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生活者インターフェース市場の拡大で求められる価値創造型DXの推進【ダイヤモンド社主催「BEYOND DX2023 10年先を見通す経営~未来を切り拓く企業の条件~」協賛講演登壇レポート】
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生活者インターフェース市場の拡大で求められる価値創造型DXの推進【ダイヤモンド社主催「BEYOND DX2023 10年先を見通す経営~未来を切り拓く企業の条件~」協賛講演登壇レポート】

2023年9月14日、ダイヤモンド社による「BEYOND DX2023 10年先を見通す経営~未来を切り拓く企業の条件~」と題したWEBイベントが開催され、博報堂の青木雅人が協賛講演として登壇。今後のデジタル化の進展の見立て、価値創造型DX推進に向けてのポイント、また博報堂DYグループによる生活者インターフェース活用の取り組みなどについて紹介しました。

想像を超えるスピードで拡張する生活者インターフェース市場

こんにちは。博報堂、博報堂DYメディアパートナーズ、DACのグループ3社がひとつながりになって、マーケティング領域、メディア領域のDXをワンストップで推進する組織「HAKUHODO DX_UNITED」を担当している、博報堂の青木と申します。
本日は、
1.デジタル化の進展が生活者に与える影響への見立て
2.効率化にとどまらない価値創造型DX推進に向けての要諦
3.博報堂DYグループの生活者インターフェース市場における価値創造型DXの取り組み
という3つの章立てでお話しさせていただきます。

早速最初のパート
我々がデジタル化の進展をどう見立てているかからお話させていただきます。

コロナ禍は、我々の生活やビジネスをはじめ、さまざまな環境を大きく変化させました。
コロナ禍の影響で社会のデジタル化はかつてないスピードで進んだと感じています。リモートワークは急速に広がり、電子署名や店舗での非接触型サービスの導入が進みました。本日のような講演、カンファレンスも、ウェビナー形式が併用されることが増え、「隙間時間を活用しながら必要な情報収集ができるようになった」と感じている方も多いのではないでしょうか。アフターコロナに向かう中でも、ニューノーマルが生活の身近なところで定着してきているのを感じています。

「技術の進化」は「生活の革新」をもたらします。オンライン会議システムは会議のあり方を変えただけでなく、働き方・暮らし方にも革新をもたらしました。その日によって働く場所を自由に選んだり、田舎に暮らしながら東京の仕事をするなんてことも可能になり、時間と場所の制約がなくなったことでより自分らしい生き方を選べるようになりました。こうした生活変化の背景にあるのが、デジタル化の進展です。デジタル化の進展のフェーズはここ数年で大きく変化しています。これまで進んできたのがPCやスマホを中心とした「情報のデジタル化」だとすれば、これからは、デジタルテクノロジーが生活のすみずみに入り込む「オールデジタル化」、すなわち暮らし方や生き方に変革をもたらす「生活のデジタル化」が始まります。

私たちの身の回りのアクセサリーや家電、クルマや店舗、そして街まで、あらゆるモノがインターネットとつながる世界が現実になりつつあります。
モノがデジタル化・ネットワーク化されると、モノと生活者の間に情報のやり取りが生まれ、モノと生活者の関係は単なる「接点」ではなく、相互に情報のやり取りをする「インターフェース」に進化していきます。私たちの身の回りのモノ、デバイス、店舗、メディアなどがネットワークにつながり、インターフェースとしてデータを収集することで、生活者の「ニーズ把握」ができるようになります。そしてそのデータを活用して、一人ひとりの生活者に最適化したサービスを提供することが可能になるのです。
たとえば、「オンライン学習システム」について考えてみましょう。
これまでテストの結果でしか生徒の学習の度合いを把握できなかったのが、オンラインのビデオ会議システムを使うと、授業中の生徒の表情や、声などを解析することが可能となり、生徒のつまずきやすい箇所や、集中の度合いなども把握できるようになります。そして、それぞれの生徒に合った、よりきめ細やかな教え方ができるようになるでしょう。
モノと生活者とのインターフェースが増えるたびに、我々の暮らしは変わっていきます。新たなインターフェースの中には、業種の垣根を越えて実現するものも出てくるでしょう。一つのインターフェースが、産業の地図を塗り替えてしまうといったことも起きるかもしれません。
このインターフェースの爆発的な広がりを、私たちは「生活者インターフェース市場」と名付けました。コロナがもたらしたデジタル化の加速により、この市場は我々の予想を越えたスピードで拡大・成長を始めています。

