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デジタルが前提となった“新しいフィジカル”とは? @メ環研フォーラム2026 レポートvol.4
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デジタルが前提となった“新しいフィジカル”とは? @メ環研フォーラム2026 レポートvol.4

2026年7月7日、メディア環境研究所によるフォーラム【情報圏のひらき方~「7つの認知タイプ」と「α世代」から見える未来~】が開催されました。

世の中に流通する情報は増え続け、生活者は自分にとって心地よい情報圏の中で過ごすようになっています。時に閉鎖的になりがちなこの環境の中で、私たちはどうやって新たなコンテンツを届け、生活者とのつながりを作ればいいのでしょうか。

レポートvol.1では大人の情報圏をひらくための認知タイプ、vol.2とvol.3ではα世代の情報環境について紹介しました。vol.4はそれを受けて、「デジタルとリアルが融合する時代に大切なこと」と題し、トークセッション形式でお伝えします。登壇者は、メディア環境研究所の森永真弓上席研究員、野田絵美上席研究員、朝本美波研究員です。

デジタルの中で「新しいフィジカルの楽しみ方」に出会う

朝本
α世代の情報行動から見えてきた生活者の潮流として、「個人に最適化された情報圏(=デジタル)」で自分の興味を深めていき、「リアル世界(=フィジカル)」にしかない手触り感を豊かにしていく、という話がありました。

朝本
実は、このフィジカルを拡充する動きはすでに起き始めています。2025年のプロ野球公式戦の年間総入場者数は2704万人​と、過去最高値を記録しています(出典:一般社団法人日本野球機構)。サッカーのJリーグも2024年から2年連続で過去最高(出典:公益社団法人日本プロサッカーリーグ​)。バスケットボールのBリーグも過去最高の入場者数を更新しました(出典公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ​)。

朝本
加えて、音楽イベントも盛り上がっています。音楽ライブの年間入場者数推移をみると、2023~2025年はコロナ前の2019年を上回る水準で、右肩上がりに伸びています。

朝本
つまり、デジタルが発達している一方で、そこに閉じることなく、生活者はフィジカルな体験を求めてリアルな空間にも足を運んでいる、といえます。
森永
生活者へのインタビューでも「フィジカル回帰」を感じますね。夜中にお店へ行ってサッカーのパブリックビューイングに参加したり、その情報を現地にいない友人とチャットグループで共有し合ったり。フィジカルの楽しさをデジタルで拡張しながら享受しています。
野田
映画も同じで、配信で見られる作品であっても、わざわざ映画館へもう1回足を運ぶ。体験する場所として映画館に行くんですよね。
森永
美術館や博物館も、「私はこの展示がこういう風に良かった」といった感想や解説がSNSで可視化されることで、アートなどにもともと興味がない人でも「私も確認しに行かなきゃ」という人が増える結果、会期末まで満員といった現象も増加しているようです。
野田
コロナ禍の感染対策でできたデジタル上での混雑回避のシステムが、今になって予測可能性に繋がっているのも大きなポイントだと思います。混雑状況が可視化されたので、気分が高まったらすぐ歩き出せますから。
朝本
フィジカルの盛り上がりを、デジタルの中での情報拡散が後押しして、「こんな面白いものがあるんだ」と足を運ぶわけですよね。2025年の大型国際博覧会も、デジタルとフィジカルが掛け合わさった盛り上がりの典型的な例だったといえます。

朝本
生の声を見ても、デジタルの中でこれまで知らなかった「フィジカルの新しい楽しみ方」に出会えるというのが掛け合わせの特徴だといえます。
森永
フィジカル空間で「自分なりの楽しみ方を実現しやすくなっている」感覚はありますよね。
野田
加えて、情報を発信する人の裾野も広がっています。若年層だけがSNSで映えるものを出しているわけではなく、いろんな年齢層の人がデジタル空間に生息するようになった。それで、より多くの視点が集まっている気がします。

テレビからネットへの「興味の沼にハマる」導線

朝本
「今までのフィジカル」と、デジタルが前提となった「新しいフィジカル」は、何が違うのでしょうか?
森永
1つは、クローズドのチャットで情報が回っていることです。コロナ禍を経て、デジタルを活用したコミュニケーションに皆が慣れて、情報流通量はさらに増えていますよね。

