広告を含む新たな広告クリエイティブを実践。2025年10月からはAI専門チーム「AI Experts ULTIMA」の立ち上げに参画し、AIクリエイティブの創作を追求している。
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Hakuhodo DY ONE クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局
ULTIMA部 AIフィルムディレクター2013年に博報堂に入社。コピーライター、CMプラナーとして活動後、2019年にTBWA\HAKUHODOへ。2025年よりHakuhodo DY ONEにジョインし、「AI Experts ULTIMA」の立ち上げに参画、創作✕AIの可能性を追求している。一方で、個人開発の「コピーAI」で宣伝会議賞ファイナリストに残るなど、クリエイティブの効率化・最適化の限界にも挑戦している。ほか、AIクリエイティブで「Cannes Lions 2026」Silver、「NEW YORK FESTIVALS 2026」GRAND、「MAD STARS 2026」GRAND PRIX OF THE YEAR、「YouTube Works Awards Japan 2026」 Best Use of Google AI部門 Silverなどを受賞。
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Hakuhodo DY ONE クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局
ULTIMA部 クリエイティブプランナー多摩美術大学大学院写真専攻修了。2023年にアイレップ(現 Hakuhodo DY ONE)に入社。アクティベーションプランナーとして、エンタメ・サブカルチャー領域を中心に、VTuber、音楽、イベントなど、オンライン・オフラインを横断した幅広い企画・制作を手がける。「好き」を起点に人の心を動かす企画を得意とし、感性と美意識を活かしたクリエイティブを追求。現在はAI特化型クリエイティブチーム「AI Experts ULTIMA」に参画し、AIとクリエイティビティを掛け合わせた新たな広告表現に取り組んでいる。