さらに、デジタル化の進展は、サイバー空間とリアル空間が融合したサイバー・フィジカル・スペース/メタバース空間を創り出しました。
リアルとバーチャルが融合した世界の生活空間化が進んでいます。サイバーフィジカル空間・メタバース空間を含めた、生活者インターフェース市場の拡大は、マーケティング・コミュニケーションの可能性を大きく広げていくでしょう。現実空間全体が新たな生活者とのインターフェースになれば、無限のコミュニケーションスペースが生まれてくるでしょうし、すでにメタバース空間の中ではエンターテインメントやショッピングが繰り広げられており、新たな生活行動が創り出されています。

従来、企業と生活者の接点は、マスメディアを中心とした「広告」や、店頭での「販促」といった、企業からの一方的な情報発信が中心でしたが、これからは広告もデジタル化が進み、生活者のレスポンスデータを活用した運用型の広告の比率が高まっていくでしょう。
店舗も、サイネージやアプリを導入する企業が増え、生活者とのインタラクションが可能になってきています。ECを活用する生活者も増えていますし、営業や商談にチャットツール、チャットボットなどのインターフェース・テクノロジーを活用する企業も増えています。このように、メディア・店舗・ダイレクトチャネルと、企業と生活者の接点は多様化し、それらはデータをやりとりするインターフェースになります。この進化により、各々のインタラクションを設計する力と、すべてのインターフェースを統合する、新たなマーケティング・コミュニケーションの手法が求められるようになるのです。

バリューチェーンのあり方も変わっていきます。
「従来型のバリューチェーン」が商品開発から製造、販売、アフターサービスまで直線的な発想だったのに対して、今後は、共通のデータ基盤を中心に、各バリューチェーンを顧客価値最大化のために最適化していく、「統合された円形のバリューチェーン」で発想することが必要になります。

たとえば、コールセンターへの問い合わせ、要望、苦情等のデータを蓄積、解析してすぐに商品開発に活かしたり、お客様相談室への問い合わせ等をデータ化し、店頭の接客にすぐに活かすといった取り組みを進めている企業も出てきています。
また、広告・CRM・営業支援を共通のデータ基盤で運用し、販管費全体の最適化に取り組んでいる企業も出てきています。このように、生活者インターフェース場が広がる中で、マーケティング・コミュニケーションのあり方が変わり、生活革新につながるようなサービス・商品が生み出されてきているのです。

価値創造型DXの鍵となる「生活者エンパワーメント」というコンセプト

生活者インターフェース市場が爆発的に広がっていく中で、生活者の活動時間/情報処理能力の拡張には限界があるのも事実です。
今後生活者インターフェース市場におけるさまざまな取り組みが進む中で、生活者側での取捨選択も同時に行われていくでしょう。生活者・社会にとっての価値を提供できる取り組みは残り続け、効率化のみにとどまる取り組みや、技術主導の目新しさだけの取り組みは一過性のものとなり、忘れ去られていくのではないでしょうか。では、生活者インターフェース市場が拡大する中で、どうすれば価値創造型のDXを推進することができるのでしょうか。

