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CMの放映枠を最適化し、広告効果を最大化する──〈TV AaaS Formation Optimizer〉が実現するテレビCMの進化
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CMの放映枠を最適化し、広告効果を最大化する──〈TV AaaS Formation Optimizer〉が実現するテレビCMの進化

広告効果を可視化しやすいデジタル広告に比べ、テレビCMは効果を最大化するプラニングやオンエア後の効果測定が難しいとされてきました。〈TV AaaS Formation Optimizer〉は、そのような課題の解決を目指して開発されたソリューションです。クライアントが設定するテレビCMのKPI達成を目指し、CMオンエア枠を最適化するこのソリューションの概要と、そこから生まれる新しい価値について、ソリューションの担当者に語ってもらいました。

森 亮介
博報堂DYメディアパートナーズ 
統合アカウントプロデュース局 メディアプラニングディレクター

三上 拓真
博報堂テクノロジーズ
データサイエンティスト / ビジネスプラナー
AaaS Tech Lab

「作案」をテクノロジーの力でブラッシュアップする

──テレビCMの広告効果を最適化するモデル〈TV AaaS〉の新しいソリューション〈TV AaaS Formation Optimizer〉がリリースされたのは2024年3月でした。このソリューションの概要をご説明ください。

スマートフォンやPCなどに配信されるデジタル広告の大きな特徴は、広告効果の「見える化」でなく、「予測できる化」「直せる化」が可能な点にあります。効果を予測し、配信後の効果を測定し、それに基づいて広告をより最適な形に改善していくことができるということです。

一方、従来のテレビCMは、テクノロジーによる見える化、予測できる化、直せる化は難しいと考えられてきました。例えば、スポット広告をどの曜日のどの時間帯にオンエアするかという「作案」は、現在も放送局の営業の皆さんの熟練のノウハウによって行われています。
例えば、あるクライアントが1000GRP(延べ視聴率)のCMを出稿する際は、
それに合わせて「人力」でオンエア枠を調整し、スケジューリングしているわけです。
もちろん、その作案は視聴率をはじめとするデータに基づいたロジカルなものです。しかし、弊社の所有する様々なデータを掛け合わせ、最適解を導けば、さらに大きな効果が期待できると考えています。 テクノロジーの力で作案をブラッシュアップし、テレビCMの広告効果を高めるお手伝いをする。それが〈TV AaaS Formation Optimizer〉によって僕たちが目指していることです。

〈TV AaaS Formation Optimizer〉を活用すれば、クライアントが設定したKPIの達成を目指して作案の枠を組み替えていくことが可能になります。
わかりやすい例で説明すると、ここにいろいろなおもちゃがランダムに入った2つの福袋があるとします。そのおもちゃを男の子向けと女の子向けに分別して、男の子向けの福袋と女の子向けの福袋をつくる──。そんなイメージです。

──その一つ一つの「おもちゃ」がCMの「枠」に当たるわけですね。

そのとおりです。Aというクライアントは、CMによって男の子に商品を訴求したい。一方、Bというクライアントは女の子にCMを見てほしい。そんなケースでは、A社はより多くの男の子が見ると考えられる枠にCMを出稿し、B社はより多くの女の子が見る枠に出稿することでそれぞれの広告効果を最大化することができます。もし、A社のCMが女の子のよく見る時間帯にスケジューリングされていて、B社のCMは男の子が見る時間帯の枠に入っていたとすれば、それを入れ替えることが必要になります。

これは2社の枠の組み替えのケースですが、実際には数多くのクライアントのスポット枠をいわばパズルのように入れ替えていくことになります。その極めて煩雑な作業をテクノロジーの力で行うのが〈TV AaaS Formation Optimizer〉です。〈TV AaaS Formation Optimizer〉が目指すのは広告効果の最大化であり、これはデジタル広告における「直せる化」に当たります。テレビCMでそれができるようになったことは、たいへん画期的であると僕たちは考えています。

ソリューションによって達成される5つのKPI

──そのような組み替えを可能にする仕組みはどのようなものなのですか。

三上
専門的な用語を使うと「組合せ最適化問題」の知識を使って解くことになります。全てのパターンを試して最もよい組合せを選ぶという方法も考えられますが、計算時間を考えると非現実的です。
(例えばA社/B社の枠がそれぞれ30ずつあり、計60枠の中から最もよい30枠/30枠の組合せを選ぶとしても、10京個(=10の17乗)ほどの組み合わせがあります。1秒に10,000個の組合せを試せるとしても、37万年はかかる計算です。)

この問題を効率よく解くための数理最適化手法について、よく使われるものから量子コンピュータを使うものまで幅広く実験し、計算時間とアウトプットを比較しながら、ソリューションとして最も適した手法を選択しています。

──〈TV AaaS Formation Optimizer〉には、現在5つのKPIを最適化する機能があります。それぞれについてご説明ください。

1つ目が、「TARP(個人を対象とした延べ視聴率)」の最大化を目指すもの、2つ目が、より多くのターゲットにCMを届けるためのKPIである「ターゲットリーチ」、3つ目はCM視聴後の「検索」の数を増やすことを目標とするKPIです。4つ目は、CMを見た人のインターネット上での具体的な行動をKPIとする「Web CV(コンバージョン)」です。
そして5つ目のKPIである「購買」は、CMオンエア後にオンライン・オフラインでの購買行動を誘発することを目指します。

複数のKPIを設定することも可能ですが、KPIを複数設定すると、個々のKPIの最適化の精度が落ちる傾向があります。現在のところは、1つのKPIに注力することをクライアントの皆さんには推奨しています。

