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デジタルマーケティングの最前線 【博報堂デジタルイニシアティブの挑戦 Vol.1】 インターネット広告の歴史と最新動向
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デジタルマーケティングの最前線 【博報堂デジタルイニシアティブの挑戦 Vol.1】 インターネット広告の歴史と最新動向

2020年4月、デジタル広告業界をリードしてきたデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)内に、博報堂および博報堂DYメディアパートナーズと三位一体の戦略組織として設置された博報堂デジタルイニシアティブ(HDI)。現在は、700人体制でさまざまなクライアントのデジタル広告展開を支援しています。そのキーパーソンたちがデジタル広告について語り合う連載コンテンツ「博報堂デジタルイニシアティブの挑戦」がスタートしました。第1回では、HDIの中核であるビジネスデザイン本部のリーダーたちに、デジタル広告のこれまでの歩みと最新動向について解説してもらいました。

清水 康隆
DAC/博報堂デジタルイニシアティブ
ビジネスデザイン本部 本部長

三井 耕太郎
DAC/博報堂デジタルイニシアティブ
ビジネスデザイン本部 第一営業局長

野津原 竜太
DAC/博報堂デジタルイニシアティブ
ビジネスデザイン本部 ダイレクト営業局長

白土 卓哉
DAC/博報堂デジタルイニシアティブ
ビジネスデザイン本部 第三営業局長

「新しい仕組み」から「確実な成果」へ

清水
ご存じのとおり、デジタル広告はテレビ広告を抜いて最大規模の広告市場となっており、現在も毎年10%以上の成長を続けています。博報堂デジタルイニシアティブ(以下、HDI)のミッションは、デジタル広告をコアとしたデジタルマーケティングを通じてクライアントの事業成長に寄与することであり、それによって博報堂DYグループにおける収益を拡大させていくことにあります。

はじめに、これまでのデジタル広告市場のおおまかな流れを振り返っておきたいと思います。インターネット広告がスタートしたのは1990年代からですが、2010年以前のデジタル広告は、いわゆる「予約型」が主流でした。媒体社の広告枠を予約購入するモデルです。この時代には、効果の高い広告枠を選定し、しっかりと確保できるかで広告会社の力が試されていたと思います。

2010年頃になるとアドネットワークが登場し、広告枠をまとめて販売するモデルが普及し始めました。DSP(デマンドサイドプラットフォーム)、SSP(サプライサイドプラットフォーム)、RTB(リアルタイムビッディング)といった仕組みが広まっていったのもこの頃です。

野津原
「枠から人へ」と言われ始めたのもその頃でしたよね。テクノロジーによって、広告を出す「場所」ではなく、広告を届ける「ターゲット」を選ぶことができるようになってきたことがその背景にあります。
清水
2015年頃になると、効果を測定しながら広告のパフォーマンスを最大化する「運用型」のモデルが徐々に進化し主流になってきました。「データドリブンマーケティング」という考え方が広まり、デジタル広告の世界がどんどん複雑になっていったという印象があります。広告配信の精度を上げるために、さまざまなウェブサイトのデータ、いわゆるサードパーティデータを集めることが本格化したのは、おおよそこの時期です。
野津原
この頃から、大企業はメガプラットフォームのデータを活用した広告配信にも先進的に取り組んでいましたね。
白土
SNSを活用したマーケティングニーズが増え始めたのは、そのちょっと前くらいでしたね。企業は、当初は「いいね」やフォロワーの獲得に力を入れていましたが、徐々にSNSを広告メディアやCRMツールとして明確に位置づけるようになっていきました。
清水
SNSが普及したということは、すなわちスマホシフトが進んだということです。デジタル広告市場も「PCからスマホへ」という流れが鮮明になりました。この頃までは、いかに新しいテクノロジーを使いこなせるかがデジタル広告のプレーヤーの差別化ポイントになっていたように思います。しかし、本来「新しければいい」という考え方はおかしいわけですよね。重要なのは「クライアントの事業成長を実現するためのデジタル活用」という視点です。つまり、「新しい仕組み」ではなく「確実な成果」こそが大切だということです。

新しいテクノロジーや仕組みが落ち着いてきてからは、デジタル広告の「質」がより重視されるようになり、広告会社の役割も新しいフェーズに入ったように思います。
広告効果をスピーディに可視化し、改善して、効果を最大化していくこと。さらにそれによってクライアントの事業成長を実現すること──。それがデジタル広告を手掛ける広告会社の役割と見なされるようになって現在に至っています。

一方、現在における最大の課題が、データ規制強化にともなう新しいモデルづくりです。2018年くらいから、データプライバシーを保護しようという意識が世界的に広まり、デジタル広告の基盤技術の一つであったCookie使用が見直されるようになりました。Cookieは今後段階的に規制されていくことになります。そこで、Cookieを使用するモデルに代わって「個人を特定せずに成果を出す広告モデル」、あるいは「個人データを広告配信に活用する同意をスムーズに取るモデル」の開発等に多くのプレーヤーが現在取り組んでいます。

