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機械学習モデル活用のインハウス化を支援する ──企業内での自立的なデータ活用を実現するサービス「ML Booster」
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機械学習モデル活用のインハウス化を支援する ──企業内での自立的なデータ活用を実現するサービス「ML Booster」

機械学習(マシンラーニング)には、「専門家にしか取り扱うことのできない領域」といったイメージがあります。しかし、適切なサポートさえあれば、マーケティングに機械学習を活用する仕組みを企業内でつくり、運用することが可能になります。博報堂DYグループのD.Table株式会社が提供するインハウスでの機械学習活用支援サービス「ML Booster」の概要とその可能性について、同社の2人のコンサルタントに語ってもらいました。

服部和磨
D.Table株式会社 コンサルタント
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 プラットフォームストラテジー本部 第二プラットフォーム推進局 Google推進部 チームリーダー

小林昂平
D.Table株式会社 コンサルタント
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社

CDP構築からマーケティング課題の解決までをサポート

──はじめに、D.Tableがどのような会社かご説明いただけますか。

服部
博報堂DYグループでデジタル広告ビジネスを手掛けるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)と、Google Cloud導入支援数で日本一を誇るクラウドエース株式会社が共同で運営する企業がD.Tableです。DACはこれまで、デジタル広告と分析の統合型プラットフォームであるGoogleマーケティングプラットフォームの導入を多数手がけてきました。DACとクラウドエース両者の経験や知見を合わせて、Googleの技術活用に特化したコンサルティングサービスを提供しています。

──D.Table設立の背景をお聞かせください。

服部
マーケティングのDX(デジタルトランスフォーメーション)があらゆる企業に共通する課題となっています。DXを進めるには、従来のマーケティング領域とデータ領域を統合する必要がありますが、企業内の担当部署が分かれているためにその実現が難しいといった課題を多くの企業が抱えていらっしゃいます。また、ツールの数が多く、何を利用していいのかわからないという悩みもよくお聞きします。

D.Tableは、そういった課題を受けて設立した会社です。データの統合的活用やツール運用などについてのコンサルティングサービスをご提供するだけでなく、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の構築や活用も支援します。

──CDPは自社の顧客データを統合したプラットフォームのことですね。それがなぜ今必要とされているのでしょうか。

小林
クライアントのマーケティング課題が変化してきているからです。以前は、例えばサイトへの流入数を増やして、コンバージョンの件数を上げる、あるいはブランドの認知度を上げるなど、デジタルマーケティングの課題は比較的シンプルでした。しかし最近は、顧客一人ひとりとのコミュニケーションによってLTV(生涯顧客価値)を上げていくことを目標とするクライアントが増えています。そのような1to1マーケティングを実現するには、問い合わせ、購買、広告への反応など、顧客に関するデータを一元化し、分析する必要があります。その基盤となるのがCDPです。
服部
CDPを構築する方法はいろいろありますが、その一つに、Googleが提供するツールを活用する方法があります。D.Tableの強みは、Googleの技術を使ったCDP構築から、その運用とマーケティング施策の実行までを一気通貫で提供できる点にあります。

クライアントの自立的な機械学習活用を促進する

──D.Tableがこの5月にリリースした新サービス「ML Booster」の概要についてご説明ください。

小林
数年前、とある自動車メーカーのディーラーへの来客数を増やす施策をお手伝いしたことがありました。その際、オンラインとオフラインの両方のユーザーの行動データを統合してデータベースをつくり、機械学習(マシンラーニング=ML)で来店予測のモデルをつくりました。このときの経験が「ML Booster」の発想のベースとなっています。
服部
ML Boosterというサービス名には“機械学習活用を促進する”といった意味があります。クライアントの社内で機械学習を自立的に活用できるようになることがこのサービスの最終的な目標です。

──いわゆるインハウス(内製化)支援ということですね。なぜ、インハウスなのでしょうか。

小林
顧客のことを一番よく理解しているのはクライアントであり、その理解に基づいて施策を立てていくのもクライアントであるべきだと私たちは考えています。個人情報を取り扱うという点から見ても、クライアント側の社内の皆さんに機械学習活用のスキルを身に着けて施策実施することが理想だと思います。