──ソリューション開発に当たって苦労したのはどのような点ですか。

三上
作案の最適化には、GRPやKPIだけではなく、個々のクライアントが設けている広告出稿の条件を加味する必要があります。そのような条件をシステムに組み込むことが苦労した点の一つでした。

例えば若年層向けの商品の場合は、シニア向けの番組の前後にはオンエアしないことが条件になったりします。クライアントごとにそういった条件や方針があり、僕たちはそれを最大限尊重しなければなりません。その条件や方針を守ったうえで、KPIを最も達成できそうな枠を確保していく必要があるわけです。

それ以外には、「ターゲットリーチ」のモデル開発の際に苦労したポイントが多くありました。個人レベルの枠接触を予測するという難しいタスクに対し、複数モデルの考案と計算時間・精度の比較を通じ、搭載に至りました。

クリエイティブの「直せる化」を実現する

──従来のテレビCMの多くは、ブランド価値を中長期的に向上させていくことが目標とされていました。そのような目標と〈TV AaaS Formation Optimizer〉の5つのKPIとの関係についてご説明ください。

ブランド価値の向上という目標と〈TV AaaS Formation Optimizer〉のKPIは矛盾するものではありません。クライアントのマーケティング戦略におけるKPIがブランド価値の向上である場合、ではそのKPIを達成するためにテレビCMで何を実現していかなければならないか。そう考えたときに、「ターゲットリーチ」や「TARP」をまずは目指すことは理にかなっています。より大きなKPIを達成するためのベースとなるKPIを実現するソリューションが〈TV AaaS Formation Optimizer〉ということです。

一方、近年はブランディングだけでなく、テレビCMによって生活者の直接的な行動を喚起したいというクライアントも増えています。その場合は、「検索」「Web CV」「購買」といったKPI設定が有効になります。KPIの設定によって、中長期的課題にも短期的課題にも対応できるのが〈TV AaaS Formation Optimizer〉の大きな特徴であると僕たちは考えています。

──最適化した作案でのCMオンエア後、効果測定や、広告内容の改善などはどのように行っているのですか。

広告効果測定は「見える化」、広告内容の改善は「直せる化」に該当します。〈TV AaaS Formation Optimizer〉の機能は、先ほど触れたように、CMオンエア前の最適化、つまり「予測できる化」に特化しています。オンエア後の効果測定である「見える化」は、AaaSの別のソリューションを活用することで可能になります。

一方、「直せる化」については、クリエイティブチームとの連携を今後進めていきたいと考えています。これまでのテレビCMのクリエイティブの多くは、幅広い生活者にアピールすることを目指してつくられてきました。それに対して、〈TV AaaS Formation Optimizer〉を活用してオンエア枠をより緻密に設定できるようになれば、時間帯やターゲットなどに合わせた「より刺さるクリエイティブ」をつくることが可能になるはずです。〈TV AaaS Formation Optimizer〉が実現する「予測できる化」が、クリエイティブの「直せる化」につながるわけです。

三上
社内では画像認識技術などのテクノロジーを活用し、広告効果へ寄与する要因分析をする取り組みもあります。〈TV AaaS Formation Optimizer〉におけるより深いファネルに対する最適化であったり、先ほどの「より刺さるクリエイティブ」に必要な要素の提案もテクノロジー起点で実現していけると思います。

CMの広告効果とテレビの媒体力をともに向上させる

──2024年3月のリリース以降、このソリューションによって成果が出たケースはありますか。

すでに多くのクライアントにご活用いただいています。また、ソリューション活用のご提案に対して前向きに検討してくださっているクライアントも少なくありません。
実際にソリューションをさまざまなクライアントにご提供して感じたのは、〈TV AaaS Formation Optimizer〉はすでにテレビCM出稿の長い経験があって、出稿のノウハウを確立しているナショナルクライアントが「次の一歩」を進めるきっかけになるということです。いろいろなことを試してきて、すでにテレビCMに関しては閾値に達しているようだ、そんなケースでも、〈TV AaaS Formation Optimizer〉を活用いただくことによって、これまで最大だと思われていた広告効果をさらに上げることが可能になります。

──今後、〈TV AaaS Formation Optimizer〉によってクライアントや放送局の事業にどう寄与していきたいか。最後に意気込みをお聞かせください。

三上
クライアントごとに最適化したい対象や満たすべき条件などのパターンがある中で、これらのニーズをスピーディーに満たしていきたいと思います。そのために、場当たり的でなく先を見据え、新しいニーズにも対応しやすいモデルを作ることを意識しています。
また、AaaSを通じクライアントのトータルなマーケティング戦略への貢献が求められていると思います。〈TV AaaS Formation Optimizer〉 を軸に他のソリューションとかけ合わせて新たな価値を作れないか、といった広い視野を持って業務に向き合っています。
このソリューションに限らず、〈TV AaaS Formation Optimizer〉の取り組みは、放送局の皆さんとともに進めていかなければならないものです。〈TV AaaS Formation Optimizer〉はこれまでのテレビ広告ビジネスにはなかったモデルです。ですから、このモデルを導入する際には、従来のテレビCMに関する慣習を変えていかなければならない場合もあります。放送局の皆さんとしっかり対話し、〈TV AaaS Formation Optimizer〉に取り組むことの意義を丁寧にご説明しながら、よりよい方向にテレビCMを進化させていく道筋をつくっていきたいと思っています。

テレビCMの広告効果が向上することによって、テレビの媒体価値も上がります。
つまり〈TV AaaS Formation Optimizer〉の取り組みは、クライアントにも放送局にも大きなメリットがあるということです。もちろんそれが博報堂DYグループのメリットにもなります。三者でメリットを享受しながら、ともにテレビCMの未来をつくっていきたい。そう考えています。

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