Cookie活用に代わる新しい方法論

清水
以上、この10年ほどのデジタル広告の流れをおおまかに見てきました。ではクライアントのデジタル広告への取り組みは、現在どのようになっているのか。その傾向を大きく3つの広告主のタイプに分類して見ていきたいと思います。
1つめが「ダイレクトレスポンス系広告主」、2つめが「ブランディング系広告主」、そしてもう1つが、認知を獲得するアッパーファネルとコンバージョンを目指すローワーファネル両方を一気通貫で実施する「統合型広告主」です。あくまで、これらの分類は広告出稿の力点をどこにおいているか、であってそれだけを目的にしているわけではない事はご留意ください。
まず、ダイレクトレスポンス系広告主の動向について、野津原から説明してもらいます。
野津原
ダイレクトレスポンス系の広告主はこれまで、一度サイトに訪問したユーザーに対して広告を配信する、いわゆるリターゲティング広告を多く活用してきました。訪問した人を対象としているため、非常に効果の高い広告手法でした。しかし、Cookieが使えなくなりつつある現在、新しい手法にトライしなければならなくなっています。方向性は2つあります。1つは、サイトのコンテンツの内容に合わせた広告を出す手法など、個人を特定しない形でターゲティングしていく方法、もう1つはCookieの代わりに会員登録などによってIDを獲得し、それをもとに広告を配信していく方法です。

Cookieが使用できなくなることのもう一つの問題は、広告の成果を正確に把握できなくなることです。最近では、Cookieを使わない広告効果の計測ツールも出てきていて、それを導入する企業がかなり増えてきています。

清水
サードパーティCookieが使えなくなるということは、自社で保有するファーストパーティデータの重要性が増すということですよね。
野津原
そうです。ファーストパーティデータをどう活用するかは、現在の重要トピックの1つと言っていいと思います。
例えば、自社の顧客データの分析・機械学習から、優良顧客になってくれる確率の高いユーザーに広告を配信していく方法が最近は注目されています。
LTV(顧客生涯価値)を予測(プレディクト)するという意味で、「pLTV(プレディクテッド・ライフ・タイム・ヴァリュー)」と呼ばれる手法です。
三井
これまでは、サイトでの初回購入を広告効果指標とするケースも少なくありませんでした。しかし、一度だけ購入してもらうだけではビジネスの成長にはつながりません。初回購入のあとで、繰り返し購入してもらうことが重要です。では、繰り返し購入してくれるのはどのような人か。それをファーストパーティデータから分析・広告配信していくということです。
野津原
また、最近ではAIの活用も進んでいます。メガプラットフォーマーが保有しているユーザーIDと自社の顧客データをマッチングさせ、より解像度の高い分析をしていく方法です。もちろん、プラットフォームが保有するIDも、本人の同意を取得するプロセスが必要になります。

広告と購買行動の関係を可視化する

清水
次に、ブランディング系広告主の動向について見ていきたいと思います。これは白土から解説してもらいます。
白土
ブランディング広告は、アッパーファネル、すなわち認知領域を獲得するための施策です。従来、それに最も適しているメディアはテレビでした。しかし、デジタルメディアが伸長してきたこと、テレビをあまり視聴しない層の登場により、テレビとデジタルの両方を活用する「テレデジ」でのブランディングを重視するクライアントが増えています。

テレデジ戦略には、大きく2つの方向性があります。1つは、テレビ視聴層にさらにデジタルで情報を届けることでフリークエンシーを高める方向性、もう1つは、テレビを見ていない人にデジタルでリーチする方向性です。

最近では、テレビが「結線化」、つまりインターネットにつながるようになっていて、テレビのディスプレイでインターネットコンテンツを見る人も増えています。いわゆるコネクテッドTVです。それによって、テレビ視聴やテレビでのインターネットコンテンツ視聴のデータが取れるようになりました。そのデータをマーケティングに活用することも可能になっています。今後は、そうしたデジタル広告的なデータを活用しながら、無数に存在する動画コンテンツと広告がどのようなリレーションを築くのか、またTVモニターを前提とした最適な広告体験設計とはなにか、という議論や取り組みが活性化するのでは、と考えています。

