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生活者データ・ドリブン・マーケティングというと、どうしても主にWeb上の行動ログをベースとした顧客獲得の最適化、という文脈で語られがちです。しかし、Web上には生活者の声が無数に溢れています。その中には、これまで可視化されてこなかった生活者の心の奥にある願いや悩み、インサイトも眠っているはず。
そんな仮説を元に、1981年の設立以降、一貫して生活者の意識と行動を研究してきた博報堂生活総合研究所の酒井崇匡上席研究員と、日本初、最大級のQ&Aサイト『OKWAVE』を運営するオウケイウェイヴ研究開発本部の齊藤学シニアエンジニアが対談しました。
2人が今回、探っていくのは、OKWAVEに投稿された5万件もの「恋の悩み」です。

デジタルデータを基にしたエスノグラフィ「デジノグラフィ」の可能性

酒井
本日は宜しくお願い致します。

齊藤
宜しくお願い致します。

酒井
今日の対談を非常に楽しみにしていました。というのも、デジタルデータによる生活者分析って、サイト閲覧やサーチワードといった行動履歴をベースとして、顧客の獲得効率を上げることを目的とする場合が多いですが、私はその前段階でのデータ活用に大きな可能性を感じているんです。もっと商品開発やコミュニケーション開発などの、生活者の欲求を深掘りするべきフェーズで、デジタルデータは使えるのではないかと。
その点で、OKWAVEさんのようなQ&Aサイトは生活者の悩みが蓄積されている。そこには様々な人の「人生の文脈」が見え隠れしています。

齊藤
はい。匿名のネット世界でないと相談できないような悩みも多いので、大変興味深いですね。

酒井
私達は家庭訪問調査やデプスインタビューなど、リアル世界で生活者の欲求を深掘りするエスノグラフィをする際に、n=1、一人の生活者が思わず発してしまった一言や何気ない行動をとても大切にします。そこに大きなヒントが隠れていることが多いからです。それと同じことがデジタルデータでもできるんじゃないかと。デジタルなエスノグラフィ、いわば「デジノグラフィ」ですね。そのためにもOKWAVEさんのようなデータプラットフォーマーの方々とご一緒する取り組みには魅力を感じるのです。

齊藤
なるほど。今回、分析のテーマになっている恋愛カテゴリーの悩みも、対面の訪問調査ではこれほどの本音は引き出せないでしょうから、「デジノグラフィ」の実験として、まさにうってつけですね。

酒井
その通りです。恋愛をテーマに選んだのは、これまでのエスノグラフィでは最も本音を引き出しにくいテーマの一つだからです。匿名性が担保されているネット空間上に存在する生活者の声から、深層意識を探求できないかというのが今回の挑戦です。

20代、40代、60代男女の恋の悩みを分析。まずは20代から。

酒井
今回はOKWAVEさんの「恋愛」カテゴリーの質問から、20代、40代、60代それぞれの男女が、年代ごとにどのような恋の悩みを抱えているのかをテキストマイニングで浮かび上がらせようという主旨です。20代男女から順番に見ていこうと思うのですが、具体的にはどのくらいの数の質問を分析することになるんでしょうか。

齊藤
「OKWAVE」には現在までに820万件の質問が寄せられ、約2,800万件の回答がなされています。恋愛カテゴリーの総質問数は直近5年間で約9万件、今回分析した20、40、60代は約5万件です。そのうち20代は男性が12,547件、女性が29,751件ありました。

酒井
20代男女はトータルすると4万件超ですね。質問投稿数だと女性は男性の2.4倍も質問しているというのも前提条件として大事です。OKWAVEユーザー全体の男女比はほぼ半々であることを考えると、それだけ女性の方が恋愛の悩みを持ちやすい、誰かに相談したいという欲求が強いということの現れでもあります。
今回は各年代の男女差にフォーカスを当てるため、男女別に質問文中の頻出ワードを解析して頂いて、それぞれに特徴的に出現するワードを抽出しました。上位のワードの中から気になるものを見ていきたいのですが、意外だったのは、女性のほうが「酔う」とかストレートに「お酒」とか、酒にまつわる悩みが多いことです。

お酒で悩むのは男より女

齊藤
具体的な質問内容を幾つかピックアップすると、「酔った勢いで体の関係を持ってしまった」などですね。「泥酔してしまって関係を持ったけれど、そういう場合、男性は覚えているものだろうか(できれば忘れていてほしいのだけど)」という内容の質問です。他にも「酔った勢いでキスをしたけれど男性側は気があるのか?」とか。

酒井
お酒の失敗というと、どちらかと言うと男性がするイメージが強いんですが、女性も同様に失敗しているし、事後に悩みが深まるのは女性の方、ということが見えてきますね。それと、背景には「酔った勢い」というものに対しての男女の意識差もありそうです。男性って恋愛でも仕事上の話でも、お酒が入った方が正直な気持ちが伝えられると考えている面ってありますが、女性にとっては酔った勢いの言動というのはかなり信用できないと捉えられていそうです。

