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【第2回】メーカー・リテール経験者が語る!現状のリテールメディアの課題と今後の在り方とは
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【第2回】メーカー・リテール経験者が語る!現状のリテールメディアの課題と今後の在り方とは

西村 庸平 リテールDX推進グループ
小島 健嗣 リテールDX推進グループ
中田 早紀 リテールDX推進グループ

2021年10月に誕生した、ショッパーマーケティングを専門とする組織「ショッパーマーケティング事業局(SMK局)」に迫る本連載。第2回となる今回は、実際にメーカーとリテールの立場でリテールメディアに関わった経験を持つSMK局リテールDX推進グループのメンバーが、現状のリテールメディアの課題と理想的な在り方について議論しました。

目的が一致しないリテールとメーカー

――自己紹介をお願いします。

西村
私は新卒で食品メーカーに入社し、営業としてドラッグストアを始めとする広域リテール企業本部を担当していました。3年程で外資系のトイレタリーメーカーに転職し、リテールと共同での商品開発や、販売戦略立案、販促キャンペーンの制作・立ち上げなど、リテール向き合いで様々な業務を経験しました。10年以上トレードマーケティングの領域に関わった後、博報堂には昨年6月に入社し、現在はリテールメディアの共同制作・開発、メーカーへのデジタル販促企画の制作等を担当しています。
小島
私は医薬品メーカーでリテールへの本部営業や販売戦略、海外へのビジネス推進、米国駐在を経てリテールに転職して商品本部で消費財の部門長として3年ほどメーカーやリテール市場に向き合う仕事を経験しました。昨年8月に博報堂に入社し、リテールDXやリテールメディア開発の支援に従事しています。前職から対象とする市場は変わっておらず、向き合い方が変わっているという形です。今日参加している中田とは、前職で一緒にお仕事したこともありました。
中田
私は新卒で日用品メーカーに入り、営業と営業企画の部門に約8年在籍しました。営業の際は大手リテールを担当し、営業企画では国内販売戦略立案、特定リテールへのアナリスト業務などを担当し、その後昨年5月に博報堂に入社しました。過去の経験から、日用品業界・リテールとの関わりや、メーカーの営業部門の業務内容を把握しているので、現在もメーカー向き合いの仕事を多く担当しています。

――メーカーとリテール、それぞれの立場でリテールメディアに関わられてきた皆さんの考える、現状のリテールメディアの課題とは何でしょうか。

中田
メーカーとリテールで、リテールメディアに対する目的のすり合わせが難しいことですね。まだリテールメディアという言葉が広がり始めた頃の話ですが、リテールの経営層から「戦略的にDX化を推進する」と表明があり、当初は現場のバイヤーとメーカーが一緒に手探りでリテールメディアに取り組んでいた状況でした。お互いに目的が不明瞭なままスタートした状況でしたので、メーカー側としては「まだ効果がよくみえないが、まずは協力してみよう」といったスタンスでした。その状況は改善されてきているものの今も尚、発展途上かと思います。
小島
確かに当初はトライ&エラーを前提に動き始めた状況でした。そもそもリテールとメーカーで売りたいモノや改善したい数値が異なることは多くありますし、リテール内であっても販促部と商品決定の裁量を持つ商品本部ではやりたいことが異なる場合が多いです。そのような相違点を認識、すり合わせした上で一緒に作り上げていかないとメディアの価値向上に繋がらないと体感しました。
西村
そう言った点ではメーカーの営業とリテールのメディア担当者は同じ現場にいながらも、見ている指標が異なりますよね。メーカー側は「メディアに導入したことでこれだけ棚が獲得できて、セルインが上がった」と、専らROIを指標としていますが、リテール側は「これだけの消費者にリーチできて、リフト値が上がった、新規購買が取れた」等といった純粋な広告効果やROASを主に見ています。メーカー、リテール双方でメディアの目的や指標が異なっているので、当然両者でメディアに対する期待値に齟齬が生まれますよね。

