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【第4回】消費財領域におけるブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合
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【第4回】消費財領域におけるブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合

ショッパーマーケティングを専門とする組織「ショッパーマーケティング事業局(SMK局)」に迫る本連載。第4回となる今回は、消費財クライアント向けの「ブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合」に局の垣根を越えてチャレンジしている、SMK局の三牧と生活者エクスペリエンスクリエイティブ局(XC局)の水野が対談しました。
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なぜ今「融合」が必要なのか

三牧
SMK局の三牧です。外資系消費財メーカーを経て、2022年5月に博報堂へ中途入社しました。博報堂に入ってちょうど1年が経ちますが、この1年をかけて、本日のテーマである「ブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合」に取り組んできました。メーカー在籍時の経験を生かし、メーカーと流通の関係性なども踏まえた「購買の瞬間」を捉えるマーケティング提案をしています。
水野
XC局の水野です。私は新卒で広告制作会社に入り、さまざまな流通クライアント業務を担当しました。その後、2013年に博報堂に入社し、ブランドマーケティングの戦略策定からクリエイティブディレクションまで幅広い業務に従事しております。2022年からはフルファネルクリエイティブを担当するチームのマネージャーをしており、三牧さんともそのタイミングにご一緒しました。
三牧
本日は「ブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合」を、なぜ今博報堂がチャレンジしているのか、という点についてお話できればと思います。

1つはメーカー側を取り巻く外的環境の変化があるからです。円安や原材料高騰はもちろん新興メーカーの躍進など市場を取り巻く環境は厳しさを増しており、実効性のある「売り」に繋がる施策が求められる傾向にあります。また流通各社の統合などによる寡占化が進んでいることから、流通個社への向き合いがこれまで以上に求められるようになっています。

水野
もう1つは生活者側の理由ですね。物価高になり、輸入品は円安の影響も加わって更に値段が上がっています。その一方、生活者の可処分所得は伸び悩んでいるため、財布の紐が堅くなっている人が多いという状況です。
三牧
そのような状況を踏まえ、苦戦を強いられている商品カテゴリーもありますね。これまでカテゴリーの成長をリードしていたような高付加価値商品の売上が、財布の紐が固くなることによって伸び悩むようになり、結果、カテゴリー全体として苦戦しているという例が目立ちはじめています。
水野
いろいろなカテゴリーで利用者が商品・サービスの質にどの程度満足しているかを調べた調査があるのですが、ほぼすべてのカテゴリーで「満足」「やや満足」が8割を超えているという結果が出ています。つまり、既に商品やサービスの同質化が進んでいて、新たに物を買う理由がない状況になっています。要はメーカーからすると、ますます自社の商品に振り向いてもらうことが難しい時代になったといえます。だからこそブランドマーケティングにおいても、ブランドイメージ向上だけでなく実際に「荷を動かす」ことが従来以上に求められるようになっている印象です。
三牧
つまり、メーカーと流通、生活者、それぞれの状況が変化している中で、従来のブランドマーケティングではカバーできない領域が増えている状況です。だからこそ、私たちは小売流通に向き合ったトレードマーケティングとの融合に必然性を感じています。

店頭を起点にしたプランニングが重要に

水野
セールスプロモーションの世界では以前から店頭が大事だとは言われていましたが、ここに来て改めて重要性が増していると感じます。もちろん、生活者に自社商品を知ってもらうためにTV-CMやデジタル広告などは相変わらず重要ですが、店頭で他ブランドと比較検討され、選んでもらえなかったらそこで終わりですからね。店頭で手に取ってもらうことから逆算して全体をプランニングすることが大切だと感じています。

三牧
おっしゃる通りで、商品が手に取られるのは店頭であり、そこに商品が配荷されていなければ当然ながら認知、購買に至りません。とは言え現状では、店頭のトレードマーケティングと、ブランドマーケティングは分断してしまいがちですね。
水野
その通りです。その問題の原因の1つに、従来の広告会社における店頭知見の弱さがあると感じます。私もある程度店頭については分かっているつもりでいましたが、SMK局のトレードマーケティングチームと協業して、まだまだ店頭や流通商談を深くは理解できていなかったなと実感しました。
三牧
メーカー側の組織も、ブランドマーケティングを担当されているのはマーケティング部や宣伝部、トレードマーケティングを担当されているのは営業部や営業企画部と、組織的な分断もあり、十分な連携が取れていないことも少なくないと思います。我々広告会社も、かつては同じような状況にありました。

