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デジタルトランスフォーメーションの“構想”を “実現”に導く3原則
BUSINESS UX

デジタルトランスフォーメーションの“構想”を “実現”に導く3原則

博報堂マーケティングシステムコンサルティング局(MSC局)は、「広告の外側」にある生活者接点を構想、開発、運用することを目的に博報堂内に立ち上がった新しい組織です。マーケティングシステムの導入・運用とは、言い換えると、マーケティングにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX:デジタル変革)の実現です。しかしマーケティングシステムに限らず、日本ではDXがなかなか実現できない企業が多くあります。なぜDXが軌道に乗らないのか、またどうすれば実現できるのか――クライアントのDX推進支援を実施しているMSC局エグゼキューションデザイン部の吉田 敬に、日本企業がDXを推進する上でよくある課題と、その解決のための3つのポイントについて話を聞きました。

システムコンサルティング企業では埋もれてしまうと思った

──吉田さんは2001年に新卒で中堅のシステムベンダーに入社し、金融系のSEとしてJavaによるスクラッチ開発(パッケージソフトを使わず、ゼロからシステムを構築すること)に携わっていたと聞いています。なぜマーケティングシステム開発へ転身したのでしょうか。

吉田
私はプログラマからキャリアを開始し、SE、プロジェクトマネージャーとステップアップしてきました。そこからのよくあるキャリアアップとしては、外資系コンサルティングファームにITコンサルタントとして転職することでした。ですが、これらの企業が受託する案件は、超大規模金融システムの構築であり、サブシステムのリーダー要員として埋もれてしまうと思ったのです。

ちょうど私が転職活動をしていた頃は、mixiやGREE等のSNSが流行りはじめ、サイバーエージェント等ネットベンチャー創成期でデジタルマーケティングの兆しが見えてきた頃です。ITを活用したマーケティングがこれから面白くなると思い、マーケティング会社に就職して、マーケティングに関する業務知識を身につけることにしました。その会社で、eCRM、WEBマーケティング、ディーラー向け商談支援システム構築、大規模Webサイト・CMS構築、ECサイト構築案件等を経験した後、博報堂に入社しました。

当時はSEからマーケティング会社へというキャリアパスはほとんど無く、マーケティング未経験の私はアソシエイトからスタートし、年収も大幅ダウンしました。今は外資コンサルティングファームが積極的にテクノロジー人材を採用していますので、今後は私のようなキャリアパスを歩む人が増えていくように思います。

DX案件によくある課題

──最近DXという言葉を聞かない日が無いぐらいですが、日本市場で実現できている企業はまだ少ないように思います。どのような理由があると考えますか。

吉田
DXとは、一言でいえば、生活者のデジタルシフトという社会的環境変化に対応したビジネス変革ですが、そもそも日本では欧米に比べてデジタルシフトが遅れています。日本では、デジタルシフトを牽引するミレニアル世代よりもシニア層の方が社会的に勢力を持っています。また、公共の移動手段やリアル店舗が充実しすぎて、オムニチャネル型のサービスを提供してもデジタルの恩恵を感じづらい。これが、デジタルシフトが遅れている大きな原因です。ですが、日本も一部の年代はデジタルシフトが進み、従来型のマーケテイングアプローチではエンゲージメントできない層も出てきました。

DXに関しても、多くの会社は構想まではできているように見受けられます。しかしその構想を実装しようとすると、方法論が確立されておらず、また実装を担える人材も社内にいません。そこでデジタル部門を新設して、社内からデジタルが分かる人材を寄せ集めて、足りないスキルは中途採用で補強しようとします。それでもなかなか人材が揃わなかったり、既存部門との連携がうまくいかなかったりで、DXが軌道に乗らないのです。

──具体的な課題は何でしょう。

吉田
まず構想がふわっとしていて、実現イメージにまでたどり着けないことです。DXに求められることは、「ITを活用して革新的なUXを実現する」こと、つまりイノベーションです。従来の業務系システム開発のように安定運用が最優先とされる業務とは異なります。つまり、IT部門の本来のミッションとは違うわけです。そのため、事業部門が主導すべきですが、ITが関係してくると事業部門だけでは推進できません。
もっと具体的に言うと、システム要件定義の局面で行き詰まります。IT部門はUXがよく分かりませんし、事業部門はUXを実現するためにどのようなITが必要で、それにはどれだけのコストが必要か分からないからです。

たとえばオムニチャネル構築案件などでは、店舗とネットを融合した顧客体験を実現しなければなりませんが、IT部門にそのイメージが分かる人はいません。一方実装のためには、ECのデータや店舗のPOSデータ、あるいは会計データ等、社内のあらゆるデータを利用する必要がありますが、事業部門の人たちはどこにどのデータがあって、どうすれば統合できるかが分かりません。

オムニチャネルに限らずマーケティングシステムは、IT部門の側からは事業部門に要件を決めてもらわないと実装できないのですが、事業部門はITや既存システムが分からないので決められず、IT部門に丸投げする形になりがちです。そうなるともはや変更が利かない段階で画面デザインができあがってきて、事業部門から見ると使い物にならないシステムになってしまうのです。

プロトタイプを必ず作る

──これらの課題を解決して、DX実装を成功させるにはどのようにすればいいのでしょうか。

吉田
ポイントは以下の3つです。

①生活者に使ってもらえるためのUX/UI設計
②世の中で機能し続けるためのグロース体制
③グロースのポイントとなるデータ活用

──では、順に伺います。まず「生活者に使ってもらえるためのUX/UI設計」とは?

