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話題のb8taでリアル店舗を検証の場に 事業・ブランドの成功確度をあげる新手法(後編)
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話題のb8taでリアル店舗を検証の場に 事業・ブランドの成功確度をあげる新手法(後編)

東京・有楽町のベータを舞台にした実証実験を経て、この7月に「X-PROTO(エクス-プロト)」はリリースされました。企業の新規事業や新規ブランド開発をサポートするこのソリューションの機能と、それが企業にもたらす価値、そしてクライアント支援にかける思いについて、前編に引き続き、ベータ・ジャパンCOOの羽田大樹さんと博報堂ブランド・イノベーションデザイン(博報堂BID)のメンバーたちに語ってもらいました。

羽田 大樹氏
ベータ・ジャパン株式会社 COO

鷹野 翔平
博報堂ブランド・イノベーションデザイン 
イノベーションプラニングディレクター

髙橋 美帆
博報堂ブランド・イノベーションデザイン 
イノベーションプラナー

児玉 誠周
博報堂ブランド・イノベーションデザイン 
イノベーションプラナー

岡安 穂香
博報堂ブランド・イノベーションデザイン 
イノベーションプラナー

※所属は取材当時

「体験創出」と「変革」のためのプロトタイピング

──X-PROTOの実証実験からどのような発見がもたらされましたか。

羽田
限定された空間の中で、サイネージなどを使ってブランドの世界観を創出しながら、ゾーニングしてデータを取得するというのがこの実証実験のモデルでした。私たちとしても初めてのチャレンジでしたが、非常に可能性があると感じました。いわば「店の中にもう一つの店をつくる」モデルですよね。その中で、一人ひとりのお客さまの動きをトレースできるし、アンケートやコミュニケーションを通じて定性情報も得られるわけです。私たちが最初に目指したソリューションのモデルが実現したという確かな手応えを得られました。

児玉
実証実験に協力してくださった生花を販売するブランドに対しても、新しいビジネス機会を発見しご提案することもできました。来訪してくださった方々に「どんな日に花を贈りたいか?」という質問をしたのですが、意外にも「何でもない日」という答えが多かったんです。誕生日やクリスマスや父の日や母の日といった「ハレ」のタイミングではなく、例えば、「自分にいいことがあったとき」とか、「気分がいいとき」など、言ってみれば「プチハレ」のタイミングに花を贈りたいという人が意外に多いことがわかって、新しいアプローチのヒントになると思いました。

鷹野
大きなストーリーだけではなく、「人それぞれのストーリーを大切にする」という視点で顧客とコミュニケーションを図れば、花を贈るという行為はもっと日常的なものになるかもしれない──。そんな可能性が見えたことが一つ大きな成果でした。

──この実証実験の成果を受けて「X-PROTO」のリリースが実現したわけですね。このソリューション名にはどういう意味があるのですか。

鷹野
「X」には「エクスペリエンス(体験)」と、DXのX、つまり「トランスフォーメーション」という意味の2つがあります。新規事業が生み出す新しい顧客体験と、その企業自体の変革の両方を実現するためのプロトタイピングを支援する──。それをあらわしたソリューション名が「X-PROTO」です。

ソリューションのコアにある「MVS」という思想

──X-PROTOの基本的な機能をあらためてご説明ください。

鷹野
ベータの有楽町、新宿、渋谷各店舗にある、一社で貸し切りができるスペース「エクスペリエンスルーム」を使わせていただき、そこにサイネージ、タッチパネル型のアンケート収集の仕組み、センサー類などを設置し、そこで得られたデータの分析結果をご提供するというのがX-PROTOの基本的な機能です。

羽田
私たちからご提供するのは、エクスペリエンスルームと、テスター(自社スタッフ)による接客です。お客様の動線分析などのデータやアンケートとテスターがヒアリングした内容を組み合わせて、より立体的な分析をすることができます。

鷹野
空間内は展示スペースでもあり、一般のお客さまに自由に入っていただけるので、それ自体がブランディングにもなります。ブランディングと検証の場を同時にご提供するということですね。

児玉
ソリューションのコアにあるのは「MVS」という考え方です。MVSとは「ミニマム・バイアブル・サービス」のことで、「最小限の機能をもったサービス」という意味です。最小限の機能を実装したプロダクトをMVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト)と言いますが、その考え方をサービス開発に応用してみようというのがMVSの発想です。デジタル・リアルのタッチポイントを複合的に組み合わせながらサービス価値を体験できる最小限のサービスをつくることで、顧客価値を検証できる。そんなプロセスを実現できるソリューションがX-PROTOです。

──クライアントのニーズや課題に応じたカスタマイズも可能なのですか。

岡安
もちろんです。空間や設備といったハードを活用することが基本ですが、そこで具体的にどのような展示や体験設計をするかは、クライアントとお話ししながら、私たちが細かくプロデュースさせていただきます。

新規事業開発を進める場合、開発のステージによって検証すべき内容も変わってきます。X-PROTOのプロジェクトメンバーは全員がストラテジックプラニングのプロでもあるので、クライアントの事業の見通しを理解した上で、確かなストラテジーを描いていけるような検証プランをご提案します。

髙橋
日常業務の中では、それぞれのメンバーが色々なクライアントを担当させていただいていて、そこでどんな課題があるかを共有し互いに把握しています。そういった知見をいかしながら、個々のケースに応じた検証の設計ができるのがこのチームの強みだと思います。