この分断の問題を解決するため、博報堂においては、水野さんのような豊富なブランドマーケティング知見を持ったクリエイターと、我々のようなメーカー出身のトレードマーケティング知見を持つプランナーが協業するという新たな体制の形を探っています。こういったチーミングを通じて、クライアント内の組織の融合という点もご支援できるのではないかと思っています。

水野
実務として「ブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合」に向き合っていて感じるのは、店頭での手に取られ方から逆算してクリエイティブにつなげていくことで、大きな成果が得られるケースが多いということですね。これはトレードマーケティング知見とクリエイティビティを組み合わせるからこそできることなので、博報堂独自の強みであると自信をもって言える部分かと思います。全ての案件で店頭とマスを紐付けるべき、という訳ではないのですが、重要なのは「マスと店頭の両方の視点で作らないと片手落ちになる」ということだと感じています。

従来の広告会社にはなかった、博報堂SMK局・XC局ならではの知見

三牧
直近のある事例では、私たちSMK局と、水野さんが所属しているXC局のクリエイターとで共同チームを作り、ブランド戦略からコアアイデアの開発、店頭での戦術まで一気通貫・フルファネルでご提案をさせていただきました。XC局も特徴ある部隊ですよね。
水野
XC局は「エクスペリエンス」を掲げている部署で、広告だけでなくフルファネルで人を動かす体験作りを志向しています。そのような考えのクリエイターやストラテジストが揃っているからこそ、「人を動かす」ブランドマーケティングができているという自負があります。最近は、トレードマーケティングの専門家であるSMK局のメンバーと協業する事例も増えています。
三牧
SMK局には私のようなメーカー出身者以外にも、流通の商品部出身者や、販促ベンダー出身者など、トレードマーケティング領域に強い様々なメンバーが揃っています。それぞれの知見を基に、トレードマーケティングにおける戦略や実行を考えられるのがSMK局の強みです。我々がXC局のクリエイターの方と組むことで、ここまでお話してきたような従来の広告会社にもなかったケイパビリティが生まれつつあり、この点はクライアントにもご評価いただけるようになってきました。

水野
広告会社でリテールに強いと自負している人でも、店舗のエンドの商談がいつあるか、定番棚の商談はどうなっているのか、何をフックに配荷が決まるのか、といったことまでは見えていなかったと思います。SMK局はそういった現場の知識を豊富に持っている人が揃っているのが凄いですね。
三牧
店頭でどういうリソースが活用できるかについても知見があるので、例えば、このリテールにはこういうツールがあるから、それを使えばこういうことが実現できる、といったことまで提案に含めることができます。過去にもツールを絡めたアクティベーション施策の提案は数多くあったと思いますが、実現可能性の高くない机上の空論の様な施策も少なくなかったのではないでしょうか。
水野
メーカー側のブランドマーケティング担当者にも、店頭はあまり詳しくないという方もいらっしゃいますからね。
三牧
そうなんです。我々は、「どうすれば、流通と積極的に協働できる施策、つまり売りにつながる施策、になるのか」という点を強く意識して提案しています。場合によっては、流通バイヤーに直接ヒアリングに行くこともあります。

ある日用品メーカーの事例では、「自社商品の配荷店舗数が減ってしまった。目標売上を達成するには、配荷店舗をX店舗増やしたいが、提案をもらえないか」とご相談いただきました。 そこでまず、どの流通のどの店舗で、どの商品SKUをどれだけ拡大する必要があるかということを細かく試算し、これを基に水野さんをはじめとするクリエイターと協業で実現に向けたプランを練っていきました。この粒度で企画を作ることはなかなかできないと思います。配荷拡大という課題に対しても、マーケティングのアプローチをしていく、ということです。