吉田
IT部門はウォーターフォール型、つまり要件を定義し、続けて設計し、プログラミングやパッケージの設定をし、テストして不具合を修正し、不具合がなくなったらローンチするという進め方に慣れています。このやり方だと先にバックエンド側の機能要件から決めていくことになり、UX/UIの詰めが後回しになりがちです。

要件定義や設計はドキュメントベースであり、事業部門の担当者が実装をイメージできるものではありません。開発がある程度進んで、画面遷移を変えられないような状態になってから事業部門の確認が始まります。その段階で要件の漏れや認識違いが発覚します。構想していたビジネス価値を達成できないものができてきますが、もはや修正はできません。

紙芝居レベルでも構わないのでプロトタイプを必ず作成し、変更ができる段階で、デジタル部門や事業部門がしっかりと実装イメージを確認できる期間を作らなければなりません。こうすることで初めて、実際に生活者に使ってもらえるUX/UIが実装できるのです。

DX実現のために必要な人材とそのスキルとは?

──では、「世の中で機能し続けるためのグロース体制」とはどのようなものでしょうか。

吉田
DXを実現するためには、ビジネス戦略の立案から実現までに必要な人材像とそれらが持つスキルセットを定義する必要があります。そして、それらの人材をどうやって調達するかを考えることです。社内の人材だけで体制を準備できればベストですが、こうしたデジタル人材が揃っている企業はめったにありません。ほとんどの企業では、外部から人材を調達するためのBPO戦略が必要です。

──具体的にはどのような人材が必要でしょうか。

吉田
一般的に4分野のリソースが必要です。ビジネス、デジタルマーケティング、IT、データの専門家です(表)。

データ活用を推進するための考え方とは?

──では、残りの1つ「グロースのポイントとなるデータ活用」について聞かせてください。

吉田
DXの中心はデータ活用です。データ活用の大前提は、DMPでもCDPでもDWHでも構いませんが、様々なデータが1箇所に集約されていることが必要になります。しかしこれは簡単ではありません。部門ごとにバラバラにデータを持っているからです。
どのデータがどの部門主管のシステムのデータベースに存在するかは、IT部門が把握しているはずです。一方、どのデータをどのように集計したいかは事業部門にしか分かりません。データの集約を進めるためにはIT部門と事業部門の密な連携が必要です。

データ活用の場面ではさらに多くの関係者の連携が必要です。ビッグデータがあればアイデアが生まれるというものではありません。データは仮説の検証に使うものですから、データサイエンティストやデータアナリストだけで分析業務は成り立ちません。AIを導入するにしても、どの業務にどのデータ項目を使って機械学習させれば有効かどうかは、事業部門の積極的な関与が無ければ決定できません。AIやアナリティクスといった先端デジタルテクノロジーに明るいデジタル人材だけでは変革は起こせないのです。既存事業部門との連携が非常に重要です。

基幹システム開発経験者が必須

──DX実現に必要なポイントを3つ挙げてもらいましたが、どれにも共通するのは、人材間の連携が必要だということです。その人材は大きくカテゴライズすると、ビジネス、デジタルマーケティング、IT、データの4つということでした。これらのうち博報堂が支援できるのはどのカテゴリになりますか。

吉田
博報堂グループやパートナー企業を含めれば、すべてのカテゴリについてご支援が可能です。そもそも博報堂が強いのはデジタルマーケティングのカテゴリです。またビジネスのカテゴリにも強みを持っています。現在強化中なのはITのカテゴリです。ここは協力会社を含めて体制を強化しています。データのカテゴリについては、博報堂プロダクツと一体となったサポートを提供しています。

──吉田さん自身はどのカテゴリの人材ですか。

吉田
元々SEなので、ITカテゴリが強いのですが、マーケティング会社にもいたので、ビジネスとデジタルマーケティングにも強いです。またデータに関しても、どのような分析をするか、そのためにはどのようなデータが必要かを見極め、データサイエンティスト等に指示を出すという形でしっかり関与しています。つまり全部のカテゴリを横断できるハブ的人材です。

──ハブ的人材という意味では、MSC局のマーケティングテクノロジープロデューサーにも話を聞きました。吉田さんとマーケティングテクノロジープロデューサーとはどう違うのでしょうか。

吉田
マーケティングテクノロジープロデューサーは、主にマーケティングツールの導入と活用の際に活躍する職能になります。
ECサイト、決済システム、販促基盤システム、統合顧客DBなどオムニチャネル化に必要なシステム構築をする場合は、MAやDMP等のマーケティングツールの組み合わせと設定作業だけで実現できるものではありません。
クライアントの基幹システムと業務を把握し、スクラッチ開発を含めたゼロベースでシステム全体アーキテクチャを設計できるシステムインテグレーション(SI)企業と組む必要が出てきます。
したがって、これらの構築を考えている企業は、ツールベンダーだけでなく、基幹システムが分かる人材がいるかどうかがパートナー選定の必須要件になります。

また基幹システム開発をしているITエンジニアは、マーケティングシステムのような攻めのITは自分とは関係ないと考えているかもしれません。しかしマーケティングシステムと基幹システムの連携はDX推進には必須ですから、基幹システム開発エンジニアが活躍できる場が実は数多くあるのです。基幹システム開発エンジニアがキャリアアップを考える際には、マーケティングシステム開発も有望でかつ将来性のある選択肢だと考えます。

  • 株式会社博報堂マーケティングシステムコンサルティング局
    エグゼキューションデザイン部
    2013年博報堂入社(システムインテグレーター、マーケティング会社を経ている)。
    流通/小売、自動車、消費財メーカー、通信/メディア、保険等様々な業種を対象にデジタルトランスフォーメーション(DX)構想及び統合デジタルマーケティング戦略を策定。そして、戦略実現のためのマーケティング業務プロセス改善、組織設計、BPO設計、マーケティングシステム導入、WEB/アプリ等のオウンドメディア再構築、PDCAスキーム策定等の実行フェーズまで従事。