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生成AIがマーケティングにもたらす影響 研究成果や事例を発表、Hakuhodo DY ONE
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生成AIがマーケティングにもたらす影響 研究成果や事例を発表、Hakuhodo DY ONE

Hakuhodo DY ONEは、生成AIに関する研究成果や事例を発表するオンラインカンファレンス「JAZZ Fes AIレボリューション2024 ~AI×テクノロジーでマーケティングの未来を紡ぐ~」を2月20日、21日の2日間にわたり開催。主催は、同社が展開するデータとクリエイティブを駆使しデジタル時代の新たなマーケティングを実践するプロジェクト「TEAM JAZZ(チーム ジャズ)」。本稿では、全7セッションの内容を紹介する。

※本記事はAdverTimes.より転載しています
 元記事:https://www.advertimes.com/20240424/article454047/

AIがあらゆるサービスと人をつなぐ「AI Everywhere」

最初のセッションは「マーケティング責任者は生成AIにどのように向き合うべきか? ~マーケティングの新時代に向けた、企業の構え方を探求する~」。Hakuhodo DY ONE 上席執行役員の木野本朋哉氏、同社DXコンサルティング本部 DXコンサルティング局の中原柊氏が、生成AIの普及によってもたらされる未来を「顧客体験」「従業員」「組織」の3つの観点から解説した。

まず、顧客体験の未来として、AIが各種サービスと人をつなぐ「AI Everywhere」と呼ばれる世界観を紹介。具体例として食事のメニューを決める場面を挙げ、従来は外食メディアやレシピサイト等を自分で検索し、それぞれに情報を探しに行っていたが、今後はAIに要望を伝えるだけで最適な情報が提示されるようになると話す。

これまでのAIは、どちらかといえば大量のデータを分析し最適解を導き出すといった使われ方をしてきたが、これからは人との接点(インターフェース)をAIが担い、接客を行う場面も増えていくとみられ、同時にAIの“振る舞い”をデザインすることが重要になるという。例えば、AIが出力する口調や口癖などを人間らしく設定することで、AIに親しみを持ってもらい、満足度を高めることも実現できる。また今後AIとの対話が増えることで、同時に得られるデータも増えると予想され、そこで得られたデータを顧客体験の向上に還元するサイクルを作ることも求められてくると話す。

従業員の働き方改革においても、AIの役割は大きい。Hakuhodo DY ONEは生成AIの活用によって50%の工数削減を目指している。具体的には、製品やサービスを生活者が活用する際のプロセスなどをマップ化した「カスタマージャーニーマップ」の作成をAIが支援する仕組みを実現。これまではプランナーによる職人芸的な業務であったが、そのノウハウや思考をプロンプトに落とし込んだという。従来、顧客属性の分類などを手作業で行いアウトプットまでに時間がかかっていたが、基本情報をもとにAIが作成したマップに人間が加筆することで、半分の時間でアウトプットできるようになり、マーケティング戦略の策定や顧客との議論にリソースを割くことが可能になった。 

 また、アイディエーションにおけるAIの活用事例として、顧客体験(CX)向上施策のアイデアワークショップAIを紹介。ワークショップにおける顧客心理の分析、アイデアの洗い出しといった業務を「ChatGPT」が実施できるシステムを整備し、リハーサルや回答例の作成などに利用することで準備工数は約80%ほど削減、さらに成功確率の向上にもつながっているという。

講演のなかでは「人間の仕事をAIが奪うのではないか」という懸念に対し、中原氏は「人とAIは共創する」と強調。AIが試作したアイデアに人間が価値を付加していくこと、また、AIが即座に導き出せる一定水準の正解をもとに“別解”を創ることが重要だと話す。

最後に、組織の未来にも触れた。「AI Everywhere」の世界観において、商品情報から顧客情報、コミュニケーションプラン、営業/提案活動(およびそこからのフィードバック)にいたるまで、あらゆるものがデータ化され、各所でAIが活用されるようになるならば、企業内で先んじてデータ化やAI活用を進めてきたマーケティング組織にとっては、他部門との連携/融合や顧客体験全体をリードしていくなど、企業活動における役割の拡張、再定義が求められてくるのではと提言しセッションを終えた。

メルカリの勝ちクリエイティブに異変、生成AIで広告はどう変わる?