新規事業開発のモデルを確立していきたい

──ソリューションリリース後の反響はいかがでしたか。

鷹野
私が担当させていただいているクライアントの研究部門の方にこのソリューションをご紹介したところ、非常に大きな興味を示していただけました。ほかにも、各方面からお問い合わせをいただいています。企業の皆さんが求めるものにフィットしたソリューションをつくることができたという実感がありますね。現在は博報堂DYグループ内での社内セミナーなども展開しながら、ソリューションの価値を周知しているところです。
児玉
ぜひ、クライアントとともにこのソリューションを活用した成功事例をつくりたいですね。成功事例がいくつか生まれれば、X-PROTOの可能性をより多くの企業に知っていただけると思います。

──今後に向けた意気込みをお聞かせください。

児玉
新しい事業や新しいブランドの開発は、多くの企業にとって必須の取り組みになっています。プロダクトを開発する場合でも、プロダクト単体でビジネスが成功するわけではなく、いろいろな機能を組み合わせながらトータルなサービスを生み出していくことが求められています。では、そのサービスをどうデザインしていけばいいか。そこで悩んでいらっしゃる企業の皆さんは少なくないと思います。そのような悩みを解決するためのツールがX-PROTOです。新規事業や新規ブランドのご担当者に寄り添って、心の助けになるようなソリューションにX-PROTOを育てていきたいですね。
岡安
私がクライアントのプロダクト開発を支援させていただくときに大切にしているのは、ブランドを象徴する「シンボリックエクスペリエンス」です。生活者がプロダクトを購入したときに、どんな魅力的な体験価値が生まれるか。それをわかりやすい体験として提供することが大切だと考えています。そういったブランドらしい体験をつくるには、リアルな場所で、リアルな生活者から、リアルな意見をいただくことが欠かせません。その点で、X-PROTOはまさにシンボリックな体験価値を生み出すためのツールになると思います。ぜひ、多くのクライアントにこのソリューションを活用していただき、これまでになかった新しい体験価値を生み出すお手伝いをしたいと思っています。
髙橋
これから取り組んでいきたいことは2つあります。このソリューションの核にあるMVSという考え方をクライアントの皆さんと共有して、サービスの成功に向けたご支援をしていきたいというのが1つです。もう1つ、このソリューションを活用することで得られるデータの精度をさらに向上させていきたいという思いがあります。例えば、展示空間内での行動と購入意欲はどのように関連しているかといったデータ分析の精度をより高めていければ、ブランドの成功の確度を高めることができるはずです。X-PROTOの機能をどんどん進化させて、多くのクライアントのお力になりたいと考えています。

羽田
MVSは、私が日々のベータでの仕事で感じていた問題意識とまさにマッチした考え方です。この考え方をベースに、プロダクト、ターゲットのペルソナ設定、ビジネスプロセスのデザイン、オペレーション設計など、ブランドの成功に求められるあらゆる要素を検証していけるのがX-PROTOの価値です。私たちベータと博報堂の皆さんのパートナーシップの力で、新規事業や新規ブランド開発の1つのモデルを確立していきたい。そう思っています。
鷹野
事業開発やブランド開発はどんどん複雑になっていて、プロジェクトのスタートからローンチまでの確かな道筋を描けずにいる企業のご担当者も少なくないと思います。それに対して、よりシンプルでより効率的な開発検証の仕組みを提供できるのがX-PROTOです。今後、このソリューションを事業開発プロセスにおけるスタンダードなツールとして活用していただけるよう引き続き情報発信を続けていきたいと考えています。多くの日本企業が新規事業開発に成功するようになれば、日本全体の活力が間違いなく向上すると私は信じています。ベータとのタッグによって日本を元気にしていくこと。それがこれからの大きな目標です。

X-PROTOに関する問い合わせ先
X-PROTO運営事務局 x-proto@hakuhodo.co.jp

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  • 羽田 大樹氏
    羽田 大樹氏
    ベータ・ジャパン株式会社 COO
    大学院卒業後サントリーに入社し、ビールの商品開発やスピリッツ事業企画に従事。バイエル薬品へ転職し、OTC事業の拡大にブランドマネジャーとして貢献。その後マッキンゼーにて、主に消費財と小売業の経営戦略の立案やコスト削減に携わる。2021年3月より現職。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校MBA
  • 博報堂ブランド・イノベーションデザイン 
    D2C Design Studioリーダー
    イノベーションプラニングディレクター
    博報堂入社後、ストラテジックプラニング職として、多様な業種の戦略立案業務に従事。
    その後、博報堂DYグループ内の社内公募型ビジネス提案制度:AD+VENTUREの下、経営者として新規事業/新サービス開発に携わる。現在は自身の経験を活かし、事業・商品・サービス開発及びUX戦略・ブランド戦略のコンサルティングを行っている。
  • 博報堂ブランド・イノベーションデザイン 
    D2C Design Studio
    イノベーションプラナー
    博報堂入社後、関西営業局を経て、 博報堂ブランド・イノベーションデザイン局に所属。マーケティングコミュニケーション戦略の立案業務から、近年は主に事業開発支援に従事。
  • 博報堂ブランド・イノベーションデザイン 
    D2C Design Studio
    イノベーションプラナー/UXプラナー
    博報堂入社後は、トイレタリー・通信情報機器・飲料等、 様々な業種の戦略立案を経験。ブランド・イノベーションデザイン局に所属後は、イノベーションデザインカンパニーへの出向経験を活かし、デザイン思考をベースとした事業・商品・サービス開発、デザインリサーチ、UI・UXデザインに従事。
  • 博報堂ブランド・イノベーションデザイン
    D2C Design Studio 
    イノベーションプラナー
    博報堂入社後は、飲料・食品・卸売業・通信業等の戦略立案業務に従事 。プロダクトデザインを専攻していた経験を活かし、サービスデザイン発想に基づいたプロダクトデザイン・商品開発を行っている。