服部
D.Tableがすべて請け負い、予測モデルをつくって納品することは難しいことではありません。しかしそれを続けていると、クライアント側にデータ活用や機械学習の知見が蓄積していかないというデメリットがあります。データ活用の経験や知見をクライアントの資産とするためのサービス。そう言ってもいいかもしれません。

もちろん、マーケティングの課題解決は一過性の取り組みではありません。一つの課題を解決すれば、必ず次の課題が出てきます。私たちがコンサルタントとしてクライアントを支援させていただく関係は継続的なものであると考えています。

──機械学習とはどのようなものか、簡単に解説していただけますか。

小林
機械学習は「大量のデータを解析し人の判断や事象をシミュレート」する技術です。機械学習の概念自体は何十年も前からありましたが、近年になって一気に実用化したのは、膨大なデータを収集できるようになったからです。十分な量のデータ基盤があることが機械学習活用の必須の条件です。
服部
機械学習には難しいイメージがあるかもしれませんが、モデルを一度つくれば、ごく簡単な操作でAIが自分で学習して結果を出してくれます。Excelなどでスプレッドシートをつくるときに、必要な項目を決めますよね。機械学習のモデルづくりは、それを発展的にしたものと考えていただければいいと思います。一度つくってしまえば、操作や運用は決して難しいものではありません。

7段階のステップで機械学習のスキルを定着させる

──「ML Booster」のサービス構成をお聞かせください。

服部
ステップ1からステップ7までの7段階のプログラムで、インハウスでの機械学習活用を実現するコンセプトになっています。プログラムは必ずしも1サイクルで終わるものではありません。サイクルを何度も繰り返すことによって、機械学習の精度は上がっていきます。

まずステップ1で、プロジェクトのKPI、メンバー構成、目指すべきゴールなどを決めていきます。ステップ2では、機械学習やGoogle Cloudに関するレクチャーを行い、プロジェクトの全体像のイメージを持っていただきます。次のステップ3からはテクニカルな領域に入っていきます。現在の社内のデータベースの状況や、活用しているソリューションなどを把握するのがこのステップでの作業となります。

小林
ステップ4では、クライアントのマーケティング課題を踏まえて、機械学習のモデルを実際につくっていきます。エンジニアリングのスキルがほとんど必要ないモデルから、高度なスキルを要するものまで、クライアントの担当者のスキルセットに応じて最適なモデル構築の方法をお伝えします。その上で、実際に手を動かしていただき、「実用的なモデル」を構築していきます。

次のステップ5では、構築したモデルを使ってどのようなアクションを行うかを決めていきます。広告配信やオウンドメディアにおけるメッセージ発信など、アクションにはさまざまなパターンがあります。

服部
その後、ステップ6でアクションの効果を検証し、ステップ7でプロジェクト全体を振り返る、というのがおおまかな流れです。もちろん、この型どおりにプログラムを進めていかなければならないということではありません。例えば、最初のサイクルでは1から7まで順に進め、2回目はステップ4からスタートする、といったやり方もあります。目的は、クライアントの社内で機械学習を使えるようになることです。その目的に応じて、プログラムは柔軟に運用されるべきだと考えています。

ヒューマンスキルが求められるサービス

──「ML Booster」の活用事例にはどのようなものがあるのでしょうか。

小林
とあるアパレル企業にこのサービスを導入いただいています。すでにCDPは構築済みだったので、それをベースにした機械学習モデルでロイヤルカスタマー分析をして、施策を考えたいというのがクライアントのご要望でした。
服部
機械学習を活用すれば、年間購買金額の高いロイヤルカスタマーが今後も継続して購買してくれるかどうかといった予測をすることが可能です。少し先の未来を見通すことができるわけです。その分析を踏まえて、広告配信を行うところまでを第一段階のフェーズではサポートさせていただきました。
小林
例えば、「男性顧客と女性顧客のどちらの売上が多いか」といった分析であれば、容易に判断することができますが、そこに「職業」「年収」「購買アイテム」「購買経路」といった要素が入ってくると、分析は複雑になり、解釈も難しくなります。。そのような複雑な分析と、それに基づいた予測を立てるところで機械学習が力を発揮しました。