2つ目のセッションは「メルカリと考える、ヒト×AIの力で切り拓く運用型広告の新時代」。

AIによるダイレクト型の運用型広告の品質向上と制作プロセスの効率化について、メルカリの江副修平氏、Hakuhodo DY ONE 第一クリエイティブ本部 第二クリエイティブ局 局長の尾崎咲美氏と同局の関ひかる氏が事例を交え解説した。

冒頭、メルカリの事業成長の変化に伴いWeb広告における成果良好なクリエイティブが変化してきていることに言及。ユーザーのお悩みに対する解決策とオファー提示の流れで構成するストーリー型や、スペックを押し出した情報羅列型のクリエイティブといった、これまで王道とされてきた施策の効果が鈍くなってきているという。

反対に、より大きな成果が出ているものとして、「大そうじは、メル捨離だ」「イヤホン片方無くしたらメルカリで」といった、サービスの新しい利用価値や発見/気づきを提示したものや、下記の「boxman」のような映像と音楽が印象的なアテンション重視のクリエイティブの2方向を挙げる。

大掃除は、メル捨離だ 

 イヤホン片方無くしたらメルカリで

 boxman

この結果を生み出す要因のひとつとして、昨今の生活者の広告に対するリテラシー向上を挙げる。広告接触が増え訴求もパターン化したことなどで、忌避感を覚えるユーザーも増えていることから、「コンテンツ」としてみてもらう事がカギになっているのではと考察。

また、近年は生活者とのタッチポイントが多様化し、消費行動の流れを一元管理することが難しくなっていることも重要な視点と話す。特にメルカリにおいては、サービスの認知度が高い現在、「サービスを知っているが使用していない/過去に使っていたが最近は使用していないユーザー」の行動喚起を促すためのアプローチが必要。「boxman」はじめ、上にあげたような成果が出ているクリエイティブは、軽快なリズムや印象的な映像、画期的な価値提案を通じて「違和感」や「驚き」といったアテンションをとり、認知未利用/休眠ユーザーへの行動刺激につながったのではと推察する。

無論、王道のロジカルなスペック訴求のパターンを否定するものではない。むしろ、その積み上げがベースにあってこそで、それだけでは心や行動を刺激できないユーザーへのアプローチには別の手立てが必要となってきており、そのバランスが重要であると補足する。

 今後ニーズの高まりが予想されるアテンションを重視した広告。しかしながら、運用型のWeb広告においては、定期的なリフレッシュも必要で、企画やクリエイティブのクオリティを保ちながら、制作本数の担保やコスト面、高速PDCAサイクルへの対応が重要となる。そこで活躍するのがAIである。

セッションのなかでは、AIをプランニングや素材生成に活用することで、質/量は担保しながらも効率化・高速化を実現した例が紹介された。メルカリでの取引需要が高いものの著作権の関係で安易に訴求ができなかったトレーディングカードも、生成AIで架空のカードを生成・配信することで、著作権の問題のハードルは越えつつ成果を出すことができた。そのカードのクリエイティブに関しても、生成AIで生成した既視感のない意外性のあるキャラクターを使用することで、既存の素材を活用した、クリエイティブよりも高い成果がでることもわかった。

 このほか、一般的に企画や制作に時間とコストがかかるアテンション重視のクリエイティブも、AIを活用することで様々なバリエーションを用意でき、より高い成果につながっているという。さらに取り組みはWeb広告だけにとどまらず、OOH施策までも、通常のおよそ1/3の制作期間とコストで実現している。