清水
メーカー企業と生活者のデジタル接点には、最近はECモールや自社ECがあると思います。とくにこの数年は、多くの企業が自社ECに取り組んでいます。そこにデジタル広告ビジネスはどう関与しているのか。その点についても説明してもらえますか。
白土
ECの大きな特徴は、実購買経験をはじめ、高頻度で閲覧する商品ジャンル等、強い購入ニーズデータを取得できることです。これまでの広告配信のターゲティングは、主にデモグラフィックや興味関心に関するデータにもとづいていました。そこに「購買」という新しい軸を加えることができるわけです。すでに購買行動を起こしたことがある人に対するアプローチなので、分析のしがいがありますし、データとして広告配信に活用できる場合、そのターゲティングの精度はとても高いと言えます。それらのデータの分析と、それにもとづいた広告運用をするのが、デジタル広告の専門家である僕たちの役割です。

野津原
自社ECに生活者を誘引するための広告配信と、ECモール内で広告を展開するケース。その両方がありますよね。ECモール内の広告とは、例えばサイト内検索に連動する広告です。それらの広告のパフォーマンスをいかに高められるかが、広告会社の腕の見せどころになります。
白土
スタートアップ等をはじめとした新興のクライアントの場合、最初から自社ECで商品を販売していくケースもあります。その場合は認知ゼロから始めなければならないので、広告戦略が非常に重要です。一般に単年で黒字化することは難しいので、例えば5年後までに黒字化するといった中期的な見通しのもとに広告戦略を考えていく必要があります。
清水
ECが伸長してきている一方で、メーカーの販売チャネルで規模が大きいのは、現在もリアル店舗ですよね。そこに対してデジタルはどう貢献できるのでしょうか。
白土
1つは、POSデータの活用です。これまでは、テレビCMと店頭での売り上げの因果関係を把握することはなかなかできませんでした。それをPOSデータから検証していくことができるようになっています。

それから例えば、店内のカメラで個人を特定し、店頭のサイネージでその人に合った広告メッセージを表示させて購買につなげるという方法は技術的には可能だと思います。しかし、ここにもプライバシーの問題が発生します。法律やルールをしっかり遵守しながら、新しい方法を模索していくことが必要です。

清水
ECモール、自社EC、店頭。あるいは、テレビとデジタル。それらをデータでつないで、広告と購買行動の関係を可視化していくことを多くのクライアントは求めています。僕たちにとっても、今後そこが大きなチャレンジ領域になっていきそうです。

クライアントの事業成長に貢献するデジタル広告を

清水
さて、では3つめの「統合型広告主」の動向について、三井から説明してもらいます。
三井
耐久財メーカーのケースを例にとって説明したいと思います。デジタル広告の初期には、認知をとるために、例えばポータルサイトのトップに大きな広告を出し、バナーでクリックを獲得する、というのがデジタル広告展開の1つの常道でした。その後、動画広告の活用も盛んになりました。デジタルでもアッパーファネルの広告展開が重視されていたということです。

それに対して最近では、清水が指摘したように、認知した人のうちどんな人がどのくらい実際に購買しているかを把握したいというニーズが増えています。これまでは、データを活用することで広告配信した後の販売店舗への来店傾向などを把握することができました。しかし、昨今のデータ規制によりこれまで把握できていたWEB行動が計測できなくなると、認知領域のアッパーファネルと購買領域のローワーファネルの間に、両者をつなぐ中間指標を設定する必要が出てきます。

例えば、WEB上でどのような行動が間接的に購買につながるか確率を検証し、そこにKPIを設定し、達成を目指す。そうすることで、結果的に購買につなげていくという方法が今後増えていくと考えられます。

清水
「ミドルファネル」がとても重要になっているということですよね。そのKPIの達成を支援することが、僕たちの重要な役割になっていきそうです。
三井
アッパーとローワーをミドルでつなぐフルファネルマーケティングと言ってもいいと思います。これまでは、様々なデータで計測ができたがゆえにアッパーファネル向けの施策でもローワーファネルよりの評価指標に重きを置き過ぎて、各ファネルの施策と評価指標がアンマッチになっていることもありました。その結果、本当にアプローチすべき人にメッセージが届いていないといった無駄も発生していたと思います。そのような無駄をなくし、コミュニケーション効率を上げ、購買への導線をしっかり構築して、クライアントのビジネス成長を実現していく──。それがこれから目指されるべき方向性だと思います。

それを実現するには、顧客に関する情報基盤をしっかり構築しなければなりません。僕たちも、テクノロジーのディレクション力を今まで以上に磨いていく必要がありそうです。

清水
こうして説明を聞いてくると、アッパーファネルに求められる要素がミドルファネルに広がり、一方、ローワーファネルも「LTVを最大化する」という、よりローワーな領域に広がっているというのが最近の傾向と言えそうですね。

デジタル広告市場の規模は2兆円を超えていて、市場の構造も複雑になっています。繰り返しますが、その中で僕たちは、「クライアントの事業成長に貢献するデジタル広告」を実現していかなければなりません。これからもデジタル広告の進化にクライアントと共に取り組んでいきましょう。

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