デジタルトランスフォーメーションとは本来、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念の通り、「デジタル技術が進化し、人々の生活をより豊かにする」ことと捉えるべきだと思います。生活者インターフェースを活用した取り組みを、新しいテクノロジーの活用、効率化を中心とした単なるデジタル化ではなく、生活をより豊かにするための、真の「価値創造」へつなげていくことが大切な視点になります。
価値創造型のDXを推進するためには、単なる技術的な目新しさにとどまらず、技術革新を、どういった生活者・社会にとっての価値へと昇華することが可能かを定義することが重要なのです。

その一つの方向性として、「生活者エンパワーメント」というコンセプトを提示させていただきます。単なる一過性のエンターテインメントではなく、生活者をエンパワーできたり、社会課題解決につながる取り組みになっているか。
単なる技術的な目新しさにとどまらず、その技術革新が生活者の能力の拡張につながる取り組みになっているか。
あるいは生活者のウェルビーイングにつながる取り組みになっているのか。
まさにDXの取り組みが、生活者、社会にどういった価値を提供できるかを考えることが必要になってきているのです。
では具体的にどういった取り組みが必要なのか、これからブレイクダウンしてご紹介していきます。

さまざまな生活者インターフェースを通じて、人・時間・場所・サービスを、生活者のニーズとマッチングさせることが可能になってきています。
たとえば食事の宅配サービスは、食事をつくる時間を減らしたい人とギブワーカーの方たちをマッチングさせることで、自分らしい時間の使い方をデザインできるよう、生活者をエンパワーしているサービスです。高齢化が進む地域社会においては、移動する人と移動したい人をマッチングする車の乗り合いサービスが、「共助」という暮らし方を実現することで、生活者・社会をエンパワーするサービスになっています。
また、メタバース空間など新たな生活者インターフェースを通じて、生活者のコミュニケーション能力・体感能力を拡張することも可能になるため、今までの広告が視聴覚に訴えるコミュニケーションが中心だったのに対して、これからは身体感覚に訴えるコミュニケーションが可能となっていくでしょう。
メタバース空間の中では、商品のベネフィットを身体感覚含めて体感してもらえるような広告や、生活者の情報処理・体感能力を拡張することも可能です。
すでに健康管理アプリや家計簿アプリなどを、自分の記憶装置、自分の行動を可視化する装置として活用している方も増えているのではないでしょうか。将来的には、街でARグラスをかけた瞬間に、そこに存在しているお店の評価を瞬時に把握することができ、自分のニーズにあったお店が選べるといったことも実現可能になっていくでしょう。
また、アイデンティティをなりたい自分へエンパワーする取り組みも、可能になっていきます。アバターに関する研究論文の中には、たとえば、メタバース空間の中でスーパーヒーローのアバターで人を助ける行動をとった人が、現実世界に戻った後でも人を助けるような行動をとったり、空を飛べるドラゴンのアバターを身にまとって作業をすると、高所恐怖症を低減することができるといった、“プロテウス効果”について言及されたものがあります。肉体のくびきから解かれて、見せたい自分・見られたい自分としての存在を、空間ごとに使い分けていく。そのことで、新しい自分らしさに気づかされ、現実世界の自分自身のアイデンティティを変えていくことも可能になると考えています。

重要なのは、こうした生活者をエンパワーさせるような体験を、データドリブンに進化させる仕組みを構築することです。
生活者インターフェース市場においては、生活者の行動・反応をインターフェースを通じて測定することが可能になります。生活者にとって魅力的な体験・エクスペリエンスが提供できれば、そのレスポンスデータを収集できるようになり、そのデータを蓄積・分析することで、より魅力的なエクスペリエンス創出に繋げていくことが可能になるのです。これらの高速PDCAをデータドリブンに回すことで、生活者にとって価値ある体験・エクスペリエンスに進化させ続けることが可能になっていくと考えます。