 これまで「想像」まではできるもののコストやスケジュール、クオリティなどを理由に断念していたクリエイティブや企画が、2社のパートナーシップとAI活用により、それらの制約の枠を超え、続々と実現してきている。さらに今後、実施した施策のデータが蓄積されPDCAが回っていくことで、ユーザーフレンドリーかつ成果につながる、より高次なマーケティングが実現していく。メルカリとHakuhodo DY ONEでは、これからも未来を見据えたデジタルマーケティング上のクリエイティブを議論し、新しい挑戦を進めている。

生成AIでGoogleやBingの検索体験はどう進化?

3つ目のセッションは「生成AIで Google やBingの検索結果が進化してるってホント?SEO 担当者が知るべき新潮流」。生成AIを活用した新たな検索機能が生活者の検索行動に与える影響について、マーケティングソリューション本部 SXOソリューション局 R&D部の大脇数馬氏、プロデュース本部 ソリューションプロデュース局の徳丸佳乃氏が調査結果をもとに解説した。

機能の具体例として、Microsoft Bingの「Copilot」、Googleの「SGE (Search Generative Experience)」を紹介。検索語句をもとに、その検索結果をAIが文章にまとめて表示/回答するというもの。これまでは検索後、ユーザーによるサイト流入/閲覧、情報の取捨選択が必要だったが、検索者が求めていると予測される情報がAIによって厳選されて表示されるようになる。それにより、AIの回答内にも参照ページの紹介はされるものの、AIがまとめた内容で満足し、いずれのWebページにも訪問しない「ゼロクリックリサーチ」が増えることで、各Webページへの自然検索経由での流入が減少することが予想される。併せて、検索結果画面をスクロールする距離が短くなることで、下部に表示されるページへのアクセスは減少することが想定されると指摘。また、この検索体験の変化に伴い、ユーザーが検索で使用する言葉も変化し「口語調で具体的なキーワード」が増えてくるのではという。

それぞれの機能の調査結果も共有された。SGEでの表示と自然検索結果との関係について調べたところ、自然検索結果での表示のされやすさとSGEの回答内容の参照サイトとして採用のされやすさには高い相関が見られた。現時点においては、検索エンジン最適化(SEO)への取り組みはSGEで表示されるうえでも重要と考えられる。特定の業種においては、Googleプラットフォームの情報がSGE内に表示されることから、それに対応する施策(構造化データやグーグルビジネスプロフィールなどの活用)も有効だと指摘した。

また、Copilotに関しても、SGEと比較すると自然検索10位圏外から引用されているリンクのキーワード比率が高まるなど部分的には相違がみられるものの、大きな方向性としては類似しており、今まで通り自然検索での表示やWebサイトの体験には配慮したうえで、今後は生成AIによる表示機会を獲得していくことが重要だとまとめた。

なおSGEは試験運用中の機能であり、Copilotも含めて逐次新しい機能の追加や変更が発生している。調査時期や調査対象によって結果が変動することも想定される。調査結果はあくまで一つの時点での傾向として解釈し、継続して動向を追う重要性が強調された。

高速PDCAでLPのCVRを劇的改善

4つ目のセッションは「進化するプラットフォームを活用したUX・CX向上の実践的アプローチと、AI 活用の未来展望」。昨今のユーザー体験(UX)や顧客体験(CX)の改善にはデータに基づいた顧客理解と適切な施策への落とし込み、およびそのPDCAサイクルの高速化が求められる。本セッションでは、UX・CX向上を実現するために有用なプラットフォームを提供する企業をゲストとして、CXプラットフォーム「KARTE」などを提供するプレイドの牧野祐己CTO、Web体験最適化プラットフォーム「Ptengine」を提供するPtmindの熊谷育朗氏が参加し、Hakuhodo DY ONE プロデュース本部 ソリューションプロデュース局の中野知己氏、マーケティングソリューション本部 UIUXソリューション局の小野文弥氏とともに、実績や展望を紹介した。