水野
提案は、流通ごとにどういったツールが使えるかまで考慮したものでした。僕らとしても、「この流通ではこういったサイネージが使えます、こっちの流通では店内放送とこんなメニューや事例があります」といったことをSMK局のメンバーから具体的に教えてもらえるので、クリエイティブを非常に作りやすくなりました。
三牧
あのときは良い協業体制が出来たと思います。
水野
ちなみにメーカーによっては、「特定の流通と組んで施策を実行すると、他流通に怒られるのでは」といったことを気にされるケースも多いと感じます。しかし、SMK局はそういったことのケアまでしっかりと考えた提案をしてくれます。
三牧
流通ごとに使えるツールやメニューを想定して施策を考える、といったことは手段の1つで、他にも流通ごとの客層を考慮したうえで配荷向上施策を考えたり、メーカーが流通と商談する際の支援をしたりするなど、川上から川下まで徹底的にサポートをします。「従来、博報堂と深いお付き合いを頂いているマーケティング部の皆さんだけでなく、営業企画・営業部の皆さんとも並走させてください」とお伝えしています。

水野
同一の棚に配荷されている競合商品を踏まえてプロポジションを規定したり、店頭での手に取られ方から逆算してクリエイティブを創ったりなど、SMK局のトレードマーケチームがいるからこそ出来る提案にチャレンジしていきたいですね。

「実現可能」な、優れた提案をしていく

三牧
まだ「ブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合」は始まった段階ですが、水野さんは今後のさらなる展望をどのように考えていらっしゃいますか。
水野
現状では個別に提供してしまっているものを、一気通貫のソリューションとして提示できる可能性はあるのではないかと感じています。いわゆるマーケティング戦略の前に、トレードマーケティングの大戦略を提示できるようになれば新しいですし、大きな効果が見込めると感じます。
三牧
配荷をどう増やしていくか、どの流通と取り組んでいくかといった点はブランド戦略の1つとしてあるべきですよね。

水野
そう思います。これまでの事例で実感したのが、リテール起点の施策であっても、従来のマーケティングと同様に、CMや広告によって関係者が「行けそうだ」と感じてモチベーションが高まるということです。このように融合の取り組みによって、いろいろな成功体験を積んでいけると考えています。
三牧
最近、ある食品メーカーにおいて競合含めたプレゼンがあり、ここまでお話したような考え方に基づき、マス広告と店頭の一気通貫マーケティング戦略・施策を提案したところ、我々の提案を評価いただくことができました。クライアントから「他社も店頭領域の提案内容は素晴らしかったが実現可能性が低かった。博報堂は他と違い、店頭レベルの施策まで解像度が高く、これなら生活者を動かし、荷が動かせると確信を持てた」といったお声をいただきました。店頭実現も含めた提案のリアリティが重要であることを認識しましたね。

このリアリティという視点を忘れず、生活者の立場に立って、SMK局とXC局でブランドの成長を実現する戦略・戦術を、「ブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合」という手段で具体化していくことができれば、今後も価値ある提案ができるのではないかと感じています。また、SMK局にはEC専門のチームも存在しますので今後オンオフをも融合した戦略・戦術にもチャレンジしていきたいと思っています。

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  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    トレードマーケティング推進グループ
    トレードマーケティングコンサルタント
    外資系消費財メーカーを経て、2022年博報堂中途入社。ストラテジックプラニング職。『ブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合』をテーマに、マーケティング戦略策定・IMC開発から、「配荷方程式™」をはじめとしたショッパー・トレードマーケティング領域の課題解決型ソリューション開発まで幅広い領域の業務を推進。
  • 博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
    二部 部長
    統合ディレクター/クリエイティブストラテジスト
    広告制作会社を経て、2013年より博報堂。インタラクティブクリエイティブや統合キャンペーンからサービス開発まで領域を問わない企画プロデュースに従事。22年よりフルファネルクリエイティブチームを率いる。右脳のリアリティ×左脳の戦略の両面から、確実なビジネス成果を実現することが持ち味。