生活者への提供価値を考えることで効率化中心のDXを乗り越えていく

最後に、生活者インターフェース市場における価値創造型DXを推進している博報堂DYグループの取り組みについて、具体的に紹介させていただきます。

まず、富山県朝日町と博報堂の協業で進めている公共交通サービス「ノッカルあさひまち」の取り組みをご紹介します。

このプロジェクトは、“コミュニティモビリティ”をコンセプトにした、住民同士が支え合う共助型のMAAS (Mobility as a Serviece)で、「昔からある“ついで送迎”をデジタルサービスで実現。助け合う地域コミュニティをデジタルの力で現代に。」という考え方で推進しています。高齢者のモビリティの低下が高齢化社会における地域経済の低迷につながっているという社会課題を、高齢者にとっても身近なLINEという生活者インターフェースを活用して解決し、地域社会・高齢者のエンパワーメントを実現しているケースです。すでに朝日町での実証実験を終え、利用者からは「ノッカルのおかげで買い物をすることが増えた」、ドライバーの方からは「地域に貢献できてうれしい」といった高い評価を頂き、サービスとしてすでに本格運用を開始。他の複数の自治体での実証実験も進んでいます。

次に、プロトタイプ段階ではありますが、3Dリアルアバターを活用した試着アプリ「じぶんランウェイ」をご紹介します。

3Dスキャンで自分のアバターを作成し、さまざまなコーデを着た何人もの自分がランウェイを歩くというバーチャル空間ならではの試着体験を実現しています。世の中に試着アプリはいくつか存在していますが、このアプリは、まさに生活者に対する価値、「生活者エンパワーメント」が組み込まれたサービスになっています。また、今後このアプリを、ファッションアイテムのプレマーケティングツールとして活用することができれば、需要予測等が可能になり、服の過剰生産抑制によるSDGsへの貢献等にもつながる取り組みになると考えています。
「じぶんランウェイ」を体験した方からは、「自分が似合わないと思っていた服が、意外と似合うことに気づくことができた」といった声をたくさん頂きました。リアルの試着室では、試着とはいいながら冒険的な選択をすることは少なく、保守的な選択肢の中から服選びをしている方が多いのではないでしょうか。「じぶんランウェイ」は、まさに生活者インターフェース市場の中で、そのサービス名、普段見られない自分の後ろ姿を含めて似合うかどうかを体感できる仕組み、UX・UIの設計といった博報堂の持つクリエイティビティの掛け算で、実装が可能になったケースです。新しい自分らしさに気づくきっかけを与えてくれる、「生活者エンパワーメント」を実現するサービスに仕立てることができたと感じています。

最後に、本ウェビナー全体のテーマである「beyond DX」をふまえ、本日の提言のサマリーをさせていただきます。
多くの企業でDXの取り組みが進んでいますが、現時点でのDXは、まだまだ効率化視点での取り組みにとどまっているケースが多いと認識しています。効率化中心のDXをどう乗り越えていくのか、beyondDXできるのかを考えていく際に、DXを通じて、生活者・社会にとっての提供価値を考える視点を持っていただけると幸いです。
その一つの方向性が、生活者エンパワーメントというコンセプトになります。
博報堂DYグループとしても、皆さんと一緒に、DXを通じて生活者をエンパワーメントし、社会課題解決につながる、生活者の真のウェルビーングにつながる仕事を一緒につくっていきたいと思いますので、いろいろとご相談、お声がけいただけると幸いです。

本日はご清聴ありがとうございました。

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  • 博報堂DYホールディングス 執行役員
    博報堂 執行役員
    博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員
    1989年株式会社博報堂入社。入社以来、マーケティング・ブランディング・買物行動研究・データ&デジタルマーケティング領域の研究開発業務に従事。博報堂「マーケティングセンターチームリーダー」「買物研究所所長」「研究開発局長」、博報堂DYホールディングス「マーケティング・テクノロジー・センター室長」を経て、2021年より現職。マーケティングDXとメディアDXを統合した価値創造型のDXを推進する戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」を担当。