リーン・サイト運営プラットフォーム「KARTE Blocks」は、Webサイトの中にタグを1行設置するだけで、そのWebサイトの構成要素を「ブロック」に分解し、ノーコードで編集、更新、評価ができる。A/Bテストや、ユーザーごとのコンテンツ提供のパーソナライズ、パフォーマンス評価までもブロック単位で可能で、複雑なWebサイトでもシンプルに改善、管理ができるのが魅力。同サービスを用いて、Hakuhodo DY ONEが金融サービスA社の広告ランディングページ(LP)を改善したところ、多角的な分析結果を施策に反映し、一度のテストで最大7.51%のCVR改善率が見られたという。

「Ptengine」を用いた事例も紹介。同サービスは、アクセス解析やヒートマップ分析といったサイトの分析と、ページ編集やA/Bテスト、Web接客施策がいずれもノーコードかつワンストップで行うことができる。Hakuhodo DY ONEが金融サービスB社の広告LP改善の際に活用した際、半年間で12回と高頻度でテストを実施し、デザインパターンは62にのぼった。結果、半年前と比較してCVR改善率は最大53.16%だったという。

AI活用の未来展望についても語られ、プレイドは今後、ユーザーの行動データの分析や活用のために大規模言語モデル(LLM)などのAI技術を本格活用していく方針だという。セグメンテーションの高度化やコンポーネントの自動生成/提案によるUX向上、プランニングの自動化などにつなげたい考えだ。Ptmindは9割が自社のソースコードの独自インフラを持ち、将来的には「Ptengineクラウド」をベースにしたオンプレミスAIモデルを構築し、AI活用による迅速な顧客体験向上が実践できると考えている。各社共通して、AI活用の練度を高め、サービス提供を進化させていく展望を描く。 

クリエイティブで求められるAIとの役割分担

5つ目のセッションは「生成AIで変わる広告クリエイティブ ~いま知りたい制作現場の最前線~」。パネリストとして、ピラミッドフィルムクアドラプロデューサーの溝渕和則氏と塚本貴洋氏、Hakuhodo DY ONEからは第一クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局の小野洋平氏、第二クリエイティブ本部 第一クリエイティブ局 の吉川真紀子氏が登壇した。

月刊『ブレーン』※による2023年5~6月時点での調査では、AIツールを業務で使用しているクリエイティブ関連の企業は約3割ほどで、用途はキャッチコピーの作成やメール文章の添削、アイデア出しや壁打ち、企画提案時に活用する参考画像の生成など。毎年フランスで開催される広告賞「カンヌライオンズ」でも、2023年は多くのAI活用作品がノミネートし、AI関連のセミナーも多数開催された。

※出典:月刊『ブレーン』2023年8月号,ブレーン編集部「クリエイターのAI活用に関する実態調査」(2023年5月31日~6月15日)

いまやAIを使うこと自体は当たり前になり、AIを活用しただけで話題になることは少なくなった。それぞれのクリエイティブにおいて、どのようにアレンジ、活用していくかが肝になる。ピラミッドフィルムクアドラでも、AI時代の新しい企画/表現を模索しており、画像といくつかの質問をもとに体験者が今晩見るであろう夢をAI技術を用いてビジュアライズする実験的な体験コンテンツ「きょう、この夢を抱いて眠る」などを発表するなど、精力的に取り組みを進めている。

主に広告クリエイティブの分野においては、生成AIでテキストやビジュアルを生成することで制作期間の短縮や、既視感のないビジュアル制作につながっているという。また、実際に広告配信した際に、生成AIが作ったものと、人が作ったものとで比較してみたところ、生成AIが生成したクリエイティブの方がCVRが高いものが一部でてきているなど、成果/クオリティの面での有用性についても検証が進む。