森永
少し興味を持って手を出すとすぐに、「ようこそ○○の世界へ」みたいな沼が広がっています(笑)。興味を持ってから、そこに辿りつくまでの「線路」がしっかり引かれている感覚がありますね。
朝本
今はアルゴリズムによって、ハマるための強い導線が引かれています。ある男性アイドルグループのファンだというメディア環境研究所研究員にハマったきっかけを聞いたら、年末のテレビの音楽番組でたまたま見たことだそうで。検索したらショート動画がタイムラインに流れてきて、それを見ているうちにどんどんハマっていって最終的にライブへ行くようになった、と。
野田
実はそこでも、テレビが大事な接点になっていますよね。
森永
アイドルにハマった人に聞くと、たいてい年末の大型音楽番組が一番最初に知ったきっかけに挙がります。テレビ離れなんて言われますが、「節目節目では、みんなテレビコンテンツに触れているじゃないか!」と(笑)。そこも興味深いポイントですね。

デジタルとフィジカルの「デジフィジ同期」

野田
最近、若者から聞いたのが「伊能忠敬界隈」です。とにかく長距離を歩いて移動する人や活動のことで、山手線の1周ウォークがすごく流行っているらしいんですよ。「デジタルデトックスの一環かな?」と思ったんですが、どうやら全然違っていて。

野田
まず朝、友達とコースを決めるんですね。そして、歩いている様子をSNSで発信し続ける。「今○時○分で、××に着きました」とストーリーに上げると、「近くにいるから行くね」みたいに、道中で友人が加わってくるそうです。
森永
RPGみたいですね。
野田
「お昼の時間だから、どこ行く?」とSNSで調べながら、デジタルとフィジカルを行ったり来たりする。最後は疲れてきて、終わると同時にエモい動画をさっと編集して、それをアップします。デジタルとフィジカルが融合していて、境目がないんです。
森永
いわゆるVlogですよね。
野田
事前告知や過程、事後のフィジカルな体験をデジタルで拡張して、仲間が増えていきます。デジタルとフィジカルの両方が拡張できる仕組みになっている。しかも、SNS上でみんな同時に喋っているんですよ。
森永
「今日は行けないけど頑張れ」みたいなメッセージを送り合う、と。デジタルがあるからこそフィジカルが楽しくなるんですね。
野田
どちらか一方では物足りなくなっているんですよね。
朝本
次の図は、上にデジタルの情報圏、下にフィジカルの世界が広がっている様子を表したものです。ただ、今はデジタルとフィジカルを行き来することによって境目がどんどんなくなりつつあるというか。デジタルを頭の上に乗せながら歩いている感覚なのかもしれません。

森永
図ではろうと状に、順番に起きるように見えていますが、実際には何が先で後ということもなく一体化し始めていて、それが当たり前だと思う人が増えているんでしょうね。
野田
メディア環境研究所では、コロナ禍に「リアルで会えないからオンラインで集う」という傾向を指す「オンライン同期」という言葉を発表しました。でも、今はデジタルだけではなくフィジカルでも同期する。「デジフィジ同期」というか。
森永
しかも、プラットフォームのアルゴリズムがその同期を加速・強化させている感じはありますね。
朝本
ろうとの上と下を行き来しながら地続きになっている構造、これが「今までのフィジカル」と「デジタルが前提になったフィジカル」の大きな違いなのかなと思います。

「みんなでお祭りを作る」感覚が体験を拡散する

朝本
デジタルとフィジカルを行き来している生活者に対して、企業はどう接点を作っていけばいいのでしょうか?
森永
フィジカルを強化する施策では、それを助けるデジタル環境を意識する。逆に、デジタルを強化する施策ではフィジカルを意識する、というのがポイントだと思います。

森永
「この自撮りコーナーで決まった画角で撮影してください」といった、ワンパターンの映え写真が撮れるだけなのはもうサムい扱いなんだろうなという印象があります。似たような写真ばかりが生まれるのではなく、撮影の切り口が様々検討できるなど、「オリジナル感」が出せるクリエイティブの余地が必要です。すると口コミ内容は多彩になり、参加者の「これ楽しかったよ」がボリュームを作り、広がっていきます。
野田
α世代に聞くと、SNSに投稿しない顔写真を撮って思い出を残す一方で、顔以外の写真を撮る人がすごく増えていて。出かけたスポットで、「いま歩いてます」「到着、へとへと」みたいに、時間を切り取るような撮影をするんですよね。
野田
私を写す・残すのではなく、楽しい体験を写す・残すってことなんですよね。「自分が映える」ではなく、そこで過ごした時間がどうだったのか、という体験の切り取り方が大切なのかなと感じます。
森永
「伊能忠敬界隈」って、報告のしやすさでも良い言葉だから普及したんでしょうね。ハッシュタグ的なネーミングがあると、自分たちの行動に名前がついて、投稿しやすくなります。