中田
確かに双方で統一された成功基準や物差しがないことも課題ですね。例えばリテールメディアを商品認知・理解促進できる場と捉えて、メーカーマーケティング部門も予算を一部でも振替できればメディアの活性化に繋がると考えますが、実際マーケティング部に「どれくらい効果があるのか」と聞かれてもそれに答えられる尺度や物差しがない、となってしまうのが現状かと思います。
西村
その上、メーカー側もリテールメディアに対してまだ知識が乏しいように感じます。私自身の経験で言うと、例えばアプリ広告に出稿した場合、対象商品の売り上げインパクトのみにしか目がいかず、本来のアプリ広告で果たせる役割や効果などはあまり気に留めていませんでした。その為アプリへの出稿を提案された際は、「その費用分を商品価格にそのまま反映した方が、売り上げは伸びるのではないか」とさえ考えていたほどです。
小島
それと同様のことはリテールの商品本部でもあります。リテールメディアに費用を割くよりも、ポイントや値引きでお客様に還元したほうが即効性ある売上や収益の獲得につながるだろうと考える場面は実際に多々ありました。
あとは順序の問題ですね。リテール側の組織としても、商品本部が定番棚や月次のプロモーション棚を作成した後に、販促部やマーケティング部からリテールメディアで別の商品を出稿したいという話がきても、既にMDを組んだ棚へ導入することは難しく、商品政策との不一致が起きることもよくありましたね。
西村
そういったメディアと売場が連動しない点は、これまでに挙がったメーカー・リテール双方の目的不一致、成果指標の未設計、メーカー側のメディアに対する知識不足と並んで大きな課題ですね。

リテールメディアの実践を支援するパッケージを提供したい

――今いくつかの課題を挙げていただきましたが、それはどのように解消すべきなのでしょうか。

小島
メーカー・リテール間や、リテールの組織間での目的の不一致を解消するためには、リテールメディアに関しての指標を測定する「物差し」を作って検証できるようにしていく必要があると感じています。それによって、リテールメディアに向き不向きの商品がおのずと分かってくるはずです。例えば食品や飲料、マスクなどの使用率が高いカテゴリーと、入浴剤や男性向けコスメなど使用率に機会があるカテゴリーでは期待する効果やそれを検証する指標も変わってくるかと思います。
中田
単純にPOSリフトのアップダウンだけではなく、例えばリテールメディアを通じて商品の認知が上がったことを具体的数値で示せるようになれば、メーカーのマーケティング部や広告宣伝部門もリテールメディアに対して予算を出してくれるようになるはずです。

西村
リテールメディアと売場連動も必須だと考えます。売上を元手に費用捻出するメーカー然り、何よりもメディアをきっかけに来店した生活者の製品購買に結び付かない事態に陥ることが安易に想定できます。リテール部署の垣根の問題もありますが、指標統一と並行して商品部が各メディアの企画や販売までも担う等の編成があっても良いかもしれません。
小島
リテールメディアに対しての理解は、トライ&エラーを繰り返して形を変えながらリテール、メーカー共に徐々に高まって行くと思います。3年前にアメリカに行った際、サイネージやAIカメラが非常に盛り上がっていたのですが、先日行った時にはBOPIS(Buy Online Pick Up In-Store)やアプリ上での検索連動広告が広く普及していました。
日本においても近年Cookieが規制されることを受けて、IDや購買履歴を持っているリテールの1stパーティーデータを活用しよう、という動きが活発になっています。その流れが一巡して、現状の反省点を見つめて再度創り上げようという機運が高まっている時期でもあるので、リテールメディアに力を入れるリテール、メーカーが増えて行くと思います。
西村
その点ではリテールとメーカーで持っているデータや見えている情報は異なるので、これらを掛け合わせればより確度の高いマーケティングが実現できそうですね。例えばメーカーが自社で顧客IDを所持管理できるようになれば、リテールメディアへの応用できる幅も広がりそうですね。
小島
メーカーの予算の話で言うと、米国のメーカーでは広告予算が販促予算に再配分されるような事例が出てきています。日本においても、大手リテールが商品本部の下にリテールメディア推進部門を設置する動きが一部あります。こういった予算編成や組織編成の考え方が広がっていけば、どの部門のお財布を使うかという問題は解決していくと思います。

――SMK局としては課題解決のためにどのような支援を考えていますか。

小島
先程のリテールメディアに対する指標や物差しを一緒に作り、各カテゴリー、ブランドが求めている効果を理解した上で、メディア設計から運用までを支援するのが私達の役割だと認識しています。私達のようにリテールやメーカー、プラットフォーマーなどから人が集まり、実際に商品やサービスに関わる当事者として肌感を持ったメンバーが融合して価値を出せることは強みですね。
中田
できあがった物差しでメディアの成果を図っていきながら、次回実施に向けたKPIを都度考察する、といったPDCAのサイクルを一緒に回せるような運用パッケージの提供を考えています。
またメーカーにいた経験から、トレードマーケティング業界独自の商習慣への理解が乏しい人が提案をしてもなかなか受け入れてもらえないだろうと感じます。しかし、SMK局は様々なメーカー、リテールから人材が集まっているのでそのハードルは超えられますし、実際にクライアントから「業界の事をよく理解された、的を射た提案ですね」と嬉しいお言葉を頂いたこともありました。
西村
SMK局に留まらず、博報堂DYグループ9社横断の戦略組織である「ショッパーマーケティング・イニシアティブ(SMI)」のシナジーを出すことでメディア課題の解決に繋がるとも考えています。例えば店頭ソリューションを専門的に制作し、そこでデータとノウハウが蓄積されている企業もあれば、最終の店頭実現をフォローするラウンダー派遣企業もあり、私が想像していた以上にこの領域に関わる多様な企業が集結していました。業界に精通したメンバー然り、過去から蓄積されてきたデータ、その応用力と最終店頭への実現に至るまで、グループ横断でOn-Offを統合したプランニングができることも強みですね。
小島
実際に各社のサービスを掛け合わせたソリューションも複数存在しますし、適宜クライアントと一緒に開発もしていますよね。ソリューションを作っておしまい、でなく最終店頭実現までサポートしてもらえることはメーカー・リテール側から見ても心強いと思います。