Hakuhodo DY ONEでは、広告クリエイティブの企画/制作から配信までの一連のPDCAプロセスの各所にAIを組み込み、プロセスの高速化を実現している。特に、生成AIの登場により、デザイナーではない営業/プロデューサー職の人でも一定クオリティのクリエイティブを作れるようになったことは大きい。これまで提案時の企画書やカンプ用に社内や外部のデザイナーに依頼して、都度制作してもらっていたところを生成AIを活用して自身が考えているものをスピーディーに形にできることで、クライアントとの認識合わせや提案のスピードアップにつながっているという。

一方、AIによるアウトプットは仮説ベースで、配信後はユーザーのフィードバックを改善に生かすことが大切だと指摘。人間が細かい調整を行い、最終的な品質を決定することが大事だと見解を述べた。ブランドの一貫した表現や細かい演出などAIが苦手とする部分も多く、AIとの役割分担で、人間が企画や表現の精緻化、品質向上にリソースを注ぐことが理想的だという。

著作権侵害の懸念と法整備

6つ目のセッションは「生成 AIと法務規制」。登壇したのは、テレビCMや映画、アニメなど、広告からエンタテインメントまで幅広いコンテンツを手掛けるロボットの法務担当である新澤彰子氏、ITベンチャーやスタートアップ支援、テクノロジー領域に強みを持つGVA法律事務所の阿久津透弁護士、Hakuhodo DY ONE 第二経営管理本部 法務局の藤井正則氏。制作会社と広告会社、弁護士、それぞれの視点から、法務やクリエイティブ制作の現場における生成AI活用の法的・倫理的な課題について議論がなされた。

ChatGPTを筆頭に生成AIが急速に台頭し、会社のあらゆる業務での活用が進む一方で、規制などの法整備が進んでおらず、現状では利用者のモラルに委ねられている。「透明性と説明責任」「フェアネスと公正性」といった、会社業務で生成AIを使用する際の10原則はあるものの、あくまで性善説にもとづいた原則の提示にとどまってしまっているという。

そんななか海外のAI規制に動きがある。昨年2023年12月9日にEUの欧州委員会は、世界初となる人工知能を包括的に規制する「AI法案」が大筋合意に至ったと発表。人間の基本的人権を守ることを目指し、生成AIのリスクを利用目的ごとに「許容できないリスク」「高リスク」「汎用目的型生成AIに対するリスク」「生体認証に対するリスク」の4つに分類。経歴や犯罪歴から人間を点数化することなどを「許容できないリスク」と捉えている。この発表を皮切りに世界各国でAI規制の動きが活発化することが予想される。

 

 実際の活用シーンに目を向けると、法務の現場においても契約書の審査や翻訳、作成などでAIが活用されている一方、個人情報や秘匿情報を扱わないなど使用上の注意点も多い。今回登壇した3社ともに、業務においては社内で認められた特定のAIツールのみの使用を許可していたり、学習時のプロンプト履歴を記録管理しておくなど利用にあたってのルールを設けるなどして、節度ある活用を推進しているという。

クリエイティブ制作における著作物の侵害についても話が及んだ。

クリエイティブ制作で生成AIを活用する場合、著作権を侵害しないように注意を払うことが大切とし、著作権侵害の判断要素として「類似性」と「依拠性」を紹介。「類似性」はその言葉の通りだが、「依拠性」に関しては、特に注意が必要だという。AIを活用したクリエイティブの生成過程で、著作権を侵害するようなプロンプトを打ち込み、当該データ自体を学習させてしまうことは当然NGだが、ツールによっては、どのデータを学習しているかがブラックボックスになっているものもあり、自身のあずかり知らないところで、依拠してしまう可能性があるためだ。利用者側では、そのアプトプットにいたるまでの生成の過程、プロンプト履歴などを記録管理しておくことが重要であるとしながらも、後者のケースで著作権侵害に問われた場合の責任は、利用者とツールの提供側とで持ち合うのかなど、まだまだ判断の難しい部分があり法改正を含めた議論の余地が残るという。