森永
企業やメディアが生活者に活動してほしい場合は、同じようにデジタルの取り組みに名前をつけると、プチイベント感、プチフェス感が出て参加しやすくなる。そこにフィジカルも掛け合わせると、さらに投稿しやすくなるはずです。
朝本
名前をつけるというのは面白いですね。1つのコンテンツでも、興味・関心の異なる生活者がどこかに刺さり、多面的な楽しみ方ができる。名前を付けてあげることによって、「こんな楽しみ方ができた」とデジタルに持ち帰りやすくなります。
野田
「フェス感」も1つのポイントですね。みんなでお神輿を担ぐ「お祭り」を作るというか。映画館も、いわばお祭りになっている気がします。「公開最初の週末に見た仲間」みたいに、一緒に盛り上がっている。応援上映もまさにそうですよね。
森永
新聞社ごとに内容が違うキャラクターの新聞広告を「うちにはこれが届いた」と写真をアップしたり、推しアイドルの屋外広告がいっぱいある駅で「このルートだと写真が撮りやすい」と地図をファンが作ったり。広告もフィジカルで共有し合っています。
野田
屋外広告はやっぱり存在感があるし、そこで写真に撮っている人を見ると「流行っているんだな」となりますよね。分散されすぎたからこそ、以前とは違った存在感を示しているなと感じます。
森永
知らないタレントの屋外広告を撮影している人がいると、自分も撮って画像検索して「ああ、このグループね」と分かる。そこでうまく検索できないと途切れちゃうので、情報やSNSの流れを用意しておく必要はありますね。

フィジカルならではの「体感性のある切り口」を用意する

朝本
では、企業はどうすればいいのでしょうか。商品やコンテンツに対して、デジタルとフィジカルを掛け合わせる方法はありますか?
森永
海外で、ちょっと変わった形のお菓子の事例がありました。そのお菓子は、角度によって雲に見えたりドラゴンに見えたり、ウサギに見えたりする。そこで、「あなたが見えた形を報告してください」というSNSキャンペーンをやったら、非常に盛り上がったんです。

森永
いじって楽しんでもらうような、「自社の商品には、どんなフィジカル性があるか」とその特徴を棚卸しするのは大事です。長年のブランドほど、当たり前になりすぎて見えないことも多い。一度棚卸ししてみると、フィジカルに使える魅力が案外あるかもしれません。
朝本
五感や寄り道など、体感性のある切り口を作れるのはフィジカルだけなので、それとデジタルをうまく掛け合わせることが大事ですね。

まとめ

最後に、「デジタルとフィジカルが融合する時代」に大切なことを2点にまとめました。

1点目は、デジタル前提の新しいフィジカルが生まれていること。興味・関心に近い情報が集まる心地よいデジタル空間が充実した分、フィジカル空間も楽しさが増え、その体験をさらにデジタルに持ち帰ることで世界が拡張する。両者の行き来が繰り返されることによって、それぞれが地続きになった環境が生まれているといえます。

2点目は、デジタルと掛け合わせつつ、フィジカルならではの「体感性のある語り口」や「楽しみ方の切り口」を用意してあげること。デジタルに持ち帰り、「どう楽しめたのか」を発信すると、より共感を呼びやすくなり、拡散されてフィジカルの熱狂につながっていきます。その循環を起こしていくことがカギとなりそうです。

(編集協力=村中貴士+鬼頭佳代/ノオト)

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。

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  • メディア環境研究所 上席研究員
    通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、 ネットヘビーユーザー、オタク文化、若者研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。クチコミマーケティング協議会(WOMJ)運営委員。著作に「欲望で捉える デジタルマーケティング史」「グルメサイトで★★★(ホシ3 つ)の店は、本当に美味しいのか(共著)」がある。
  • メディア環境研究所 上席研究員
    2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。
  • メディア環境研究所 研究員
    2021年博報堂DYスポーツマーケティング(現博報堂スポーツマーケティング)入社。プロ野球などスポーツコンテンツのプロデューススタッフとして、広告制作や企画運営業務を担当。その後、官公庁や教育機関に対するコンサルティングといった新規事業推進や、スポーツを通した生活者インサイト調査などに従事。大型スポーツイベントのメディア接触実態などの調査分析にも従事。2024年12月より現職。元ダブルダッチ日本代表。