広範囲なデータ連携で新しい世界が見える

――今後、こういうことをやっていきたいという展望を教えてください。

西村
個人的には、リテールメディアをよりリテールごとに合わせてカスタマイズできる仕組みづくりを進めていきたいです。アプリやサイネージなどタッチポイントが複数あるのはいいのですが、そこでのコンテンツや発信方法が画一的になってしまっており、生活者の興味関心が十分に引けていないことに大きな機会があると感じています。メディアコンテンツを企業や商品のターゲット層に沿ってリテール毎に独自制作する等、広告会社のケーパビリティも生かしながら生活者からの支持を得られるメディアコンテンツの開発を今推し進めています。
小島
私はメーカー企業規模の大小に関わらず、リテールメディア活用の間口が広がるサービスの開発を実現したいです。現状クライアントメーカーの企業規模は幅広く、リテールの寡占化とは逆に新興メーカー・ブランドが年々増加している傾向にあり、そういった新興ブランドが出稿できるようなメディアが必要だと考えます。その1つとして費用以上の効果を担保できる設計にする必要があり、何なら費用設計自体を一層メーカーが参加しやすい内容に作り変えて提案する事も考えています。メーカー、ブランドが増えることでメディアとしての価値も高まり、それを体験する生活者にとっても便益のあるものになるという好循環を生むような支援をしていくことに魅力を感じます。
中田
私はリテールのデータだけでは見えない潜在需要の発掘に関心があります。リテールやメーカーがそれぞれ持っているデータは限定的なので、例えば購買データ分析から生活者自身も気づいていない健康悩みの予兆を事前に推測することができれば、ドラッグストアで対処商品を購入したことがない人にも商品を勧めることができるようになります。リテールメディアを通じてそういった挑戦が可能なのは、広い業界につながりを持っている広告会社ならではの醍醐味ですね。
小島
リテールのデータは非常に貴重ですが、見えない情報も多いですね。生活者が買い物をする1つの購買チャネルとしてのデータなので、例えば「どこの病院に通っている」「どこへ旅行に行った」等といった生活者の全容は見えません。仮に、ある人が様々な店舗で購入したレシートを全部集めたとしても、その人が何に興味を持ち、何を購買するのか分かるようにはなりません。つまりデータを有効に活用して需要創造を実現するためには、外部データと連携していくのも1つの選択肢になると思います。それはリテールだけでも、メーカーだけでも出来ないので、我々のような第三者が間に入って繋げていくことで可能になると考えています。
西村
未だデータ連携、分析、利活用と言った点は課題が残されていると思いますので、博報堂が第三者の立場でその役割をサポートしていきたいですね。

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  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    リテールDX推進グループ
    食品メーカーにおいて広域リテール企業への営業担当を経て、外資系トイレタリーメーカー入社。カスタマー共同での製品開発や販促企画のローンチ、チームマネージャーとしてJBPの新規締結等、多岐にわたる業務を経験。数多くの購買データやショッパーデータに触れトレードマーケティングの川上から川下までを会得。2022年6月博報堂入社。現在はリテールメディアや新規ソリューションの開発、メディアコンサルティング業務に従事。
  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    リテールDX推進グループ
    医薬品メーカーにてドラッグストアをはじめSM/GMS、HC、CVS、バラエティストアなど各チャネルの本部営業を経験後、営業戦略、国際戦略などの事業に従事。
    その後、リテールの商品本部パーソナルケア部門の部門長としてメーカーJBP、カテゴリー・マネジメント、ショッパー・マーケティングなど商品戦略をリード。2022年10月博報堂に入社し、リテールDX、リテールメディア開発の支援に従事。
  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    リテールDX推進グループ
    トイレタリーメーカーにおいて広域リテール企業への営業経験後、営業企画として店頭・EC双方における購買データ分析を通じた全社販売戦略立案業務を経験。また、企業カテゴリーアナリストとして企業内のカテゴリー戦略立案にも従事。2022年5月より博報堂に入社しプラットフォーマー販促・ショッパーマーケティング支援等の業務に従事。