 また最後に、生成AIによる創作物が発明になりうるかどうかの基準についても言及。生成AIを駆使して書かれ、第170回芥川賞に選ばれた九段理江氏の『東京都同情塔』や、カメラ撮影のシーンなどを例に出しながら、生成の際の指示の内容や性質、生成後の取捨選択や改変を加えるなど、人間の関与の度合いが関連することを説明した。

若手とベテランの経験差を埋めるAI

7つ目のセッションは「先輩マーケターを超えるコツ ~若手デジタルマーケターのための AI 活用ガイド~」。実際に先輩後輩の関係にある、Hakuhodo DY ONE 執行役員の青山友樹氏とプランニング本部 ストラテジックプランニング局 部長の外池周平氏の2人が対談。生成AIにより、各々の実務やチーム内での役割分担、関係性がどう変わっていくかを紹介した。

外池氏によると、生成AIを活用することで若手とベテランとの経験差を埋めることが可能だが、そこには「埋めやすい要素」と「埋めにくい要素」があるという。

前者に該当するのは、メールなどの身近な業務のスピードや提案時における仮説の網羅性、業界特有の用語や概念理解といった知識面で、これらは生成AIをうまく活用することで改善が可能。一方、社内外の人脈や経験値による仮説精度の高さ、また「この人とは馬が合うな」「一緒に仕事するの気持ち良いな」といった直接的な人間関係の構築やその場で相手に感じの良い印象を抱いてもらうことなどは、AIを活用するだけではまだ容易にカバーしにくい要素だとした。

このような生成AIの得意・不得意を理解し、利点が大きいところでは積極的に活用して実務のベースをレベルアップさせていくことが先輩に追いつくために有効であると強調しつつ、さらに高い次元で求められてくる「独自の答え」を、機械であるAIを活用して作り出すコツとして、「自分の言葉」でプロンプトをインプットすることが大事だと指摘する。

 ベテランのシニアマーケターの生成AI活用については、青山氏から紹介。

これまでは後輩の力を借りることも多かった専門外の業界リサーチやデータ分析などは、すでに生成AIでできてしまうという。データ集計/分析においては、プログラミング言語が必要な複雑な処理ですらAIが代行してくれる。キャッチフレーズやビジュアルイメージなどアイデア出しの場面でも生成AIが活躍。ただ、業務改善や効率化において生成AIは有用である一方、生成AIが導き出すアイデアや戦略は、やや一般的なものだったり同質なものが多いことも否めないことから、現実世界でそのまま通用するかというとまだその域にはないという。それゆえ、現時点においては、生成AIが導いた戦略をそのまま採用したり、生成AIに意思決定させるというよりは、ベースの業務の効率化と、案出しや反論、提言してもらう相手として活用しているのが現状だ。

ここまでみてきたように、業務にAIが入り込むことで、若手とシニアの関係性も変化する。

これまでは企画立案や意思決定といった「解なき仕事」を先輩社員が、情報収集や整理、データの加工集計といった「解ある仕事」を若手が担うという役割分担が多かったが、今後はその若手の役割をAIが担うようになる。その代わり、若手は自身で仕事を見つけ、新しい論点を投げ込むことが求められるようになるという。

 外池氏も、生成AIの活用により一定クオリティの分析やアイデアがあがってくることから、それをベースに、先輩社員と別論点での探索やクリエイティブな対話が増えていると話す。

青山氏は、この関係性の変化を「間違い探しの関係」から「答え探しの関係」と表現し、AI時代は、生成AI活用によるベースのレベルアップは各所で行われながらも、競争における差別化ポイントとして、シニアも若手も自身の経験からもたらされる「感性」を発揮しながらの共創、また、それを可能にするための対話/ファシリテーションが重要になると予見しセッションを締めくくった。

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