齊藤
確かにそういう面はあるかもしれないですね。それ以外にも女性にのみ出現する具体的なワードとして「身体」があります。「身体の関係」についての悩みですね。

酒井
皆さん凄く赤裸々な悩みを寄せていますね……。しかも今、拝見していると文面が質問、回答ともに非常に長いですよね。

齊藤
恋愛相談は特に文章が長くなりがちですね。それだけ質問される方も回答される方も真剣だということだと思います。

男が気にする「チャンス」と「イケメン」とは

酒井
男性にのみ出現するワードも見てみると、「チャンス」というキーワードが出現しています。

齊藤
質問のタイトルを一つ挙げると……、「恋のチャンスを逃した経験のある方にお願いします」とかですね。

酒井
ラジオの投稿テーマみたいですね。

齊藤
質問者は20代後半の男性ですが、「気になる子がいたけれど声をかけられなかった、そのまま二度と会えない気がする、そのワンチャンスを物にできなかった……」という話です。

酒井
なるほど。結構、こういうところにもインサイトは潜んでいて、そういう機会損失感を男性は引きずるし、その感覚を誰かと分かち合いたいという欲求もあるんでしょう。最近、『やれたかも委員会』というマンガがドラマ化されましたが、共通するものを感じます。
それと、「イケメン」という言葉も男性のみに出現していました。このワード、むしろ女性が書きそうなのに、どういうことでしょう。

齊藤
イケメン、イケメンとうるさい女についてどう思うかとか、結局イケメンじゃないとモテないのかとか、そういう内容の質問が多いですね。

酒井
「ただしイケメンに限る」というバズワードがありますけど、相当、男性は外見のことを気にしているということですね……。実は女性にはそういう自分の容姿についての悩みがほとんど出てこないというのも面白いです。全体として、女性は酔った勢いでしてしまったことや、身体の関係など既に起こってしまった“結果”に対して悩むのに対して、男性は逃してしまったチャンスとか、今後モテるかといった“可能性”について悩む、というのが対照的ですね。

男性は「情けない」、女性は「悲しい」

酒井
似た意味の言葉ですが、男性は「情けない」という言葉を、女性は「悲しい」という言葉を多く使っているようです。それぞれどういう風に使われているのでしょうか。

齊藤
男性だと「男で身長が170cmないと情けないと思われないか」といった外見の話、それから性体験についての悩みも多くあります。他には「女性の気持ちがわからず情けない」とか、「これまで恋人が出来たこともないのに、未だに美人と付き合いたいと願っている自分が情けない」とかも。

酒井
うーん、僕も170cmないんですけどね……。やはり男性は「情けない」というワードからもプライドが見え隠れするし、いわゆるステータスを重んじる質問も多い。「○歳男」とか、「大学生」などプロフィールにまつわるキーワードが偏って出るのも、男性に特徴的な質問の仕方といえそうです。女性の「悲しい」という言葉はいかがですか。

齊藤
「5年付き合った彼と今日別れたけど、不思議と全然悲しくない」であるとか、「悲しい恋をしたあとに幸せな恋をした人の話が聞きたい」とか。意外とそこまでネガティブな悲しみとも違うようです。

酒井
男性が「情けない」と結構ウジウジ悩んでいるのに対して、女性は「悲しい」けど、それは自分に問題があるということではなく、感情の問題として処理している感じがしますね。

復縁の悩みは女性に多い

齊藤
もうひとつ、ランキング上位には入っていませんが、女性が使う「元カレ」の出現率は、男性の「元カノ」の出現率より多いんです。どうやら復縁についての悩みは女性の方が多いみたいですね。

酒井
それも面白いですね。占い師の方にお話を伺ってみると、女性からの恋愛相談の中でも「復縁」が悩みとして非常に多いと聞きます。「男は過去の恋をフォルダに分けてしまっておくけれど、女は恋を上書きしていく」と言われていますが、上書きされない限りは直前の恋は残ったままで、その分、復縁を考えがちというのも女性の特徴なのかもしれません。

20代の分析だけでも、男女の恋愛観の違いが色々と見えてきました。次回はより上の世代、リアルではなかなか聞くことのない40代男女の恋の悩みをみていきましょう。こちらも結構、深そうな感じが……

プロフィール

酒井 崇匡(さかい・ただまさ)

2005年博報堂入社。マーケティングプラナーとして諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。 2012年より博報堂生活総合研究所に所属し、日本およびアジア圏における生活者のライフスタイル、価値観変化を研究。 専門分野はバイタルデータや遺伝情報など生体情報の可視化が生活者に与える変化の研究。 著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)。

齊藤 学(さいとう・まなぶ)
オウケイウェイヴ研究開発本部 シニアエンジニア

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