──取り組みの成果はいかがでしたか。

服部
かなり精度の高い予測モデルをつくることができたと思います。広告の投資対効果も満足いただけるものでした。その点で、第一弾の取り組みは成功したと言っていいと思います。現在、第二弾、第三弾の施策を準備中で、近日スタート予定です。

──実際に「ML Booster」を提供した手応えをお聞かせください。

小林
クライアントのご担当者に機械学習の構築や運用の方法をお伝えしながら並走していくのは初めての経験だったので、難しい点もいくつかありましたが、最終的にはいいものができたと感じています。私たちがサポートさせていただいたのは一つのブランドだったのですが、それ以外のブランドで機械学習を活用する取り組みをすでに独自に始められています。まさに「ML Booster」の狙いが実現したということです。
服部
「ML Booster」のプログラムを進めてみて思ったのは、サービスを提供する私たちの側のコミュニケーションスキルが問われるということです。ご担当者の思いや悩みをお聞きし、ときには互いに仕事の苦労話などを言い合いながら、信頼関係をつくっていく。そういったことが実は大事で、そこまでの関係がつくれないと課題の本質をつかむことはできないと感じました。デジタルのスキルだけでなく、ヒューマンスキルも磨いていかなければならないと実感しています。

「大きなビジョン」と「小さな取り組み」

──今後、「ML Booster」をどのようなクライアントに提供していきたいと考えていますか。

服部
さまざまな業種・業態でご活用いただけると思いますが、アパレル企業との取り組みでわかったのは、ブランドや商材を多面的に展開している企業には、とりわけ有効に「ML Booster」をご活用いただけるのではないかということです。機械学習活用の前提となるのはCDPですが、ブランドや商材が多岐にわたる企業では、各部署にデータが分散しているケースが少なくありません。まずはデータを統合してCDPを構築するお手伝いをし、その上でML Boosterを使って機械学習活用を内製化していただく。そして、機械学習をいろいろなブランドや商材で活用していただく──。そのような流れが一つのモデルとなると考えています。

とはいえ、スピード感という点では、まずは小さなところからチャレンジしていただいて、成功体験を一つ一つ積み重ねていくのがベストなやり方だと思います。一ブランド、一商材、一課題といったレベルから始めて、そこから社内横断的な仕組みを段階的につくっていくようなアジャイルなやり方をお薦めしたいですね。

──コロナ禍以降、企業活動のDXはより喫緊の課題となっています。今後、クライアントのDXをどう支援していきたいとお考えですか。

小林
DXの目的は、仕事の効率化や、現在の事業の売り上げ向上だけでなく、新しい事業を創出することにもあります。そこでもCDPや機械学習が強力な武器となるはずです。私たちがデータ基盤構築や機械学習活用のノウハウを提供して、新しいビジネスをつくるお手伝いができれば素晴らしいと思います。
服部
DXは組織変革や物流改革までを含む大きなビジョンが求められる取り組みです。クライアントとDXの大きなビジョンを共有しながら、実際には小さいところ、できるところから具体的なトランスフォーメーションを進めていく。そんなスタンスでクライアントを長期的に支援していけたらいいですね。

参考:【リリース】機械学習モデルを活用したマーケティングのインハウス化支援サービス「ML Booster」を提供開始
「ML Booster」活用事例詳細はこちら

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  • 服部 和磨
    服部 和磨
    D.Table株式会社 コンサルタント
    デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 プラットフォームストラテジー本部 第二プラットフォーム推進局 Google推進部 チームリーダー
    2016年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。DSPをメインにメディアプランナー・広告運用を担当。2020年よりDACではGoogle全般の推進を行うメディア担当兼、D.Table立ち上げメンバーとしてコンサルタントにも従事。現在、企業のデータ基盤構築からマーケティング活用までの支援、サービス開発を担う。
  • 小林 昂平
    小林 昂平
    D.Table株式会社 コンサルタント
    デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
    2017年株式会社博報堂DYデジタル入社。1年目からデータアナリティクス業務に従事し通信・自動車・アパレルなどのクライアントに対してデータ取得~分析・効果検証までを一気通貫で支援。2020年よりD.Table株式会社の立ち上げから携わり、コンサルタントとしてクライアントのデータ基盤構築やデータを活用した戦略、プランニングの支援に従事。